【OPTAGE】ビジネスフォーラム2022特別企画「スペシャル対談」/ 「橘 俊郎:株式会社オプテージ代表取締役 常務執行役員 ソリューション事業推進本部長」 x 「八子 知礼氏:株式会社INDUSTRIAL-X 代表取締役CEO」

クラウドをビジネスに活用している企業は増えているが、クラウドのビジネスメリットを十分に活用しきれていない企業も一定数存在する。本記事では株式会社INDUSTRIAL-X代表取締役CEO 八子知礼氏と株式会社オプテージ常務執行役員 橘俊郎の対談の模様をレポート。ビジネスパーソンが押さえておくべき基礎知識から活用のヒントまで、余すことなく語っていただいた。

ビジネスパーソンが知っておくべき「クラウドの現在地」

まずは「クラウドの現在地」をテーマに、ビジネスパーソンが最低限、知っておくべき“クラウドの常識”からお聞かせいただけますか。

八子:現在、多くのビジネスパーソンが、当たり前のように使用するWeb会議の仕組みそのものがクラウド上で成立しています。以前の電話会議やテレビ会議では専用回線を使用していましたが、クラウド上のサーバに同時接続することで、複数拠点から同時に繋がることができるようになりました。そのため、コロナ禍においても、ご存じのように、どんな場所で働いていても、複数の人がWeb会議に参加することが可能となっています。

また、近年では“ハンコを押すための出社をなくそう”という動きも加速していますが、それも多くの電子契約、ワークフローなどの仕組みをクラウド上で運用することで出社せずとも業務を進めることが可能となっています。さらにテレワーク、モバイルワークを進めるという観点から、メールやオンラインのコラボレーションツールのクラウド化も進んでおり、肌感覚ではありますが半数以上の企業が利用、スケジュールを共有するツールは約4割程度まで普及しているのではないかと感じています。

:そうですね。以前は「オンプレミス」と言って、自社でサーバを持ってシステムを構築しない限り、便利な仕組みを使うことができませんでした。これは体力のある、もしくは資金力のある大企業だけがメリットを享受できるものだったのですが、それがシェアされて、誰もが便利にリーズナブルに活用できるようになったのがクラウドサービスです。クラウドサービスが普及したことで、大企業のみならず、中堅もしくは小規模の会社でも、便利な ツールが使えるようになってきています。

クラウドサービスの利用者の裾野が広がってきた要因についてお考えをお聞かせください。

:便利なツールが登場し、それを多くの方でシェアできるようになったことで利用しやすい値段になったことが要因の一つにあると考えられます。例えば、Zoomを開発したベンチャーも世界中の人が使用することで、“割り勘効果”で安価になっていると思います。同じような仕組みを自社で作り、利用するだけでは、莫大な開発費をカバーすることができません。

八子 知礼氏

八子:橘さんがおっしゃるように、大企業はシステム開発に投資ができますが、中堅、中小はもちろん、我々のようなスタートアップでは投資は厳しい。一方で、スタートアップでは、起業時にクラウドを活用しない企業は皆無と言って良いでしょう。特にIT領域で起業される方々は、クラウド上で動作するさまざまな業務アプリケーションを必ず使用します。さらにさまざまな企業とコラボレーションを展開する上でもクラウドは必要不可欠です。

今では多種多様なクラウドサービスが登場し、選択肢が広がっていますので、中小、スタートアップ企業は、その中から企業規模、目的に合わせたサービスを選ぶことができる。それが、クラウドの利用度が急激に進んだ一因だと思います。

一方で、大切な自社データをクラウド上に置いておくことや、セキュリティに対する不安をお持ちの方もいらっしゃるかと思います。

八子:クラウドに対する理解が進み、信頼度も上がってきました。例えば、オンラインサービスを自社開発すると、サービスやアプリケーションに対して、エンジニアが延々とメンテナンスをしていかなければなりません。ところが昨今、市場の急激な変化に伴い、サービスのスクラップアンドビルドが早くなってくると、自社で開発するのは、できるだけ競争力のある部分や、こだわりのあるところ部分だけにとどめ、後は汎用的なサービスを利用。特に差別化が難しいインフラについては、クラウドサービス事業者に任せてしまう方が、むしろ安全安心であるという理解がずいぶん進んできたように思えます。

橘 俊郎氏

:さまざまな場面でクラウドの話題が取りざたされ、新しいことを始める人たちは、まずクラウドで試してみようという流れになっています。例えば、何か新しいサービスを作ろうとしたら、以前であればサーバを購入し、立ち上げて、そこにアプリを入れて検証をするという進め方でした。今では、クラウドサービスを活用し、オンライン上で調達ができるので、かなり早く安く手軽にできます。スピード感が求められる世の中になってくると、必然的にクラウドをしっかり活用して、新しいサービスを作ろうと考える人たちが増えてきます。
もちろん、八子さんがおっしゃったように、従来のサービスもクラウドを利用することで、信頼性、冗長性を確保したり、クラウドの良さをしっかりと理解したうえで活用したりするケースも増えています。

大企業でも、クラウドやデジタルなしでは、新規サービスを構築できないという認識が広がっているのでしょうか。

:その認識は既にあると思います。大企業もスピードを重視しますし、早くやろうと思えば、インスタントにクラウドのサービスを調達してすぐにトライする、これはベンチャーに限らず、同じような傾向にあると思っています。むしろ大企業の方が利用意向も利用率も高くなっていますし、中堅はその次、中小企業は本当にわずかという現状です。
クラウドの導入意向がある、もしくは導入をしている企業の数は、規模に関わらず、今後も増えていく傾向であることは間違いありません。

どうして大手と小規模企業の間でこれだけの差が開いているのか。やはり、小規模企業ではクラウドに関する知識が潤沢にないケースも多く、どうしても専門家の力に頼らざるを得ないことから出遅れ感があるように思います。専門企業が、そういった中小企業にもクラウドの活用メリットを伝え、ご理解いただいた上で、お使いいただくべきでしょうし、弊社オプテージもそのような形でお役立ちしたいと思っています。

八子:周りの企業が取り組んでいる噂を聞いたり、事例が発表されたりすると“うちもやっていいのではないか”となりがちです。自分たちと同じような企業や競合の事例がなければ取り組まないというのは日本企業の悪しき習慣ではありますが。“あそこもここもやっている”となると、“もうさすがにいいんじゃない”と考え始める企業様が多いのは実感としてあります。

クラウドと「DX」の相関関係

各企業が進める「DX」の中で、「クラウド」はどのような役割を果たし得るものなのでしょうか。

橘 俊郎氏と八子 知礼氏

八子:現段階ではまだ「DX」に対する解釈が非常に多様です。我々はデジタル化を通じて「どんな新しい姿になるのですか、何を目指すのですか」という、DではなくXの部分に軸足を置くべきだと訴求をしていますが、いまだに、Dの部分、すなわち“デジタル化に取り組まなければ”と思っている企業も非常に多くいらっしゃいます。

デジタル化に取り組んで、新しい姿になる以前に、現場には紙が舞っていてFAXが次々に届いているような中堅中小の会社も少なからずいます。直近の課題で言えば、来年はインボイス制度の対応が必須になるので、受発注のシステム化は待ったなしの状況です。また電子帳簿保存法への対応の観点から、“紙をなくしていくこと自体が、まず弊社のDXだ”と考える会社もあります。それ自体は間違っている話ではなく、少しずつブロックを積み上げるがごとく、我々はペーパーレスを「DX1.0」と呼んでいますが、まずそこから始めてみるのも結構です。

さらに工場の生産工程、もしくは現場作業、建設の設備のチェックなどを、人手が回らなくても離れた場所からでも、さまざまな現場における設備や人の稼働状態を、センサーやカメラを設置してデータとして収集し、そのデータをネットワーク経由でクラウド上で把握管理分析して最適な稼働状態へとフィードバックするIoT(Internet of Things)の取り組みが必要です。我々はそれを「DX1.5」と呼んでいますが、いずれの場合でも、クラウドのアプリケーションやソリューションサービスの活用は必須です。特に現場の可視化、そこから上がってきたデータを見えるようアプリケーションを作る場合には、概ねクラウドを活用するということは当然のこと。すなわち「DX」を進める中で、クラウドおよびクラウドを活用したIoTへの取り組みは、ど真ん中のど真ん中ということになります。

しかし、自分たちが便利に活用できるツールやサービス情報がきちんと伝わっていないという課題もあります。私たちは地方の会社ともビジネスを進めていますが、地方に行けば行くほどDX、クラウド活用に関して十分な情報が行き届いていません。Webを見ればさまざまな情報がありますが、“自分たちとはだいぶ違う”と思っていらっしゃる節がありますね。

:ある意味、皆さん手探りのところもあるのかもしれません。少子高齢化で人が少なくなってきて、採用も難しくなってきている中で、いかに業務を効率化するか、データを分析・活用して、より高度な業務を進めていきたいというニーズは出てきていると思います。先ほど八子さんもおっしゃったように、「DX1.0」や「DX1.5」のさらに先になるかもしれませんが、そのような新しい使い方をしたいという思いが芽生えてきているように感じます。最初にお話ししたように、新しいことをしたい、効率化したい、少し試してみたいというときに、初期投資は重たい。一方で、クラウドの面白いサービスがあるから使ってみようかと、気軽にチャレンジができるという部分でもクラウドは貢献できていると感じています。

浸透、推進させるためには、やはり他社の成功事例、失敗事例を発信していくことが重要です。業種にもよりますし、会社規模にもよりますが、お客さまのタイプに合わせて事例を伝えることで、自分ごと化がしやすくなります。また、経営層がしっかりコミットすることも重要ですので、我々は正しい情報をお伝えして提案することを重視しています。

八子:コミュニケーションを密にとっていく必要性がありますね。多様な情報を発信していくのみならず、どこで止まっているのかを知り、どこで止まっているのかに対して、適切な情報を提供する。これは極めて当たり前のように思われますが、ITの先進企業では、ソリューションなどサービスの説明が中心になってしまい、「どこで止まっているのか」という課題のヒアリングが後手に回っているように感じます。

まずはお客さまやマーケットの方々に、課題を聞き、それに対して「実はこういうものがあるのですよ」「これを使うとものすごく簡単ですよ」と提案するべき。自分たちの足元の“どこ”でつまずいているのか、もしくは“つまずいているところ”に対して、寄り添った提案をしていくことで理解が進むと感じています。

クラウドから広がる“働き方”“事業”の可能性

クラウドやクラウドサービスが浸透していった先に、日本経済や企業、ひいてはこの世の中がどのようなものになっていくとお考えですか。

橘 俊郎氏と八子 知礼氏

:身近でわかりやすい例でいえば、クラウドを活用することで、リモートワークが主体となり、働き方も暮らしも変わり、それぞれが理想とするワークライフバランスが実現します。さらにその先を見据えると、企業のかたちもおそらく変わっていくでしょう。閉じた1カ所に企業がある必要はなくなるので、誰かとコラボレーションをしたり、他の企業とイノベーションを起こすために発想したりすることも簡単に可能となります。

それは企業の大小に関係なく、社内で閉じていたアイディアが外部の人と繋がることで、新しいサービスの幅、さらに大きなインパクトを与えるものが生まれる可能性があるということです。リソースが大きな大企業だけでなく、小規模の企業同士がしっかりと繋がることで、新しいものを生み出し、そして成長できるようになる。“働くこと”も“企業活動”も根源的に変わる技術であることは間違いありません。

八子:橘さんがおっしゃられたように、企業のカタチが変わってくる、その企業に勤める我々の生活が変わってくるということは、クラウドが我々の生活ビジネスに与える最たる影響だと思います。クラウドが気軽に、安価に、大量のコンピューティングリソースを使えると、これまで自分たちの組織内の集合知を以てしてもなかなかできなかったことを実現できるようになり、新しいアイディアを事業化していくスピードがアップします。

さらに、オンラインでさまざまなアイディアを共有したり、さまざまな人と繋がったりすることで、得たもの、アイディア、経験、リソース、稼働情報やワークフォース自体もシェアすることが可能になってきます。シェアをしてそのアイディアを早くカタチにしていこうとすると、できるだけ小さな単位での利用が可能になることがとても大きなメリットになってきます。その小さな単位とは、例えば時間単位で課金をするというのはもちろん、1人から利用できるものもそう。これまではまとまったロットや期間、あるいは企業規模などのサイズ制限があったわけですが、それが小さくなることで使い勝手が良くなり、早くシェアする環境に適した利用形態になっていきます。

これまで、ある確率的な需給のバランスでこぼれ落ちていたようなさまざまな可能性が、小さなサイズで皆さんとシェアして、早くそれが伝播していくカタチになっていくと需給のバランスが最適化されていきます。需給のバランスが最適化されるということは、これまでなかなかビジネスとして成立しなかったところがカタチになる可能性が高まるということです。

また、これまで不遇な状態で、コンピューティングリソースや、アイディアに巡り会えなかった方々に、“新しく稼ぐチャンス”が提供できます。それにより、社会のあり方が少しずつ変わっていく。クラウドはそのような創発性を持っているのではないかと考えています。チャンスが作りやすいクラウドを利用して新しいビジネス、新しい働き方、新しい会社のカタチ、そして新しい暮らしを実現していっていただければと思います。

橘 俊郎氏と八子 知礼氏
八子 知礼氏

八子 知礼(やこ とものり)
株式会社INDUSTRIAL-X 代表取締役CEO

1997年松下電工(現パナソニック)入社、宅内組み込み型の情報配線機器の設計開発から製造移管および介護機器の商品企画開発に従事し、
製造業の上流から下流までを一通り経験。その後、複数のコンサルティング企業に勤務した後、2016年4月より株式会社ウフルに参画、
さまざまなエコシステム形成に貢献。また、2019年4月に株式会社INDUSTRIAL-Xを起業、代表取締役に就任(現職)。
クラウドやIoT、デジタルトランスフォーメーションのコンサルタントとして多数の企業支援経験を有する。
著書に「図解クラウド早わかり」「DX CX SX」など。

橘 俊郎氏

橘 俊郎(たちばな としろう)
株式会社オプテージ 代表取締役 常務執行役員
ソリューション事業推進本部長

1988年3月大阪大学大学院 通信工学修了、同年4月関西電力入社。
2015年6月ケイ・オプティコム(現オプテージ)取締役 経営本部 副本部長、
2018年6月に取締役 常務執行役員 法人・公共事業推進本部長。
2020年6月から現職。