「Wi-Fi 6」でビジネスシーンはどう変化する?次世代Wi-Fiの使いこなし術

「Wi-Fi 6」でビジネスシーンはどう変化する?次世代Wi-Fiの使いこなし術
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生活インフラの一部となった「Wi-Fi」

今年に入って、「Wi-Fi 6」環境が急速に普及している。企業ICT担当者の間でも、ビジネスシーンでWi-Fi 6がどこまで使えるのか、導入するならいつが適正なのかを見極めようと、情報集めに取り組んでいる人は少なくない。
そこで今回は、Wi-Fi 6をビジネスで活用するためのお役立ち情報を特集した。

まず、そもそもWi-Fiとは何かをおさらいしておきたい。
PC等の端末をインターネット環境につなぐには、ルータが必要となる。そのルータと端末をつなぐには、有線と無線の2つの方法があるが、Wi-Fiとは無線LAN接続の1種である。

(図1:Wi-Fiの役割)

Wi-Fi登場以前、ルータと端末機器をつなぐには、有線ケーブルで接続するしか方法がなく、少し離れた場所にある端末に延長ケーブルを引くのは面倒な作業だった。それがWi-Fiの登場により、ケーブル不要で電波範囲内なら設置場所も自由、離れた場所のプリンターさえ無線で出力ができるようになった。ベテランの情シス担当者なら、Wi-Fi導入でケーブルから解放された時の感激はよく憶えているのではないだろうか。

その後、スマートフォンやタブレット端末が爆発的に普及するに及んで、オフィスはもちろん一般家庭でも、インターネット接続にはWi-Fiルータがスタンダードな時代となっていった。今や街中の公共施設やカフェなど人が集まる場所では、誰もが無料で利用できるフリーWi-Fiも普及し、我々の暮らしは無線通信抜きには語れない環境となっている。

「Wi-Fi 6」は最新のWi-Fi規格、コロナ禍が普及を後押ししている

Wi-Fiの通信規格はIEEE(米国電気電子学会)という団体が決めており、例えば「Wi-Fi 6」にも正式には「IEEE 802.11ax」という規格名がある。しかし、このような名称では、一般人には覚えにくい。そこで、アメリカにある無線LANの普及促進団体「Wi-Fi Alliance(ワイファイ アライアンス)」が、「Wi-Fi」という愛称をつくり、世界中に広めた。結果、今やWi-Fiと言えば日本でも、日常会話レベルで使われるほど広く認知されている。

話題のWi-Fi 6は、IEEEが2019年に発表した最新の規格で第6世代に当たることから「Wi-Fi 6」とネーミングされた。このように、世代番号で呼び始めたのは2009年に発表されたWi-Fi 4からで、その後、2013年にWi-Fi 5が登場した。現在、最も普及している世代はWi-Fi 5だが、Wi-Fiルータは一度購入すれば壊れるまで使い続けるユーザーが多く、一般家庭ではいまだにWi-Fi 4タイプのルータを使っているケースも少なくない。

(図2:Wi-Fi規格策定の歴史)

一般的に次世代のWi-Fi技術は、広く社会全般に普及するのに数年はかかると言われてきた。新規格に対応するルータや端末機器が製品化され、こなれた価格で量産されるまで、それくらいの時間がかかるからだ。2019年に発表された次世代規格のWi-Fi 6も、普及するには数年かかるだろうと目されていた。
ところが、実際には発表の年からルータメーカー各社が企業向けのハイエンド製品を市場に投入し始め、2020年に入るとエントリーモデルのWi-Fi 6対応ルータが登場。2021年には一般家庭向けの製品が続々登場し、PCやスマートフォンなどの端末でも対応製品が発売され、Wi-Fi 6は俄然注目を集めることになった。

これに拍車をかけたのが、折からのコロナ禍であった。2020年4月の緊急事態宣言により、自宅でテレワークをするビジネスマンが急増したため、ノートPCや通信機器などのIT製品特需が発生。にわかにWi-Fi 6対応のルータが一般家庭に普及することになったのだ。
実際、通信機器メーカーのバッファローの調査(2021年6月)によると、市場におけるWi-Fi 6対応ルータの普及率は緊急事態宣言以後急伸しており、2021年4月時点で32%に達している。この伸びは衰えることなく続いており、「2021年末には50%に達する見込み」という。自宅でテレワーク環境を強化あるいは新設する就労者が急増し、通信環境を整えるのなら、先を見越してWi-Fi 6を選ぶ人が多いことがその背景にあるようだ。
このように、市場の流れはすでに、Wi-Fi 6に集約されつつあると見て間違いない。オフィスや事業所でPC端末や通信機器の更新あるいは新規導入の予定があるのなら、コスト的に若干割高になっても、Wi-Fi 6対応製品を視野に入れておくべきだろう。

Wi-Fi 6のメリット、Wi-Fi 5とどこが違うのか

無線LANの主役がWi-Fi 6の時代に移ったことはわかるが、今使っているWi-Fi 5と何が違うのか? Wi-Fi 6に更新すれば、ビジネスシーンがどのように変化するのだろう――。ここからは、ビジネスでWi-Fi 6を活用すると、どのようなメリットがあるのかを見ていくことにする。

Wi-Fi 6を導入することで得られるメリットは、主に次の3点である。

①通信速度の向上

Wi-Fi 6の強みとして1つ目に上げられるのが、通信速度の向上である。Wi-Fi 5の最大通信速度は6.9Gbpsであったが、これがWi-Fi 6では約1.4倍の9.6Gbpsに高速化する。理論値では1.4倍に過ぎないが、実装された新たな通信技術との相乗効果によって、実際に端末でやりとりする実行速度は4倍~10倍になると言われている。
ビジネスユーザーにとって、この速度向上は大きな恩恵となる。コロナ禍以後に急増しているWeb会議が停滞なくスムーズに進められるし、アプリやセキュリティ対策のための更新ファイルをダウンロードするのもスピードアップできる。日常的な業務は、目に見えて効率化するはずだ。

②多数同時接続時の混雑に強い

2つ目のメリットは、多数同時接続時に生じていた通信の不安定が解消されることだ。
オフィスや事業所でWi-Fiを使っていると、通信速度が遅い、つながりにくいと感じることがよくある。例えばオフィスの場合、Windows Updateを複数端末で同時に実行すると、いつまで待っても終わらずPCが使えない、といった経験をしたことがあるのではないだろうか。
これは、Wi-Fi親機に同時につながっている端末子機が多い時に起きる混雑現象である。従来規格のWi-Fi 5では、複数端末が同時接続した場合、1端末ずつ順番に通信の割り当てを行うため順番待ちが生じていた。大きなデータをダウンロードする端末がアクセス中だと、それだけで順番待ちが起きてしまうのだ。

この問題を解消するためにWi-Fi 6では、「OFDMA(直交周波数分割多元接続)」という通信帯域を分割する技術が実装され、1つのアクセスポイントに複数の端末が同時接続したときでも安定した通信が可能になった。
また、端末に向けて集中的に電波を送るビームフォーミング技術の進化により、Wi-Fi 5ではアップリンク時(上り)1台ずつ、ダウンリンク時(下り)最大3台同時接続だった規格が、Wi-Fi 6では、アップ・ダウンリンク時ともに最大8台の同時接続が可能になった。これらの技術の相乗効果で、多数の端末がつながっている混雑時でも、快適に通信ができる環境が維持されるわけだ。

こうした新技術によって、大規模オフィスや事業所、工場等、人数の多い高密度環境においてWi-Fi 6は大きな効果を発揮する。スマート工場のようなIoT等の複数端末同時接続環境下でも、安定したストレスのない通信状態が維持され、ミッションクリティカルなシーンでも利用しやすくなる。従業員が在席する朝夕など、アクセスが集中する時間帯でも、快適な通信環境が維持され、ストレスから解放される。

また、複数同時接続に強いWi-Fi 6は、販促面でも活用できる。
例えば、集客施設や店舗にフリーWi-Fi環境を整備することで、集客力強化や顧客満足度の向上が図れる。来訪者が店舗のFacebookページにチェックインすることでWi-Fiが利用できる仕組みを構築すれば、アクセスと同時に来訪者のタイムラインに店舗の名前が表示され、来訪者の友達にも店舗をPRできる。このように、ちょっとしたアイデアを組み合わせることで、混雑に強いWi-Fi 6はビジネスの強い味方にもなり得る。

(図3:Wi-Fi 5とWi-Fi 6の通信技術の違い)

③省エネ機能で端末バッテリーが長持ち

3つ目のメリットは、省エネ性だ。
テレワークが常態化すると、ノートPCやタブレット端末、スマートフォン等の端末を持ち歩き、Wi-Fi接続で仕事をするシーンが増えるものだが、その際に気になるのがバッテリーの持ちである。Wi-Fi 6は、そんなテレワーカーにもメリットとなる、バッテリー消費を抑える省エネ技術「TWT(ターゲット・ウェイク・タイム)」を実装している。
TWTとは、Wi-Fi親機と端末の通信を制御することで、信号の待ち受けを必要としない端末の通信機能をスリープ状態にする技術。これにより無駄な消費電力を抑え、バッテリーを長持ちさせることができる。

Wi-Fi 6はセキュリティ面も向上する

テレワークとクラウド利用が常態化した昨今、Wi-Fi通信は、不正アクセスの標的にされやすい弱みを抱えている。IEEEでもそういった課題をクリアするために、Wi-Fi 6ではセキュリティ機能を「WPA3」へと向上させた。新たなセキュリティ規格「WPA3」は、普及しているWPAやWPA2の後継となる規格で、従来のWPA2よりも強固なセキュリティを実現している。

WPA2には、通信に割り込んでくる中間者攻撃によって、暗号化された通信の盗聴や改ざんが行なわれてしまう深刻な脆弱性が存在していたが、WPA3ではこの脆弱性を解消している。
また誤ったパスワードによるログイン試行が一定回数続くと、無線LAN接続のログイン認証ができなくなる機能も追加されている。こうした機能はネットバンキングなどで不正ログイン対策としておなじみだが、これにより新規格では、Wi-Fiを乗っ取る攻撃者がよく使うパスワード破りの手口、辞書攻撃や総当たり攻撃からの防護を実現している。

さらに、これまでのWPAと同様、個人向けの暗号化システムとは別に、企業向けの暗号化システムが実装されている。WPA3では、米国NSA(国家安全保障局)も採用している192ビット暗号化アルゴリズムが使われており、WPA2よりも強度の高い暗号化を実現する。

もちろん、セキュリティが強固になったとはいえ、攻撃側の技術は進化しており、WPA3でも100%安全とは言い切れない。実際、すでにWPA3にも脆弱性が発見されているのだが、少なくとも現状では、Wi-Fi 5の時よりもセキュリティ機能が強固になるのは事実である。

Wi-Fi 6普及のネックはコストだが、Wi-Fi親機はWi-Fi 6対応を選ぶべき

このように、Wi-Fi 5とWi-Fi 6の性能を比べて見れば、Wi-Fi 6の選択を躊躇する理由はない。問題は、投資コストである。
屋内の無線通信がWi-Fi 6規格であっても、端末が対応機器でないと、前述した種々のメリットは享受できない。IEEEの通信規格は下位互換性があるので、Wi-Fi 6対応のルータでも、Wi-Fi 5や4タイプの端末で問題なく通信はできるが、Wi-Fi 6本来のスピードや安定性の恩恵は対応端末でないと受けられない。
企業資産であるPCを始めとする端末機器は、更新時期が来るまでは簡単に買い換えができないし、Wi-Fi 6対応の端末はいまだ割高な製品が多く、企業で多数の従業員に割り当てるには、予算的に厳しいものがある。そういった現実的な問題があるので、中小企業レベルにまでWi-Fi 6環境が普及するのは、まだ少し時間がかかるであろう。

しかし、オフィスや事業所内にWi-Fiルータを新設あるいは更新するのであれば、Wi-Fi 6対応の機種を迷わず選んでおくべきだ。ルータは一度設置すれば、壊れるまで10年くらいは普通に使い続けられるので、その間にPC端末や周辺機器のWi-Fi 6対応も進んでいくだろう。IT製品はエントリーモデルが量産され始めると、価格がこなれるのは早いので、まずはルータだけでも更新しておき、端末は価格睨みでじっくり腰を据えて購入していくのが賢い選択だ。

Wi-Fi 6と話題の5Gはどこが違う?どちらを選ぶべき?

ここまで読み進めてきた読者諸氏の中には、「5G対応のWi-Fiルータが普及すれば、Wi-Fi 6はいらなくなるのでは?」と考えている方もおられるのではないだろうか。

たしかに、5G対応ルータは2020年に登場して以来、後続する製品が次々に登場しており、実質的に使い放題に等しいデータ容量のサービスキャンペーンが、通信キャリア各社で行われている。

Wi-Fiルータには、光などの固定回線用と「モバイルWi-Fi」などと呼ばれる無線回線用の2種があるが、一般的にはデータ通信容量の制限がなくコストパフォーマンスに優れる固定回線を選ぶユーザーが多い。5GはモバイルWi-Fiであり、使い放題のコースを選んでも、将来的にはなんらかのデータ通信量の上限設定や速度制限があると予想される。となれば、コスト面では、やはり固定回線が優位性を保つだろう。また、5Gは通信エリアがいまだ大都市圏だけで、全国に普及するにはまだ相当の時間がかかる。

このように、Wi-Fi 6と5Gはいまだ普及途上で、両者ともに技術や使われ方がどのように進展していくのか未知数の部分が多い。ローミング技術の進歩で、屋内ではWi-Fi 6を活用し、屋外へ移動すれば5Gに通信を切り替えるといったことが、ユーザーに意識されることなくスムーズに行える時期が来るのもそう遠くはないだろう。それまでは、両者の技術動向を注視しながら、適材適所で使い分ける時代が続くはずだ。
そのあたりの話題「5GとWi-Fi 6の使い分け」の特集は、いずれまたこのコラムで取り上げていきたい。

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著者 OPTAGE for Business コラム編集部

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