近い将来、電力不足の原因に!?「データセンター電力問題」の最前線

近い将来、電力不足の原因に!?「データセンター電力問題」の最前線
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二桁成長が続くデータセンターサービス市場

クラウドサービスやインターネットの利用増加に伴い、データセンター(DC)の開設ラッシュが続いている。大規模なDCが膨大な電力を消費することはよく知られているが、近年のDC急増に伴う想定外の電力需要の増加は、日本のエネルギー政策の根幹を揺るがすほどの「データセンター電力問題」として課題視されるようになった。そこで今回は、DCの省電力化に向けた、官民挙げての取り組みを特集する。

社会全体の急速なデジタル化、コロナ禍によるテレワークとクラウド利用の拡大などを背景に、国内のDCサービス市場は高い成長率を維持している。IDC Japanの「国内データセンターサービス市場予測」によると、2020年~2025年の年間平均成長率は12.5%と二桁成長を維持し、2025年の市場規模は2兆7,987億円になると予測している。

<国内データセンターサービス市場 売上額、成長率予測:2019年~2025年>

出典:IDC Japan, 2021年10月「国内データセンターサービス市場予測」(JPJ48272821)

DCで消費される電力は国内電力の1.4%を占めている

DCの急増によって、サイバーセキュリティ問題やインターネットトラフィックの逼迫など、諸々の社会問題が発生しているが、いま最も問題視されているのが、DCによる膨大な電力の消費である。
もともとDCは電力を多量に必要とする。CPUやGPU等を搭載するサーバそのものが電力を必要とするだけでなく、機器が熱暴走をしないように、発生する熱を冷やす空調設備にも多量な電力が必要とされるからだ。
ただでさえ電気を爆食するDCが、社会のデジタル化、インターネット社会の進展により、毎年二桁成長を続けている。このまま放置すれば、いずれは日本のエネルギー受給体制を脅かす大問題となるのは明らかである。

DCの地方分散立地政策でDC集積都市が出現

国立研究開発法人 科学技術振興機構が2021年に発表した「情報化社会の進展がエネルギー消費に与える影響」によると、国内のDC電力消費量は2018年で約140億kWhと推計され、日本全体の消費電力量の約1.4%を占めている。これが、2030年には約6.4倍の900億kWhに増大すると推計される。近年の日本の年間電力消費量が9,000億kWh台で推移していることから考えれば、看過できない事態であることが分かるだろう。
実際、国内で続いているDCの建設ラッシュを見れば、この推測が決して大げさではないことがわかる。IDC Japanの調査「国内データセンター延床面積予測」によると、2021年末時点の国内における事業者データセンター延床面積の合計は263万400平方メートルで、2026年には390万5,100平方メートルに増加すると予測している。また、2021年~2026年における年間平均成長率は8.2%と高い。

この勢いを裏付けるかのように国内では、「DC集積都市」が各地で誕生している。電力供給体制に優れた千葉県印西市や、「脱炭素先行地域」の認定を受けた北海道石狩市、関西では京阪奈や北摂エリアがその代表だ。
通常、延床面積1万平方メートルを超える規模のDCになると、「特別高圧」による6万ボルトの電力供給が必要になるが、特別高圧の送電線が既設されている地域はそう多くない。そのため国内各地では今、電力供給体制が整備されていて建設用地が確保できる地域に、DCが集まるという現象が起きている。
岸田内閣が掲げる看板政策「デジタル田園都市国家構想」でも、日本周回の海底ケーブル敷設や、全体の8割が関東・関西に集中するDCの地方分散立地が掲げられており、DCの新設は今後も国内各地で活発化すると考えられる。このままのペースでDCが増え続け、省エネ技術が進展しないならば、日本の電力の10%近くがDCで消費されるという最悪のシナリオも現実になりかねない勢いなのだ。

北欧諸国ではエネルギー受給体制を揺るがす大問題に

こうしたDCの電力消費問題は、日本のみならず地球規模で進行している。気候寒冷でDCの効率運用に適した北欧諸国では、これまで産業振興の一環としてDCの誘致を積極的に進めてきたのだが、予想外の電力消費に直面し、国のエネルギー受給体制を揺るがす大問題に発展しているケースもある。
例えば、国策としてハイパースケーラーや大手クラウド企業のDC誘致を推進してきたアイルランドでは、急増したDCの電力消費が最悪の場合、2030年に国内総電力量の31%を占めると推計されるほどの大きな問題となっている。同国では急遽、誘致政策を見直し、DC建設を制限する方向へと舵を切った。

科学技術振興機構の試算によると、世界のDC電力消費量は2018年で約1,900億kWhと推計され、2030年には約15.8倍の3兆kWhに膨れ上がると予測している。こうしたDCの電力消費問題に対処するため、大手クラウド企業やハイパースケーラーの間では今、再生可能エネルギーの積極的な活用など、省エネに向けた新たな取り組みが始まっている。

DC電力消費問題の解決に向けて官民で新たな取り組みが始まった

DCの電力消費問題に対処するため、日本でも官民挙げた取り組みが行われている。経済産業省では、2030年までに国内DCの消費電力40%削減を目標に掲げ、種々の政策を推進している。
そのひとつが、省エネ法の「ベンチマーク制度」で、2022年4月からDC業を対象業種として追加した。同制度は、エネルギーを使用する事業者の判断基準として規定されている省エネ目標で、主に工場など多量にエネルギーを消費する業者を対象としてきた。これにDCも、電力を多量に消費する業種・業態として新たに組み込まれたのだ。
具体的には、DCのエネルギー消費効率についての国際的な指標「PUE」(=DC全体の消費電力量(kWh)÷IT機器の消費電力量(kWh))をベンチマーク指標とし、上位15%程度の事業者が満たす水準となるよう目標値を1.4に設定している。この目標値はDC施設全体が、IT機器の何倍の消費エネルギーで稼働しているかを示す数値で、当然のことながら、IT機器と空調設備が最新鋭でエネルギー効率が高いほど、目標が達成しやすくなる。

サーバをまるごと液体に浸して冷やす新技術が登場

こうした国の省エネ政策を受けて民間企業では、DCの消費電力低減に向けた技術開発が活発化している。
DC省電力化の最大のポイントは、サーバ等のIT機器の放熱を、いかに効率よく冷却するかにかかっているのだが、これまでは空調による空冷が中心であった。精密機器を冷やすには、空冷しか方法がないと思われていたからだ。
ところが近年、新たな手法として「液浸冷却」が登場した。文字通り、サーバを冷却液にまるごと浸してしまう手法で、液体は空気よりも数十倍から千倍程度、熱効率がよいという利点がある。
国内では現在、ゼネコンや通信キャリア、IT機器メーカーなどの大手企業が、独自技術を駆使して液浸冷却技術の研究を進めている。各社のプレゼン動画を見ると、CPUやメモリが組み込まれたサーバ本体を、いきなり液体にザブンと浸しているシーンに遭遇して唖然とする。飲み物をIT機器にこぼして駄目にした経験がある人にとっては、まさに手品を見ているような光景だ。絶縁性のある液体なので、ショートもしなければコネクタの抜き差しもできるというのだから、にわかには信じがたい技術である。

液冷法には、大きなメリットがある。空冷のように通風のためにサーバの設置間隔を空ける必要がないため、サーバルーム面積を約90%も削減できるのだ。しかも、埃が侵入せず機器の故障率は格段に低減される。肝心の消費電力は、各社とも約40%の削減結果が実証されており、経済産業省の目標値もクリアしている。量産化されてイニシャルコストが低減できれば普及に拍車がかかり、DC冷却システムのスタンダードとなる可能性は大いにある。2024年度中には、各社の製品が市場に投入される予定だ。
このように空調エネルギーを必要としないコンパクトなDCは、高圧送電設備を必要とせず、需要家の多い都市部に小規模な「エッジDC」として展開することができる。ユーザーのそばでDCが稼働できれば、自動車の自動運転やドローンの制御、遠隔医療などの分野におけるクラウドサービス利用は、より信頼性が高くなり便利になる。エッジDCが普及すれば、省電力とネット利用の利便性向上に大いに貢献すると考えられる。

カーボンニュートラルを実現したDCも誕生している

北海道美唄市の空知工業団地では、二酸化炭素排出量ゼロを実現した「ホワイトデータセンター」が2020年から稼働している。同DCは、道路除雪で集まった雪の山を利用してサーバの冷却を行っている。表面を木質チップで覆った雪山は夏でも解けない。雪山の下に樹脂パイプを埋設し、不凍液を循環させてサーバを冷却することで、施設のPUEは夏期でも1.04という驚異的な数値を記録している。
ユーザー企業は同DCへサーバを置けば、ほぼカーボンニュートラルが実現される上、「J-クレジット」も取得できる。また、冬期に施設から出る廃熱は、ビニールハウスでの野菜、キノコ栽培、ウナギの養殖にも再利用しており、徹底したグリーンエネルギー経営がなされている。
2022年中には、新たなDCを着工する予定で、草木などの廃棄物を利用するバイオガス発電所も工業団地内に建設する計画を立てている。美唄市では、この画期的な雪冷房や地産地消の再生可能エネルギーを武器に、DCを核とした町づくりを推進する方針だ。

サーバ本体の技術革新「光電融合」も進んでいる

経済産業省がDC省電力化の切り札として、「グリーンイノベーション基金事業」などを整備して、企業の研究開発を支援しているのが「光電融合技術」だ。半導体のチップなどをつなぐ電気配線を、電力消費が少ない光配線に置き換える技術で、省電力サーバ開発の鍵を握っている。
電気は回路を流れる時に発熱する。サーバが熱くなるのもこのためだが、これは無駄にエネルギーを消費していることを意味する。一方、光は電気に比べてエネルギー消費が小さく、伝送速度も速い。電気で行なっていた演算処理を光に置き換えることができれば、エネルギーの無駄遣いや処理の遅延を大幅に削減することができる。
ただ現状では、電気回路をすべて光回路に置き換えられるわけではなく、一部の複雑な演算についてはまだ電気回路でないとできない。そのため現時点では、電気と光の両方を組み合わせて演算処理するハイブリッド方式の「光電融合技術」で研究が進められている。

データセンター電力問題の最新動向には今後も注目

クラウドやインターネットサービスを陰で支える基盤施設であったDCは、これまで表立って語られることはあまりなかった。それがここにきて、電力問題として大きくクローズアップされるようになったのは、デジタル社会が急速に進展したためだ。

DCは、デジタル社会の心臓部であり頭脳であるだけに、総量規制や建設抑制で解決できる問題ではない。本稿で紹介した研究開発以外にも、世界中でDCの省電力化に向けた取り組みは進行している。
だから近い将来、画期的な新技術や革新的運用方法が見つかる可能性は大いにある。「データセンター電力問題」の最新動向には今後も注目していきたい。

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著者 OPTAGE for Business コラム編集部

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