- 公開日:2022年12月21日
話題のワード「信用スコア」は、“信用”できるか?
人の「信用度」を、さまざまなデータから数値化する「信用スコア」
「信用スコア」というものをご存じでしょうか。ここ数年、耳にする機会が増えた言葉です。「信用」も「スコア」も馴染みのある言葉なので、「信用スコア」も何となくわかったような、わからないような・・・。しかし、実はこの言葉、これからの「個人」を評価する際の、大きな基準となる可能性をもっているのです。
元来、「人」に対する信用度は、数値化しにくいものでした。たとえばみなさんが人を信用する、あるいは信用しないと判断する時、「あの人は信用度が85点だから、大丈夫」、「あの人は信用度が39点だから、ちょっと・・・」など、数値として判断している人はほとんどいないと思います。
「信用スコア」とは、年齢や性別、職業といった属性はもちろん、購買行動などさまざまなデータから、一人ひとりの信用度を数値化したものです。
ただし、実は私たちの「信用度」は、実際には明確に情報として記録されている場合があります。クレジットやローンを申し込む際に使われる「信用情報」がそれにあたります。
「信用情報」はCIC(Credit Information Center=割符販売法・貸金業法指定信用情報機関)が保有する情報で、クレジットやローンを申し込んだ際、本人を識別するための情報、申し込み内容、支払い状況などを記録し、CIC加盟会社で共有するものです。ローンなどを組む際、「審査が通りました」というのは、この「信用情報」に問題がなかったことをいいます。「信用スコア」も、この「信用情報」に似た部分もありますが、少し異なっています。
それでは次から、詳しくご説明していきましょう。
ネットでの購入履歴やSNSも分析対象となる「信用スコア」
「信用スコア」と「信用情報」の最も大きな違いは、信用度判断のベースとなるデータ量の違いです。「信用情報」では、年収や資産、金融機関からの借入状況、返済履歴が主となります。これらは金融機関が融資する可否を判断するための、必要最小限の情報だといえます。一方「信用スコア」は学歴、職業、購買履歴などから、SNS使用歴、決済アプリの利用状況といったかなりプライバシーに踏み込んだ情報までも分析対象となっています。
このようなさまざまな個人情報を、AIの分析により数値化したものが「信用スコア」です。
「信用スコア」が生まれた背景には、インターネットの発達により個人の情報、履歴といったものが収集しやすくなったことにあります。今や私たちは、パソコンやスマートフォンでWebサイトを見たり、SNSやネット通販を利用したりすることが当たり前になっています。しかしその度に、自分の情報を提供しているともいえるのです。
インターネットなどを通して収集されたデータを分析し、点数にしているのが信用スコアリングサービス会社です。スコアリングサービス会社は、分析から導き出したスコアを提携する企業に提供。提携企業はそのスコアに従って個人の信用度を判断します。
では「信用スコア」が高ければ、どのようなメリットがあるのでしょうか。「信用スコア」の普及が進む海外での活用方法を見れば、ローンやクレジットの与信など、従来の「信用情報」の用途に加え・・・
●商品やサービスの割引が受けられる
●病院などで後払いが可能になる
●保証金が不要になる
●金利が優遇される
・・・といった特典があります。それではすでに利用が進んでいる海外の状況を、もう少し詳しくご紹介しましょう。
中国では、「信用スコア」はもう社会インフラのひとつに
「信用スコア」先進国、中国ではスコアリングサービス会社として、「芝麻信用(ゴマ信用、Sesame Credit)」が大きな存在となっています。「芝麻信用」はアリババグループに属する信用機関で、膨大なデータを元に個人をスコアリングしています。
中国では現在、商品やサービスの支払いから税金まで、スマートフォンを使った決済が一般的となっています。そのトップシェアがアリババグループの「ALIPAY」。「ALIPAY」アプリには、「芝麻信用」も機能のひとつとして搭載されており、ユーザーの利用状況などをデータとして収集、分析を行っています。
アリババグループは詳細なスコアリング方法については明かしていませんが、大きな評価軸として「学歴」「勤務先」「資産」「返済」「人脈」「行動」の6つであることは公表しています。スコアリングされた点数によって、5つのランクに分けられます。
では「信用スコア」が高い人に、どのような特典があるのか、具体的に見ていきましょう。
「芝麻信用」の場合、以下のような特典があります。
●部屋を借りる際や、宿泊施設を利用する際に必要なデポジット(預り金)が、スコア600点以上の人は免除される
●基本的に前払いとなる病院の診療費が、がスコア650以上なら1,000元の与信枠が与えられ、自動的に精算できる
●ネットショッピングでは前払いが一般的だが、スコア700点で後払いが可能に
スコアを上げる方法についても明らかではありませんが、「ALIPAY」での決済を増やすのが重要な方法のひとつと予想されており、それがより一層、「ALIPAY」の活用を高める結果となっています。
一方、アメリカのスコアリングサービス会社としては「FICOスコア」が第一人者で、クレジットレポートなどをもとにスコアリングを行っています。「FICOスコア」は与信審査などに利用されていますが、最近では企業が従業員をリクルートする際のデータのひとつとして使ったり、家を貸す際の信用調査に使ったりなど、活用の範囲を広げています。
プライバシーの問題もあり、普及が進みにくい日本の状況
中国やアメリカでは、非常に広範囲で活用されはじめ、すでに社会インフラの一部と化した観もある「信用スコア」ですが、日本における状況はどうでしょうか。単刀直入にいうと、まだまだ普及は進んでいません。いくつかの原因が考えられています。
「信用スコア」自身の信用度を高めるには、膨大なデータの収集が必要です。その点、中国のアリババグループ、その傘下である「芝麻信用」は、ほぼ「独占企業体」といってよい存在で、国民の情報がほぼ一手に入手できる状況です。
日本でも楽天や、Yahoo!の親会社でありPayPayを傘下に持つソフトバンクグループ、NTTグループといった、モバイルの活用情報や購買行動などの履歴をデータとして持っている企業では、すでにスコアリングサービスを開始しているところもあります。しかし全般的に見て、個人の信用度をスコアリングするには、まだまだデータ量の蓄積が足りない状況だといえます。
また、個人の情報を把握されることに対し嫌悪感を持つ人も多いでしょう。中国のような生活のあらゆる面で「信用スコア」が活用されている国でさえ、「プライバシーとして問題では」という声があるとか。
個人を数値で表されることにも賛否両論あり、もっといえば、その数値が本当に信頼できるものかどうかわからない、という声も存在します。日本においては「個人情報保護法」という法律上の課題もあり、クリアしなければならないことが山積みといえます。
メリットを理解し、新しいツールとしての活用を
日本ではまだまだ課題の多い「信用スコア」ですが、中国やアメリカ以外の国でも普及が進んでいるようです。国外とのビジネスを考える場合、これからは「信用スコア」を抜きでは進まなくなる可能性も考えられるでしょう。
プライバシーの問題は決して軽視できるものではありませんが、それを乗り越えるだけのメリットもあります。たとえば「信用スコア」を利用する立場でいえば、その人の信用度がわかる点。信用度が高い人に依頼することで損失が回避できる点。信用度を高めるために不正などが抑止できる点などです。
反対にスコアを利用される立場では、高スコアになることで多くの特典が得られる点。自分や仕事に対しプラス評価される点。今までローンの与信などが厳しかったフリーランサーや個人事業主も、「信用スコア」を基準にすることでクリアできるようになります。
多くの課題が解決に向かい、やがて日本でも「信用スコア」がさまざまな方面で活用される時代が来ると考えられます。メリットにも目を向け、新しいツールとしての活用を考えてみるのも、いいかもしれません。
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