「MaaS」新時代、到来? 日本各地で取り組みが進む

「MaaS」新時代、到来? 日本各地で取り組みが進む
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ビジネスとしての将来性も見えてきた!?
「Mobility as a Service」の現在

新型コロナの感染拡大から、早くも3年が過ぎようとしています。厳しい行動制限の時期もありましたが、今年は久しぶりに規制のない正月を迎え、帰省や旅行に行かれた方も多いのでは?このような時代を背景に、再び注目度が高まったワードが「MaaS」です。

「MaaS」が今、注目されている理由は、人々の移動が活発になった時代性だけではありません。事業として具体化するにしたがって、大きなビジネスチャンスを生み出す可能性があるとわかってきたからです。

ご存じの方も多いと思いますが、「MaaS」は「Mobility as a Service」の略。直訳すれば「サービスとしての移動性(可動性)」という意味です。どこか近未来的な響きがあり、SF的でもあります。そのため、まだまだ先の話だと感じている方も少なくないと思います。

今、日本では国土交通省のバックアップもあり、各地で先進的な取り組みが進められようとしています。今回のコラムでは、具体的な「MaaS」への取り組み状況をご紹介しながら、未来の日本の移動手段について、ほんの少し夢を見てみたいと思います。

2016年、フィンランドから始まった「MaaS」の歴史

ところで「サービスとしての移動性」とは、どういうものなのでしょうか。まず「MaaS」とは何かについて、改めて押さえておきたいと思います。

「MaaS」のはじまりは、フィンランド。森と湖で有名なこの国は、移動の手段としてはほとんど自動車が中心。約550万の人口に対し、自動車保有台数は300万台(2015年)を超えている状況です。近年、日本でも懸念されているCO2(排ガス)問題や高齢者ドライバーの問題が、フィンランドでも問題視されていました。そこで2016年、「Whim(ウィム)」というアプリの導入により、公共交通機関の利用率を上げることを試みました。

「Whim」は、出発地と目的地を入力すれば、最適な移動手段をいくつか提示してくれ、自分が最適だと思った手段を選ぶという仕組みになっています。「あれ?このようなアプリなら、すでに使用しているよ」という方も多いでしょう。現在、よく使用されている乗換案内系のアプリは、「MaaS」の一種であるといえます。

「Whim」が、多くの乗換案内系アプリと異なる点は、鉄道やバス、タクシーはもちろん、カーシェア、シェアサイクルなど新しい交通手段を組み合わせ、最適な移動方法を提示してくれることです。有料プランを使えば、移動手段の予約、決済なども一括で済ませられるのが大きなメリットとなっています。

今や世界各国で導入の進む「Whim」ですが、日本では2022年9月に、事業者向けのモデルが公開され、これから導入が加速すると考えられます。

もちろん「Whim」は、「MaaS」の唯一の解答ではありません。先に述べた乗換案内系のアプリも含め、さまざまな方法での取り組みが始まっています。そんな例のいくつかを、国内の状況から紹介しましょう。

高齢化・過疎化対策の一環としても有効な、福祉型の「MaaS」事業

日本では国土交通省が「MaaS」推進の主体となっており、2022年7月13日には「日本版MaaS推進・支援事業」として、以下の6地域の事業を選定しました。

(1)北海道芽室町
(2)群馬県前橋市
(3)神奈川県横須賀市、他
(4)神奈川県三浦半島
(5)三重県菰野町
(6)九州全域

この中で、過疎化や高齢化対策としての意味合いが強いのが、北海道芽室町の「めむろコミ★タク」といえるでしょう。サブスク型乗合デマンドタクシーなどの導入により、農村地区から市街地への移動と買い物を支援します。またタクシーのドライバーと連携し、買い物代行や病院等の予約代行といったサービスを展開しています。

三重県菰野町の「おでかけこもの」は、芽室町と同様、乗合タクシーの活用に加え、鉄道やバスの運行状況、混雑状況をリアルタイムで検索でき、利用促進を図るものです。またイベント等との連動で学生と高齢者の交流を図るなどの試みも実施されています。

横須賀市の「Universal MaaS」は、下肢障がい者・視覚障がい者・高齢者など移動躊躇者を対象に、サポート手配の一括化や、バリアフリーマップ機能による移動可能な場所のナビゲーションといったサービスを展開しています。

移動性を高めることで、住民や観光客に高品位なサービス提供を目指す

人口が集積する市街地でのスムーズな移動サービスを提供するものが、前橋市の「MaeMaaS」。マイナンバーカードとの連動により、地域住民への運賃割引などを実施することで、市民の公共交通に対する意識改革を試みます。

多彩な移動手段を組み合わせ、観光客に対し充実した旅行体験を提供しようと試みる事業が、三浦半島の「三浦COCOON」。観光客に公共交通の利用促進を図ることで、自家用車の流入を抑え、渋滞緩和や温室効果ガスの排出抑制も目指しています。

また九州全域では、「MaaS」アプリ「my route」を使用することで、県や交通事業者の枠を超えてワンストップで移動できるようにし、観光地としての九州の魅力アップ、観光客と地域住民の交流促進などを目指す取り組みが行われています。

前橋市は地域住民サービス、三浦半島と九州は観光促進がそれぞれ主目的となっていますが、シームレスな移動手段で地域の価値・魅力を高めるという点では共通しています。今後も集客力を高めたり人口流出を抑えたりしたい地域で、同様の事業や実証実験が行われていくことが予想されます。

「交通事業者」だけのものではない、さまざまな企業が参入する注目の市場

国土交通省や地方自治体以外、つまり民間企業が主体になった「MaaS」への取り組みも進んでいます。また、民間企業によって開発されたアプリが、自治体が展開する「MaaS」事業を支える中核技術となっている例もあります。たとえば先に紹介した九州全域「MaaS」事業で使用されるアプリ「my route」は、トヨタ自動車グループが提供したものです。

「MaaS」は、最先端のICT技術が応用されているため、鉄道・バス・タクシーなど既存の交通事業者に加え、カーシェア・シェアサイクル・タクシー配車サービスなど、新しい業態でも参入可能な市場でもあります。実際、通信事業者、IT、運輸、製造業などさまざまな業種が、「MaaS」に乗り出しており、ローン技術を応用した「空飛ぶクルマ」の開発など、ベンチャー企業も活発に参入しています。

事業としての「MaaS」はまず、高齢者や障がい者など移動困難者、移動躊躇者へのサービスとしての側面から注目され、シームレスな移動の実現による地域住民や観光客への高品質なサービス提供に進んでいます。

また移動時での渋滞緩和によるCO2排出の抑制など、どちらかといえば社会的な側面からの事業推進と思われがちです。しかし今、さまざまな業種の参入が進んでいることで、新しいビジネスの分野としても非常に注目される市場となっています。

あなたが関わる事業が、もしかすると新しい「MaaS」の展開に、大きく役立つ時が来るかもしれません。これからの「MaaS」に、さらに注目していきたいと思います。

◎製品名、会社名等は、各社の商標または登録商標です。

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著者 OPTAGE for Business コラム編集部

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