アルムナイ採用とは?元社員を再雇用するメリットや注意点を解説

アルムナイ採用とは?元社員を再雇用するメリットや注意点を解説

近年は新卒・中途のいずれも有効求人倍率が基準となる1倍を大きく超えており、採用市場では人材の獲得競争が激化しています。そして、企業側の採用手法にも多様化が見られるなか、注目を集めているのが「アルムナイ採用」です。
アルムナイ採用とは元社員を再雇用する採用手法のことですが、なぜ多くの企業がアルムナイ採用を行うようになっているのでしょうか。今回はアルムナイ採用に注目が集まる理由や企業のメリット、他の採用手法との違いなどを詳しく解説します。

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アルムナイ採用とは?

アルムナイ採用とは?

アルムナイ採用とは、元社員を再び雇用する採用手法のこと。英語の「アルムナイ(alumni)」は卒業生や同窓生といった意味を持っており、採用活動においては企業の退職者を指しています。

アメリカをはじめ世界中で注目されている採用手法で、独自のプラットフォームを構築してアルムナイ(元社員)とのつながりを持ち続ける企業も増えてきました。また、退職者管理のプラットフォームを企業向けに提供する事業者が国内外で生まれており、退職者の再雇用で得られるメリットに目が向けられています。

カムバック採用との違い

元社員を再雇用する点では「カムバック採用(制度)」や「出戻り制度」などと共通していますが、アルムナイ採用との前提が異なります。カムバック採用や出戻り制度は、育児や介護といったやむを得ない事情で退職した従業員が復職するためのものです。

ただ、アルムナイ採用はここ数年で広まった採用手法で、「カムバックアルムナイ採用」や「ウェルカムバックアルムナイ採用」など、企業ごとに呼称や対象者の条件を定めているケースも少なくありません。

リファラル採用との違い

アルムナイ採用のほかにも、近年話題の採用手法がいくつかあります。そのなかの一つ、採用の効率化や人材のミスマッチが起こりにくいといった点で、アルムナイ採用と共通しているのが「リファラル採用」です。

アルムナイ採用の対象者が元社員であるのに対し、リファラル採用は自社にマッチする人材を社員に紹介してもらう採用手法なので、外部の候補者が対象となっています。人材紹介や求人広告などよりも採用コストを抑えられ、マッチング率や定着率の高さが魅力です。

アルムナイ採用に注目が集まる背景

アルムナイ採用に注目が集まる背景

退職理由は人それぞれにありますが、なぜ元社員を再雇用するアルムナイ採用を導入・実施する企業が増えているのでしょうか。

ここでは、アルムナイ採用に注目が集まるようになった背景を3つ紹介します。

人材獲得競争の激化

2019年から2021年にかけては新型コロナウイルスの影響により求人倍率が減少傾向にありましたが、2022年以降はかつての水準を取り戻しつつあります。そして労働人口が減少傾向にある近年は、自社にマッチした人材の獲得のためにアルムナイ採用を実施するケースも見られるようになってきました。

リクルートワークス研究所が2024年4月に発表した「ワークス大卒求人倍率調査(2025年卒)」によると、2025年3月に卒業予定の大学生・大学院生の求人倍率は、1.75倍という調査結果が出ています。2023年には1.58倍、2024年には1.71倍だったことに鑑みると、新卒採用の求人倍率は上昇傾向にあるといえるでしょう。

また、転職サービスdodaが公表している「転職求人倍率レポート(データ)」を見てみると、2024年10月の転職求人倍率は2.75倍となっていました。その他の転職サービスが発表している調査データでも、求人倍率が2倍近くまで及んでおり、新卒・中途の採用市場において人材獲得競争が激化していることがわかります。

転職志向の潮流

かつては終身雇用が一般的で、退職者が以前の職場に戻ることが敬遠されたり、転職した人が再び前職に戻ることを避けたりする傾向がありました。しかし、雇用の流動化が進んでいる近年は、キャリアアップや自己成長を目的に転職する人も増え、転職がポジティブなものとして捉えられています。

転職志向の流れは、中途採用で優秀な人材を獲得できる可能性がある一方、貴重な人材が流出するリスクもあります。優秀な人材の流出は企業にとって損失となりかねないため、退職者を再び迎え入れるアルムナイ採用に注目が集まっているのです。

人的資本経営へのシフト

近年は「人的資本経営」の考え方に基づいて、企業活動が進められることも増えてきました。人的資本経営とは、人材を資本と捉えて企業価値の向上につなげる考え方のことです。従業員が持つ能力や知識、経験を資本として捉え、それらを活かすことが企業価値を高めていくことにつながると考えられています。

そして、人的資本経営につながる取り組みのひとつとして注目されているのがアルムナイ採用です。経済産業省が2022年に公表した「人材版伊藤レポート2.0」でも、元社員であるアルムナイとの持続的な関係構築の必要性が説かれています。

アルムナイ採用では、企業理念をはじめ業務内容や社内の雰囲気などを把握している人材が戻ってくるため、業務効率や教育コスト削減などの面でも企業に多くのメリットをもたらしてくれるでしょう。

企業がアルムナイ採用を行うメリット

企業がアルムナイ採用を行うメリット

ここからは、企業が元社員を再び雇用するアルムナイ採用のメリットを4つ紹介します。それぞれのメリットを確認しながら、自社で実施するかどうか検討してみてください。

企業理解の深い人材を獲得できる

アルムナイ採用は退職者を再雇用する採用手法のため、在職経験のある人材を雇うことになります。一般的な採用手法では、実際に働いてみるまで企業文化や業務内容などを詳しく知ることはできませんが、元社員であればすでに把握しているのがポイントです。

また、企業側も職務適性や自社とのマッチ度合いをある程度は把握しているため、通常の中途採用よりも即戦力となる人材を採用することができるでしょう。

採用・教育コストを抑えられる

アルムナイ採用は、さまざまなコストを抑えられる点も魅力です。例えば、採用コストの面では、元社員との関係を維持して採用に至れば、求人広告のように多額の費用がかかる外部コストを抑えられます。

また、自社をよく理解している人材を雇用できるため、教育コストを抑えることも可能です。通常の中途採用では社内のルールや業務の進め方などを教育するオンボーディングコストがかかりますが、アルムナイ採用で獲得した人材であれば一から教える必要はありません。

人材の質が担保されるだけでなく雇用後のコストを抑えられる点で、アルムナイ採用は非常にメリットの大きい採用手法といえるでしょう。

自社にはないノウハウを得られる

アルムナイ採用を行えば、元社員が転職先で得た知識やスキルを自社の業務や企業活動に取り入れられます。

例えば、元社員が転職先で市場分析やデジタルマーケティングの手法を習得していれば、自社のマーケティング効率化や成果の向上などが期待できるでしょう。また、プロジェクトマネジメントや業務効率化の経験を得ていれば、それらを活かしてもらうことで、生産性を高めることにつながるかもしれません。

自社になかったノウハウを取り入れることは、社内でイノベーションを生み出すきっかけになる可能性があります。そのため、アルムナイ採用は企業にとってメリットの大きい施策といえるでしょう。

企業のブランディング強化につながる

アルムナイ採用は、人材獲得だけでなく、企業全体のブランド価値を高める取り組みとしても効果的です。元社員が再び戻るという事実は、その企業が働きやすく、魅力的な職場環境を提供している証となります。

このような再雇用の事例は、企業が健全な企業文化を持ち、一度離れても「また戻りたい」と感じさせる場所であることを対外的にアピールできます。その結果、新規採用活動においても求職者に「この企業で働きたい」というポジティブなイメージを抱いてもらいやすくなるでしょう。

アルムナイ採用を成功させるためのポイント

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アルムナイ採用を成功させるためには、退職者とのつながりを維持する仕組み作りやイグジットマネジメント、社内での制度化・周知が欠かせません。

それぞれどういったことをすればよいのか、以下で詳しく見ていきましょう。

退職者とつながり続ける仕組みを作る

一度退職した人が企業に戻ってくる意欲を高めるためにも、定期的に交流する場を設けたり、コミュニケーションを取ったりすることが可能な仕組みを構築しておきましょう。

元社員との交流や管理を可能にするプラットフォームを提供している事業者もあるため、自社での構築が難しい場合は活用してみるのもおすすめです。退職者向けにイベントやセミナーに関する情報を発信したり、対面・オンラインでの交流会を開催したりすることで、再雇用の機会を増やせるでしょう。

イグジットマネジメントに注力する

アルムナイ採用で重要なのは、退職者が戻ってきた際に不満なく働けるよう円満な退職をサポートすることです。そのためには、イグジットマネジメントへの注力が必要になります。

イグジットマネジメントとは、人材管理の最後に位置するもので、社員が納得のいく形で退職できるよう一連の戦略を立てておくことを指しています。例えば、退職時の面談で退職理由や転職状況をヒアリングすることで、職場環境の改善や社員の転職のサポートが可能です。また、企業に貢献してくれたことに感謝し、アルムナイ採用についても伝えれば、退職者が戻りやすい雰囲気を作り出せるでしょう。

円満退職した元社員が企業のポジティブな噂を流したり、退職者との良好な関係性を構築できたりと、イグジットマネジメントは多くのメリットがあります。イグジットマネジメントに取り組むことは、退職者の母集団形成や企業イメージの向上につながるでしょう。

アルムナイ採用の制度化と周知

アルムナイ採用を始めたとしても、元社員に知られていなければ、応募・採用に至る可能性は低いでしょう。そのため、アルムナイ採用に取り組む場合は制度として組織体制を整え、既存社員から退職者に至るまで広く周知することが大切です。

退職時の面談でアルムナイ採用の存在や選考内容について伝えることで、アルムナイ採用に対してポジティブなイメージを持ってもらえるかもしれません。企業側で退職者を受け入れる姿勢を示せば、退職後の良好な関係維持にもつながります。

アルムナイ採用を行う場合の注意点

アルムナイ採用を行う場合の注意点

採用・教育コストを抑え、自社に合った人材を獲得できるアルムナイ採用ですが、安易に進めるとトラブルに発展する可能性もあります。ここではアルムナイ採用を行う場合に注意すべきポイントを3つ紹介します。

再入社した社員の評価方法を明確にする必要がある

アルムナイ採用を行う場合、再び入社する社員をどのように評価するのか考えておく必要があります。

例えば、在籍年数で基本給が決まる企業であれば、同期よりも基本給が下がる可能性があるため、退職者にとっては魅力に欠けるかもしれません。一方で、アルムナイ採用の社員を優遇し、既存社員との待遇差が広がってしまうと、既存社員が不満を抱える可能性も考えられます。

アルムナイ採用の社員を中途入社の人材として一から評価するのか、在籍していた期間を加味して人事評価を下すのか、十分に検討する必要があります。また、人事制度にあわせて賃金制度も見直し、企業と元社員の双方が納得するルールを策定することが大切です。

離職率が上昇する可能性がある

アルムナイ採用を導入することで企業は退職者を再雇用しやすくなりますが、反対に離職率の上昇につながる恐れもあります。というのも、アルムナイ採用の制度化に伴い、在籍している社員の転職に対するハードルが下がる可能性があるためです。

人材の流出を防ぐためにも、アルムナイ採用で再入社するためには選考を受けたり、一定の条件を満たしたりする必要があることを周知しておきましょう。

適切な人員配置が求められる

元社員の退職理由によっては、アルムナイ採用で再入社してからトラブルに発展することも考えられます。例えば、元社員が上司に対して不満を抱えており、アルムナイ採用で同じ上司のもとに配属となると、せっかく採用した人材が再び離職してしまうかもしれません。

アルムナイ採用で元社員を迎え入れる場合は、元配属先の意見や本人の意思などを確認したうえで、適切なポジションに配置することが大切です。

アルムナイ採用の企業事例

アルムナイ採用の企業事例

実際にアルムナイ採用を行っている企業では、どういった理由・目的を持って取り組んでいるのでしょうか。ここでは、アルムナイ採用を実施している企業事例を2つ紹介します。

自動車メーカー

国内の大手自動車メーカーでは、2024年12月から本格的にアルムナイ採用に取り組み始めました。同社は退職者が企業の成長につながる貴重な人材と捉えており、再び活躍してもらいたいと考えています。

アルムナイ採用の一環として立ち上げた「カムバック採用サイト」は、年齢や退職後の経過年数などを問わず、退職者であれば誰でも登録できます。会社情報やアルムナイ採用で入社した人のインタビュー記事を閲覧するだけでなく、掲載された求人情報へ応募することもできます。

人材サービス業

国内で人材サービス業を営んでいる企業では、退職者とつながり続けるためにアルムナイコミュニティを立ち上げ、運用を開始しました。同コミュニティは専任の担当者2名が運営しており、定期的な情報発信や交流会などの機会創出のほか、業務委託案件や再入社の対応なども行っています。

ただ、登録には一定の条件があり、在籍経験はもちろん円満退職をした人で、なおかつ国内在住者に限られています。入会できれば、転職市場の最新情報や調査データなどが定期的に届くほか、同社とビジネスパートナーになれる可能性もあるようです。

まとめ

まとめ

一度退職した社員を再び企業に迎え入れるアルムナイ採用は、採用・教育コストを大幅に削減できるだけでなく、転職先で得たノウハウや人脈を取り入れられることも期待できます。ただ、アルムナイ採用を制度化すると、人材流出につながったり、既存社員との間に軋轢を生んだりする可能性がある点には注意が必要です。また、前提として円満退社をしている状態が望ましいため、イグジットマネジメントへの注力も欠かせない施策といえるでしょう。

優秀な人材の獲得をはじめ、人的資本経営への取り組みを強化したい場合は、本記事で紹介したポイントを参考にアルムナイ採用を行ってみてはいかがでしょうか。

◎製品名、会社名等は、各社の商標または登録商標です。

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著者 OPTAGE for Business コラム編集部

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