- 公開日:2022年11月09日
企業の7割がクラウドを利用する時代に!「必要ない」という選択肢はもうない?
クラウド黎明期からわずか10年で企業の7割がユーザーに
総務省が毎年公表している「通信利用動向調査」の最新版(2021年調査結果)によると、クラウドコンピューティングサービスを導入している企業の割合はついに7割を突破した。この10年余りでクラウドは、ビジネスに欠かせないICTツールとなったわけだ。そこで今回は、国内企業のクラウド活用実態の変遷から、企業のIT成熟度に応じたクラウド戦略の方向性を検討してみた。
「通信利用動向調査」は、総務省が一般世帯と企業を対象に毎年調査をしているもので、2011年から企業向けの調査項目の中に、「クラウドコンピューティングサービスの利用状況」が加えられた。3大パブリッククラウドのサービスが出揃い、営業が本格化したのが2010年だったので、クラウドサービス市場の成長期とシンクロしている同調査を観察することで、国内企業のクラウド利用実態の移り変わりが把握できるはずだ。
まず、クラウドサービスを利用している企業の割合の推移を見てみたい。次のグラフは、同調査を元に「一部でもクラウドサービスを利用している企業」と「利用していない企業」を対比したものだ。
<クラウドサービスの利用状況の推移>
出典:「通信利用動向調査(平成23年~令和3年)」(総務省)を加工して作成
2011年には21.6%だった利用企業の割合は一貫して増加を続け、2017年で非利用企業数を逆転。直近の2021年調査では、ついに7割を超える企業がクラウドサービスを利用するに至っている。この結果からも、企業活動においてクラウドはビジネスになくてはならないICTツールとなっていることがわかる。
コロナ禍、企業DXニーズ、サイバー攻撃激化でクラウド活用に弾みが
次に、クラウドを導入している企業が、「利用しているクラウドサービスの内容」を見ていくことにする。調査項目が18項目あり、%にばらつきがあって一度に概観するのは適さないので、比較的近似値のものを上位項目から3群に分けてグラフ化した。
まず、直近の2021年調査で過半数以上の企業が利用している上位3項目のサービスをまとめたのが次のグラフだ。
<利用しているクラウドサービスの内容(第1群:上位3項目)>
出典:「通信利用動向調査(平成23年~令和3年)」(総務省)を加工して作成
トップの「ファイル保管・データ共有」は、ほぼ一貫して上昇を続けているサービスで、直近では61%の企業が利用をしている。一方、ICTツールのスタンダードである電子メールは、早期にクラウドへの移行が進んだが、50%前後のまま頭打ちになっている。代わりに伸びたのが「ファイル保管・データ共有」である。背景としては、テレワークの普及によるオンラインでのデータ共有の必要性が高まったことや、サイバー攻撃のリスク回避といった理由が考えられる。
また、当初3割弱の企業しか利用していなかった「社内情報共有・ポータル」も、ほぼ一貫して上昇を続けており、直近では52%の企業が利用するに至っている。背景として考えられるのは、コロナ禍によるテレワークの普及と企業DXニーズの高まりであろう。「ファイル保管・データ共有」と併せて、昨今のビジネスシーンで重宝されるICTツールとなっていることが見て取れる。
次に、4位以下の第2群に位置している3項目を見ていきたい。
<利用しているクラウドサービスの内容(第2群)>
出典:「通信利用動向調査(平成23年~令和3年)」(総務省)を加工して作成
目を引くのは、「給与、財務会計、人事」の一定した伸びで、当初2割程度の利用率だったものが、この10年で約2倍に増加している。近年、企業DXで目覚ましい成果を上げ、業務効率化に貢献しているのは、オンプレミスのシステムや社内業務をクラウドへ移行する「クラウドDX」と言われており、バックオフィス業務のクラウド化は投資対効果が最も出やすいDXのひとつだ。電子帳簿保存法の改正に伴い、会計ソフトをクラウドサービスに移行する企業が増えており、その流れを反映した調査結果と見ることができる。
同様に、「データバックアップ」の利用もほぼ一定して上昇している。近年、BCP(事業継続計画)やランサムウエア対策のために、クラウド上に重要な企業情報を分散して保管する企業が増えているが、そうした傾向がこの調査結果に表れていると考えられる。
一方、当初から3割余りの企業が利用している「スケジュール共有」は、過去2年で際立った上昇を見せており、コロナ禍で急増したテレワークに起因しての結果と考えられる。
2015年頃からトップグループ企業がDXを加速し始めた
次に、7位以下のその他の11項目をまとめて見ることにする。
<利用しているクラウドサービスの内容(その他)>
出典:「通信利用動向調査(平成23年~令和3年)」(総務省)を加工して作成
利用率が20%以下の項目ばかりで、傾向や差異を判別しにくいのだが、全体を一見して気がつくのは、2014年までの初期の4年間はそれぞれのサービス利用の伸び率はわずかであったものが、2015年以降は、伸び率が目立って上昇している点である。特に、「取引先との情報共有」「営業支援」「eラーニング」「プロジェクト管理」といった上位項目は、比較的高い伸びを見せている。これは何を意味するのか――。
調査報告書のコメントからもわかるように、これらのクラウドサービスは、企業のIT成熟度が比較的上位にあるユーザー企業を想定して設けられた質問項目である。そうした上位ユーザー企業が2015年以降目立って高度なクラウド活用を活発化させていったという事実は、トップグループを形成していた企業が、クラウドによる新たな企業DXに取り組み始めたことを意味していると考えられるのではないだろうか。
とりわけ、経済産業省の「DXレポート」が発表された2018年とコロナ禍が始まった2019年以後のユーザー伸び率は突出しており、大企業を中心に企業のデジタル化が急速に進展していったことが推測される。企業DXに力を入れている先頭集団企業がギアを一段高めて、DX推進をさらに加速させつつある様子が垣間見えるようだ。
企業のIT成熟度別に選択すべきクラウド戦略
さて、ここまでの観察結果を整理してみると、企業におけるクラウドサービスの利用状況から、全社的にデジタル化が進み、従業員のICTリテラシーも高い企業か否かの「IT成熟度」が大まかに判別できることがわかる。次の表は、クラウドサービス利用の進捗度に応じて、「A・B・Cランク」別に企業を大別したものである。一概に言えるものではないが、大まかにランク付けするために設定した、ひとつのモデルパターンとしてご覧いただきたい。
<クラウドサービスの利用実態別に見た企業のランク付けと今後の戦略の方向性>
では、IT成熟度のグループごとに、今後選択すべきクラウド戦略の方向性を検討していくことにする。下位グループから見ていきたい。
Cランクのクラウド未利用企業は、全体の3割に当たる中小企業を中心としたグループである。このクラスは何を置いても、まずはクラウドの導入を検討することが第一の課題といえる。なぜなら、日常業務の効率化やコスト削減を実現する上で、クラウドサービスの活用が有効な手段となるからだ。
パブリッククラウドの特長は、従来は企業が所有してきたIT資産に代わる、ハードウエアリソースやソフトウエアをクラウドプロバイダーが所有し、ユーザーはインターネットを介してそれを利用する点にある。これに、ネット上で利用できるアプリケーションサービスのSaaS(Software as a Service)をセットにして、業務改革を推進する手法が初歩段階といえる。パブリッククラウドとSaaSで仕事ができれば、ハードウエアやソフトウエアの購入・管理が不要で、使いたいときに利用した分だけの料金を支払うだけで済む。IT資産を自前で持たずクラウドプロバイダーに任せることで、自社で保有するPCのアップグレード業務の負担、ハードウエアの保守管理費を一気に軽減でき、コスト削減をはじめIT資産管理の合理化、運用負荷軽減など、さまざまな効果が生まれる。
まずは、社内情報の共有やテレワークを支援するためにも、コミュニケーション機能とOfficeなどのアプリケーションがセットになったベーシックなグループウエアの導入から検討するのがよいだろう。日常業務の効率化はもとより、従業員間の情報共有が向上し、生産性が格段に高まるはずだ。直近の同調査でも、クラウドの導入が、「非常に効果があった」「ある程度効果があった」と回答する企業は全体の88.2%に上っている。
それでも、クラウドの導入に二の足を踏んでいる企業の多くは、セキュリティ面に不安を持っているケースが多いのではないだろうか。しかし政府も推奨しているように、現在のクラウドサービスのセキュリティ体制は非常に強固で、情報漏えい等のインシデントはユーザーによるうっかりミスや運用の手違いによるものが多い。そういった不安要素も含めて、信頼性の高いセキュリティ体制やユーザーサポートを完備しているサービス事業者を選定したり、社内での運用ルールを整備する等の備えはしっかりと心がけておきたい。
企業のクラウド利用が普及した結果、近年では、パブリッククラウドとプライベートクラウド、オンプレミスそれぞれの利点を組み合わせてIT環境を構築する「ハイブリッドクラウド」を選択する企業が増えている。これからクラウドを導入する企業であれば、そういった先行事例を参考にしつつ、自社のクラウド戦略を立案するのが賢明だろう。
Bランクに位置付けたのは、基礎的なクラウドサービスは導入済みで、社内業務の効率化やコスト削減が概ね実践できている企業グループである。従業員はグループウエアによるSaaSの扱いにも慣れており、テレワークの実施率も高い。こうした企業の基盤はデジタル化できているのだが、そこからさらに営業支援や企業競争力の強化といった攻めのDXに着手できずにいる多くの企業である。
直近の同調査でも、8~9割の企業はいまだ攻めのDXには踏み込めていない。ただ、そうしたユーザー企業でも現状では、社内業務の効率化、経費削減といったクラウドDXは実現できているのだから少なくともスタート地点には立てている。今後は、さらに目標設定を高め、営業力強化や新規事業開拓といった成果を目指して、ベンダー企業のサポート等を受けつつ、クラウドサービスの活用範囲を広げていくことが当面の重要ミッションと言えるだろう。
Aランクに位置づけられるクラウド活用の先端企業は、いまだ全体の1割~2割に過ぎない。しかし、そういった企業から画期的なDXが誕生している事例は、国内でも少しずつ観測されている。IoTで収集したビッグデータをベースにAIで最適解を導出するデータドリブン経営や、現実空間と仮想空間を融合させて精緻な製品や工場レイアウトを生み出す「サイバー・フィジカル・システム(CPS)」など、10年前には及びもつかなかったデジタル技術による企業DXが次々に誕生している。その高度な仕組み全体を支えるバックボーンがクラウドコンピューティングである。
調査からも明らかなように、日本ではそういった先駆的企業はまだ少数で、圧倒的多数の後続企業が徐々に攻めのDXに乗り出そうとしている段階である。そうした多数のユーザー企業が参入し、新たな発想やアイデアが湧き上がるボトムアップ型の競争が活発化した時、産業界や市場には革新が起きるものである。これからどのようなクラウドDXが起きるのか、今後のクラウドサービス市場の進展に注目していきたい。
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