出社とテレワークは6:4がベスト!?「いいとこ取り」のハイブリッドワークとは

出社とテレワークは6:4がベスト!?「いいとこ取り」のハイブリッドワークとは
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ハイブリッドワークを制度として認める企業が増えている

ニューノーマル時代となり、テレワークと出社を併用する「ハイブリッドワーク」を導入する企業が増えてきた。テレワークは、フルタイム出社よりも働く人の幸福度を高めてくれるのは事実だが、孤立感から不安定な心理状態になることが調査でも明らかになっている。そこで今回は、テレワークと出社の利点をうまく組み合わせて「働き方の最適化」を図る、バランスのとれたハイブリッドワークの運用方法を特集する。

コロナ禍での生活も2年半が過ぎ、大企業を中心にハイブリッドワークが定着してきた。一方、最近の調査では企業のテレワーク指向がやや減少傾向にあることが分かった。

<テレワーク実施率の推移(正社員ベース)>

パーソル総合研究所「第7回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する調査(2022年8月公開)」を元に作成

この問題に詳しいパーソル総合研究所の最新調査「第7回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する調査(2022年8月公開)」によると、過去最大の新規感染者数を記録している直近の新型コロナ感染第7波(2022年7月)における、正社員のテレワーク実施率は全国平均で25.6%。第6波時(2022年2月)の28.5%からやや減少していることがわかった。背景には、感染者数が過去最大の割には重症化率が低下しているために警戒心が薄れ、テレワークよりも出社を選択する企業が増えていることが考えられる。同研究所では、「このまま多くの日本企業がテレワークを忘れていくのか、それともテレワークを前提として働き方を変えていけるのか、今がまさに分水嶺と言える」と分析している。

同調査は、従業員数10人以上の中小企業を含む就労者約25,000人の調査であり、テレワーク実施率は国内全企業の平均値と見ることができる。しかしこれを、規模の大きな企業に絞って見ると、テレワークと出社を併用するハイブリッドワークを運用している企業の割合は思ったより高いことがわかる。中堅・大手企業を中心とした人事キーパーソンや経営者5,441人を対象にしたHRビジョンの「日本の人事部 人事白書2022」(2022年3月調査)によると、全体の78.5%の企業が出社とテレワークを組み合わせたハイブリッドワークを実施しており、さらに「今後目指す働き方」としては82.4%がハイブリッドワークを目指していることがわかった。中小企業ではハイブリッドワークの普及率は低いままだが、大手企業に限ってみればハイブリッドワークが日常化しつつある結果と見ることができる。

テレワーカーを襲う「相対的剥奪」の不安心理

こうして見るとハイブリッドワークは、大多数の企業就労者に支持されていて、この先も普及は進んでいくと思われがちだが、実際のところ、テレワークが働く人全員の幸福度を高めてくれるとは言えないケースもあることが、パーソル総合研究所の「働く人の幸せに関する調査」(2021年2月調査)で明らかになっている。
調査によると、テレワーカーは「働く幸せ実感」が出社者よりも高く、特に在宅勤務は「働く不幸せ実感」を低減する傾向が認められている。ところが、テレワーク勤務者だけに絞って調査してみると、「自己抑圧」「オーバーワーク」「協働不全」「疎外感」の4因子については、テレワーク勤務者の中でも良好な人と不良な人が2極化していることが認められた。

不良を感じる傾向は、特に20代の若年層に顕著であった。中高年齢層においては、テレワークは概ね好意的に受け止められているものの、就労年数の短い若年層にとってテレワークは、「チームワーク」「他者貢献」「自己抑圧」「疎外感」といった面で不幸せを実感する働き方になっているのである。本来、快適であるはずのテレワークが、なぜマイナス効果をもたらしているのか――。

その原因を同研究所では、社会学でよく知られる理論「相対的剥奪」の状態にテレワーカーが陥るからだと指摘している。「相対的剥奪」とは、他人と自己を比較して、自分にはないものを他人が持っていると不安や欠乏を感じてしまう心理状態のことだ。テレワークのケースで言うと、出社グループとテレワーカーの間に生じる情報格差が原因となる。出社グループの間で、自分が知らない話題や案件で会話が盛り上がり、情報格差という見えない領域が増えると、テレワーカーは「自分は出社グループに比べて会話や交流が少なくチームワークが欠けている。自分一人が取り残されている」といった焦りや不安を抱いてしまうのである。

会社の同僚や上司と気心の知れた間柄であるベテラン社員なら、そういった不安心理は起きにくいのだが、20代の若手社員の場合は、「自分だけ取り残されて評価されないのではないか」といった不安心理へと発展してしまう。それが、テレワークに不良を感じる割合が20代に多い理由であると、同研究所では分析している。

ハイブリッドワークの運用を現場に丸投げしてはいけない

これらの研究結果から、企業がハイブリッドワークを制度として導入する際に、第一に押さえておかなければならない重要なポイントが見えてくる。それは、在宅勤務と出社の頻度を各部署や社員の自由意志に任せてしまわないことである。
同研究所の調査では、出社率が7~8割と出社グループが多い状態だとテレワーカーの不安心理が最も高まり、逆に出社率5割以下であれば不安は低下するという結果が出ている。自分が属しているのがマジョリティなのかマイノリティなのか? テレワーカーは、自分が多数派に属していれば相対的剥奪に陥らず、安心して在宅勤務に集中することができるということだ。
しかし現状では、全国約2万人の正社員のうち57%が、テレワークに関する勤務先の方針が「特にない」と回答している。運用権限を現場に丸投げにしてしまうと、相対的剥奪による不安心理が増幅し、本来必要のない出社が増えてしまうのだが、現実には5割余りの企業で、そうした状態を見過ごしているのである。
ハイブリッドワークの導入をサポートするベンダー企業の間では、「出社日数についてはあえてルールを細かく決めすぎない方が業務効率は高まる」とする説もあるのだが、テレワークに潜在的に不安を感じてしまう社員(特に若年層)もいることを認識しておくべきであろう。

ここまで見てきたように、テレワークはフルタイムの出社よりも快適で、働く人の幸福度を高めるのは事実だ。しかし、出社グループが絶対多数を占めると情報格差が生じ、「オフィスに居ないと不利益になるのでは」という不安心理が高まる。すなわち、テレワークは働く人のワークライフバランスを向上させてくれるが、ウエルビーイング(心身ともに良好な状態にあることを意味する概念)を損なう作用もある、というジレンマが起きるのである。

では、この問題を解決するにはどう対処すればよいのか? その答えのヒントが、米国の先進IT企業が模索し始めた「オフィス勤務回帰」の動きに現れている。

米国の大手IT企業は、フルタイムリモートからハイブリッドワークへシフトし始めた

2022年に入り、テレワーク主体だった米国の大手IT企業が、相次いで社員をオフィスに呼び戻す動きを見せている。最初に動いたのはMicrosoftで、「2月末までに社員をオフィスに呼び戻したい」と発表した。これに同調するかのようにGoogleが4月から、「テレワークは週2日、週3日は出社すること」を社員に義務付けた。Appleでも同様に、「週3日以上のオフィス勤務」を社員に呼びかけたのだが、社員の多くがこれに反発、著名なディレクターが退職してしまうという騒動に発展している。

世界トップレベルのITリテラシーを持つ社員が勤務する米国の先端IT企業が、ここにきてなぜハイブリッドワークを志向し始めたのか。それは各社の経営トップが、社員が同じ場所と時間を共有するオフィス勤務ならではのメリットを失ってはならないと考えているからに他ならない。

事実Googleでは、ハイブリッドワークの導入に際し、「オフィスは社員がお互いにシナジー(相互作用)を生む場所」であると、「出社することの意義」を再定義している。つまり、より高度でクリエイティブな仕事を生み出すためには、オフィス勤務は必要不可欠であると社員に宣言したのだ。同社では、それをサポートするために、オフィスレイアウトの変更や、オンラインとオフラインで情報格差が生まれないような工夫を行っている。

このように、米国の大手IT企業の動きを見る限り、テレワークと出社のバランスを上手に取りつつ両者の利点だけを組み合わせる、「いいとこ取り」のハイブリッドワークが、これからの時代の主流となりそうな気配である。では、ここからは、企業にとっても、働く人にとっても最適化された、バランスのよいハイブリッドワークの方向性を探っていきたい。

テレワークの利点を最大化して、デメリットを打ち消す工夫が必要

ハイブリッドワークを導入して組織力を向上させている成功企業の多くは、テレワークと出社の適正バランスを保ちつつ、両者の利点をうまく組み合わせてデメリットを打ち消す工夫をこらしたハイブリッドワークを構築している。

次の表は、テレワークと出社のメリット・デメリットをまとめたものだ。

<テレワークと出社のメリット・デメリット>

テレワークを導入することで引き出したい主なメリットは、業務効率の向上、社員のワークライフバランスと働く幸福度の向上、オフィスの最適化などだ。一方で、発生させたくないデメリットは、コミュニケーション不足による情報格差、情報セキュリティリスクの増大など。メリットの効果を最大化しつつ、デメリットのマイナス面を最小化するために必要な施策を講じることが重要だ。
第一に行うべきはハイブリッドワークに関するルールの明文化である。従業員が個別の場所で働く機会増えるため、出社ルールや規範、ガイダンス、会社への報告・連絡・相談等のルールを明文化し、全社員に周知することが必要になる。漫然と出社するのではなく、「いつ、何のためにオフィス勤務をするのか」を明確にすれば業務効率も向上する。

次に、テレワークと出社の頻度をどれくらいに設定するのかが重要なポイントとなる。在宅勤務とオフィス勤務、いずれを主・従として運用するのがベストなのか、この問題に関しては諸説あり、国内企業の間でも模索が続いている。在宅勤務を主とするのが最適解であるとする研究論文を2022年4月に発表したのが、ハーバード・ビジネス・スクールだ。調査では、管理職130人がオフィス勤務を25%未満、40%以上、その中間とする3つのグループに分けてハイブリッドワークを行った結果、週1~2日をオフィス勤務に充てた中間グループが、他グループに比べよい仕事が残せたという。週に3~4日在宅勤務をして、1~2日出社するハイブリッドワークが、同僚から孤立することなくワークライフバランスを向上させ、生産性を高めると同論文では結論づけている。
一方その逆に、オフィス勤務を主とする方向にシフトし始めたのが、先に示した米国大手IT企業である。各社とも共通しているのは、「週5日のうち3日以上のオフィス勤務、テレワークは2日まで」という原則である。ハーバード・ビジネス・スクールの研究結果とは比率が違うが、米国のビッグIT企業が下した判断から考えると、出社とテレワークの比率は6:4あたりに設定するのがベターであるという結論に行き着くのではないだろうか。

先進企業の間では、部署のチームメイトが出勤する曜日を決めておき、その日に集中的に協働作業や企画開発を行うようにしている。部署ごとの曜日差出勤を均等配分すれば、出社率の平準化にも役立つ。部署の特性や事情で運用に弾力性は持たせても、出社率が特定の曜日に高まり過ぎないようにバランスをとることも重要なポイントだ。

情報格差をなくすことがハイブリッドワーク運用のポイント

次に留意したいのが、テレワーカーと出社グループとの間に生じる情報格差の問題である。ともすればそれが「オフィスにいる、いないによって不公平が生じるのではないか」といった疑心暗鬼を呼び起こすことになるからだ。問題に対処するには、出社主体グループとテレワークグループとの間に情報格差が生じないような仕組みづくりや、社員同士のコミュニケーションを円滑にするICTシステムを構築しておくことが重要になる。
大手IT企業のA社では、こうした情報格差を解消するために、オンライン上の「仮想オフィス」を本社にしている。書類や情報の保存・共有、申請承認などの諸手続きはすべてオンライン上で行い、会議室で行うミーティングはオンライン会議に移行。口頭でのやり取りも議事録を作成してオンライン上で共有するなど、社員間のコミュニケーションの記録をすべてオンラインに残している。つまり、テレワーカーに見えない領域をつくらないことで、オフィス勤務者との情報格差を解消しているのだ。同社ではこうした仮想オフィスの設置によって、出社率10%という驚異的なハイブリッドワークを実現している。

一方、ハイブリッドワークの運用に際しては、オフィス勤務時のメリットも底上げしていくことが重要だ。ハイブリッドワークの導入でオフィス勤務時間が以前より快適になれば、生産性も高まる。何よりオフィス勤務は、社員間のコミュニケーションや意思疎通がダイレクトにでき、テレワークでは生じないシナジー効果によってクオリティの高い仕事を生み出すことができる。また、チームワークが高まり、部署としての組織力が強くなることもある。そのためには、オフィス環境を再編成して最適化するのが、ハイブリッドワーク時代のオフィスのあるべき姿と考える企業が増えている。

教育・生活事業の大手企業B社では、ハイブリッドワークの拡大にあたって本部オフィスを全面リニューアル。フリーアドレスの導入や社内コミュニケーションを促進するコラボレーションスペース、オンライン会議の専用スペースなどを設置した。特に、出勤メンバー同士の会議ができるコラボレーションスペースは、カフェのようなアメニティとビジネス機能を完備させ、社員が集って生じるシナジー効果を最大限引き出せるようにしている。

「いいとこ取り」のハイブリッドワークのポイント

ここまで見てきたように、ハイブリッドワークの先進企業は、バランスのとれた社員満足度の高い働き方を確立するためにさまざまな取り組みを行っている。先進事例を参考に、ハイブリッドワークを成功させるためのポイントをまとめておく。

◎ハイブリッドワークに関するルールの明文化と社員への周知
◎社員のワークライフバランスとウエルビーイングの向上を運用理念とする
◎運用を各部署に丸投げせず、自社に見合ったテレワーク比率を設定する
◎同部署のチームメンバーが出社する曜日の設定と、出社率が偏らない平準化策
◎テレワーカーと出社グループとの間に生じる情報格差の解消
◎社員同士のコミュニケーションを促進するICTツールや相談窓口の整備
◎あらゆる業務や情報のオンライン化を推進し、テレワークとオフィスとの格差解消
◎オフィス環境の最適化で、出社時のコミュニケーションとシナジー効果を促進
◎情報漏えい等のセキュリティリスクを解消するセキュリティ体制の強化

こうした基本的な枠組みを整備した上で、各企業の特性に見合った、バランスのよいハイブリッドワークを運用することが「働き方の最適化」につながり、ひいては従業員のワークライフバランスや幸福度を向上させてくれるはずだ。

◎製品名、会社名等は、各社の商標または登録商標です。

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著者 OPTAGE for Business コラム編集部

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