- 公開日:2022年04月27日
メタバース、これからのビジネスにどう活かす?
身近なゲームの世界からビジネスまで、大きく広がる「メタバース」
ここ1年の間で、急速に耳にするようになった言葉があります。それは「メタバース」。特に大手SNSのFacebookが、2021年10月に社名を「Meta Platforms(メタプラットフォームズ、通称メタ)」に変更して以降、この言葉が頻繁に取り上げられるようになりました。
「メタバース(Metaverse)」とは、ギリシア語で「超越」を表す「メタ(Meta)」と、宇宙や世界を表す「ユニバース(Universe)」の合成語です。直訳すると「現実世界を超越した世界」とでも表現できるでしょうか。一般的にはインターネット上の仮想世界のことを意味します。メタバースの身近な例をご紹介しましょう。
任天堂の人気ゲーム『あつまれ どうぶつの森』は、髪型や顔のパーツを選び自分(プレーヤー)の分身を作ります。その分身がゲーム世界の中を歩き回り、ムシやサカナを取って売ったり、他のプレーヤーとやり取りをします。現実世界とは異なる仮想の世界の中で自分の分身が活動し、現実世界と変わらないような暮らしをおくっていきます。そういった点から、『あつ森』は「メタバース」の一種だと考えられています(厳密には違う、という意見もあるようです)。
「メタバース」はゲームやエンタメの最新テクノロジーのように思われるかもしれません。しかし「メタバース」による新しいビジネスも登場しており、将来的に私たちの暮らしに大きな影響を与えるものと考えられます。今回はそれらの新ビジネスを紹介しながら、「メタバース」について解説したいと思います。
30年前のSF小説で描かれた「メタバース」と「アバター」
メタバースを理解する上で、もうひとつ重要なワード「アバター」についてもご紹介しましょう。「アバター(avatar)」は、SF映画のタイトルにもありましたが、元々は「化身」や「権化」という意味の英単語です。そこから人間が、ネットやゲームなどの仮想空間で自分の分身を表すキャラクターのことを意味するようになりました。「メタバース」という仮想空間で活動する自分の分身が「アバター」となります。
「メタバース」と「アバター」が最初に使われたのは、1992年に遡ります。当時のSF小説ではサイバーパンクというジャンルが流行しており、その代表的な小説のひとつが、ニール・スティーヴンスンが発表した『スノウ・クラッシュ』です。そこで、架空の仮想空間サービスの名称として「メタバース」を、仮想空間の中で行動する分身の名称として「アバター」を用いました。
『スノウ・クラッシュ』では、登場人物たちがゴーグルやイヤホンを装着し、仮想世界「メタバース」に入り込む姿も描かれています。小説発表から実に30年が経過しましたが、とうとう現実が追いついたといえるでしょう。インターネットの進化に加え、VRゴーグルや以前本コラムでご紹介したハプティック技術など、仮想空間を現実のものと思わせるVR(virtual reality)のテクノロジーの発達が相まって、「メタバース」の実現を可能にしたのです。
しかし、メタバースがビジネスで大きく注目されるようになったのは、2年前の世界的なコロナ禍からです。
現実的には非接触ながら、より濃厚な接触が可能となる世界
世界中で猛威をふるった新型コロナウイルスによって、ビジネスの世界では人と人の接触を極力抑えた働き方が求められ、テレワークやWebを活用したリモート会議などが普及しました。しかしその反面、さまざまな弊害が指摘されています。一番懸念されていることは、コミュニケーションが不足しがちになることです。
従業員は「会社」というリアルな場で顔を合わせることで、さまざまなコミュニケーションが交わされます。時には冗談を交わしたり、雑談したりすることで仲間意識が芽生え、会社としての一体感が醸成されることもあります。しかしWeb会議では仕事の打ち合わせは可能ですが、そのような日常の何気ないコミュニケーションが生み出す空気感は伝えられません。従業員が孤立感を深めてしまうことも考えられます。
このような問題を克服する方法のひとつが、「メタバース」です。実際にオフィスに出社する代わりに、自分の「アバター」を仮想オフィスに出社させます。仮想オフィスでは、従業員たちの「アバター」が集い、仕事はもちろん日常のたわいない会話がやりとりされます。「非接触」という時代の要請に応えながら、テレワークによって途切れかけた従業員間のコミュニケーションが、「メタバース」の中で復活します。
すでにマイクロソフトでは、同社の「Teams」の「メタバース」拡張版ともいえる「Mesh for Microsoft Teams」を2022年から順次投入するなど、Web会議やテレワーク支援のアプリ、サービス等においても、今後「メタバース」化が進行していくことが考えられます。
また、「メタバース」は企業活動への貢献だけにとどまらず、個人が経営する店舗にとっても大きな変革をもたらします。たとえば仮想ショップに来店した顧客のアバターに対し、店員のアバターがより詳しい商品説明やおすすめトークを行うことで、単なる通販サイトよりも商機が拡大できる可能性があります。
新型コロナがきっかけとなり、「メタバース」により企業活動や商業活動が大きく進化する時代を迎えたといえるでしょう。
仮想都市での店舗から、バーチャル就活アドバイスまで、多岐に広がる用途
「メタバース」の特長のひとつに、誰でも自由に世界を構築できるという点があります(それが『あつまれ どうぶつの森』が、「メタバース」ではないとされる理由)。そのため、すでに多くの企業が、「メタバース」を活用してビジネスを展開しています。実例を2つほど紹介しましょう。
●三越伊勢丹「REV WORLDS(レヴ ワールズ)」
百貨店大手の三越伊勢丹が構築した、スマートフォン向けのサービス。参加者はアバターを操作し、3DのCGによって描かれた仮想都市を周遊できます。仮想都市の中には「仮想伊勢丹新宿店」などの店舗があり、ウィンドウショッピングが楽しめます。気に入った商品があれば、実際に購入も可能。買物だけでなく、他の参加者のアバターとおしゃべり(チャット)することもでき、まさに実際の街を歩く楽しさを再現しています。自分のアバターに着せるバーチャルファッションなどを購入することも可能です。
●ポート株式会社「就活メタバース」
企業向け採用マーケティング支援を行っているポート株式会社は、2021年の12月からメタバースを利用し、キャリアアドバイザーが就職相談を行うサービスをリリース。将来的には、メタバースを使い、就活生と企業のマッチングを行う予定です。オンライン面接が増加する中、就活生の人柄や個性をよりリアルに把握できる場づくりになることが期待されています。
「メタバース」は、「アバター」を通して人と人が交流できる場となることが、大きな魅力となっています。そういう意味では、物販サイトというよりもSNSに近い存在だといえます。ただ従来のSNSと異なる点は、参加者同士の体験がよりリアルに共有できることです。Facebookが社名を変更した理由も、現在のSNSを超える、リアルな体験共有の場を構築することを目指したからだといえるでしょう。
「メタバース」の本質は、仮想空間に居ながら体験がリアルに共有できるコミュニティ
「メタバース」では、仮想空間ながら、商品をまるで手に取ってチェックしているかのように、よりリアルに近い体験が可能となります。それが今までのECサイトにはない魅力です。実際、三越伊勢丹の「REV WORLDS」では、商品の販売拡大にも大きく貢献しているといわれています。しかしそれ以上に、仮想空間に集まった顧客の反応を通し、新しいファッションアイデアを得るといった効果も期待されています。
むしろ「メタバース」の最大の効果は、人々が交流する場をいつでもどこでも手軽に創れる点にあります。従って「モノを売る場」というより、「モノでできるコト(体験)を共有する場」と捉える方がより本質的だといえます。しかも参加者は物理的な時間や場所を超越して、自分が参加したい時に自由に出入りできるため、同じ志や趣味趣向を持った人が集いやすい場でもあります。この特性を、これからのビジネスに活かすべきです。
たとえばマーケティングの世界では、リピーターとなる商品のファンづくりが不可欠ですが、「メタバース」を使えばコアなファンを集めることが可能となります。「メタバース」の中でファンが交わす会話を分析することで、新しい商品や販促プロモーションの企画のヒントを得るといった活用法です。
「メタバース」は、まだ始まったばかり。5G時代を迎えテクノロジーがさらに進化することで、「メタバース」の世界も大きく広がっていくと考えられます。ビジネスも左右すると考えられる「メタバース」の動向に、ぜひご注目ください。
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