中間地点で考える医療DX令和ビジョン2030|中規模病院の電子カルテ更改で何が変わるのか

中間地点で考える医療DX令和ビジョン2030|中規模病院の電子カルテ更改で何が変わるのか

医療DX令和ビジョン2030は、2030年までに全病院に一律のシステム刷新を義務付けるものではありません。一方、2026年10月に医療情報化推進方針が施行され、療養病床等が中心の病院を除く200床以上の病院では、電子カルテ普及率100%の目標達成時期が2028年度へ前倒しされました。

本記事では、政策と現場のギャップ、既存システムの課題や限界を踏まえ、中規模病院が次期システム更改を検討する際の客観的な判断軸と、将来の制度対応・外部連携を見据えた実務上の進め方を解説します。

Contents

振り返り|医療DX令和ビジョン2030は何を目指してきたのか

医療DX令和ビジョン2030の本質は、個別のシステムを単に導入することではなく、保健・医療・介護の情報を安全かつ持続的に共有・活用できる基盤づくりにあります。

これまで推進されてきたオンライン資格確認や電子処方箋、電子カルテ情報共有サービスなどは、いずれも共通基盤を構築する流れの中に位置づけられています。

個別システム導入から医療情報基盤の整備への転換

オンライン資格確認や電子処方箋、電子カルテ情報共有サービスといった個別の施策は、独立した導入目標ではありません。

これらの個別の施策を統合し、国全体で1つの大きな医療情報基盤(全国医療情報プラットフォーム)を形成することで、医療機関や薬局の枠を超えたシームレスな情報共有と業務効率化を実現する構想です。

保健・医療・介護の情報を安全かつ持続的につなぐ目的

施策の真の目的は、単一の病院内における業務効率化にとどまりません。

病院・診療所・薬局だけでなく介護施設や自治体までを安全なネットワークで結び、患者の診療・服薬履歴やケア情報を迅速に共有・活用できる環境を目指します。

そして、救急時や災害時も含め、地域全体で質の高い医療・介護を持続的に提供できる社会インフラの確立を目指しています。

歴史的背景|なぜ既存の病院情報システムは複雑化したのか

ノートPCに向かいタイピングする白衣の人物の手元のイメージ

電子カルテ導入初期は、紙からの脱却や院内業務の効率化、オーダリングシステムの確立など、院内での安定稼働が最優先でした。

現在の病院情報システムが直面する複雑化は、過去の導入プロセスにおける合理的な選択の積み重ねによって生じた構造的な課題です。

院内最適化を優先した初期の導入目的と、それに伴う個別カスタマイズの蓄積という2つの歴史的要因から、その背景を詳しく見ていきましょう。

ペーパーレスと院内業務効率化が最優先だった導入初期

かつての電子カルテ導入は、紙カルテの管理限界の解消や、処方・検査の伝達ミスを防ぐオーダリングシステムの確立が主目的でした。

当時は外部連携やデータ共有よりも、院内業務のペーパーレス化とシステムの安定稼働が重視されており、院内完結型の業務最適化が優先されたという時代背景があります。

個別最適化のためのカスタマイズと独自インターフェースの蓄積

導入当初は、各部門の利便性を高める手厚いカスタマイズや独自インターフェースを用いたシステム間接続が合理的な対応でした。

しかし、この個別最適化の積み重ねがシステムのブラックボックス化の一因となる場合があります。結果として、仕様の把握が困難となり、時代の変化に応じた柔軟な拡張や他システムとの連携を阻む要因となっています。

現在地|なぜ今、既存システムと政策のギャップが顕在化しているのか

長年の個別最適化によりベンダー依存が強まることで、更改時に調整範囲が拡大し、費用も高騰しやすい構造が生まれています。

また、外部接続の増加によるサイバーセキュリティ負担の増大に対し、専任IT人材が乏しい中規模病院では全体像の整理が困難です。こうした事情が、国の目指す医療情報基盤と現場とのギャップにつながっています。

ベンダー依存と更改時の調整コスト・費用の増大

独自インターフェースや複雑な個別カスタマイズの積み重ねは、既存の特定ベンダーへ強く依存する構造を生み出します。

その結果、システム更改のたびに影響範囲の調査や調整作業が大きくなりやすい点が問題です。さらに、他社製品への乗り換えが難しくなり、改修コストの高騰や移行期間の長期化を招く大きな要因となっています。

外部接続・サイバーセキュリティ対応に伴うインフラ負荷

政府の各種医療DXサービスや地域連携ネットワークなど、外部接続の機会が増える中、従来の院内完結型ネットワークでは厳格なセキュリティ要件を満たすことが難しい場合があります。

要件を満たすために、通信回線の帯域拡張や二要素認証の導入、ネットワーク分離といったインフラ全体の再構築が求められ、病院の費用・運用負担が増加する要因となっています。

専任IT人材の不足と病院主導での全体整理の難しさ

大病院のように専任の情報システム部門を置いていない中規模病院では、医療スタッフや総務担当者がIT業務も担当するケースは少なくありません。

そのため、複雑化した既存システムの棚卸しやベンダーへの適切な要件提示が後手に回りやすく、病院が主体となって将来像を描き、その実現に向けた計画を推進することが構造的に難しい現実があります。

なぜ今、電子カルテ更改を「医療DX令和ビジョン2030」で捉え直す必要があるのか

グラフが表示されたノートPCのイメージ

政府の医療DX施策への対応、外部システムとの接続や患者情報の共有、標準仕様化への対応、さらに地域拠点病院としてのサイバーセキュリティ強化など、国の示す到達目標を踏まえた取り組みが欠かせなくなってきています。

情報共有の推進やセキュリティ強化に向けた国の具体的な指標は、もはや一病院の努力目標ではなく、今後の地域連携や外部接続を見据えたシステム更改における具体的かつ現実的な検討軸へと変化しています。

患者情報の共有と医療DXサービスへの接続対応

救急搬送や転院の際に「カルテ情報が共有できない」ことによる再検査や治療の遅れは、現場が抱える大きな課題の一つです。

地域の他医療機関や薬局との間で患者情報を円滑に共有することをはじめ、国が整備を進める全国医療情報プラットフォームや電子カルテ情報共有サービスとのスムーズな連携を見据え、システムを選定することが重要です。

HL7 FHIRなどの国際標準規格や3文書・6情報の共有に対応した外部接続性を確保することが、今後の地域医療提供体制において重要な基準となります。

国が示す医療DXの目標と対応課題

2023年度の調査では、電子カルテ情報共有の対応率には都市部と地方で大きく差があり、政策目標(電子カルテ普及率100%、セキュリティ対策100%)の達成には地域ごとの戦略が必要です。

経営層は自院の現状を把握し、国の目標と現場の課題を両立させた更新計画を立てることが求められます。

政策の方向性が次期更改における具体的な判断材料になる

これまで理念や方向性が中心だった国の政策構想は、システム仕様の策定、ネットワーク環境の設計、セキュリティ要件の定義など、実際のシステム更改における判断基準やベンダーへの提案依頼書(RFP)に具体的に反映されるフェーズに入っています。

これらを早期に整理し、システム仕様に反映させることが、電子カルテ更改を成功へ導く重要な施策となります。

実務への落とし込み|中規模病院の電子カルテ更改における4つの変化

医療DX施策に伴い、電子カルテの更改は従来のソフトウェアの買い替えとは大きく異なっています。

選択基準が外部接続前提へとシフトし、検討対象がインフラ全体へ拡大する一方、標準化が進んでも自院固有のデータ移行や業務調整は残るのが現状です。

導入作業そのものよりも、事前の課題整理と稼働後の運用設計がプロジェクトの成否を左右します。

「院内で動けばよい」から「共有・接続を前提とする」システムへ

従来の院内完結型による業務最適化から脱却し、全国医療情報プラットフォームや電子カルテ情報共有サービスとのデータ連携を見据えたシステム選定が重要です。

また、HL7 FHIRなどの標準規格に対応し、将来の制度改正や外部連携の拡張にも柔軟かつ迅速に追従できる外部接続性を重視した選定軸へと意識をシフトする必要があります。

更改対象は本体から連携・セキュリティ・インフラへ拡大

次期システム更改における検討範囲は、電子カルテのソフトウェア単体にとどまりません。

各種部門システムとの連携規格の見直しをはじめ、厚生労働省のガイドラインに沿った二要素認証の導入、ネットワーク分離、ログ監視体制、通信回線の冗長化まで含めた、病院全体のITインフラの再構築と運用体制の設計が求められます。

標準仕様化が進んでも残る病院固有のデータ移行と現場調整

国が進める電子カルテの標準仕様化や標準マスターの適用が進んだ場合でも、自院が長年にわたり蓄積してきた独自データの移行判断や、部門間の運用ルールの統一といった調整作業は残り続けます。

パッケージの導入だけでなく、自院特有の業務フローを丁寧に見直し、現場の混乱を防ぐ泥臭いすり合わせ作業が重要です。

導入作業よりも重要となる事前整理と稼働後の運用設計

システム自体の構築や納品といった導入作業よりも、稼働後に発生する問い合わせ対応、システム障害時の責任分界点の明確化、医療スタッフへの継続的な研修計画など、事前の現状整理と運用設計が鍵となります。

導入後のトラブルを防止し、現場に定着させるための管理・運用ロードマップをあらかじめ描いておくことが重要です。

事前準備のポイント|次期更改に向けて進めておきたい3つのこと

事前準備では、現行システムと連携先の棚卸し、データ移行範囲の精査、部門間の依存関係の整理、ガイドラインに沿ったネットワークや認証基盤の見直しが必要です。

さらに稼働後の運用体制や障害対応ルールを事前に設計し、全面刷新にこだわらず優先順位を付けた段階的アプローチを検討することが実務のポイントといえます。

現行システム・部門連携先の棚卸しとデータ移行範囲の精査

現在稼働している部門システムや個別のインターフェースを網羅的にリスト化し、次期システムへ引き継ぐべきデータの範囲や過去カルテの保存期間と移行の必要性を精査します。

法定保存期間や現場での実用性に鑑みてデータ移行の範囲を必要最小限に整理することが、無駄なシステム改修コストの削減や移行時のトラブルリスク低減につながります。

ネットワーク・認証基盤・セキュリティ要件の見直し

厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」などに準拠し、通信回線の暗号化やネットワーク分離、二要素認証の導入など、外部接続に耐えうるセキュリティ基盤を検証します。

ゼロトラストの考え方を取り入れた適切なアクセス権限の設定と、通信障害時のバックアップ回線を確保できるか、事前に評価・点検しておくことが重要です。

全面刷新にこだわらない優先順位付けと稼働後の運用設計

すべてのシステムを一斉に更改するのではなく、継続利用できるインフラは活用しながら、移行の優先順位を設定し、段階的に進めることが実務的です。

また、システム切替時の混乱を防ぐ現場教育はもちろん、稼働後に発生する障害対応ルール、問い合わせ対応の体制やヘルプデスクの運営、ベンダーとの責任分界点をあらかじめ設計しておくことがシステムの定着と安定運用のポイントとなります。

おわりに|早い段階での「現状整理」と「論点整理」が成功の第一歩

レントゲン写真や人体図が貼られた室内のイメージ

医療DX令和ビジョン2030は、一律のシステム刷新を強いるものではなく、将来的に求められる医療情報基盤の方向性を示す構想です。

次期更改では、電子カルテ本体だけでなく、部門連携、セキュリティ、インフラ、保守・運用まで総合的な検討が必要となります。

特に専任のIT人材が限られる中規模病院では、検討すべき論点が多岐にわたります。直前になって場当たり的な対応にならないためにも、早い段階から自院の「現状整理」と「論点整理」に着手することが、更改プロジェクトを成功に導く第一歩です。

自院で対応が難しい場合は、外部パートナーや専門サービスの活用も選択肢となります。システム更改やインフラの見直しに関するご相談は、お気軽にお問い合わせください。

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著者 OPTAGE for Business コラム編集部

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