ビジネスから暮らしまで、「デジタルツイン」が世界を変える時代が来た!

ビジネスから暮らしまで、「デジタルツイン」が世界を変える時代が来た!
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市場規模は約20兆円へ!?世界が注目する「デジタルツイン」で企業DX!

現実世界と仮想世界を融合するDX技術「デジタルツイン」は、近年世界中の産業界で画期的な革新をもたらしており、2030年には世界の市場規模が約1,558億米ドル(約20兆円)になると予測されている。そこで今回は、国内外の最新事例をレポートするとともに、デジタルツインがもたらす企業の近未来像を探ってみた。

まず、「デジタルツイン」について、まとめておきたい。
近年の製造業DXの大きな推進力となっている技術に「サイバー・フィジカル・システム(CPS)」がある。現実空間(フィジカル)と仮想空間(サイバー)を融合させるテクノロジーの総称だが、デジタルツインはそのCPSと同義で使われることが多い。工場や製品など現実空間にある事物を「双子(ツイン)」として仮想空間に再現して事前にシミュレーションや分析を行い、それを現実世界にフィードバックさせる仕組み全体を指している。
当初は製造業で広まり始めたデジタルツインだが、近年では世界中の先進企業がデジタルツインの導入によって革新を起こしており、活用分野の裾野は急速に広がっている。グローバルインフォメーションの調査によれば、世界のデジタルツインの市場規模は、2022年から2030年の間、年平均成長率39.1%で推移し、2030年には約1,558億米ドル(約20兆円)の規模に成長すると予測されている。まさに、産業界におけるデジタル化の中核技術と位置づけられているのだ。

「メタバース」との違いは?従来型のシミュレーションを圧倒する実力

デジタルツインに似たバズワードに「メタバース」があるが、両者は似て非なるものだ。メタバースは、インターネット上の仮想空間にアバター(分身)で参加しコミュニケーションやアクションを行うもので、そうした仮想空間を提供するサービスの総称として使われることが多い。一方のデジタルツインは、設計データやセンシングデータなど現実世界のデータをもとにして再現されたミラーワールドである。メタバースがゲームや交流のために創造された「仮想空間」であるのに対し、デジタルツインは現実の製品や工場に分析成果をフィードバックするために生成された「鏡像世界」と規定することができる。

デジタルツインと従来からあるシミュレーションシステムはどこが違うのか、という点もよく指摘されることだ。コンピュータによるシミュレーション技術は従来から存在するが、デジタルツインは従来型を、精度の面で圧倒的に上回る。
通常のシミュレーションは、想定される種々のシナリオをもとに数値的・物理的モデルを設計し実験を行うが、それらはあくまで「模擬実験」であって現実世界を正確に仮定したものではない。そのため誤差がつきもので、実験結果を実際に現場で試してみて修正・改善を加えていくプロセスが必須となる。
一方、デジタルツインは、設計データやセンシングデータをもとに双子を生成することで、限りなく現実に近いシミュレーション結果を得ることができる。実際に、工作機械などの分野ではすでに、デジタルツインによるシミュレーション結果と実際の製造品の誤差が数%という、極めて精度の高いシステムが開発されている。
従来型のシミュレーションが、どこまで手を加えても仮説による「そっくりさん」に留まるのに対し、デジタルツインの場合は現実のDNAをもとにした「双子」の片一方を創出させることができる。これが、現実空間と仮想空間を融合させる技術「CPS」の最大の特長である。

活用の幅が広がるデジタルツインの機能

デジタルツインの機能としては、主として次の4点が挙げられる。

(1)現実世界をデジタル上に再現
製品設計データや工場の3Dレイアウトなどをもとにして、デジタル空間にコピー(双子)を生成する。

(2)デジタル上でのシミュレーション・検証・改善
試作品や工場ラインのシミュレーションを行い、完成度が高まるまで事前検証と改善を繰り返す。

(3)シミュレーション結果を現実世界へ反映
完成度を高めたシミュレーション結果を、製造機器や工場ラインなど現実世界へ反映させる。仮想現実・拡張現実・複合現実などの「XR技術」を駆使して、効果的な指示を現実空間へとフィードバックできる。

(4)現実世界のセンシングデータ・実行結果をデジタルへ連携
IoTセンサなどで集めた製品やラインの稼働データ、人的作業状況などをデジタル空間に連携させて、製品やラインの品質を向上させ、保守管理などにも生かす。

デジタルツインのメリット

次に、デジタルツイン導入による具体的なメリットを見ていきたい。

◎研究開発の効率化・短期化・コストダウン

デジタルツインによる製品や工場ラインの研究開発は、設計・試作・試験が仮想空間で行えるため、物理空間で行う際の研究開発コストが大幅に削減できる。そのため企業は、開発リスクを最小限に抑えながら、より短期間での研究開発が可能になる。従来、一部の熟練職能者の技能や経験に頼っていた製品開発が、デジタル空間なら完成レベルにまで一気に進めることができる。また、シミュレーション結果を、専門職以外のスタッフでも直感的に理解しやすい種々のXR(仮想現実・拡張現実・複合現実などの総称)で表現することで、実験結果の確認や評価・改善がより効率的に行える点もメリットだ。

◎IoTとの連携で品質が向上

製品やラインの稼働が始まると、IoTセンサがリアルタイムのデータを収集し、ビッグデータとして蓄積していく。これら物理空間のデータをデジタル空間にフィードバックすることで、製品やラインの改善・品質向上・最適化が継続的に行える。デジタル空間での実験は、データを入れ替えるだけで容易に繰り返すことができるため、物理空間に比べて製品改良のハードルはぐんと低くなる。物理的な制約を受けない、デジタル空間ならではの運用メリットと言える。

◎製品やラインの安定した稼働をサポート

IoTセンサによるリアルタイムのデータをデジタル空間に連携させることで、稼働後の製品やラインの最新状況が常時把握できる。従来、熟練の巡視員が音や視覚、温度などで判別していた稼働状況を、デジタルツインはセンシングデータによって精緻に判別し、機械や部品の消耗度、保守メンテナンスの要否などを正確に割り出す。その結果、突発的な稼働停止などダウンタイムのリスクが低減でき、収益性も向上する。

産業界におけるデジタルツインの導入事例

製造業を中心に導入事例が広がってきたデジタルツインだが、技術の成熟化にともない、近年では、農業、自動車・輸送、エネルギー、ヘルスケア、ライフサイエンス、住宅、商業、小売・消費財、航空宇宙、通信など幅広い業界での導入が相次いでいる。
日本でもデジタルツインを導入する企業は増えているが、代表的な事例を挙げてみよう。

<プラントエンジニアリング>

◎プラント内部で起こっていることをデジタル空間上で可視化

化学メーカー大手のA社では、デジタルツインで仮想の化学プラントを構築し、運転状況を検証する技術開発を始めた。一般に化学プラントでは、プラント内部でどのような反応が起こっているのかをリアルタイムで見ることはできない。これまでは、現場の熟練技能者の判断に頼るしかなかったが、人によってばらつきがあり、判断基準も明確ではない。
それがデジタルツインなら、プラント内部で何が起きているかを仮想空間で再現し、ガス濃度などを可視化することができる。可視化によって異常の予知や判断基準が明確になり、人的要素による曖昧さがなくなる。技術が確立できれば、リアルタイムでプラントを監視し、生産最適化のための運転変更が可能になる。将来的にはAI技術を組み合わせ、プラント運転を自動制御できるシステム構築を目指している。まさに、化学メーカー業界にイノベーションをもたらす可能性を秘めた技術と言える。

<国土・都市計画>
◎双子のデジタル都市を生成して都市計画を最適化

都市計画にデジタルツインを活用している事例として世界的に有名なのは、シンガポールである。世界第2位の人口密度を持つシンガポールでは、垂直方向の建物やインフラの整備が盛んで、従来の2次元地図では情報が網羅できないジレンマに陥っていた。そこで国土全体を3Dマップ化する事業が立ち上がり、進化を続けるうちに現在の国土全体のデジタルツイン化が完成した。
こうした先進事例に触発されて、都市計画にデジタルツインを活用する国や都市が増えており、日本でも東京都が先鞭を着けている。都は防災や交通、エネルギーなど様々な分野の政策立案などにデジタルツインを役立てていく方針で、現在は2次元画面から水道管などの地下埋設物の高精度な3Dモデルを作成して、管理を効率化する実証に取り組んでいる。
政府も国土計画や防災の分野で、デジタルツインの活用を進めている。内閣府では、「防災デジタルツイン」で、都市空間をデジタル上に再現し、シミュレーターによって被災状況の推定・可視化、対策の有効性検討等に役立て、被害を最小化する取り組みを行っている。

国交省では、デジタルツインの実現に向けて、データ連携を拡充する取り組み「国土交通データプラットフォーム」の構築を進めている。国交省が多く保有するデータと民間等のデータを連携し、国土のデジタルツイン化を構想。すでに、全国56都市の「3D都市モデル(PLATEAU)」と「国土地盤情報(全国のボーリング結果等の地盤データ約25万件)」のデータ連携が進んでいる。官民が協力して多種多様なデータを連携・統合することができれば、さまざまな分野で有益なシミュレーションができる日本列島の双子がサイバー空間に誕生するはずだ。

産業分野以外でも広がる、デジタルツイン活用事例

前述した以外にも国内では近年、自動車、空調、繊維、不動産、医療などの分野で先進事例が相次いで登場している。産業分野のみならず、日常生活に密着したサービスでも、デジタルツインは活躍を始めている。

不動産大手のB社では、販売中のマンションのモデルルームをデジタルツインで再現し、オンライン上で確認できるサービスを開始した。3D空間を自由に歩き回って見学ができるのはもちろん、昼夜の室内変化、家具の表示・非表示など、現実空間では体験できないサイバー空間ならではのプレゼンテーションを実現している。こうした活用アイデアと導入事例が充実していけば、非接触型営業が推奨されるニューノーマル時代に最適な営業ツールとして、デジタルツインは活躍の場を広げていくはずだ。

医療分野でも、デジタルツインは活躍している。精密機器メーカーのC社は早くから医療DXに取り組んでおり、内視鏡を用いた手術を仮想空間でシミュレーションするデジタルツインサービスを2018年から提供している。患者が医療機関で撮影したコンピュータ断層撮影装置(CT)や磁気共鳴画像装置(MRI)の画像を読み込み、仮想空間に3次元で描画。医師が、精密に再現した術具を使って脊椎内視鏡手術のシミュレーションや、肝臓などの軟組織臓器に対する切除・変形シミュレーションが行えるというものだ。
患者ごとに最適化した手術が事前に予行演習できるのは、医師にも患者にとっても大きなメリットである。とりわけ、熟練するまでに時間がかかる内視鏡手術が、仮想空間でリスクなしに反復練習できるのは新人外科医にとっては大きなメリットだ。医療現場にも患者にも恩恵をもたらすデジタル技術といえる。

また空調の最適化にも、デジタルツインは活用されている。
大手空調メーカーのD社は大阪大学との連携で、IoTセンサで収集したデータでキャンパスのデジタルツインを仮想空間に生成し、人の流れを読んだ空調管理を街全体に供給するスマートシティ事業の開発に乗り出した。大学構内をひとつの街と仮定して、キャンパス内に人感センサやサーモセンサなどのIoTセンサを400台余り設置し、人の流れや環境データを常時取得。個人情報を保護した上でデジタルツインを仮想空間に再現し、キャンパスをリアルタイムに可視化している。デジタルツインを舞台に、AIで人の流れを予測して空調を管理する都市全体の最適エネルギーマネジメントや個別空調管理、室内空間の快適性などを検証する。実証実験とはいえ、仮想空間でのシミュレーションなので、実機や電力のコストは不要でリアルタイムの現実環境を反映した精緻な実験が繰り返しできる。デジタルツインならではの、導入メリットである。

デジタルツインはオープンイノベーションを促す

デジタルツインの大きな特長は、これまで職能者や企業が有していた「暗黙知(長年の経験や勘に基づく知識)」を、誰もが活用できる「形式知(言語化・視覚化・数式化・マニュアル化された知識)」に置き換える点にある。つきつめていくとこれは、企業が保有する技術ノウハウのオープン化に行き着く。いわゆる「オープンイノベーション」である。
インターネット全盛時代になり、かつて一部の人だけが保有していた情報やナレッジがオープン化しているのは知っての通りだが、これと同じ現象が、企業活動の分野でも起きようとしている。その起爆剤のひとつがデジタルツインである。

社会のデジタル化、インターネットの発展が続いているように、企業の競争力そのものと言える技術ノウハウが、オープン化される流れは止めようがない。この時流をチャンスととらえ、自社のノウハウをデジタルツインでパッケージ化し、広い世界へ販売する企業も出てくるはずだ。

事実、デジタルツインの先駆者であるドイツBMWではすでに、自社の設計データやライン構築ノウハウをライセンス販売している。ベトナムのビンファストはこれを利用して、会社設立からわずか2年でベトナム初の国産自動車を発売した。デジタルツイン技術が成熟すれば、こうした事例は、国内外のあらゆる産業分野で起こり得るはずだ。
蒸気機関が生まれて世界中に産業革命が巻き起こされたように、現実空間と仮想空間を融合させる技術「CPS」が、世界中で進んでいる第4次産業革命を加速させると言われている所以である。

◎製品名、会社名等は、各社の商標または登録商標です。

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著者 OPTAGE for Business コラム編集部

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