- 公開日:2021年05月26日
ヒトの身体もスマート化!?デジタル・デバイスがもたらす未来とは
この5年ほどで急速に注目を集めるようになった「ウェアラブル」
ここ数年、デジタル・デバイスの世界で重要なキーワードのひとつとなっているものに「ウェアラブル」があります。「ウェアラブル」とは「wear=着る」と「able=できる」から成り、「衣服のように身に着けられる」という意味を表します。もっと極端な言い方をすると、パソコンなどデジタル・デバイスをモノとして持ち歩く(=ポータブル)のではなく、持っていることさえ意識させないデバイスのことだといえるでしょう。
この言葉を一躍"有名"にしたのは、2013年のグーグル・グラスの発売(開発者向け)からではないかと思います。
グーグル・グラスはヘッドマウントディスプレイ(頭部に装着するゴーグル型のディスプレイ)の一種で、眼鏡をウェアラブル端末としたもの。レンズ部をディスプレイとして使い、情報を表示する他、装着者の目線映像の撮影やアプリの実行などができるようにしたものです。入力は音声によって行うため、ハンズフリーで操作できる点も特長となっています。
このグーグル・グラスでもわかる通り、ウェアラブル・デバイスの魅力は、身体にデバイスをまとうことで、両手をふさがれることなく、つまりストレスなく使いこなせる点にあります。その後、ソニーやアップルから腕時計型の、いわゆる「スマート・ウォッチ」、さらには指輪型などが登場することで、大きな市場を形成するに至りました(グラフ参照)。
国内におけるウェアラブル・デバイスの出荷台数は、2015年あたりから
一挙に伸長している。(MM総研)
スマホの普及からはじまる、ウェアラブル・デバイスの基盤整備
ウェアラブル・デバイス(以前はウェアラブル・コンピューティングなどと呼ばれていました)の研究自体は、すでに1980年代から進められていましたが、1990年代にマサチューセッツ工科大のスティーブ・マン氏がコンピューターを入れられるリュックサックと、カメラを装着したヘルメットを開発し研究発表したことから注目を集めるようになりました。
以来、約40年にわたり研究開発が進められてきたのですが、先にも書いた通り、本格的に世間への浸透、普及が進んだのは、ここ5年ほどのことです。技術や機器の普及には、「それで何をするのか」という目的が重要となりますが、ウェアラブル・デバイスにおいてはスマートフォンの普及が、そのベースになっていると考えられます。
スマホは、言うまでもなく携帯電話の進化形です。携帯電話は「どこでも電話を受けられる(かけられる)」という突出した便益となる機能を持っていた上に、1990年代から急速に料金が低下したことから、一挙に普及しました。スマホは、そのような機能性に加え、ネット対応パソコンの一部の機能を取り込んだものです。多くの人がスマホを使うことで、それまで知らなかった新たな"便益"に気づきました。その便益をより快適なレベルで可能にしたのが、ウェアラブル・デバイスだったのです。
スマート・グラスやスマート・ウォッチは、そもそもスマホがあったからこそ、誰もがベネフィットを
理解できたのだといえます。
アップルウォッチがそうであったように、導入期のウェアラブル・デバイスは例えばiPhoneやAndroid携帯と連動して、さらに高度に使いこなすためのツールであったといえます。その役割は現在でも大きく変わることはありません。
しかし近年、スマホやモバイルパソコンがなくともネットワークに接続できる、SIM内蔵型も登場しており、文字通り「ウェアラブル・デバイス」、つまり身に着けた機器単独で働くタイプも登場しています。このような進化の方向性を考えると、これらのデバイスはより直接、身体やヒトの感覚に訴えかける機器になることが考えられます。
例えば眼鏡のレンズやスクリーン状のものを眼で見るのではなく、網膜に直接情報を与える「網膜投影ディスプレイ」。このデバイスの利点は、網膜に直接、映像を投影するため近視や遠視、乱視といった視覚障害に関係なく、クリアな映像を得られる点が挙げられます。またピント位置の影響を受けないため、風景を見ながらメールを読んだり、ARのように現実の光景に仮想の映像を重ねるといった場合でも、両方とも明瞭な映像で楽しめるようになります。
また、スマート・ウォッチの世界でおなじみとなった機能に、ヘルスケアがあります。歩数計、活動量計や消費カロリー計、心拍数や睡眠時間の計測を通し、装着している人の活動量、健康状態をモニターすることで健康管理を行いますが、これと同様の機能を行うシャツも開発されています。シャツの場合、スマート・ウォッチ以上に装着している感覚がなく、ほとんど身に着けていることを意識せず使えることが大きな魅力となります。
眼鏡型、時計型が先行するウェアラブル・デバイスですが、今ではこのように多様なデバイスが開発されています。将来的にはGPSやカメラ、センサーなどを内蔵したウィッグ(かつら)、歩行姿勢をモニターできるインソール、湿布薬のように皮膚に張り付け体調を管理できるセンサーなど、計画されているものも含めれば、枚挙にいとまがありません。
では、デジタル・デバイスを「身に着ける」ことを極端まで進めていくと、いったいどうなるのでしょうか? 答えはひとつ。あなたの「身」そのものが、デジタル・デバイスになることです。
身体に埋め込まれることで、身体そのものがデジタル・デバイスに
「インプランタブル・デバイス」という言葉を、ご存じでしょうか。歯の治療で「インプラント」という方法がありますね。人工の歯を顎骨などに埋め込む療法のことです。その「implant=埋め込む」という単語に、可能を意味する「able」を付けた言葉が、「インプランタブル」です。すなわち「インプランタブル・デバイス」とは、身体に埋め込まれるデジタル・デバイスのことをいいます。
身体に埋め込むというと、スウェーデンのことを思い浮かべる方もいるかもしれません。スウェーデンでは手の親指と人差し指の間に、いわゆるマイクロチップを埋め込み、鍵やクレジットカード、交通チケットなどが利用可能であることが話題となりました。同国では現在ほとんどの支払いを、このマイクロチップを使ったクレジット決済で行っており、お店の端末に手をかざすだけで支払い手続きが行える点が好まれ、多くの人が利用しています。
このような状況が進めば、買い物や飲食がキャッシュレスで楽しめるだけでなく、公的な書類の発行や認証(住民票や登記簿として)、病院での受診(健康保険として)、自動車や船舶などの運転(運転免許証として)も、完全な"手ぶら"で行えるようになります。
また、マイクロチップがその人の身体の状態を、ビッグデータとして逐一報告することで、現在の新型コロナのような感染症の対策も取りやすくなるかもしれません。
人の身体とデバイスの境界があいまいになり、新しい歴史がはじまる
埋め込み型マイクロチップ以外に、インプランタブル・デバイスとして挙げられるものに、スマートコンタクトレンズがあります。コンタクトレンズをディスプレイとして各種情報を投影するのはもちろん、目に映る現実の光景に仮想の映像情報を重ね、AR(拡張現実)を体験させるなど、幅広い活用が考えられています。
また、医療分野では錠剤状のものも開発されています。例えばカメラやセンサーなどを搭載した超小型のデバイスを、錠剤のように飲み込むことで、内臓の様子などをチェックし、健康状態を調べるデバイスなどがすでに存在しています。受診者にとっては胃カメラや大腸カメラに比べ、負担減になることが期待されます。
このように人の身体が超小型化されたデジタル・デバイスを取り込むことで、今まで不可能だったこと、実現するためにはとてつもない労力を要していたものが、わずかな手間で可能となります。それは、今まで私たちが体験してきたものとは、全く異なった様相になると考えられます。まるでSF小説のような世界ですね。
私たちの身体そのものがデバイスとなる世界...ちょっと怖いと思う方も多いかもしれません。あるいは、ヒトが機械(デジタル・デバイス)に乗っ取られる気がするかもしれませんね。
しかし重要なのは、デバイスが私たちの暮らしを、どんなに便利にさせるかということです。令和時代に生きる私たちは、それをリアルタイムに見届けられることを、素直に喜ぶべきなのかもしれません。
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