「世界の工場」はどうなっていく?変貌する「チャイナリスク」

「世界の工場」はどうなっていく?変貌する「チャイナリスク」
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「世界の工場」という立ち位置と、今その場にいる国とは

「世界の工場」という言葉があります。世界中から原材料や資材を輸入し、世界中に輸出する工業国として大きな影響を持つに至った国のことを指す言葉で、19世紀にイギリスの経済学者ウィリアム・スタンレー・ジェヴォンズが提唱したものです。19世紀、いち早く産業革命を成功させたイギリスが最初の「世界の工場」と呼ばれました。20世紀になるとイギリスが衰退し、アメリカがその地位につき、20世紀後半になると陰りの見えたアメリカを抜くように、日本が「世界の工場」となりました。そして21世紀の現在、「世界の工場」の地位にいるのが、いうまでもなく中国です。

中国はその巨大な人口規模が、他の国とは比べ物にならないほどの生産力となり、低コストによる大量生産を可能にしました。共産主義ながら自由経済に漕ぎ出した中国は経済的に成長することで、今度はその人口規模を巨大な市場に変貌させたのです。「世界の工場」であると同時に、「世界最大の市場」になったのです。

世界中の数多くのメーカーが中国で製品を製造するようになり、製造においては中国への「一極集中」「独り勝ち」といってもよいような状況になりました。

共産主義国家における自由経済が生んだ「チャイナリスク」

「カントリーリスク」という言葉があります。ある国と交易する際に、事前に考慮しておくべき、その国固有のリスクのことです。これはどんな国にも存在します。たとえば外国から見た日本のカントリーリスクは何か。それはおそらく自然災害です。大地震、巨大台風・集中豪雨などによる洪水...。そういう視点から見れば、あらゆる国にカントリーリスクは存在します。

「チャイナリスク」は、今やアメリカに次ぐ世界第2の経済大国となった中国の存在感の大きさに起因していると考えられています。中国の景気、経済動向がそのまま、世界の景気や経済を左右するまでになりました。また「国家資本主義」という独特の経済運営が、リスクのひとつになっていることも否めません。

さらに近年では、環境問題もあります。中国における活発な製造・生産状況は多大な炭酸ガスや煤塵を発生させ、PM2.5などといった形で、日本に大きな影響を及ぼしています。

ただ、あの膨大な労働力と巨大な市場は、いまだ魅力的な存在であることは、いうまでもありません。

新型コロナウイルスが顕在化させた、
サプライチェーンにおける「チャイナリスク」

このようなチャイナリスクですが、今年2020年になって新たなリスクが顕在化しました。昨年11月、中国の武漢で発生が確認された新型コロナウイルスの世界的な感染拡大です。ここで大きな問題となったのが、「中国依存体質」です。私たちの生活に欠かせない物の多くが中国で製造されており、中国からの供給がストップすることで、暮らしへ多大な影響を与えるのです。日本ではマスクやトイレットペーパーが品薄状態となりました。

たとえばマスクの場合、生産数・輸入数の推移をみると、2019年は国内生産数が約15億枚弱。輸入数が約50億枚弱となっており、輸入数が約3倍になっています。

(一般社団法人 日本衛生材料工業連合会)

ご覧のようにマスク生産の相当な数量を輸入に頼っている状況で、新型コロナウイルスの感染拡大による世界的なマスク需要増と中国での生産ストップが重なり、あのようなマスクの品切れと価格の高騰が起こったのです。「世界の工場」としての中国に依存し過ぎたことで、サプライチェーンに大きな影響を与えました。

原材料調達段階で、中国が欠かせない存在となっている

マスクの問題と並んで、浮き彫りにされた問題があります。

みなさんは新型コロナウイルスの治療薬として一時、期待されていたものに「アビガン」があったことを覚えているでしょうか。抗インフルエンザウイルス薬「アビガン錠(一般名ファビピラビル)」は、富山大学医学部と富士フイルムホールディングス傘下の富山化学工業が共同で開発したもので、新型コロナウイルスにも効果が発揮できるものとして、大きな期待が寄せられていました。当時の安倍晋三首相も、「5月中の薬事承認を目指す」と表明していました。

しかしアビガンの原料である有機化合物「マロン酸ジエチル」が中国からの輸入に依存していたのです。中国では、すでにアビガンのジェネリック医薬品を発売していたため、そちらの方に原料が流れてしまったということがあります。

アビガンに限らず医薬品の場合は原材料の約6割が海外に依存し、その中で約1/5が中国製造とされています(厚生労働省「後発医薬品使用促進ロードマップ検証検討事業報告書」(2018年度)より)。医薬品のような、国民にとっての重要な必需品の製造を、中国に限らず特定の国に依存することの危険性を、十分に理解しておく必要があります。

中国への一極集中に、どう対処していけばよいのか

マスク騒動はその後、みなさんもご存じの通りシャープやアイリスオーヤマ、ユニクロなど他業種の参入が相次ぎ、市場は落ち着きを見せています。現在では以前の価格以下で販売されているケースもあります。このように国内生産に回帰できるものはよいとしても、今後とも深刻な影響を及ぼすと考えられるものがあります。レアアースやレアメタルなど、前章で書いた医薬品原料と同様、中国からしか調達できないものにどう対処していくのか、という問題です。可能な限り、特定国に依存せず調達することも視野に入れる必要があります。

また、2018年の米中貿易摩擦以後から、中国への一極集中の懸念は一層強くなり、ベトナムやタイといった中国以外の国への生産移管の動きが特に加速していましたが、今回の新型コロナウイルスの感染拡大で、アジア新興国などへの生産シフトの流れはさらに明確になっていくと予想されています。例えばスマートフォン用カメラレンズで世界最大手である台湾の大立光電(ラーガン・プレシジョン)が発表した2020年第一四半期の財務報告書では、国別売り上げ比率で中国が前年同期69.4%から61.0%と8%も減少しているのに対し、ベトナムが前年同期5.0%から11.8%に急伸しています(台湾・経済日報より)。グローバルな規模でサプライチェーン再編が進むことになると思われます。

今回の新型コロナ禍は、特定の国に依存することの危険性を、私たちに実感させてくれることになりました。この教訓を活かし、自分たちの国でうまく自給自足していくことも考えなければならないと思います。もともと資源の乏しい日本ですが、次の時代のためにも、その方法を模索し続ける必要があるでしょう。

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著者 OPTAGE for Business コラム編集部

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