注目のITトレンド「トータル・エクスペリエンス」とは?

注目のITトレンド「トータル・エクスペリエンス」とは?
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最新の戦略的テクノロジ「TX」を考察する

Gartner(ガートナー)が発表した「2021年戦略的テクノロジのトップ・トレンド」には9つのトレンドが提示されている。この中のひとつ、「トータル・エクスペリエンス(Total Experience:TX)」に今回は注目してみたい。

Gartnerの2021年の戦略的 テクノロジの トップ・トレンドレポートを読み解いてTXのポイントを理解し、企業がDX推進に役立てるために取り組むべき方策は何かを考察する。

ニューノーマル社会でも「人が中心」であることは普遍

Gartnerは、「2021年戦略的テクノロジのトップ・トレンド」において、"People Centricity (人中心) "  "ロケーションの独立性" "レジリエンスの高いデリバリー"の3テーマを提示している。注目を集める「トータル・エクスペリエンス(TX)」は、「People Centricity」に分類されたトレンドである。

(図1)2021年の戦略的テクノロジのトップ・トレンド

出典:Gartner, 2021年の戦略的テクノロジのトップ・トレンド, Brian Burke, 2021年4月23日

「People Centricity」には、以下の説明がなされている。
"パンデミックによって多くの人々の働き方や組織との関わり方が変化しましたが、人がビジネスの中心であることは変わりません。今日の環境で業務を遂行するには、デジタル化されたプロセスが必要です。" 
なお、それ以外の3つのトレンドについては、筆者の見解を下記に補足する。

<※筆者注記>
● サイバーセキュリティ・メッシュ
ゼロトラストネットワークを拡張させた概念で、分散クラウド環境において、多様なデバイスからシームレスで安全な情報アクセスを可能にする技術。

● インテリジェント・コンポーザブル・ビジネス
DXを迅速に推進するためには、ビジネスにおける意思決定プロセスで、迅速な情報収集や柔軟な適応力が重要とする考え方。

● ハイパー・オートメーション
RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やAI、機械学習などを組み合わせることで、企業内の複数業務を横断的に自動化すること。

CX、UX、EX、MXを結び付け「体験価値」を向上させるのがTX

Gartnerによると、「トータル・エクスペリエンス(TX)」とは、"マルチ・エクスペリエンス (MX)、カスタマー・エクスペリエンス (CX)、従業員エクスペリエンス (EX)、ユーザー・エクスペリエンス (UX)を組み合わせて、ビジネスの成果を変革します。その目的は、テクノロジから従業員、顧客、ユーザーに至るまで、これらすべての要素が交差するエクスペリエンス全体を向上させることです。"とある。

ここでキーワードとなっている「エクスペリエンス」とはマーケティング用語で、単なる「体験」にとどまらない広義な意味が包含されている。消費者は、単にモノを買うことだけが目的ではなく、そこにまつわるさまざまな感情体験(驚き、喜び、感動、満足、達成等)もひっくるめて、購買行動における総合的な「価値」を求めている――といった意味合いである。
4つのエクスペリエンス(CX、UX、EX、MX)の内容は次の通りだ。

◆CX(顧客体験)
消費者が商品(あるいはサービス)を買いたいと思い立って、自分なりに情報を集め吟味し、お気に入りのブランドを発見・認知してから購入・使用し、アフターサポートを受けるまでの全プロセスにおける体験とそこから得られる価値を意味している。言い換えれば、購買行動によって顧客が意識的・無意識的に得る、総合的な印象・満足度といった「体験価値」と言える。

◆UX(ユーザー体験)
CXは、商品購買から使用までの一連のプロセスをとりまく総合的な経験を対象としており、UXは主に購入後の使用体験を領域としている。したがって、UXはCXの一部と解釈できる。

◆EX(従業員体験)
社員が自社商品やサービスを顧客に紹介し、気に入ってもらえるように努力する全ての取り組み体験を意味している。その過程で顧客とのコミュニケーションが促進され、好感度や満足度が高まれば、従業員は達成感を感じ、さらに企業につくそうという愛社精神や思い入れが高まる好循環が生まれる。

◆MX(マルチ・エクスペリエンス)
AI会話プラットフォームやVR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)といったICT技術によって、CXやUX、EXにおける現実の体験が多様化し向上すること。

TXとは何か?を知るにはまず、MX型ビジネスの実例を見てみるのがわかりやすい。

宅配ピザのネット注文や位置情報ゲームはMX型ビジネスの典型

MXを駆使したビジネスモデルは、すでに国内外の企業で積極的に実践されている。
ワールドワイドな成功例としては、宅配ピザ大手ドミノ・ピザの「Pizza Tracker」が有名だ。最寄りの店舗にインターネットでピザを注文すると、調理台から玄関に到着するまでの注文処理状況を、スマートフォン等のデバイスで追跡できるサービスである。

決済完了後に画面が切り替わり、「注文」→「トッピング」→「焼き中」→「焼き上がり」→「配達中」という具合にステータスがどんどん進んでいき、配達中になるとGPS機能で配達員の居場所がリアルタイムで表示される。このサービス以前にも同社では、GPS機能で花見会場等に焼き立てピザを宅配する驚きのサービスを開発しており、ICT技術をうまく活用すれば、同業他社とは一味違う付加価値が生まれることを実証している。

宅配ピザは、どのブランドを選んでも大して味は変わらない。しかし、注文から到着までの一連の流れに「体験価値」を付加することで、消費者は同社のピザを好んで選ぶようになった。それまでの常識であった電話注文からデジタル注文に転換し、なおかつそこへMXの面白さを付け加えることで、同業他社との差別化を見事に実現。MX型ビジネスの代表的な成功事例といえる。

一方、日本でもMX型ビジネスは一世を風靡している。スマートフォンのGPS機能とAR機能を組み合わせた「位置情報ゲーム」、いわゆる「位置ゲー」がその代表だ。中でも2016年にリリースされ、世界中で爆発的ブームとなった「Pokemon GO」は、初年度だけで1,000億円余りを稼ぐビッグビジネスとなった。ブームは衰えを知らず、「ドラゴンクエストウォーク」といった強力なライバルも登場し、一大マーケットを築いている。

これらも、「歩く」という体験にICT技術を組み合わせることでまったく新しい「価値」を与えることに成功した、MX型ビジネスの代表例と言える。例えるなら、食べ飽きている白米もふりかけなどのトッピングを工夫すると、途端に美味しく感じることに似ている。MXという調味料をうまく使いこなせば、見慣れた商品やサービスがヒット商品に生まれ変わるということだ。

顧客と従業員の間をMXで効果的に結ぶのがTXの目的

Gartnerが提唱する「トータル・エクスペリエンス(TX)」は、このMXをさらに一歩進めた概念であると言える。その具体例として、ある大手通信会社の「トータル・エクスペリエンスの実施」を例示している。

出典:Gartner, 2021年の戦略的 テクノロジの トップ・トレンド, Brian Burke, 2021年4月23日

これを筆者にて読み解くと、顧客(ユーザーを含む)、従業員といったステークホルダーの体験の場において、先進的なICT技術によるMXを効果的に組み合わせることで、それに伴う満足感を最大化しようという戦略と読み取れる。
満足度の高い体験をすることで、顧客(ユーザー)と従業員はその企業が提供する商品やブランドに対する好感度を高め、一層の愛着心を持つようになる。その結果、企業の競争力は高まり、競合他社より抜きん出た存在になる。これが、Gartnerが提唱するTX推進による効果と考える。
顧客体験と従業員体験を、スマートフォンやIoT機器を活用したMXで結び、全ての体験フェーズの満足度を最大限に高めようという仕組みである。ITデバイスを顧客、従業員の両者が活用すれば、非接触型対応が望まれるニューノーマル社会においても、満足度の高いサービスの提供が可能になるわけだ。

ニューノーマル社会の課題をTXで克服し新たな市場を開拓

こうして見ると、コロナ禍を経て国内外のビジネス環境が、大きく様変わりしていることにあらためて気付かされる。3密が伴う街中の小売店や飲食店は衰退して空き店舗が増え、代わりに栄えているのがネット販売である。

昨今では、商品の画像を多彩な方向から見せることはもちろん、自画像を登録して服やメガネを試着できるサービスもある。店頭で実物を見ることができない不便さをMXで補っているわけだ。
GartnerがTXを提言しているのは、まさにこうした現状を見据えてのことであろうと考える。

まとめてみるとTXのポイントとは、ニューノーマル社会の課題を前向きにとらえ、企業成長のチャンスとして、ICT技術を最大限活用して克服していこう――という提言と読み取ることもできる。
あらためて見つめ直せば、新たなビジネスモデル開発に使えるICT技術は、まだ多数潜在しているということでもある。料理における調味料と同じで、アイデア次第でまだいくらでも絶品グルメを生み出せる可能性が残されているのだ。

例えば、2019年に登場したコールセンター業務にMR(複合現実)を活用する「コールセンター・バーチャライゼーション」は、テレワークが急浮上した昨今、改めて見直されるべき技術であろう。コールセンターのオペレーターが顧客からの問い合わせに対し、3Dで完全に再現された製品を確認しながら回答できるシステムで、オペレーターはコールセンターに出社する必要がない。これも、まさにニューノーマル社会に適合するTX型ビジネスといえる。

コロナ禍以後、広がっている新しい生活様式「ニューノーマル社会」においては、非接触型でありながら現実体験以上の感動や満足感が得られる高付加価値なサービスが求められている。そうした特別なサービスを提供できる企業だけが顧客ロイヤルティを高め、ニューノーマル社会に勝ち残っていくといわれている。
これからの時代に適合した持続的成長企業となるためにも、ICT技術に習熟し、TX型ビジネスの開発に積極的に取り組んでいきたいものだ。

出典:Gartner, 2021年の戦略的 テクノロジの トップ・トレンド, Brian Burke, 2021年4月23日

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著者 OPTAGE for Business コラム編集部

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