ISDN終了まで猶予なし、代替策で注目される「モバイル」という選択肢

ISDN終了まで猶予なし、代替策で注目される「モバイル」という選択肢
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「IP網移行」対策の緊急性に現実味

「発注処理ができずお店に商品が届かない」
「振り込みが間に合わず決済が翌日に持ち越される」
いま、日本の企業活動に大きな影響を与えかねない、ある深刻な問題が浮上している。
それが、「固定電話網のIP網移行」である。NTTは、2025年1月までにPSTN(公衆交換電話網)をIP網に移行する。切り替えが始まるのは2024年1月。固定電話のIP化は、世界でも前例がない巨大なプロジェクトとなる。

NTTが移行を決断した背景には、固定電話へのニーズが激減したことで契約数が減少し、NTT局内にある電話交換機の維持が困難になってきたことが挙げられる。維持コストは膨らみ、補修部品の調達が難しくなる一方で、交換機の老朽化は進み、2025年には維持限界を迎える。莫大な投資をして交換機を刷新し、アナログ網を存続させるのはコストに見合わない。電話交換機を安価なIP対応機器に切り替えることで、将来のコスト負担を軽減するというのがNTTの狙いである。

NTTが最初にIP網移行の方針を明らかにしたのは2010年11月。その規模や重要性ゆえに、じっくりと時間をかけて調整が進められてきたわけだが、2017年10月に詳細な移行スケジュールが公表されたことで、対策の緊急性が現実味を増してきたのである。

IP網移行に伴い終了するISDN

「IP網移行」には対策が必要。とはいえ、対応はほぼすべて電話局側で行われる。また、電柱から引き込まれるメタル回線もそのまま維持されるため、事前の工事なども必要ない。電話機のほか、基本的な音声サービスも継続して提供されるため、一見すると企業活動に与える影響は軽微のように思える。しかし、IP網への切り替えにより提供が困難になるサービス、利用減少が見込まれるサービスについては、IP網移行と合わせて2024年1月に提供を終了する。
そして、提供が終了するサービスの1つに、ISDNのディジタル通信モードが含まれているのだ。

ISDNサービスが日本で初めて登場したのは1988年のこと。NTTが総合ディジタル通信網サービス「INSネット64」という名称で開始したのが始まりである。エリア拡大の整備が遅れ、導入が進まない時期もあったが、1990年代後半~2000年代前半に広く普及して以降、ISDN回線はいまだに根強く残り続けている。

ブロードバンド回線が当たり前の現在、なぜISDN回線が依然として使われているのかと疑問に思うかもしれないが、総務省の統計では、2016年度末時点での契約数は311万件に及んでおり、2001年にピークを迎えて以降、減少傾向ではあるものの、今も多くのユーザーがISDNを利用しているのが実情だ(図1)。
また、NTTによると、INSネット契約数は2015年度末時点で約260万回線となっており、このうちの約15万回線でディジタル通信モードの発信利用があったという。

(図1:ISDNサービス契約数の推移(出典:総務省))

ISDN回線の利用用途は実に幅広い。帯域が保証されていることや、光回線が敷設されていない地域でも利用できることなどから、EDI(電子データ交換)、POSシステム、CAT端末、銀行ATM、エレクトロニックバンキング、エレベータ管理など、さまざまな分野で利用されている。

おそらく、ユーザー企業の中には、長年利用し続けているために、契約しているサービスや機器の状況を正確に把握していないケースもあるのではないだろうか。
そのため、ISDNサービスが終了するまでに、まずは自社のシステム環境や機器をしっかりと把握すると同時に、新サービスに関する正確な情報収集を行い、的確な対応策を練ることが大切だ。ISDNの提供終了を受けて、NTTは光回線サービスへの移行を推奨しているが、その移行は容易ではない。ISDN対応端末の取り換えに費用がかかるだけでなく、毎月の通信料金も高くなることが懸念されるため、代替サービスは慎重に検討する必要がある。

マイグレーションで選ばれる代替策

では、ISDNの移行先として考えられるのは、どのようなサービスなのだろうか。
現在注目されているのは、MVNO(仮想移動体通信事業者)による携帯網を利用した代替サービスである(図2)。

コインパーキングやコインロッカー管理などのシステムは、光回線へ移行するとなると、通信頻度やデータ容量の点でオーバースペックであるため、MVNO回線で充足することが多い。また、通信料金は現行のISDNと比べて3分の1程度で利用することも可能で、コスト削減にもなる。

また、小売店のPOSレジやCAT端末用のネットワークでは、モバイルへの切り替えが比較的進んでいるほか、光回線を敷設できないケースやバックアップ回線の置き換え、通信網の冗長化など、多種多様な用途において有力な移行先の候補となっている。
ISDN提供終了までの猶予期間が短く、光回線への対応が困難なケースを考慮すれば、モバイルという選択肢は十分に検討の余地があるだろう。

(図2:モバイル回線を利用したISDNの置き換えソリューション)

固定電話IP化の落とし穴

実は、NTTは、すぐに移行対応できないユーザー向けに、既存のISDN対応端末からIP網に接続するための変換装置を用いた補完策を用意している。しかし、補完策はあくまで期間限定の一時的対処となっているため、いずれ既存のシステムから大規模な変更を余儀なくされることは留意しておく必要がある。
また、中継網内でISDN回線とIPのデータを変換する処理に時間がかかり、遅延が発生するという問題も指摘されている。一般社団法人情報サービス産業協会(JISA)が実施した検証によると、既存のISDNと比較してデータの伝送遅延が1.1~4.0倍程度になることが分かっている。
4.0倍というのはかなり深刻な数字である。「発注データを定刻までに処理できず、店舗に品物が並ばない」「決済処理が遅れ、企業の信用を損なってしまう」という事態も考えられる。レスポンス重視のシステムでは、実用には到底耐えられない可能性がある。

移行のハードルは業界によってさまざまだが、とくにEDIはISDNからの移行に苦労しているようだ。EDIは、企業間の受発注や入出荷、請求、支払い業務のための情報をやり取りする仕組みだが、このEDIでは、ISDN回線を使う旧来のJCA手順や全銀手順、全銀TCP/IP手順が多く使われている。
卸事業を営むある企業は、約500の小売店との間でEDIを利用しているが、切り替えテストは取引先ごとに日程を調整して取り組まなければならず、接続試験を完了させるのに想定以上の日数を要したという事例もある。

システムの入れ替えは、企業にとってコストや時間を浪費する一大プロジェクトである。対応が遅れ、切り替えが間に合わなかった場合、業務に大きな支障が出る恐れもある。サービス終了間際になると、各社の移行案件が集中することが予想されるため、早めにISDNからのマイグレーション計画を立てた方が得策だろう。

ネットワーク最適化の機会

NTTがISDNサービスを終了する2024年初頭まで6年程度の猶予しか残されていない。システム移行には、本来ならば10年近い準備期間が必要とされるため、移行の規模によっては早期対応が必要である。

しかし、代替策によっては、「MVNOに早めに移行することでその分コストを削減できた」という、思ってもみない効果を得られる可能性もある。さまざまな選択肢が提示されている今だからこそ、ISDNからの置き換えをネットワーク最適化の機会として捉えることもできるだろう。

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著者 OPTAGE for Business コラム編集部

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