- 公開日:2021年12月22日
迫る「2025年問題」。企業としてどう備えるべきか
2025年、総人口の約5%を占める団塊の世代が、後期高齢者に
2025年は、日本にとって大きな岐路となる年かもしれません・・・。
先月のメールマガジンでは、「2025年の崖」についてご紹介しましたが、日本はもうひとつ大きな問題を抱えています。それが「2025年問題」です。
「2025年問題」とは、いわゆる「団塊の世代」が2025年に75歳を超え、超高齢社会を迎える中で、さまざまな社会問題が生じることを指します。
これは、ICTや企業のDXにおける問題や課題ではありません。もしかすると、それらよりも深刻な問題といえるかもしれないのです。
団塊の世代は1947年~1949年に生まれた人々で、出生数で約810万人。現在、総人口に占める割合は5%を超えるとされています。「なんだ5%か・・・」と思われるかもしれませんが、20人に1人は1947年から49年のわずか3年の間に生まれた人、ということになるのです。やはり団塊の世代は、相当な人口ボリュームを占めています。
出典:国立社会保障・人口問題研究所ホームページ (https://www.ipss.go.jp/)
私たちが現在のような暮らしができている理由は、団塊の世代が社会を牽引してきたからだともいえます。1970年代、青息吐息となっていたアメリカを尻目に「Japan As No.1」といわれた時代、日本を押し上げる大きな推進力となっていたのは、団塊の世代の質・量ともに優れた労働力でした。
この世代が後期高齢者となったとき、いったいどんな問題が生じるのでしょうか。今月は、国の骨幹に関わるこの問題について考えていきたいと思います。
団塊の世代が後期高齢者になると、何が問題となるのか?
ところで「後期高齢者」とは、何でしょうか。元来は老年期における疾患、老化現象を研究する「老年医学」で用いられてきた用語で、75歳以上85歳未満の高齢者を指します。ちなみに65歳以上75歳未満は「前期高齢者」、85歳以上は「超高齢者」とされます。
いってしまえば、単なる年齢によるセグメントでしかないのですが、これが大きく注目されるようになったのは、1982年に制定された「老人保健法」が2008年4月1日に改正され、同日より「後期高齢者医療制度」が発足してからではないかと思います。
そもそも「超」が付くほどの少子高齢化社会である日本は、かねてから高齢者に対する医療費の負担が大きな問題となっていました。下のグラフをご覧ください。
出典:「令和2年度 医療費の動向(厚生労働省保険局調査課)令和3年8月31日発表」より作成
75歳以上の高齢者の1人当たりの医療費は、2020年度で92.0万円と、75歳未満の21.9万円を大幅に上回ります。ここ5年の推移を見ると、新型コロナの影響なのか2020年度が下がっているものの、おおよそ93~96万円あたりを上下しています。
2023年になればここに1947年生まれが、また2024年には1948年生まれが、そして2025年には1949年生まれが・・・と団塊の世代が加わっていくわけです。厚労省によると2025年時点での75歳以上の高齢者の人口は2,179万人、総人口に占める割合は18.1%と予想されています。これに65歳以上~75歳未満の前期高齢者も含めると、3,657万人、人口比30.3%にもなります。このように爆発的に増加する高齢者によって、膨大な医療費、介護費が必要となるのです。
社会保障の支出が増大。1人の高齢者を、わずか1.8人で支える社会に
高齢者人口が増えることで、まず最も大きな問題となるのは、社会保障における支出の増大です。「子ども・子育て」「医療」「介護」「年金」といった社会保障給付金は、子育て対策や一般の医療費なども含まれるため、決して高齢者だけの支出ではありません。しかし財務省によると129.6兆円のうち、年金が約45%の58.5兆円、介護に関わる費用が約10%にあたる12.7兆円と、これだけで全体の半数を超えます。40.7兆円(全体の約31%)にのぼる医療費においても、高齢者対象のものが相当の比率を占めると考えられますので、これらが国の財政を大きく圧迫することは、想像に難くないでしょう。
一方、社会保障給付費の"賄い手"である就業者人口は、極度な少子高齢化のため先細りの状態です。65歳以上の高齢者を、現役世代(20歳~65歳未満)の何人で支えなければならないかを見てみましょう。財務省によると、1965年では高齢者1人を9.1人で支えていたのが、2025年にはわずか1.8人で支えることになると推計されています。
参考サイト:
財務省「これからの日本のために財政を考える」
財務省「2025年、高齢者1人を現役何人で支える?」
この問題は、一企業や一個人で解決できるものではありません。2025年に向け、政府もさまざまな対応策を出してくると思われます。国民としては、常に注意深く見守っていく必要があるでしょう。
人材不足が深刻化、さらに高度な技術力の継承に課題が
国家の財政における「2025年問題」は、私たちの税金や年金などにも直結する重要事項ではありますが、問題はそれだけに収まりません。企業としては、今まで大きな戦力となっていた世代が次々とリタイアすることによる「人材不足」の問題の方が、より深刻だといえるのです。
冒頭にも書いたように、団塊の世代は質・量ともに非常に優れた労働力を提供していました。日本がかつて世界を席巻した理由のひとつは、モノづくりにおける高い技術力で、団塊の世代はその担い手でした。
日本ではバブル崩壊以後、ずっとデフレ状態が続いているともいわれますが、この間、企業の傾向として若年労働者の採用を抑制していたこともあり、団塊の世代からの技術・技能の継承に大きな課題があります。
独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査によると、「将来の技術継承に不安を抱えている」と答えた企業は8割を超えていました。これは2019年の調査結果ですので、新型コロナで対面接触が忌避される20~21年においては、不安を感じる企業がもっと多くなっているかもしれません。
いずれにせよ、団塊の世代に関わらず企業は計画性を持って、熟練社員が持つ技術・技能の継承を図る必要があるでしょう。
出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構「ものづくり産業における技能継承の現状と課題に関する調査結果」
(2019年6月6日)より作成
「2025年問題」だけではない。押し寄せる「20XX問題」
日本は現在、超少子高齢化時代を迎えています。この傾向は、これからもますます強まりつつ継続していくことでしょう。したがって「2025年問題」を切り抜けたとしても、さまざまな問題が押し寄せてくることになります。
「2030年問題」は、出生率が低下することで2030年には日本の人口が1億1600万人に減少し、生産年齢人口も減少することで、GDPなどあらゆる面で日本の国力が低下するとされる問題です。
次に「2040年問題」。これは団塊の世代の子どもたちである「団塊ジュニア」が65歳の前期高齢者になり、社会保障給付金の支出が増大します。
さらに「2060年問題」は、日本国民の約2.5人に1人が高齢者に・・・。
少子高齢化の傾向にある以上、次から次へ襲ってくる「問題」は防ぎようがなく、ずっと続いていくことになります。
しかし先にも書いた通り、これは一企業、一個人ではどうにもならない問題でもあります。あまり悲観的にならず、これからの未来にポジティブに対応していくべきだと思います。
「高齢者」ではなく、「成熟した現役予備軍」と
捉え直すことから始めよう!
「高齢化」の背景には、私たちの長寿命化があります。1955年から現在までの約70年間で男性は17.81歳、女性は19.7歳も伸びています。これを、どう捉えるかがポイントだと考えます。「ただ老年時代が延びただけ」と捉えるか、「人生の総時間が引き延ばされ、長く活躍できるようになった」と捉えるかで、見方は大きく異なってくるのではないでしょうか。
出典:厚生労働省政策統括官付参事官付人口動態・保健社会統計室「令和元年簡易生命表」より作成
さらに、「健康寿命」という考え方があり、これは世界保健機関(WHO)が、日常、医療・介護を必要とせず、健康で自立した生活ができる生存期間のことを指すものとして2000年に提唱したものです。この健康寿命も平均寿命と比例するように着実に延びており、日本においては高齢者も非常に活動的になっていると考えられます。
平均寿命については、2010年につき厚生労働省政策統括官付参事官付人口動態・保健社会統計室「完全生命表」、他の年につき「簡易生命表」、健康寿命については厚生労働省政策統括官付参事官付人口動態・保健社会統計室「簡易生命表」、「人口動態統計」、厚生労働省政策統括官付参事官付世帯統計室「国民生活基礎調査」、総務省統計局「人口推計」より算出。
筆者が子どもの頃の記憶をたどると、確かに当時(昭和40年代)の60~70歳ぐらいの方は、まさに「長老」といった風情でした。それ対し今の60歳は、まだまだ血気盛んに見えます。80歳を超えても元気に活動されている方は、あなたの周囲にもたくさんいらっしゃるはず。そういう方々を「戦力」として活かすことが、現代社会の必須事項となっています。(高齢者雇用については、いずれこのコラムでもご説明したいと思っています。)
「高齢化社会」「後期高齢者」という言葉に捉われるのではなく、「より成熟した現役予備軍」と考えてみるのはいかがでしょうか? そう考えると押し寄せる「20XX問題」にも、案外、力強く立ち向かえるかもしれません。
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