産業界の本命「ローカル5G」!運用開始までのロードマップ最前線

産業界の本命「ローカル5G」!運用開始までのロードマップ最前線
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「5G」の2020年デビューはICT業界最大の話題

新しいニュースが次々に登場するICTの世界で、昨年2020年一番の話題といえば、第5世代移動通信システム「5G」のサービス開始だろう。すでに、5Gを活用したさまざまなビジネスが登場しており、産業界はにわかに活況を呈している。

種々の調査でもその市場性は有望視されており、電子情報技術産業協会(JEITA)では「世界での5G市場の需要額は年平均63.7%増で、2030年には168.3兆円に達する」と見ている。また、富士キメラ総研は「2023年の5Gの世界市場規模は、基地局だけでも4兆円を超える」と予測する。さらに電子部品業界でも、今後の電子部品市場は、5G基地局向けの需要で力強く牽引されるはずと期待している。

3大メリットは「超高速・大容量」「超低遅延」「多数同時接続」

5Gは、日本では2020年3月から運用がスタート。大手通信キャリアは各社とも、需要の多い大都市圏からサービスを開始し、順次基地局を増やしつつ、5年後には全国の6~9割程度をエリアカバーすることを目標としている。
5Gの特長、優位性として挙げられるのは次の3点。

①「超高速・大容量」の通信が可能=従来の4G規格の通信速度と比較して、最大約20倍の速度
②「超低遅延」の通信が可能=4Gはデータ通信時に約10ms(0.01秒)の遅延が発生するが、5Gは約1ms(0.0001秒)
③「多数同時接続」の通信が可能=4Gの端末接続範囲数は10万デバイス/?だが、5Gは100万デバイス/?

5Gの通信規格(国際標準仕様)の策定はこれまで、世界各国の標準化団体が参加する「3GPP(Third Generation Partnership Project)」主導のもと順調に行われてきたのだが、ここにきてコロナ禍のために各種会議の開催が延期となり、Web会議形式へ移行。そのため、策定計画のスピードが鈍化している。

現行の5Gで享受できるメリットは「超高速・大容量」のみ。残りの「超低遅延」と「多数同時接続」は、2020年7月に標準化が完了したリリース16の通信規格が運用されるのを待つことになるが、通常は商用サービスに移行するまで1年半から2年程度の時間を要するため、「超低遅延」「多数同時接続」が利用できるのは、早くとも2021年秋頃以降ということになる。

産業界の本命は「ローカル5G」の本格的運用開始

今回の5Gデビューでは、超高速・大容量の通信性能が際立って注目を集めているが、産業界では同時に、2021年秋以降に本格的な運用開始が予想される「ローカル5G」にも大きな期待が集まっている。
ローカル5Gは、企業や自治体が、一部のエリアや建物・敷地内に専用の5Gネットワークを構築できるもので、通信事業者でなくとも総務省に無線局の免許を申請・取得すれば、庁舎や自社ビル、キャンパスや工場構内に自前の通信網を構築できる。免許の受付は2019年12月に始まり、企業や自治体など10数者が取得、2020年12月からはローカル5G用に新たな周波数の割り当ても行われている。

(図1:地域課題解決型ローカル5G等の実用に向けた開発実証実施案件)

スマート工場の新たな可能性を「ローカル5G」が拓く

ローカル5Gの導入効果は、特に製造業で期待されている。自社工場の敷地内にローカル5Gによる専用ネットワークを整備して、FA(ファクトリーオートメーション)や協調ロボットの自動運転、遠隔制御などを行う「スマート工場」の運用に最適だからだ。
工場構内を無線化し、ネットワーク上でロボットや制御システムを連動させて生産ラインを効率化するといったスマート工場の試みは、すでに大手企業で実施されている。

例えば日立製作所では、IoTサービスを提供する基盤「ルマーダ」を活用しながら、製造業向けのシステム開発を進めている。頻繁に製造ラインを変更する、多品種少量生産の製造現場を中央研究所に再現。多国籍の外国人作業員に対し、必要な製品数などを映像で示すシステムを実証した。この他にも、工場設備の故障予兆診断や在庫適正化などの業務効率化サービスも研究開発を続けている。
また、5Gの超低遅延機能を活かした遠隔制御システムの開発も進めている。温度センサーなどで作業員の健康状態を把握しつつ、高精細な映像とAR(拡張現実)技術を使い、専門のオペレーターが離れた場所から作業を指示するというもの。同社では今後、製造以外の分野、鉄道やエネルギー関連などでも、新たなシステムの開発に取り組む考えだ。

5Gが本当の真価を発揮するのは今秋以降

このように、各地で始まっているスマート工場の取り組みだが、5Gが本当の真価を発揮するのは、この先に商用サービスが開始される新規格にかかっている。
5G移行への過渡期として、4Gの通信インフラに頼っている現状では、5Gの能力は「超高速・大容量」のみに限られているのだが、2021年秋頃から、4G設備に頼らないSA(スタンドアローン)の5Gコアシステムを、大手キャリア各社がリリースし始める。SA型の5Gになれば、新規格のネットワークスライシング技術などが実現され、待ち望んでいたリリース16以降「超低遅延」「多数同時接続」がサポートされる。

先にも述べたように、3GPPによる5G仕様標準化計画は、コロナ禍のためにスピードが鈍化している。2020年7月にリリース16の標準化が完了したものの、リリース17の標準化計画は未定であった。しかし、2020年12月14日のアナウンスでようやく、リリース17の仕様標準化に向けた日程が発表された。日程は下記の通り。

◎2021年6月:リリース17 ステージ2(通信機能の仕様)決定
◎2022年3月:リリース17 ステージ3(通信規約の仕様)決定
◎2022年6月:リリース17 (通信規約のコーディング)決定
なお、変更は作業日程のみで、仕様内容に変更はない。

(図2:3GPPのリリースによる「5G」進化のロードマップ)

リリース16の目玉はリアルタイム制御を実現するTSN通信

まず、2021年秋頃から運用開始の可能性があるリリース16版のローカル5Gは、5Gの機能強化に加え、産業IoTを主用途とする超低遅延・高信頼通信の拡張が主軸となっている。

第一に挙げられるのが、スマート工場の機械制御等で求められるリアルタイム制御技術(時間同期)の仕組みとして、TSN(Time Sensitive Networking)通信が盛り込まれていることだ。TSNは、従来のイーサネットをベースに時間の同期性を担保した通信規格(IEEE 802.1規格で規定)のこと。5G用の新たな設備や機器は不要で、製造現場の既存のハードウエアを使って、有線・無線LANの機材やIoTデバイスを接続するネットワークが構築できるため、低コストで製造ラインにリアルタイム制御機能が付加できる。工場のスマート化を推進したい企業にとっては、すぐにも実行可能な歓迎すべき機能強化策だ。

この他にも、コアネットワークを経由しないLAN環境が実現できる「5G LAN」や、IoT関連の測位機能「NR Positioning Support」も追加されており、機械制御や安全運転・自動運転支援といった産業分野への応用も大きく進展するはずだ。

完全版5Gともいえるリリース17では何が起きるのか

「5Gの完全版」ともいえるリリース17において、主に産業界で注目されるポイントは次の2点だ。
①製造業や産業制御のネイティブサポート
②市場範囲の拡大

①の「製造業や産業制御のネイティブサポート」では、リリース16で規定された産業IoT関連、およびプライベートネットワーク機能の拡張が引き続き検討される。とりわけ、製造工場のミッションクリティカルな現場において必須となる、URLLC(Ultra-Reliable and Low Latency Communications:超高信頼低遅延)機能が、今後のメンバー会議で、どこまで強化拡充されるのか注目される。

②の「市場範囲の拡大」では、主にIoT端末の用途拡大を目的に、低消費電力で使える低コストなデバイスをサポートするための機能「NR-Light」が盛り込まれる。NR-Lightは、省電力長距離通信規格の「LPWA(Low Power Wide Area-network)」と、超低遅延を実現する「5G URLLC」の中間的なニーズに応える新通信規格。簡易な機構採用により、低コスト化した5G対応のデバイスをつくることを目的としている。

これまでにリリースされた仕様では、IoT端末よりは高機能だがスマートフォンほど高性能でもない端末、例えばウェアラブル端末などの中間のニーズを満たすデバイス向けの規格が手薄であった。そこでミッドレンジ向けに、デバイスの構造をシンプルにし、コストと性能要件を両立させたのがこのNR Lightである。
仕様としては、LPWAよりも広帯域な通信が可能で、画像の送受信もでき、かつ遅延時間も抑えたいといったケースに対応する。製造ラインの作業員がウェアラブル端末を装着し遠隔指示で作業する、といったスマート工場を構築するのにうってつけの通信規格といえる。

スマート工場の高度化で期待が高まるローカル5G

完全版5Gが普及すれば、産業用IoTの機能強化によるスマート工場の一層の高度化が現実のものとなる。超低遅延性が備わることで、IoT機器を駆使する工場での信頼性はますます高まり、その用途は飛躍的に広がるからだ。

例えば、カメラや体温センサー付きのウェアラブル端末を装着した作業員を、センター常駐のベテラン指導員が遠隔指示するような、担い手不足解消型の就労スタイルが開発できる。あるいは、産業用ロボットが収集した?容量・?精細データをリアルタイムに受け取り、ベテラン作業員が複数台のロボットを遠隔制御するといったことも可能になる。また、一般的な工場では現在、有線接続タイプのロボットが多いが、これが5Gで無線接続できるようになれば、設置場所をフレキシブルに変更できるうえ稼働中断時間が大幅に短縮される。ロボットメーカー各社では、すでにこうした実証実験を行い、市場に新製品を投入している企業もある。

今後のローカル5Gの普及と関連技術、周辺機器の成熟によって、製造業のスマート工場は、まだまだ進化する可能性が大きい。工場経営の強靭化のためにも、「5G進化」の最新情報を注視しておきたい。

◎製品名、会社名等は、各社の商標または登録商標です。

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著者 OPTAGE for Business コラム編集部

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