IoT導入の足かせ、日本が抱える最大の課題

IoT導入の足かせ、日本が抱える最大の課題
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IoT導入において日本に突出する課題

IoTの本格的な普及が進み、2017年はIoT元年といわれるようになった。製造業を中心にIoTの重要性が認識され、導入に向けて取り組む企業は年々増加し、日本企業のIoT導入率は欧米各国の企業と比較しても大差は見られない。
しかし、総務省が公表した「平成30年版 情報通信白書」によると、日本は2020年以降、他国よりIoTの導入で遅れをとり、2025年以降にはその差が一段と開いていくことが懸念されている(図1)。

(図1:諸外国のAI・IoTの導入状況と予定(出典:総務省))

なぜ、日本の企業と他国の企業との間に、こうした開きが生じてしまうのだろうか。その原因を示唆する興味深いデータが、前掲の情報通信白書に記されている。「IoTの導入にあたっての課題」というアンケート調査の結果において、日本企業は「IoTの導入を先導する組織・人材の不足」という回答が、他国企業と比較して顕著に高くなっているのである(図2)。

(図2:IoTの導入にあたっての課題(出典:総務省))

これらのデータから、諸外国と比べた日本の弱点、そして日本の企業が取り組むべき課題が見えてくる。

IoTの普及を先導する組織・人材の不足をもたらす要因

明治維新後、重工業に集中することで近代化を成し遂げた日本は、戦後において、欧米製品の改良から新しい機能や技術を創出することで市場を切り開いてきた。いわば、後発参入によって顧客の需要をとらえ、市場シェアを奪うことで急成長を遂げてきたのである。
だが、そのような成功体験が足かせとなり、日本には、失敗を許さない減点主義や変化を受け入れずリスクをとらない風土が根付いてしまった。そして、いつしか日本の組織は硬直化し、外部変化に柔軟に対応できない環境を構築してしまったのである。

さらに、IT関連産業に蔓延する多重下請け構造が、新たな創意工夫を抑制する大きな阻害要因となっている。現在の日本のIT産業における下請け構造は、元請けから1次下請け、2次下請けとピラミッド状に連なっており、ひどいときには5次、6次と積み重なっている。
このような商流の中で働くシステムエンジニアやプログラマーは、下流工程の業務に長時間拘束されることになる。そのため、多くのIT人材は、精神的にも肉体的にも疲弊し、高度なスキルを身につける機会さえ得られず、成長が阻害されているのが現状である。

こうした組織風土や多重下請け構造の中では、新しいアイデアを生み出す創造性や、その新しさを受け入れ、チャレンジできる土壌が十分に育つことは期待できない。故に、日本のIT産業のレベルは停滞し、他国から大きく遅れをとってしまっているのである。

中小企業を中心に、IoTシステムの活用が進まず、十分な人材を確保できない最大の要因は、技術改良や下請け構造という従来の形式に縛られ、先端技術に必要性を感じず、目の前に迫っている技術革新を自分事と考えることができない危機意識の欠如にある。

技術革新は国家間の序列を変えてしまうほどの力をもち、少しの遅れが後に致命的な差となって表れる。産業革命に乗り遅れたアジア・アフリカ・ラテンアメリカの国々は、自国の産業が育たず、今もなお発展を遂げた国との経済格差を埋めることができずにいる。
日本がこのまま諸外国との差を埋められず、第4次産業革命の波に乗り遅れ続ければ、数十年後にはIT世界の「後進国」となっているのかもしれない。

「負の連鎖」を断ち切る打開策

このような「負の連鎖」を打開し、IoTの導入・活用を進めていくためには、IT企業やユーザー企業が過去の成功体験を断ち切り、新しいイノベーションを創造できる組織の土壌を産業全体、また組織全体で育てていくことが重要なポイントとなる。

ユーザー企業においては、現場部門が、現場を最も理解する人間として無駄や非効率に気づいたり、同業種・異業種を問わず自社に組み入れられる事例がないかアイデアを出していかなくてはならない。ITの深い知識よりも、現場業務への深い理解と常識にとらわれない発想により、「IoTを使って何ができるのか」というアイデアを生み出すことが重要となる。
また、IT部門は、経営の柱となり重要性が格段に高くなったシステムをトラブルなく安定稼働させることや、IoT導入の懸念材料となっているセキュリティリスクに対して万全な対策をとるために十分な技術を身に付ける必要がある。
さらに同業種や他業種の先進的な事例の中に自社に取り入れられる技術がないかアンテナを張って情報を収集したり、IT企業の製品やシステムが自社に合うものかを見極める力も身に付けていかなくてはならない。

そしてなにより、経営層がデジタル化に対する理解を深め、強いリーダーシップを発揮し、自社の強みを明確にした上で、IoT導入により収集・分析したデータをどのようにビジネスに活用していくのか、意思決定する必要がある。
人材政策面においても、IoTというIT人材需要の変化にあわせて、パラダイムシフトを先取りし、従来の形式にとらわれない新たな政策へと着手していくことが望まれるだろう。

一方、ソリューションを提供する側のIT企業においては、今までのシステム導入に多かった業務の省力化や業務プロセスの効率化だけを目指すのではなく、既存の製品・サービスに付加価値をつけたり、新規の製品・サービスを生み出すビジネスモデルの改革を実現できるよう、柔軟で新しい発想を持ってソリューションを提案していかなくてはならない。

また、そのためには、IoTに対応できる人材として、組み込みソフトウェアに対応する技術や情報セキュリティ技術、クラウド関連技術、ビッグデータ解析技術、ワイヤレス・ネットワーク技術などといった多様かつハイレベルなIT技術を身に付けていく必要がある。
さらに、現場に入り込み、顧客の業務への深い知識を身に付け、深いIT知識を持たない人とコミュニケーションするために専門的な説明をより噛み砕いて説明する能力や、部門を超えて関係者を巻き込んでいくためのリーダーシップを身に付けることも必要になるだろう。

IT企業は、このようなスキル・能力を持った人材を育成するために、人材戦略を練り、モチベーションを向上させる企業文化や風土を作り上げていくと同時に、顧客と発注・受託の枠を超えた協業などの形態をとるなど、現場の事情に即してスピーディーで柔軟な制度変更を行っていくことが重要である(図3)。

(図3:IT企業とユーザー企業による協業体制)

日本が「IT後進国」にならないために

IoTやAIは企業の盛衰を直接左右する基幹技術となっており、世界はデジタル化の進展により第4次産業革命という時代の大きな変わり目を迎えている。この流れは、従来のような段階的な技術の高度化や生産の効率化にとどまる話ではなく、既存の産業構造そのものを覆すほどの大きな変化をもたらしている。
しかしながら、現在の日本においては、少子高齢化や慢性的な人材不足などの構造的問題もあり、未来に向けた事業創出や価値創造への影響も懸念されている。

日本が「IT後進国」にならないためにも、これまでの古い固定観念からいち早く脱却し、次世代の人材育成を推し進めるための環境を構築し、長期的な視点で戦略を練っていく必要があるだろう。

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著者 OPTAGE for Business コラム編集部

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