- 公開日:2023年06月14日
実力は5Gの10倍以上!「Beyond 5G」で社会はどうなる?
5Gを超える次世代移動通信システム「Beyond 5G」は、2030年頃から普及し始め、社会に変革(イノベーション)をもたらすと言われています。
今回は、政府が推進する「Beyond 5G推進戦略」と「Society 5.0」をもとに、2030年以降のビジネスや暮らしを展望しました。
そもそも「Beyond 5G」とは? どういう経緯で広まったの?
「Beyond 5G」とは、5G(5th Generation=第5世代移動通信システム)の機能がさらに高度化される6G以降の次世代移動通信システムの総称です。総務省が2020年6月に「Beyond 5G推進戦略」を策定したことで、このキーワードは近い将来の移動通信システムとして広く認識されるようになりました。
5Gの特長は、①高速・大容量、②低遅延、③多数同時接続ですが、Beyond 5Gではこの機能が一層高度化されると同時に、新たな特長として、④超低消費電力、⑤自律性、⑥拡張性、⑦超安全・信頼性といった機能が付加されます。
<Beyond 5Gに求められる機能>
出典:総務省「Beyond 5G推進戦略 -6Gへのロードマップ-」
国内ではまだ5Gも十分に行き渡っていないのに、なぜ政府はBeyond 5G時代への対応を急いでいるのでしょうか――。
その理由は主に2つあります。ひとつは、コロナ禍を経て急速に進展した社会のデジタル化によるものです。生活やビジネスにおけるICTの役割はますます重要になり、セキュリティ対策や省エネ対策が一層強く求められるようになってきました。
一方、国外に目を向ければ、Beyond 5Gを巡るグローバル企業間の競争は激しさを増し、日本企業は技術開発で大きく遅れを取っているのが現状です。日本の国際競争力を高めるためには、官民あげての積極的な取り組みが欠かせません。こうした時代背景から政府は、Beyond 5G戦略を強く推し進めているのです。
Beyond 5Gによって実現される社会像「Society 5.0」とは?
では、Beyond 5Gが普及すれば、どのような社会が誕生するのでしょうか――。
政府が構想する社会像とは、「サイバー(仮想)空間」と「フィジカル(現実)空間」が一体化した社会――IT用語で「CPS(Cyber Physical Systems)」と呼ばれる仕組みで支えられた社会です。
現在、私たちが暮らす社会は「情報社会」と位置づけられ、「Society 4.0」と呼ばれています。高度に情報通信網が発達した社会ですが、克服すべき課題はまだ多く残されています。これらの課題をBeyond 5Gがもたらす最新技術で克服し、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会「Society 5.0」へと革新するのが、政府が描く日本の成長戦略です。
<Society 5.0とは>
出典:内閣府ホームページ「Society 5.0」
現在の「情報社会(Society 4.0)」では、以下のような克服すべき課題があります。
①知識や情報が十分に共有されず、分野の垣根を超えた横断的な連携が不十分。
②ネット社会となり、個人が必要な情報を探索・分析することが可能になったが、ITリテラシーの差によって情報弱者が取り残される機会が増加。
③人が働く場では、年齢や障害などの要因によって、労働や行動範囲に制約が残されている。
④少子高齢化や地方の過疎化などの課題に対して、簡単には解決できないさまざまな制約があり、十分に対応することが困難。
<Society 5.0で実現する社会>
出典:内閣府ホームページ「Society 5.0」
現状では、これらの課題を克服するのは困難ですが、Beyond 5Gが普及するSociety 5.0ではイノベーションによってこれらの問題が解決できます。
①知識・情報の共有、連携が不十分な問題は、すべての人とモノがつながるIoT(Internet of Things)によって膨大な知識や情報が共有され、今までにない新たな価値が生み出されることで解決。
②デジタルデバイドや情報弱者の問題は、人工知能(AI)により、必要な情報が必要な時にすべての人に提供されるようになり解消される。
③労働や行動範囲の制約問題は、ロボットや自動走行車などの技術で解決される。
④少子高齢化、地方の過疎化、貧富の格差などの問題は、ドローンやロボットなど技術革新により解決される。
こうした社会の変革(イノベーション)を通じて、希望の持てる社会、世代を超えて互いに尊重し合える社会、一人一人が快適で活躍できる社会を実現するのが、政府が推進するSociety 5.0の理想像なのです。
「Society 5.0」を実現するために策定された「Beyond 5G戦略」
しかしSociety 5.0を実現していくには、そのバックボーンとなる移動通信システムの強化・拡充が欠かせません。そこで総務省は、Society 5.0という新たな社会システム構築に向けた「Beyond 5G推進戦略」を策定し、日本のこれからの成長戦略を情報通信の面から提言したわけです。同戦略で示された、サイバー空間と現実空間が一体化するCPSが構築された社会像は、次図の通りです。
<サイバー・フィジカル・システムの進展と2030年代の社会像>
出典:総務省「Beyond 5G推進戦略 -6Gへのロードマップ-」
現実世界のあらゆる場所で生ずるさまざまな事象データをIoTで収集。収集されたデータはサイバー空間に蓄積され、過去のデータや他のセンサーなどから得られたデータとともにAIで解析されます。その解析結果を現実世界へフィードバックして新たな価値を創造することで、社会的な課題が解決されます。それらをバックボーンで支えるのが、Beyond 5Gを中心とした情報通信ネットワーク基盤となっています。
2030年のビジネスや暮らしは、どう変化しているのか?
Beyond 5Gの7つの特長は前述した通りですが、情報通信の技術的な話だけでは、私たちの社会がどのようにイノベーションされるのか想像がつきません。ここからは、Beyond 5Gによって、暮らしやビジネスがどのように変化するのかを見ていきたいと思います。
ビジネスの代表事例として、ものづくり産業における新たな価値の創造をご覧ください。
◎ものづくり業界のイノベーション
IoTで収集されたビッグデータ(顧客や消費者の需要、各サプライヤーの在庫・配送情報などの膨大なデータ)をAIで解析することにより、多様なメリットが社会全体にもたらされます。
<Society 5.0 新たな価値の事例(ものづくり)>
出典:内閣府ホームページ「Society 5.0」
このようにBeyond 5Gでは、ミリ波(波長が1~10mm、周波数が30~300GHzの電波)を有効活用することで、あらゆる産業界において高度なIoTが進展し、業界はもとより広く社会全体に多大な効果がもたらされます。その結果、海外勢に遅れをとってきた日本企業から、グローバル市場を革新するゲームチェンジャーが生まれることが期待できるのです。
このほかにも、ビジネスの世界にイノベーションをもたらす、革新的なユースケースはさまざまに考えられます。
6G時代に向けた研究開発はすでに活発化している
ここまで見てきたBeyond 5G(6G)によるイノベーションは、2030年頃の近未来の話ですが、グローバル企業の間では、すでにそうした方面の研究開発が進んでいます。
スペインのバルセロナで2023年3月に開催された世界のモバイル関連見本市「MWC」では、日本の携帯電話企業が、6G時代を見据えて人の感覚を瞬時に伝える技術を発表しました。プロの楽器奏者の手や口にセンサーを装着し、奏者の動きを素人の女性に瞬時に送信し、まるでシンクロしているように電子楽器の名演奏を繰り広げるというアトラクションです。
6Gでは通信速度が5Gの10倍以上になることから、このように触覚などの感覚を離れた人と瞬時に共有することが可能になります。通信速度が人の神経の反応速度を上回るほど速くなるため、離れた場所にいながら感覚をリアルタイムに共有するような超常現象が体験できます。これまで人と人のコミュニケーションは、「見る」「聞く」が中心でしたが、それ以外の感覚同期で意思疎通が実現できるようになるのです。
こうした先進機能のユースケースとしては、医療分野に期待が寄せられています。触覚などの感覚を瞬時に伝えられるようになることで、遠隔地にいる患者の状況を映像や音声で確認しながら、触診や手術の感覚を現場の医療スタッフにリアルタイムに伝えることが可能になります。さらに、センサーを使って人体からさまざまなデータを取り出して活用すれば、医療は劇的に高度化します。
また、6Gの電波をセンサーのように使うことで、より高度な自動運転が可能になると考えられます。現状の自動車は主に車載のセンサーやカメラを使って周囲の状況を把握していますが、これに基地局から発信される6G電波による分析(人や車などの物体で反射する状況をAIで分析し、位置や形状を感知する周辺情報)が加わると、情報量は飛躍的に増大し、より高度な自動運転が可能になります。研究者の間では、6Gに支えられたCPSは、ネットワークが通信だけではなく、デジタルによる「第六感」のような役割を果たすようになると期待されています。
このようなユースケースから、「6G時代の人間はユーザーという枠を超え、インターネットの一部となる」と予見する声もあります。まさに人が電脳空間を縦横にダイブする、SF映画のような社会が出現する時代が近づいています。同じようにICTの世界にも、これまでにない画期的な情報伝達技術が誕生するかもしれません。2030年代は、ICTのイノベーションに大いに期待が持てそうです――。
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