新しいようで実は古い、「仮想触覚=ハプティクス」。その最新技術を追う

新しいようで実は古い、「仮想触覚=ハプティクス」。その最新技術を追う
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映画やテレビも、かつては最先端の「仮想現実」技術だった!?

近年のデジタル技術の進化には、目を見張るものがあります。中でも、とりわけ目覚ましい躍進を遂げたもののひとつがVR、つまり「仮想現実」の世界ではないでしょうか。仮想現実をひとことでいえば、デジタル技術を使うことで実際には存在していない感覚を感じさせ、仮想の世界を現実の空間のように思わせることです。

人間の感覚はかつて5つあるといわれ「五感」と呼ばれていました。つまり「視覚」「聴覚」「嗅覚」「触覚」「味覚」の5つです。余談ですが、現在、感覚は6つ以上あるとされ、20以上にも分類できるという説もあります。

「視覚」「聴覚」での仮想現実ということを考えると、実は映画やテレビ、オーディオなどは極めて原始的なVR技術だったといえるかもしれません。

19世紀の末、フランスのリュミエール兄弟が映画を発明しました。ある時、機関車が駅に到着する様子をスクリーンに映写した際、多くの観客が「機関車にひかれる」と逃げ出したというエピソードがありますが、19世紀の人々にとって映画は、当時の最先端のVR技術だったといえるかもしれません。

※機関車の映画を見て人々が逃げたというエピソードについては、映画創成期の都市伝説だという意見もあります。

研究開発が進む「触覚」による仮想現実技術、「ハプティクス」

映画の誕生から120年余。映像も音響も研究が重ねられ、映像は高画質化を経て3D映像へ、音響は高音質化を経てサラウンド(立体音響)へと進化し、仮想現実空間を創出する重要な要素となっています。

このように「視覚」「聴覚」はヒトが外界を知覚するための重要な感覚であるためか、かなり早くの時代から研究が進んできました。そして「触覚」についても、実際には触れてもいないのに触れているように感じさせる技術「ハプティクス」、つまり「仮想触覚技術」の開発が進んでいます。実は身近なところでかなり活用されており、私たちの暮らしに大きな影響を与えるようになってきているのです。

たとえばスマートフォンでは、画面上のボタンをタップした際に、実際はボタンなど存在しないのに、ボタンを押し込んだように感じることがあります。3D Touchと呼ばれる技術ですが、これもハプティクスによるものです。

それ以上に、ハプティクスを最も実感できるツールとしては、ゲーム機のコントローラーやジョイスティック、ハンドルが挙げられます。テニスゲームやゴルフゲームでスティックを振った際にスティックが振動し、実際にボールを打ったような感触を得た経験はないでしょうか。それらもハプティクスによるものです。

ゲームセンター等では以前から存在したハプティクス

実は、ゲーム機におけるハプティクスへの取り組みは、1970年代から行われています。ゲームセンターでよく見るレースゲームのひとつで、1976年にセガが展開したバイクゲーム「Moto-Cross」では、別のバイクと衝突や接触をすると、ハンドルが振動し衝突感(?)が体感できるようになっており、人気を集めました。

このような、スティックやコントローラーに振動を与える方法以外に、有名テーマパークのアトラクションなどでよく見られるように、観客の身体に空気を吹きかけることで、あたかも触られたような感覚を与えるなど、50年近く前から体感を疑似的に再現する試みがなされていました。

そういう意味においては、ハプティクスは決して新しい技術ではありません。実は、ずいぶん昔から、もっといえば人類が「見世物」というものを作り上げた時から、ずっと追求されてきたものかもしれません。それが最近の高度なデジタル技術で、より効果的に、より劇的に再現できるようになったといえるでしょう。

映像、音響の代表的メーカーであるソニーでは、先進的なハプティクス技術にも取り組んでおり、床に敷かれたデバイスで映像やサウンドに合わせユーザーに振動を与える「Haptic Floor」や、映画の観客に振動デバイスを搭載したベストを着用してもらい、シーンに合わせてデバイスを振るわせることで、リアルな触覚をもたらす「Haptic Vest」などを、イベントやアトラクションなどで展開して話題を集めました。2018年公開の映画『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』では8日間だけの限定でしたが、Haptic Vestを使った上映が実施されています。

"リモート"が求められる時代に、5Gとの相乗効果で新しい可能性が

ここまでお読みになると、「ハプティクスって、つまりはゲームとかエンタテインメントのための技術なのか」とお思いになるかもしれません。しかし、決してそれだけに収まるものではないのです。ハプティクスが非常に注目を集めるようになったのは、5G、つまり「第5世代移動通信システム」が導入されたことが一因ともいえます。それはなぜか、一例をあげてご説明しましょう。

以前の当コラムでもご紹介したように、5Gの超高速通信・超低遅延という特長から、都市部の大病院と地方の病院を結び遠隔手術・治療を行うなどの可能性に触れました。ここにハプティクスが加われば、患者の身体を触る感覚を、離れた場所にいる医師に仮想触覚として感知させることが可能となり、遠隔手術や治療がより高精度にできるようになります。

また医療だけでなく、さまざまな分野での活用が考えられています。たとえば従来は高所や狭所、高温多湿など劣悪な環境下で行っていた危険な作業を、ハプティクスによる高精度な遠隔作業に切り替えることで、作業員は離れた場所から、安全かつスムーズに行えるようになります。

それ以上に、ハプティクスが大きな関心を持たれている理由があります。新型コロナの感染拡大によって、ビジネスの在り方が3密回避、非接触型へと加速しているからです。ハプティクスによる「仮想接触」技術は、このようなニューノーマル時代に新しい回答を導き出してくれるかもしれません。

触覚を刺激する新しい方法も続々。もはや「仮想」ではなく新しい知覚か?

ゲーム機のスティックやコントローラー、あるいは身体に装着するベストなど、現在、実用化が進んでいるハプティクスは、振動デバイスによる触覚再現を図ったものが基本となります。つまりデバイスの振動を身体に伝えることが主流となっているのです。反対にいえば、何らかの作用で身体に振動を伝えることができれば、スティックやベストなど具体的なモノに触れていなくても、効果が与えられるはずです。

そういった観点から現在、注目されているのが「超音波ハプティクス技術」です。赤外線などを使ったモーションセンサーで、手などの位置をサーチし、超音波を当てることで触感を創り出すシステムです。

この超音波ハプティクスがあれば、スティックやベストといったデバイスなしで触覚を刺激でき、実際に何かを触っているような気にさせることができます。「空中ハプティクス」ともいわれ、究極の仮想現実を実現できるかもしれません。

いや、「究極の仮想現実」と書きましたが、これは2020年代以降に私たち人類が獲得した、新しいもうひとつの「知覚」手段なのかもしれません。人類はリモートでも触れる、あるいは触れ合うことができるという、知覚レベルがこれまでにない局面に突入したといえるのではないでしょうか。そしてこの新しい知覚によって、私たちはポストコロナ、ニューノーマルの時代を生き抜く、大きな武器を手にしたのかもしれません。

デジタル技術によって、人間はどこまで知覚の手段を増やせるのでしょうか。未来がますます、楽しみになってきましたね。

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著者 OPTAGE for Business コラム編集部

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