新手法続々、「食品ロス対策」って、実は “おいしい”!

新手法続々、「食品ロス対策」って、実は “おいしい”!
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有名ブランドのドリンクが、たった10円!?その背景にあるものは・・・

「10円自動販売機」をご存じでしょうか。数年前から話題となり、テレビで取材され何度か放送されました。大阪市福島区にある自販機でメーカーや銘柄こそ選べないものの、わずか10円で有名ブランドのペットボトルや缶のドリンクが買えるという驚きの自販機です。この自販機の前には、いつも行列ができるそうです。

なぜ10円で売れるのか?
この自販機の設置者は当地にある食品卸会社です。同社では、賞味期限が1~2カ月後に近づいた在庫飲料を、10円という特価で販売しているわけです。

賞味期限の切れた食品は食品としての価値がありません。そのまま置いておくわけにもいかず、処分するのにもコストが必要です。処分に費用をかけるより、赤字でもいいから10円で販売した方がいい・・・卸会社の代表が、テレビでそう語っているシーンを覚えています。

「捨てるよりも、価格を下げて提供する」卸会社の取り組みこそ、現在、問題とされている「食品ロス」解決へのひとつの道標となった事例だといえるでしょう。

食品ロス対策に対するイメージが、変わりつつある

「食品ロス」とはご存じの通り、大量生産の反動として大量に売れ残った食品・食材が、まだ食べられるのに廃棄されることを問題としたものです。たとえば数年前、節分の際に売れ残った大量の巻き寿司が廃棄されるシーンがテレビで流されました。あの光景は、私たちに食品ロスに対する強いインパクトを与えました。また、今年開催された東京オリンピック・パラリンピックでも、大量の弁当が廃棄されたと報道されました。
このようなニュースを耳にするたびに、多くの人々は心を痛めてきたのです。

そんな食品ロスを、データとして見ていきましょう。

日本における食品ロスの発生量推移(環境省 2021年4月27日発表)

(※)食品廃棄物から、まだ食べられるものだけを抽出した数値。

上のグラフは2012年度(平成24年度)から2018年度(平成30年度)までの食品ロス発生量の推移を表したものです。
2016年度(平成28年度)までは一進一退だったものが、2017年度(平成29年度)から、減少しています。「食品ロス」あるいは「フードロス」という言葉はかなり以前からありましたが、一般に浸透しはじめたのが、ちょうどこの頃からだと考えられます。

消費者庁が2020年(令和2年)4月に発表した「食品ロスの認知度と取組状況等に関する調査」によると、食品ロスについての認知度は、2018年度(平成30年度)が74.5%だったのに対し、2019年度(令和元年度)が80.2%、2020年度(令和2年度)は79.5%となっています。2019年度より2020年度の方が少ないですが、アンケート集計上のブレと考えられますので、認知度はほぼ80%といって問題ないでしょう。

また「食品ロス削減に取り組んでいるか」という問いに対して、「取り組んでいる」と答えた企業は、2018年度(平成30年度)が71.0%、2019年度(令和元年度)が76.5%、2020年度(令和2年度)が76.6%と、こちらも上昇しています。
認知度、食品ロス対策への取り組み方を見れば、2018~2019年がひとつのエポックになっていることがわかります。実際、2019年に政府は「食品ロスの削減の推進に関する法律」つまり「食品ロス削減推進法」を定めることで、多くの方面に対し食品ロス対策についての協力を要請しています。

上記調査結果で他に注目すべき点は、食品ロス認知度と「削減に取り組んでいる」と回答した人の割合に、それほど大きな差がないことです。さまざまな調査結果を見ると、認知と実践の間に大きな差異があることは珍しくありません。しかし食品ロスに関しては非常に近い数値であり、認知した以上、取り組む必要があると思わせるものがあったのです。

その理由としては、近年の環境意識の高まりにあると思われます。特に2015年の国連総会で『持続可能な開発のための2030アジェンダ』に記載された国際目標、いわゆる『SDGs』が採択されて以来、政府や関係機関だけでなく、企業も積極的に取り組む姿勢を見せるなど、社会全体に「ロス撲滅」の空気感が醸成されてきたことが挙げられるでしょう。

このような社会的変化に加え、「食べ物を捨てる」ことへの"もったいない"という感情、何となく感じられる"罪悪感"など、昔から私たちが持っていた感情的な部分が結びつき、食品ロス対策に積極的に関与しようとする人が多くなったと考えられます。

ではどのような食品ロス対策が取られていたかというと、家庭においては「食べ物を残すな」「食べきれないほど作るな」といった「するべからず」的な取り組みが多かったように思えます。しかし、その風向きが変わってきたのが、先に少し触れた2018~2019年あたりからだと考えられます。

生産量はほどほどに抑えながら、余ったものは欲しい人でシェアすることで、結果的に廃棄量を減らすという考え方に転換するようになったのです。冒頭に挙げた10円自販機の取り組みなどは、まさにその事例だといえます。

お店と利用客をICTでつなぐ「フードシェアリングサービス」

現在、フードシェアリングサービスが大きな話題です。フードシェアリングとは、まだ食べられる食品を、食料品店や飲食店がネットなどで告知し、欲しい人に分け与える(販売する)ことです。食品業界と利用客の間にたって、フードシェアリングを仲介するサービスが短期間で増加しているのです。

いわゆる「マッチング」と呼ばれるアプリやネットワークサービスを利用することで、個人経営の小さな飲食店や食料品店でもネットを使い、余剰食品があることを広くアピールできます。利用客側は、スマホのアプリを使って注文するだけ。最新ICT技術を駆使した、非常に現代的なサービスのひとつです。

日本初のフードシェアリングサービスである「TABETE(タベテ)」を例に、このサービスの流れを単純化して説明すると、以下のようになります。

(1)店がロス発生を予測
(2)TABETEに掲載
(3)TABETEを見た利用客が応募
(4)お店で利用客に受け渡し

ロスが発生しそうになった食品は、通常よりも安価で販売されるため、利用客にとっても大きな魅力になります。家では楽しめないようなプロの味が、安い価格で楽しめるわけですから、大きな注目を集めたのも当然だといえるでしょう。

新型コロナによる影響が、フードシェアリングサービス拡大を後押し

新型コロナは、食品ロスにも大きな影響を与えました。飲食店等が休業や時短営業に追い込まれる中、食品ロスが減少している可能性が指摘されています。

今年4月27日、野上農林水産大臣(当時)が閣議後の会見で、食品ロスのコロナ禍の影響についての調査結果に関して、記者の質問に答えています。
大臣によると外食産業では「食品ロスが減少した」という回答が約2/3、66%にものぼりました。(農水省が昨年12月から今年1月、約4,500の食品事業者に対するアンケート調査を実施)
外食産業での食品ロスの減少は、売上自体の減少が原因だと考えられます。

外食産業がこのような大きな痛手を受ける中、シェアリングサービスを活用し、食べ物のテイクアウトやデリバリーにトライする飲食店が増えてきました。
これがステイホームで家に引きこもらざるを得ない状況である人々の目にとまり、需要を伸ばしたのです。

フードシェアリングサービスを使用する店、利用客がそれぞれ増えることで、サービスに参入する企業も増えました。その繰り返しで、ますます市場は拡大しています。
多くの人々は便利なシステムとして、「食品ロス」を意識することなく「食品ロス対策」を行っているかもしれません。

さまざまな事業者が参加し、多様化するフードシェアリングサービス

「KURADASHI(クラダシ)」というサイトがあります。KURADASHIは「日本初の社会貢献型ショッピングサイト」を名乗り、単に食品を店から利用者に仲介するだけでなく、より積極的に食品ロス削減を図ろうとするサイト、企業です。

KURADASHIでは、同社の主旨に賛同したメーカーより提供された商品を、最大97%オフで販売するとともに、売上の一部を社会貢献団体に寄付しています。
商品ページを見ると、販売価格とともに支援金額、つまり寄付金額まで掲載されています。何を買えばいくら寄付できるのかも明確にされており、利用客にもわかりやすい作りになっています。イメージとしては、今まで主流だったフードシェアリングサービスよりも、通販サイトに近い存在だといえるでしょう。掲載商品は食品にとどまらず、日用品や雑貨まで扱っています。

フードシェアリングサービスが、比較的、小規模の飲食店などでも活用できるのに対し、KURADASHIは大手メーカー、生産者等と連携し、多くの商品を割安な価格で提供しているサイトです。それぞれの魅力を理解し上手に使い分けていくことで、さらに心豊かな暮らしがおくれるはずです。
以前は「するべからず」と禁欲的なイメージのあった食品ロス対策ですが、多彩なサービスの登場で、私たちの食生活を豊かにする、とっても"おいしい"ものになっていくのかもしれません。

KURADASHIのトップページ。食品ロスの削減と社会貢献を謳う。掲載商品も多彩です。

https://www.kuradashi.jp/

ICTに依拠しないフードシェアは、アイデア次第で今すぐにでも取り組める

冒頭で紹介した大阪の食品卸会社は、10円自販機を「販売者としての食品ロスへの取り組み」として行っています。同様のことを「メーカーとしての責任」と位置づけている企業があります。「コカ・コーラ」で有名なコカ・コーラボトラーズジャパンが行っている、「食品ロス対策自販機」の取り組みです。

「食品ロス対策自販機」は通常価格の製品に加え、同社で余剰在庫となった製品を最大60円程度値引きして販売します。「10円自販機」ほどのインパクトはないものの、大手メーカーの試みとして大きな注目を集めました。これに続き第二弾として、売上の一部を自治体のSDGs活動に寄付する「SDGs推進自動販売機」の設置も進めています。

現在、同社の「食品ロス対策自動販売機」「SDGs推進自動販売機」は、取り組みに賛同した茨城県行方市、神奈川県相模原市など一部の自治体の庁舎などに設置されています。まだ実証実験の段階とはいえ、この動きが日本全国に広がるように期待します。

このコカ・コーラと大阪の食品卸会社の自販機の事例は、今のツールを活かして、すぐに取り組める「フード(ドリンク)シェアリングサービス」の一例であるとも考えられます。つまりICT技術などなくても、アイデアとやる気さえあれば食品ロス対策はすぐに取り組めるのではないか・・・そう思わせるのです。

最後に重要なのは、私たち一人ひとりの意識。食品ロス対策の背景を意識せず、フードシェアリングサービスや社会貢献型ショッピングサイトを単なる「便利なサービス」として利用するのは、あまりにももったいないことだと思いませんか。
普段の暮らしの中で「無駄な食品ロスを出さないように」と意識するだけでも、世の中は変わっていくかもしれません。

◎製品名、会社名等は、各社の商標または登録商標です。

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著者 OPTAGE for Business コラム編集部

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