成功事例に学ぶ、クラウド活用による企業DXの最新動向

成功事例に学ぶ、クラウド活用による企業DXの最新動向
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国内企業の間でクラウドDXが注目を集めている

クラウドの活用で企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する「クラウドDX」が国内企業で進んでいる。企業のDXにクラウドがなぜ有効なのか?顕著な成果を上げている成功事例を中心に、クラウドDXの最前線をレポートし、クラウド活用のメリットを探った。

総務省が2021年7月に発表した「令和3年情報通信白書」によると、国内企業におけるクラウドサービスの利用率は年々上昇している。クラウドサービスを一部でも利用している企業の割合は、2016年で46.9%と半数以下だったのに対し、2020年には68.7%に上昇。4年間で、クラウドの普及が急速に進んだことがわかる。

当然のことながら、クラウドサービス市場も年々拡大している。IDC Japanの「国内パブリッククラウドサービス市場予測」(2022年3月)によると、2021年の国内パブリッククラウドサービス市場規模は、前年比28.5%増の1兆5,879億円となった。また、2021年~2026年の年間平均成長率は18.8%で推移し、2026年の市場規模は2021年比約2.4倍の3兆7,586億円になると予測される。

<国内パブリッククラウドサービス市場 売上額予測、2021年~2026年>

出典:IDC Japan, 2022年3月「国内パブリッククラウドサービス市場予測」(JPJ48986422)

企業DXに欠かせないクラウドコンピューティング

前述の「令和3年情報通信白書」によると、クラウドサービスを利用する目的は、「ファイル保管・データ共有」(59.4%)、「電子メール」(50.3%)、「社内情報共有・ポータル」(44.8%)が上位となっており、「営業支援」や「生産管理」などの高度な活用方法はいまだ低水準にとどまっている。しかし、国内のIT先進企業の間では近年、進歩的なクラウド活用によって、企業のDXを推進する「クラウドDX」の成功事例が相次いでいる。ここからは、国内企業における成功事例を見ていきたい。

◎一般企業におけるクラウドDXの代表事例

IT資産をクラウドに移行することで業務改革ができる

国内企業で進んでいるクラウドDXの事例は、パブリッククラウドとSaaS(Software as a Service)を組み合わせて活用するものが多い。パブリッククラウドの特長は、従来は企業が所有してきたIT資産に代わる、ハードウエアリソースやソフトウエアをクラウドプロバイダーが所有し、ユーザーはインターネットを介してそれを利用する点にある。これに、ネット上で利用できるアプリケーションサービスのSaaSをセットにして、業務改革を推進する事例が代表的だ。
パブリッククラウドとSaaSで仕事ができれば、ハードウエアやソフトウエアの購入・管理が不要で、使いたいときに利用した分だけの料金を支払うだけで済む。コスト削減をはじめ、IT資産管理の合理化、運用負荷軽減など、さまざまな効果が生まれる。これが、クラウドDXの基本的な活用メリットといえる。

例えば、大手製菓企業A社では2018年、子会社2社の統合を契機に、基幹システムやグループウエアをオンプレミスからクラウドへ移行した。社内に構築していたPC約2,500台のVDI(仮想デスクトップ環境)をクラウドへと移行することで、「Windows 10」へのアップグレード業務の負担と、ハードウエアの保守管理費を一気に軽減できた。このように、IT資産を自前で持たず、クラウドプロバイダーに任せるIT運用は、業種を問わずDXの恩恵をもたらしてくれるはずだ。

◎製造業DXの事例

スマート工場や働き方改革にも貢献するクラウド

製造現場のデータをリアルタイムで収集し、AIが生産計画や設備の保守点検を予測するシステムが、大手製造業の間で広がりつつある。板紙・段ボールの大手企業B社では、国内4工場でセンサーとクラウドコンピューティング、AIを組み合わせて、無駄やロスのない製造工場を実現している。
従来、ベテラン従業員が製造設備に聴診器を当てたり手をかざしたりして異常がないか判断してきた作業に代わり、IoTセンサーがリアルタイムでデータを収集し、クラウドに蓄積。AIが音や振動、温度、映像などの異常を感知して事前に保守点検を促すシステムへ移行した。おかげで、突発的な故障による生産ラインの停止がなくなり、製造ロスが低減。製造ラインに投入する原料や薬品の使用量も、データから適切な分量を割り出し、無駄のない生産計画が実現されるようになった。
設備の稼働状況は、タブレット端末によりクラウド経由で遠隔監視ができ、製造ラインの動きはセンサーカメラの映像で監視できるため、現場を巡視したり制御室に常駐する必要はない。緊急時にはオペレーターが、自宅からでもクラウドで対応ができる。このようにクラウドDXを上手く運用すれば、製造工場のスマート化のみならず、労働力不足の解消、ベテラン従業員の知見継承、従業員の働き方改革まで実現することができる。

◎建設業DXの事例

建設機械大手は建設事業者のDX支援も始めた

「3K」のイメージが根強く残る建設業は、慢性的な労働力不足に悩まされてきたが、この問題を解消するDXが業界全体で進んでいる。建設や建機の大手企業の間では、ドローン等で3次元測量したデータから設計・施工計画を作成しクラウドに保管、自動制御のICT建機で施工を行うICT施工が盛んに行われている。労働力不足解消の切り札として国交省も推奨するICT施工だが、こうした建設業におけるDXは、ICTやIoT技術、クラウドコンピューティングの進歩によって初めて可能になったものだ。

業界の大手企業では現在、ICT施工用の測量・設計・施工データや、検査等で必要な情報を、本社はもとより支社、施工現場、建機オペレーターに至るまで、クラウド上でシームレスに共有できる環境を構築している。こうしたクラウドDXにより、工事現場の自動化、無人化、作業効率化が実現され、かつて「3K」と呼ばれた業界は大きく変貌を遂げつつある。

◎農業DXの事例

スマート農業支援で就農者の減少に歯止め

同じ労働力問題でも、就労人口そのものの減少に悩んでいるのが農業である。就農者の減少は、そのまま農機の市場縮小に直結する。この流れを食い止めるために現在、DXによるスマート農業の普及が始まっている。
大手農機企業C社が開発したシステムは、収穫した稲のタンパク質や水分量をコンバインに搭載した赤外線センサーで検知し、クラウド上に蓄積。PCや携帯端末から、データ内容を確認できるというものだ。車載の計量器で、米の収穫量もデータ管理できる。サービス利用料は手頃で、対応農機の購入者に対する、付加価値サービスという位置づけだ。
これらのデータは、スマート農業を運営する上で貴重な情報となる。収穫した稲に含有するタンパク質と水分の量は、食味につながっているからだ。クラウドに蓄積したこれらのデータを分析することで、田んぼごとの収穫米の味や等級が判別でき、上級米は付加価値をつけて販売する一方で、味が劣る田んぼの稲には、肥料の散布量を調節して稲の生育環境の改善を図る。クラウドDXがあれば、このように稲作農業を科学することができ、収量と米質の安定により、農業初心者でも参入がしやすくなる。

これまで見てきたように「クラウドDX」のひとつの特長は、ビジネス現場における種々の情報を、各種のIoTセンサーでデータとして吸い上げ、クラウド上に蓄積する点にある。蓄積されるデータはやがて巨大な「ビッグデータ」となり、これをアルゴリズムなどの科学的手法を用いて分析すると、ビジネスに役立つ知見が導出される。経験や勘といった不確かなものではなく、ビッグデータの分析結果をもとに、ビジネスの意思決定や課題解決などを行う次世代型業務プロセス、いわゆる「データドリブン(Data Driven)」経営が確立できるわけだ。
このデータドリブンで際立った成果をあげている業界として第一に挙げられるのが、小売業である。

◎小売業DXの事例

電子レシートで「業界まるごとDX」を推進

レジ大手企業D社では、電子レシートサービスによって、同業他社をも巻き込んだ業界全体のDXを巻き起こしている。電子レシートは、通常紙で手渡される購入商品の明細レシートを電子化し、データとしてクラウド上で管理・提供するシステムだ。顧客は財布を肥満させるレシートから解放される上、スマートフォンで13カ月分の購入履歴が確認でき、店舗側は紙レシートの発行コストや環境負荷を減らすことができる。

このクラウドDXが優れているのは、購買統計のデータサービスが活用できる点だ。スマートレシートの購買データは数時間以内に統計処理され、加盟店各社へ統計データとして提供される。自社のみならず、匿名化された他社流通チェーンの購買データも加盟店であれば自由に閲覧できる。購買エリアや購買者の属性を指定した購買ランキングをはじめ、日時別の購買推移、地域別の購買活況度など、指定パラメータを自由に組み替え、わずか数時間前の購買トレンドをタイムリーに把握できるのだ。店舗別に迅速な対応をとれば、販売機会を逃すことのない、ジャストインタイムの販売促進策が実施できるのである。

◎製薬業DXの事例

製薬業界のDXは「ビヨンド・ザ・ピル」がキーワード

製薬業界のDXは近年急速に進んでいるが、「ビヨンド・ザ・ピル(Beyond the pill)」というキーワードとともに語られることが多い。文字通り、「ピル(医薬品)を超えた」新たな事業領域を、DXで開拓していこうという意味である。「薬による治療」にとどまらず、成人病の「予防」や治療後の「予後・介護」までを組み合わせた「医療ソリューション事業」の展開を目指す企業が増えているのだ。
製薬大手企業E社も医療用医薬品を主力に事業を展開してきたのだが、近年DXを武器にする新たな事業領域を開拓している。クラウドを活用し、心臓病を早期発見する心電図解析サービスもそのひとつだ。
新たに開発されたホルター心電計は、胸部中央に貼り付けるコンパクト(厚さ6mm、重さ11g)なコードレスタイプ。防水機能でシャワーも自由、使い切りタイプで使用後は受付医院に郵送するだけ。従来のように機器を返却するために再度来院する手間はなく、病院が機器をメンテナンスする必要もない。回収した心電計に記録された10万拍余りの心臓のデータを、医療機関がクラウドにアップロードすると、独自のAIを用いた解析アルゴリズムにより効率的かつ高い精度で解析が行われ、不整脈や心房細動などの心臓病を早期発見し、適切な治療が図れる。
従来の検査では、患者が使用したホルター心電計を病院から解析専門企業へ送付し、解析結果が戻ってくるまで1週間ほどの時間がかかったが、クラウドサービスなら心電計を送付する必要がなく、しかも最短1日で分析結果が得られる。患者も病院も劇的に利便性や快適性が向上する、医療DXの最たる事例といえる。

デジタル敗戦しないためにもクラウドDXに取り組むべき

「デジタル敗戦」と呼ばれた日本では、巻き返しを図るためにさまざまな業界でクラウドを活用した企業DXが精力的に行われている。前述した業界以外では、電力、金融、食品流通、貿易、税務、労務、印刷、脱炭素など、さまざまな業種業態で挑戦的なDXが進展している。
そして、企業のみならず行政や自治体でも、クラウドへのシフトが急速に進んでいる。政府が推進するガバメントクラウドに対応するため、自治体のデジタルシフトは急務の案件である。地方自治体で生じる市場を狙い、さまざまなITベンダーが、地方行政のクラウド化を支援する「自治体DX」事業に力を入れている。

こうしたDX支援事業が活況を呈しているのは、クラウドに熟達した企業や自治体が今はまだ少ないからに他ならない。前述の「令和3年情報通信白書」にもあるように、実際にクラウド活用でDXにまで踏み込めている企業は少なく、中小企業の多くは「クラウドを導入したいが、何から着手していけばいいのかわからない」というのが現状である。
現在では、そういったクラウドビギナーの企業や団体に対して、DX支援やクラウド導入支援を提供しているITベンダーが多数存在する。自社のニーズに適合するベストパートナーを探すことも、自社のDX推進の後押しになるかもしれない。

◎製品名、会社名等は、各社の商標または登録商標です。

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著者 OPTAGE for Business コラム編集部

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