なぜAIチャットボット導入で失敗するのか?成功するために重要なこと

なぜAIチャットボット導入で失敗するのか?成功するために重要なこと
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チャットボット導入で期待される効果

昨今、省人化やコストカットを目的としてチャットボットを導入する企業が増えている。特に、Web上でのFAQ対応やサービスの受付対応、社内の問い合わせ対応業務の自動化などにチャットボットを導入し、業務効率を向上させた事例も報告されている。

チャットボットの仕組みには大きく分けて「ルールベース型」と「機械学習型」の2種類がある。

ルールベース型は、決められたシナリオに従って対応する。チャットボットの構築は、取り決めたシナリオに従って質疑の内容を決めていけばよいので、比較的容易である。基本的には、シナリオに沿った回答内容を設定していけば要件に沿ったチャットボットが構築できる。しかし、リリース後は決められた対応しかできず、表記のゆれや、シナリオにない個別の質問には対応できない。結局ユーザーが質問に対する適切な回答を得られずに、オペレーターが導入前と変わらない対応を強いられることも少なくない。

一方、機械学習型(AIチャットボット)は、質問の内容を学習し、表記のゆれなどにも柔軟に対応できる。利用者が増えるほど会話履歴などのデータが蓄積され、AIが学習するため、より自然な会話が可能となる。
AIチャットボットは、自社で構築することは困難な部分もあるが、近年では安価なAIチャットボットサービスが多数リリースされているため、導入自体は難しくない。AIチャットボットを導入することで、ホームページにおけるユーザーエクスペリエンスの向上、顧客対応の効率化、ひいては顧客満足度の向上が期待できる。また、社内においてはヘルプデスクの問い合わせ対応の効率化、社員の潜在ニーズの解決、ひいては従業員エンゲージメントの向上により、会社全体の業績アップも見込めることから大きな注目を集めている(図1)。

(図1:ルールベース型と機械学習型)

なぜAIチャットボットの導入で失敗するのか

しかしながら、準備不足のままAIチャットボットの導入を試み、プロジェクトが失敗に終わるケースも多い。例えば、AIチャットボットを導入してから数カ月後には、社内で使う社員はほとんどいなくなり、AIチャットボットが廃止となってしまったケースも少なくない。さらには、AIチャットボット導入に向けて取り組んでみたものの、かえって時間やコストを浪費するだけで終わってしまったというケースも存在する。近年では、「PoC墓場※1」という言葉が存在し、実証実験の段階で疲弊することも多いのが現状だ。

(※1)PoC:Proof of Conceptの略で、直訳すると「概念実証」。試作開発の前段階における検証やデモンストレーションを指し、近年では「実証実験」と同義に扱われる。この実証実験で成果が出ずに疲弊し、リリースに失敗することを「PoC墓場」と呼ぶ。

なぜ、多くの企業がAIチャットボットの導入で失敗するのだろうか。
理由としてよく挙がるのが、「AIチャットボットの導入自体を目的にしてしまう」ことである。

どのメディアもAIやIoTを中心としたデジタルトランスフォーメーションの重要性について言及するようになり、企業側からも「AIなどの先端技術を導入したい」という声が出てきている。しかしAIチャットボットをはじめとする先端技術は、経営課題を解決するために取り入れられるべきである。いわゆるAIの「すごさ」を優先してしまい、「とりあえず何かやれ」という指示になってしまっては元も子もない。

当初は経営課題を解決するために取り入れたはずのAIチャットボットが、PoCでは思うような効果を出せないこともある。企業の上層部からは結果が出ないことを叱責され、担当者は導入プロジェクトを中止できずに疲弊してしまう。結果として、とりあえずAIチャットボットの導入だけを行い、プロジェクトを終わらせようという方向に意識が向いてしまいやすい。

また、「AIチャットボットで可能になることを、企業の経営陣や担当者が理解していない」ということも失敗の原因として挙げられる。
AIやIoTといった先端技術は、まだ世の中に浸透しきっていないため、理解が乏しいことは無理もない。しかしチャットボットなどのシステムに対して、「何でもしてくれる」といった過度な期待を持つことは危険である。
AIチャットボットでできること、できないこと、それぞれを理解したうえで、「経営課題を本当に解決できるのか」を事前に検討しておくべきである。

AIチャットボット導入を成功に導くカギ

それでは、AIチャットボットの導入を成功させるためには、一体どのように対応すれば良いのだろうか。そのカギとなるポイントは5つある(図2)。

(図2:AIチャットボット導入を成功に導くカギ)

◆AIチャットボットで解決したい課題を明確化する

AIチャットボットの導入は、解決したい課題ありきの話である。そして、解決したい課題の明確化にあたっては、AIチャットボットでは何ができるのかを知っておくことも大切である。AIを搭載したチャットボットを導入することで、社内のどんな部門で活用でき、具体的にどんな課題を解決できるかを、まずはしっかりと議論する必要がある。

◆定型的な質問には定型的な答えで

AIがトレンドだからといって無理にAIと連携させなくても、ルールベース型のチャットボットの範囲で対応できるケースも多い。例えば、よくある質問に対しては、定型的な回答を用意しておくと正答率を向上させられる可能性がある。また、質問をAIに判別させて複数の回答案を提示し、ユーザーに選択させてFAQに誘導するという手も非常に効果的だ。

◆AIの導入には時間と費用を要することを認識する

教師あり学習※2には、ラベル付加済みのデータを数万件~数百万件の規模で用意する必要がある。しかし、質問のデータをきれいに整理できている企業は少ないはずだ。可能であればデータの整理からアウトソースした方がスムーズにAIチャットボットを導入できる。
導入後も定期的にデータを整理して学習させる工程が必要となるため、AIの運用にかけるコストも考慮しておく必要があるだろう。

(※2)教師あり学習:学習データに正解ラベルを付けて学習する方法。例えば、画像を見て動物の名前を答えるAIを構築する場合、画像の学習データに対して「猫」「犬」などとラベルを付けて学習させる。

◆シナリオサンプルを準備しておく

ユーザーにどのような会話をさせたいのか、理想のサンプルをいくつか用意しておくと良いだろう。AIチャットボットベンダに外注する場合は、このシナリオサンプルがあると対応がスムーズになる。
自社でAIチャットボットを内製する場合にも、会話シナリオの整理は重要である。加えて、Webサイト内でのチャットボット使用を想定するなら、チャットボットがすぐユーザーの目に入るような設計にしておくことも大切だ。使ってもらえないチャットボットでは意味がないことを認識しておかなければならない。

◆ユーザーのメリットを常に意識する

ユーザーにメリットがなければAIチャットボットを導入しても意味がない。そのため、AIチャットボット導入によってユーザーの手間が増えないよう注意する必要がある。
前述の「定型的な答えを用意しておく」という点にも繋がる話ではあるが、無理にAIチャットボットに頼るよりは、既存のFAQなどと連携して確実に回答する設計の方が、ユーザーの満足度は高くなる。また、AIチャットボットで回答できない場合は、シームレスにオペレーターへ引き継げる設計とすべきであろう。

繰り返しになるが、AIチャットボットの導入にあたって一番大切なことは、解決したい自社の課題を明確にしておくことである。AIチャットボットを導入することが目的となり、後々利用されなくなってしまっては本末転倒なのだ。

今後AIの研究が進むと、全自動でのAIチャットボット対応が可能になるといわれている。しかしながら、現状ではAIチャットボットに完全に質疑応答を任せきることは難しく、人のサポートはどうしても必要になってくる。そのため、AIチャットボットの特性を理解した上で有効活用するようにしたい。

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著者 OPTAGE for Business コラム編集部

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