新型コロナ、働き方改革...本社機能の「東京からの移転」は進むのか?

新型コロナ、働き方改革...本社機能の「東京からの移転」は進むのか?
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東京集中に一石を投じた? パソナ本社機能の淡路島移転

連日、新型コロナの話題がマスコミを賑わせていた昨年の秋、驚くようなニュースが飛び込んできました。人材派遣会社の大手、パソナ・グループが本社機能を東京から兵庫県淡路島に移す、と発表したのです。同社によると、2024年5月末までに、役員・従業員の約1,200人が段階的に淡路島に移住するとのこと。

このニュースが驚きをもって受け取られたのは、ひとえに認知度の高い大企業が、東京を離れ本拠地を地方へ移したことの「珍しさ」にあったといえます。パソナの件はそれほど「稀有」な事態だったといえるでしょう。

東京への一極集中に対し、懸念を示す声は以前からありました。それに伴い首都移転も検討されていますが、とても実現化に向けて進んでいるとは思えない状況です。

また省庁の地方移転についても、文化庁の京都移転をはじめいくつか計画されていますが、こちらも思ったほどの進展は見られません。掛け声とは裏腹に、実は「東京集中」は止まるどころか加速しているのではないか...。そう思わせるような状況にあってのパソナの移転のニュースだけに、世間を驚かせたのも当然だったのです。

東京からの移転先が、大阪や名古屋、福岡といった都市圏ではなく、観光地としてのイメージが強い淡路島であることも、驚きを与えたポイントだと考えられます。

東京一極集中をデータで見てみると...

まず地域のパワーを計る指針として、人口を見てみましょう。

総務省が発表した2019年10月1日現在での人口推計では、日本の総人口は約1億2,617万人となっています。一方、東京都の総人口は約1,392万人。つまり日本の総人口の約11%が、東京都で暮らしているのです。

次に、どの程度の企業が東京に集中しているのかを見てみます。

国税庁が発表している2018年度の申告法人数は、全国で約275万法人となっています。このうち、東京都は約58万法人。つまり全国の法人の約21%が東京を本社にしています。人口比では約11%、1/10であったのに対し、法人数では約1/5も占めています。企業の数というデータでは、人口比以上の集中が進んでいると考えられます。

もっと驚愕すべきデータがあります。先の申告法人数は巨大企業から零細企業まで、全ての法人の数ですが、資本金1億円以上の法人だけに限れば、全国では約3万法人であるのに対し、東京都だけで約1.5万法人にも及んでいるのです。大企業では何と半数が、東京を本社としているのがわかります。

単に人口や企業の数だけでなく日本経済に占める影響力を考えても、東京は圧倒的なパワーを持っているのがわかります。こうして東京にはさらに情報や資本が集積し、企業にとっては「東京から出ていく」というメリットが感じられなくなっているわけです。

有力企業でも、少しずつ本社移転を検討する段階に

それでは実際に企業側としては、「東京からの移転」をどう捉えているのでしょうか。

一般社団法人 日本経済団体連合会(経団連)が2020年の8月下旬から10月下旬にかけて、「東京圏からの人の流れの創出に関する緊急アンケート」を実施し、11月に結果を発表しています。これは東京に本社がある経団連幹事会社433社に対し行われたもので、そのうち「本社移転」の問いに対しては128社が回答を寄せています。

「本社機能の移転」の問いについては、「実施中」と答えた企業が5社(回答数の3.9%)、「検討中」あるいは「検討の可能性あり」と答えた企業が24社(回答数の18.8%)と、実施中と合わせると22%を超えました。しかし未回答の企業も合わせた比率では約7%となるため、多いかどうかは判断に悩むところではあります。

ただ、2015年にも同様のアンケートを行っており、これらの数字はいずれも確実に上昇しています。「本社移転」に対する関心が、少しずつ高まっているとはいえるでしょう。

「本社移転」を実施・検討する理由としては、「人の過密の回避等による事業継続」を挙げており、それが今回の新型コロナ禍で一層、顕著になったのかもしれません。アンケート先が「経団連幹事会社」ですので、国内でも有力な企業と考えられますが、有力企業で本社移転が進むと、それが大きな企業トレンドとなる可能性も考えられます。

●経団連による本社移転のアンケート調査結果(2020年11月発表)

移転を検討している企業はまだまだ少数派ですが、徐々に増加の兆しをみせています。

新型コロナの影響によるリモートワークが、東京からの移転の引き金に

それでは話をパソナの移転に戻しましょう。いくつかの疑問があります。最初の疑問は、どうしてパソナは東京からの移転に踏み切ったのかということ。

新聞などの報道によると、同社では新型コロナの影響ですでに3~4割の従業員がリモートワークになっていました。その過程で「リモートワークで支障はないなら、いっそ本社が地方にあっても業務に支障がないのでは?」という議論が進んだそうです。

現在の業務はネットワークの存在がなくては、成り立たなくなっています。多くの企業が社内にイントラネットを構築し、従業員はそれらを介してさまざまな情報をやり取りしています。

そのネットワークさえしっかりと確立していれば、「労働の場」はもはや、「場所」に縛られる必要さえなくなるのです。

「場所」に縛られないとすると、オフィスや本社所在地を選定する際の選択肢は、ぐっと広がるはずです。たとえば、より広い事務所をより低価格で...といった要望にも、東京よりもはるかに簡単に実現できるのです。パソナによれば、オフィス賃料は淡路島の場合、東京の1/10に抑えられるといいます。オフィスの賃料にかかる経費を人件費にまわすことで、よりよい人材を集められるといったメリットも考えられます。

「淡路島への本社移転」の背後に見える、柔軟な働き方の展開

前章で述べたように、パソナはリモートワークをきっかけに淡路島への本社移転に踏み切りました。その反面、非常に興味深い発言があります。同社の南部靖之代表が、「淡路島ではリモートワークはさせない」と語っていることです(日刊工業新聞 2020年11月25日付。以下同様)。その意図として「深みのある人間をつくるには、顔を合わせて仕事をすること、会社でのつながりが大事なので、オフィスで働けるようにする」と語っています。

さらに続けて「勤務先は淡路島であっても島内に住むことにこだわってはいない。交通の便が良く神戸市や大阪市から通勤することも可能だ。週2日は淡路島、残る3日は東京など多拠点勤務も推奨している」と、本社機能の淡路移転と「働き方」というものに対する多様で柔軟な考え方が、ひとつのセットになっていることがわかります。

南部代表の上記の発言は、従業員から淡路島への移住に対する反発が出ることを踏まえた発言だと思われます。東京から移転するにあたっては、当然ながら従業員が反対することも予想されるわけで、それに対して会社としてどのように対応するかも、事前に十分検討しておく必要があるでしょう。

そもそも南部代表が東京からの移転を考え始めたのは、2011年の東日本大震災後からで、それに昨年の新型コロナ禍により「東京一極集中が問題だと改めて認識した。わが社は工場を持たないため、業務の8割が東京に集中している。ここで災害が起これば自滅する」という危機感からの決断だったことがわかります。この危機感が従業員に対して、かなりの説得力を持っていたのではないかと推測されます。

ジャパネットも東京から福岡へ。この動きは続くのか?

これまで「東京への一極集中」が弊害として語られても、その弊害は潜在的なもので、多くの人にとっては極めて実感しづらいものだったと考えられます。むしろ冒頭にも記したように、情報や資本の集積など、一極集中していることに価値を見出している人が多かったのだと思います。それが今回のコロナ禍において、あらためて問題点が顕在化されたといえます。

パソナの移転発表に続き、テレビ通販で有名な「ジャパネットたかた」を傘下に置くジャパネットホールディングスも2021年の9月をめどに、主要機能を東京から福岡市に移転すると発表しました。ご存じのようにジャパネットホールディングスは、もともと長崎県佐世保市に本社があります。従って本社の移転とはいえませんが、「脱東京」という意味ではパソナ・グループに匹敵する動きではないかと思われます。移転の理由はパソナと同様、「コロナ禍が従業員の生活と事業のバランスを見直すきっかけとなった」(同社 高田社長)としています。

ジャパネットは東京から従業員を異動させるとともに、移転先の福岡で新たに現地採用するとしており、受け入れる方の福岡市からも大きく歓迎されています。これらの社会的な動きも踏まえ、これからも大手企業の脱・東京傾向が見られるかもしれません。

このコロナ禍をきっかけに、現在の東京への一極集中やさまざまな企業文化に一石を投じる契機になる可能性があります。この流れに、注目していきましょう。

◎製品名、会社名等は、各社の商標または登録商標です。

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著者 OPTAGE for Business コラム編集部

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