- 公開日:2020年05月13日
約4割の企業が導入、見えてきたRPAの課題と導入成功の鍵
約4割の企業が導入、成長遂げるRPA市場
多くの企業では日々さまざまな事務作業が行われている。その中には、例えば定期的に何かの情報からリストを作成するためのデータ入力作業、営業担当者ごとの活動情報の集計や受注案件の事務処理、提出書類の不備チェックなど、処理件数とデータ量が多く、同じことを何度も実行しなければならない業務が存在している。
このような「負荷が少ない単純作業」も、人間が大量に処理するには苦痛を伴うことが多い。担当者の手間となるだけでなく、作業が複数の人を経由した場合はミスも発生しやすくなり、手作業によって間違ったデータを同期してしまう可能性もある。
そこで登場したのがRPA(Robotic Process Automation /ロボティック・プロセス・オートメーション)である。RPAはデスクワークなどで発生する定型作業を、パソコンの中にあるソフトウエア型のロボットが代行・自動化する技術である。人間よりも処理スピードが速く、ケアレスミスを起こすこともないため、事務作業に高い精度が求められる金融業界などを中心に、一部の企業で導入が進められてきた。
だが現在、労働人口の減少や働き方改革などを背景にRPA市場が急成長を遂げている。MM総研が2019年11月5日から11日にかけて、年商50億円以上の国内企業を対象に行った調査によると、2019年11月時点での国内企業におけるRPA導入率は38%であった。同社が実施した2018年6月時点の調査では22%であったため、約1年半で16ポイント増加したことになる。さらに年商1,000億円以上の大手企業に限定すると、導入率は実に51%に達している。
一部の先進的な企業から導入が始まったRPAだが、今では普及期を迎え、業種を問わずさまざまな企業が導入を進めている。
RPA導入成功の先行事例
多くの企業がRPA導入を検討・実施することで、さまざまな成功事例も蓄積されつつある。ここで、RPA導入によって業務プロセスを自動化し、業務削減した導入成功事例をいくつか紹介する。
◆三菱UFJ銀行
三菱UFJ銀行では、2014年に住宅ローンの団体信用保険申告書の点検業務を皮切りとしてRPAの導入を開始し、2,500時間もの業務削減に成功した。
2015年春にはRPAの本格導入を開始し、2018年時点でRPAによって2,000件以上のプロセスを自動化し、約20の業務で累計20,000時間の業務削減に成功している。
◆讀賣テレビ放送株式会社
テレビ番組の制作や放映を行っている同社では、これまでアクセスログを毎週2時間かけてExcelに貼り付けたり、四半期ごとの収支報告書の作成に3日間を要していた。
そこで、RPAを導入したところ、アクセスログの集計が30分で完了するようになり、作業時間を年間80時間削減することに成功した。またOCRと連携することで、収支報告書の作成も1.5~2時間に効率化された。
◆サッポロビール株式会社
サッポロビールでは、日々の業務の中で小売業者が開示するPOSデータを1つずつ手作業でダウンロードする業務があり、業者によってはデータが複雑で、ひとつのPOSデータをダウンロードするのに20?30分の時間を要することもあった。データの量も膨大で、2,000ファイル前後のデータを毎週ダウンロードしなければならず、非常に手間のかかる作業だった。
そこでRPAにより、平日の午前8時に指定した小売業者のサイトから自動的にデータのダウンロードを開始し、14時頃には全ての企業からダウンロードを完了する仕組みを構築した。
その結果、削減できた時間は年間で約5,700時間、削減できたコストは約1,100万円にも及ぶ。
◆田辺三菱製薬株式会社
製薬業界では新薬製造が以前に比べて難しくなってきており、新薬製造のための費用と時間を捻出するために、生産性の向上が必須だった。
そこで同社では、2016年よりRPA導入の検討を開始し、2017年には2カ月間の導入実験で約1,000時間の業務削減に成功。2018年に本格的な導入を開始し、海外駐在員の経費精算業務を約500時間削減した。
また、データのダウンロードと整形、アップロードを繰り返している業務についてもRPA化し、2019年6月時点で既に3,000時間の業務削減を達成している。さらに今後の全社展開で約40,000時間の業務削減が可能であることを示している。
成功事例の一方で・・・見えてきたRPAの課題
このように、さまざまな業種の企業がRPAを導入することで作業時間の大幅な削減を実現している。
だが、その一方で、RPAが普及するにつれて導入・運用上の課題も浮き彫りになってきた。一部の先行ユーザーからは、「RPAで投資に見合う十分な成果を得ることは難しい」といった、理想と現実のギャップを述べる声も聞こえてくる。
現状として、日本のRPAは、これまでExcelのマクロで処理していた作業をボットに置き換えるようなRDA(Robotic Desktop
Automation)の使い方に留まってしまうケースが多い。つまり、個別最適のアプローチとなっているため、その分効果も限定的になってしまいやすい。
また、RPAの開発は業務に精通する現場に任されることも多いが、自分たちで開発やオペレーションを行うのが難しければ外部にボット作成と運用を依頼することになる。実装をベンダーに丸投げすれば、その分コストもかさむことになる。そうすると、RPAの開発後、ロボットが増えて管理が煩雑になったり、開発者が不在となった場合の責任や役割分担といった問題が発生する。
さらに、管理者が不在となった、いわゆる「野良ロボット」のセキュリティ対策や管理面の問題も浮上している。導入したはいいが思ったように成果が上がらなかったり、トップの命令によって導入だけが目的となり、そのままロボットが放置されてしまうこともある。また、「開発者が退職したことでRPAを管理できる者がいなくなった」というケースもあり、野良ロボットを発生させる一因となっている。
普段は動作しない野良ロボットであれば大きな影響は無いが、中途半端に動作して処理を行っている野良ロボットの場合、処理すべきデータを誤った内容に書き換えたり、データのアクセス権限を思わぬ形で操作し、重要なデータを流出してしまう恐れがある。ロボットは、人手とは比べものにならないほど大量の処理を高速で実行できるため、意図しないロボットの稼働によって生じる被害は人手よりも各段に大きくなる可能性がある。
このように、RPAを導入した国内企業の一部では、RPAツールを使いこなせず、開発コストがかさみ、ロボットの管理に多大な時間を要しているのが実情だ。本来であれば業務効率化と人手不足の解消に役立つはずのRPAが、企業にさまざまなリスクをもたらすケースもあり、その結果「効果が上がらないツール」という烙印を押されることになる。
RPAの導入を成功に導く鍵
RPAの実力を最大限に発揮するには、まずRPAの特徴を正しく知る必要がある。RPAは定型業務には力を発揮するが、人の判断が必要な業務、ルール化されていない業務、構造化データの取り扱いは得意ではない。そのため、RPAの導入を検討する場合には、RPA導入前にツールの利用範囲や管理などをしっかりと想定しておく必要があるだろう。
RPAの導入効果が芳しくない企業では、RPAの導入を急いだ結果、RPAを適用する業務の分析や運用・メンテナンスといった導入前後の検討が不十分だったというケースが多い。RPAの効果を十分に発揮するためには、導入の進め方にも目を向けなくてはならない。
コストバランスの考慮は必要であるが、導入失敗のリスクを回避するためにはSIパートナーの導入・運用支援サービスを活用するのも一つの手だ。
業務自動化は、RPAの限界を補うAIやIoTなどのデジタルテクノロジーを組み合わせることで、その範囲を広げることも可能だ。近年、RPAの進化系として「IPA(Intelligent Process Automation)」が注目されている。IPAは、RPAに業務プロセスの再設計と自動化、AIを組み合わせた概念であり、RPAの導入だけでなく、複数のテクノロジーを連携することで高度な業務自動化を実現できると期待されている。
RPAは本来、横串で全業務をサポートできるツールのため、基幹システムや業務システムのベースとなる部分を支えてこそ本領を発揮する。
そして今後は、非定型業務や非構造化データを学習し、RPAに引き渡すようなコグニティブ・コンピューティング※の活用にも期待がかかる。将来を見据えたRPAの展開を想定し、導入を検討していただきたい。
※コグニティブ・コンピューティング:ある事象について自ら考え、学習し、自らの答えを導き出すコンピュータ・システム。
◎製品名、会社名等は、各社の商標または登録商標です。