- 公開日:2022年08月24日
DXを成功に導くカギ!? 今やるべきは「デザイン思考」だ!
DXと密接な関係を持つといわれ、注目を集める「デザイン思考」
DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉を、あちらこちらで耳にするようになってから、もう数年が経過しています。DXが、これからの企業の持続可能性を左右する鍵となっていることも、十分ご存じかと思います。
DXがますます重要度を増すにしたがって、まるで「対」のようなキーワードとして語られるようになった言葉があります。それが「デザイン思考」です。
最先端IT技術の成果であるDXと、人間の感性を表現するかのような「デザイン思考」、一見、正反対のようなこの2つの言葉が、なぜ密接な関係にあると思われているのか?そもそも「デザイン思考」とは何なのか?今回のコラムは「デザイン思考」と、それがDXにとってどのような意味を持つのかについてご紹介したいと思います。
「デザイン思考」とは、デザインを考える際の思考プロセス
「デザイン思考」を一言でいうと、デザイナーやクリエーターがデザインを考える際の思考プロセスのこと。日常業務で発生するさまざまな問題を解決するための思考法として、ここ数年、急激に注目されはじめました。しかしその歴史は意外に古く、建築家ピーター・G.ロウが1987年に著した『デザインの思考過程(原題"Design Thinking"=デザイン思考)』からとされています。
たとえば、わたしたちが使っている製品は、「プロダクトデザイン」という作業を経て製造されています。プロダクトデザイナーは、その製品を使うユーザーが少しでも快適に、悩むことなく操作できるようボタンの大きさ、配置などの検討を重ねます。そして最終的な製品のカタチとしてまとめていきます。このようにユーザーの思いを起点として問題解決を図っていくプロセスが、「デザイン思考」なのです。
この「デザイン思考」が、2020年代にあらためて注目されるのには、理由があります。
1990年ごろまでは、まだ「良いモノを作れば売れる」という、「プロダクトアウト」の時代でした。しかしバブル崩壊もあり、本当にユーザーが満足感を得られるモノでなければ売れない、という時代になりました。いわゆる「マーケットイン」の時代です。
現在、SNSなどを通し、誰もが発言できる時代になりました。ユーザーに受け入れられない製品やサービスはインターネットを通し、あっと言う間に「ダメ出し」され、その評判が市場に広がっていきます。今あらためて「デザイン思考」に注目が集まるのは、大きな発言力を持ったユーザーの思いを汲み取ることこそが、これからの企業としての成長に欠かせない要素だからです。
現在はまた、「VUCAの時代」ともいわれています。VUCAとは、
V・・・Volatility(変動性)
U・・・Uncertainty(不確実性)
C・・・Complexity(複雑性)
A・・・Ambiguity(曖昧性)
の略で、先行きを予測するのが非常に困難な時代であることを表した用語です。この先が読めない時代だけに、ユーザー目線を発想の起点とする「デザイン思考」が、大きな注目を集めているといえます。
「デザイン思考」を進めるための5つのステップ
それでは「デザイン思考」は、具体的にどのように進めていけばよいのでしょうか。スタンフォード大学ハッソ・プラットナー・デザイン研究所が提唱するモデルを紹介しましょう。
Step1:Empathize(共感)
ユーザーの行動を観察する、あるいは意見を聞くことで、悩みや課題を把握しユーザーの思いに共感できるようにします。
Step2:Define(定義)
Step1で把握した悩みや課題をもとに、真の問題が何かを定義づけます。
Step3:Ideate(アイデア出し)
問題の解決を図るためのアイデアを出していきます。多くのアイデアをぶつけ合い、実現可能なものを絞り込んでいきます。
Step4:Prototype(試作)
アイデアをもとに、検証を行うための試作を作ります。
Step5:Test(テスト)
ユーザーに試作品を使ってもらい、改善を重ねます。多くの意見を集め、改善を重ねることでユーザーが本当に「欲しい」と思えるものにしていきます。
この5つのステップを繰り返すことで、さらにユーザーに受け入れられる製品・サービスづくりが行えるようになります。それに加えて、自分たちの思考プロセスを磨き上げることも可能となります。
経産省がDX推進における「デザイン思考」の応用を後押し
「デザイン思考」は、なぜ「DX」と密接な関係にあると言われているのでしょうか。そのきっかけのひとつが、経済産業省が2018年9月に発表した「DXレポート」です。レポートでは「DXを実行することのできる人材の育成と確保は各社にとって最重要事項」とした上で、「ベンダー企業に求められる人材」の条件に「ユーザー起点でデザイン思考を活用し、UX(ユーザーエクスペリエンス)を設計し、要求としてまとめ上げる人材」※を挙げています。
(※)『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』経済産業省 デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会(2018年9月7日)
今や企業の成長にDXは欠かせませんが、DXとはあくまで手段でしかなく、ただ導入すれば済むといった話でもありません。DXを推進するにあたって、まず何のためにDXを行うのかを明確にしなければなりません。
新しく導入した機器やシステムが、結局、従業員たちに受け入れらないまま、誰も使わなくなった・・・そんな失敗を繰り返すことなくDX導入を成功に導くためには、そのユーザーとなる従業員の本音、時には従業員自身も気づいていない潜在的な要望を読み取り、その要望に応える必要があるのです。
「仏作って魂入れず」ということわざがありますが、まさにDXにとっての魂とは、ユーザーに受け入れられることに他なりません。そしてユーザーに受け入れられるために必要なプロセスが「デザイン思考」に他ならないのです。企業でのDX推進を担っていく人材は、どうしてもITやデジタルに精通したことを第一条件にしがちですが、着実なDX推進を行うためには、IT知識に加え「デザイン思考」のできる人材を育成、あるいはリクルートしていかなければなりません。
「デザイン思考」には欠点もあるが、ぜひ研究していただきたいテーマ
DX推進において、不可欠の要素として「デザイン思考」を紹介してきました。しかし当然ですが「デザイン思考」で全てが解決できるわけではなく、欠点もあります。
ひとつは「デザイン思考」はユーザーの思いやインサイトを観察、分析することから思考がスタートします。そのため新規事業やゼロベースから創り上げる製品・サービスには不向きだといわれています。また本質的な課題をあぶりだし、そのソリューションとして多くのアイデアを出し検討するには、多くの時間と労力が必要です。一般的に「デザイン思考」を進めるには、7~8人のメンバーが必要だとされます。早急な結果が求められるプロジェクトにも不向きかもしれません。
それでも「デザイン思考」には大きなメリットがあります。ユーザー目線での課題・問題を起点とした「デザイン思考」というプロセスを企業内で定着させることで、製品やサービス開発、あるいは営業活動においても強みとなり、他社に対して大きなアドバンテージとなるはずです。
あなたの会社でも、「デザイン思考」に取り組んでみてはいかがでしょうか。
◎製品名、会社名等は、各社の商標または登録商標です。