迫るISDN終了、EDI移行を早めに終わらせないと困るワケ

迫るISDN終了、EDI移行を早めに終わらせないと困るワケ
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迫るタイムリミット、ISDNのディジタル通信モード終了で思わぬ影響も

2024年1月、NTTは固定電話網のIP化に伴い、ISDNの「ディジタル通信モード」を終了する。

クレジットカードのシステムなど一部の分野では、依然としてISDNを使用しているシステムが多いのが現状だ。特に電子データ交換(EDI:Electronic Data Interchange)の分野では、現在でもISDN回線が当たり前のように使われている。

そうしたシステムの多くは、ISDNの提供が開始された1988年から1990年代にかけて導入されたものだが、今となってはISDN回線だとは知らずに運用されているケースや、一部の拠点でのみ使われており、システム部門も管理しきれていないというケースもあるようだ。

EDIは取引先との通信で使用されるため、自社都合だけでは切り替えられない。そのため、古いシステムを長く使い続けざるを得ないという状況に陥りやすい。しかしながら、そのままの状態でISDNのディジタル通信モード終了の時期を迎えてしまえば、受発注や決済といった、企業にとって極めて重要な基幹業務が停止してしまい、システムの管理企業やユーザーなどに思わぬ影響を及ぼす恐れもある。

当てにしてはいけないEDI利用継続の補完策

ISDNのディジタル通信モード終了に伴う影響を最小限に抑えるため、NTTは2027年頃までモデムやTA(ターミナルアダプタ)を継続して利用できる補完策を準備している。そのため、2024年1月でINSネットのディジタル通信モードは終了するが、終了後すぐにそれまで利用していたISDN回線が不通になるわけではない。

しかしながら、補完策の中継網ではISDN回線のデータ形式とIPのデータ形式を変換する処理が入る。その結果、通信の遅延が増加し、従来のISDN環境に比べて通信時間が延びてしまう。そのため、たとえ通信を継続できたとしても、EDIの処理時間が大幅に長引くことで業務が滞ってしまう可能性も捨てきれない。

また、NTT東西は2023年1月から、NTT東西以外の通信事業者の通信網からNTT東西のPSTN(公衆電話交換網)への通信網をIP網に順次移行する。そのため、NTT以外の通信回線を利用している取引先との通信は2023年から遅延が発生する可能性がある。

そもそも補完策は、2027年頃を目処に提供が終了してしまうため、補完策を当てにしてEDIを使い続けるリスクは非常に高い。遅延の影響が出始めると考えられる2023年までにはEDIの移行を終えておくことが望ましいと言えるだろう。

(図1:固定電話のIP網への移行後のサービスおよび移行スケジュール)

乗り換え先として、まず検討すべきは「インターネットEDI」

ISDNのディジタル通信モード終了については、一般社団法人情報サービス産業協会(JISA)でタスクフォースが設立され、今日まで対策が継続されている。2020年5月現在、インターネットEDI普及推進協議会(JiEDIA/ジェディア:Japan internet EDI Association)に名前を変えている。

参考:インターネットEDI普及推進協議会(JiEDIA)EDI関連資料

対策の中心となるドキュメント「固定電話網のIP網移行によるEDIへの影響と対策【概説】」は改訂が重ねられ、現在のバージョンは「4.1.0」となっている。同ドキュメント作成の過程で検証を重ねた結果、ISDNからの有効な移行先は「インターネットEDI」だとされている。

インターネットを使ってEDIの取引をするインターネットEDIは、特定の製品やサービスに依存することがなく、通信速度も従来のISDNと比べて大幅に速くなる可能性がある。
EDIの標準規格を作成している業界団体もインターネットEDIへの移行を推奨しており、各ベンダーがインターネットEDIのさまざまな製品やサービスを提供しているのが実情だ。

インターネットEDIの移行検討においては、同じくJiEDIAがWebサイトで公開している「インターネットEDI移行の手引き」を参考にするのが有効だ。どのようにISDNからインターネットEDIへ移行すべきかが、スケジュールと共に説明されている。

ただし、インターネットEDIへの移行には時間がかかるため注意が必要だ。移行に際して、インターネットEDIに切り替えた後も従来通り接続できて業務プロセスを滞りなく実行できるかどうかを、全ての取引先についてテストする必要がある。EDIのテストは通信先とスケジュールを合意のうえ、同期をとって実施しなければならない。
しかしながら、所要時間の問題で1日2~3社程度しかテストを実施できないほか、テストに失敗した場合のリカバリー期間も考慮しておかなければならない。もしテストに失敗した場合は、テストを進める一方で、問題が発生した場合の切り分けも必要になる。事象によっては問題解決まで数週間かかるケースも珍しくない。

また、インターネットEDIの実装については、通信の暗号化も必要になってくる。従来のEDIでは、安全性の高いISDN回線でのみ利用できたため、暗号化は不要だった。
しかしながら、インターネットEDIは通信がインターネットを経由するため、暗号化の対応は必須となる。一般的なSSL/TLS方式で暗号化するとしても証明書が必要であるため、有効期間の設定や更新の手間などを考慮しなければならない。

(図2:乗り換え先候補のインターネットEDI)

取引先との通信手順(プロトコル)の統一も欠かせない。EDIのプロトコルは業界ごとに統一していく動きがあるため、取引先と協議を重ねながら動向を把握し、プロトコルを慎重に選択する必要がある。

さらに、INSネットのディジタル通信モード終了の時期が近づけば近づくほど、EDIシステムの刷新に乗り出す企業は増えることが予想される。そのため、一時的にベンダーのEDI技術者が不足し、ベンダーが技術者を確保できないがために、サービス終了期限に切り替えが間に合わなくなってしまう可能性もある。

ISDNからインターネットEDIへの移行を検討しているのであれば、今から動き出しても決して早すぎるということはないだろう。

インターネットEDI以外の乗り換え先の選択肢

インターネットEDI以外の乗り換え先の候補としては、「データコネクト」や「IP-VPN」がある。

データコネクトは、NTTが提供するIP電話サービスのオプションサービスである。データコネクトを契約することで一定の帯域を確保できるようになる。だが、データコネクトは自社と取引先の双方でNTTの通信回線と専用機器を導入する必要があり、特定の製品やサービスに依存しない「オープンな標準規格」を志向するEDIの考え方にそぐわない部分がある。

また、離れた構内ネットワーク同士を接続してセキュアに運用できるIP-VPNだが、こちらもデータコネクトと同様、自社と接続先企業の双方で同じ通信事業者のサービスを利用する必要がある。

しかし、堅牢性の維持、帯域の確保などの要件が存在する場合にはIP-VPNが向いている。各社からサービスがリリースされており、選択の幅が広いのも魅力であり、グループ企業など特定の取引先との間でだけセキュアなデータ交換をしたいというケースであれば、IP-VPNが適しているといえる。

通信料金の安さを重視するのであれば、MVNOが提供する無線通信サービスも検討に値するだろう。

どのサービスも一長一短あるが、EDIシステムを導入している企業は、INSネットのディジタル通信モード終了による自社ビジネスへの影響を把握し、早急に対応する必要があることに間違いはない。「タイムリミット」は、もうすぐそこまで迫っている。

◎製品名、会社名等は、各社の商標または登録商標です。

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著者 OPTAGE for Business コラム編集部

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