1個50円のセンサーで4億円のコスト削減はどのように実現されたのか!?IoTがもたらすインパクト

1個50円のセンサーで4億円のコスト削減はどのように実現されたのか!?IoTがもたらすインパクト
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IoT化による経済成長へのインパクト

いま、製造業を取り巻く環境は急変している。
ドイツが2011年から提唱し始めたインダストリー4.0をきっかけに、デジタル技術が急速に発展し、国家レベルで産業改革が推進されている。
第4次産業革命とも謳われる大きな変革の波は、産業構造そのものを根底から覆してしまうほどのインパクトを持ち、そのうねりは、日本のGDPの約2割を占め、日本経済の「お家芸」である製造業にも確実に押し寄せている。

総務省が発表した「平成29年版 情報通信白書」によれば、内閣府の中長期経済予測に基づくベースシナリオとIoT化(IoT・AIの導入)が進展する場合の経済成長シナリオを比較した結果、ベースシナリオでは年平均成長率が0.9%、2030年の実質GDPが593兆円にとどまるのに対して、経済成長シナリオでは年平均成長率が2.4%、2030年の実質GDPが725兆円に高まると試算している。IoT化の進展が、2030年の実質GDPを132兆円押し上げることになる(図1)。

(図1:2030年までのIoT化による経済成長へのインパクト)

また、業種別に市場規模(生産誘発額)へのインパクトを見てみると、「商業・流通」「サービス業」、そして「製造業」において経済成長シナリオとベースシナリオとの差が大きくなっており、これらの業種でIoT化と企業改革の進展が大きなインパクトを持つと考えられる。

実際のところ、第4次産業革命の潮流は、IoTの実像を捉えようとする動きや実証を進める動きから、実ビジネスレベルの導入実績を数多く創出するフェーズへとシフトチェンジしてきており、製造現場におけるビジネス変革の動きは着実に広がりをみせている。

「4億円のコスト削減」生産プロセスの革新がもたらすIoTのインパクト

では具体的に、IoTは「ものづくり」にどのような影響を与えるのだろうか。
製造現場の次世代化の流れは、大きく分けて2つに分類される。ひとつは、IoT活用による生産プロセスの革新である。第4次産業革命に対応したスマート工場では、オーダーメイドのような製品を大量生産と同等のコストで製造できるマスカスタマイゼーションや、IoTによって製品の消耗度合いを検知し、顧客にメンテナンスや稼働率向上の施策を提供するサービタイゼーションなどを実現することで、生産性と競争力を向上することが可能になる。
スマート工場化の取り組みは、これまでシステム導入が遅れていた中小企業にも広がり、大きな成果を上げる企業も増えてきている。

たとえば、愛知県にある自動車部品メーカーの旭鉄工は、自社開発で生産ラインのIoT化を実現した町工場である。2014年から改革に着手し、工場の機器から情報を吸い上げ、生産数やサイクルタイムや停止時間を把握し、工程を見える化するための生産ライン監視システムを構築し、改善サイクルを早めることに成功した。

システム開発には、投資をできる限り抑えるため、秋葉原で購入した1個50円の光センサーなどの市販品を活用した。努力の甲斐もあり、1億円以上の労務費低減と3億円以上の設備投資削減を実現。実に合計4億円以上のコストカットを成し遂げたのである。

このようにIoTには、旭鉄工のような町工場でも安価な部品や設備と創意工夫によって、今までにない革命的なビジネス価値を得られる可能性がある。

「製造業のサービス化」がもたらす産業構造の再編

そして、製造現場の次世代化のもうひとつの潮流が、製造業のサービス化である。
これまで日本の製造業は圧倒的な製品品質を強みに、「Made in Japan」として世界中の消費者から絶大な信頼を獲得してきた。しかし近年、その消費者の選択基準に大きな変化が生じ始めている。

たとえば、米AppleのiPhoneは、製品の性能や品質だけをみれば、他社製品と比べてずば抜けて優れているとまでは言えない。しかし、自社のデバイス間でアプリケーション販売の仕組みや様々なコンテンツをシームレスに連携できる仕組みを作り上げることで、利用者体験、すなわち利用者価値を最大限に高め、その結果、多くのユーザーを獲得している。

このような事例は、なにも製造業の中だけに限った話ではない。車両を保有せずに世界を席巻するほどの配車サービスとなったUberや、物件を持たずに世界最大の宿泊サービス会社となったAirbnbなども、消費者の選択基準に変化をもたらした好例である。

つまり、利用者は製品(モノ)そのものに関わる機能や品質や価格ではなく、その製品・サービスを通してどのような体験(コト)が得られるかを重視するようになってきたのである。

「モノづくり」から「コトづくり」へ。世界におけるデジタル化の流れは、確実にユーザーの消費スタイルに影響を与えはじめている。そして、製造業の収益モデルも、従来の物売り型のサービスモデルから、顧客の業態に合わせた従量型サービスや成果型サービスへと急激にシフトしてきている。

製造業のサービス化は古くから叫ばれてきたテーマであるが、IoTの普及により、それが一気に実現しようとしているのである。

IoTによって大きく変わるサプライチェーンの構造

IoTによってもたらされるモノづくりの新潮流は、製造業界に身を置く企業にとって、これまでにないビジネスモデルを創出するチャンスとなる一方、競争に乗り遅れて淘汰されてしまうピンチにもなり得る。

なぜなら、IoTによってサプライチェーンの構造が大きく変わってしまうからだ。

従来の直線型のサプライチェーンは、参加企業が限定された閉鎖的なネットワークを形成し、最終製品を製造する企業が需要に応じて部品企業に供給の調整を要求してきた。
これに対して、デジタル化によるサプライチェーンは、自由参加型のオープンネットワークを志向する。ニーズが細分化されたマーケットに対応し、次々と登場する新技術を活用した製品・サービスを供給するため、胴元となる企業はIoTプラットフォームとよばれる場を提供する。IoTプラットフォームでは、その中心に立つ企業とプラットフォーム上で一定の役割を担う企業に分かれ、ネットワーク型のサプライチェーンを形成しながら、動的に形成された企業連合により製品・サービスを市場に投入していくことになる(図2)。

(図2:製造業のサービス化)

今後は中小企業であっても、特殊な技術があればプラットフォームの上で取引が拡大していく可能性がある。一方、プラットフォームの形成や運営に不得手となれば、たとえ大企業であっても業界でのポジションが低下してしまう可能性がある。

つまり、IoTの進化・成熟によって伝統的な業界の境界線は不透明となり、想定外のライバル企業が出現したり、業界の中核的存在であった大企業が成長著しいベンチャー企業のIoTエコシステムに組み込まれてしまうといった「産業構造の再編」が起こり得るのだ。

そのため、これからの製造業界では、従来のように製品のみを提供する企業ではなく、製品を通じて付加価値を提供できるプラットフォームを保有する企業が、より顧客のロイヤリティーを獲得できるようになるだろう。

◎製品名、会社名等は、各社の商標または登録商標です。

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著者 OPTAGE for Business コラム編集部

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