人間拡張とは?基礎知識やビジネスモデルの事例を紹介

人間拡張とは?基礎知識やビジネスモデルの事例を紹介

今後、数年の間に市場規模が40兆円を超えるといわれている「人間拡張」。テクノロジーを駆使して人間の能力や知覚を拡張させる技術であり、世界中で研究・開発が進められています。
しかし、テクノロジーが使われるからといって、IT業界だけに限った話ではありません。製造や医療、エンタメ業界など幅広い業界に役立つため、ビジネスパーソンが押さえておくべきトレンドといえるでしょう。
今回は、人間拡張の概要をはじめ、市場の将来性やビジネスに取り入れる際のポイントなどを解説します。

Contents

人間拡張とは?

人間拡張とは?

人間拡張とは、AIやIoTといったテクノロジーによって、人間の身体能力・知覚などを拡張させる技術のことです。
近年よく見聞きするようになった言葉かもしれませんが、人間拡張と同様の概念といわれる「知能増幅」は1950年代には誕生しています。そして、人間拡張の"Human Augmentation(ヒューマン オーグメンテーション)"という言葉が生まれたのは2010年代後半のこと。当初はITやロボット工学の発展による拡張が中心でしたが、少しずつ人間拡張の意味合いが広がり、テクノロジーを使った人間のアップデートを指すようになりました。
人間拡張の誕生・発展によって、人間が持つ能力の向上・維持だけでなく、生活の満足度を高めることなどに好影響を及ぼすと期待されています。

人間拡張の4領域と代表例

人間拡張といっても、意味合いが広く具体例もさまざまにあるため、詳しく理解できている方は多くないでしょう。
そこで、人間拡張をとらえるうえで参考となるのが、東京大学大学院情報学環の「ヒューマンオーグメンテーション学(ソニー寄付講座)活動記録I」です。この資料によると、人間拡張には大きく4つの方向性があるとされています。

●    身体能力の拡張(PHYSICAL)
●    存在の拡張(PRESENCE)
●    知覚の拡張(PERCEPTION)
●    認知能力の拡張(COGNITION)

上記の4領域はそれぞれが独立したものではなく、研究・開発されている技術によっては複合的に組み合わさるケースもあります。あくまでも人間拡張の概念として、各領域について詳しく見てみましょう。

身体能力の拡張

「身体能力の拡張」は、主に運動能力の強化が該当する領域です。パワーアシストスーツなどが代表例で、装置を着けることで農業や運送業の身体的な負担を軽減してくれます。
また、義手や義足といった人工の四肢にテクノロジーを搭載する研究も進められています。従来の義手の場合、つかむなどの機能性は補完できませんでした。しかし、近年は脳からの電気信号をキャッチする機能やAIを搭載し、さまざまな動きが可能になりつつあるようです。
このように、テクノロジーを使って身体能力を増強・補綴(ほてつ)するものが「身体能力の拡張」なのです。

存在の拡張

「存在の拡張」とは、物理的な存在の限界を超え、遠隔地で作業することを可能にする技術のこと。主にロボットや他の人の身体と感覚を共有し、遠隔で操作するものを指しています。たとえば、離れた病院にいる医師がロボットを遠隔操作して手術をおこなう「遠隔医療ロボット」は存在の拡張の代表例でしょう。
また、現実世界での拡張だけでなく、仮想空間であるメタバースに作られた分身体「デジタルアバター」も存在拡張の一例です。
存在の拡張領域では、視覚・聴覚・触覚の再現が主に進められています。嗅覚や味覚は研究が進められている一方で、まだ実用化には至らないのが現状です。

知覚の拡張

「知覚の拡張」は、人間の五感を拡張させる技術を指す領域です。主に感覚器官の能力を高めたり補完したりすることが前提となっています。
具体例として挙げられるのは、スマートグラスや補聴器といった視覚・聴覚を対象とした技術。このほか、感覚置換の研究も進められており、目が見えない方のために視覚情報を皮膚感覚などに置き換える技術も知覚の拡張に含まれます。
また、存在の拡張と重なる部分もありますが、VRやARといった現実と仮想の空間を融合する技術が活用されやすいのが知覚拡張の特徴です。

認知能力の拡張

AIやVR、ARといったテクノロジーと人間を融合させ、知能や認知能力を向上させるのが「認知の拡張」の領域です。特に研究が進められているのは、人間が理解・習得するプロセスを拡張するもの。たとえば、熟練者が見ているものを共有して学習や訓練に活用するなど、第三者の感覚を疑似体験できる技術が代表的です。スポーツや芸術のほか、教育や介護といった分野にも活用できます。
ほかにも、記憶障がいの方の記憶を補完する記憶チップの開発なども進められており、人間の内面的な能力を向上させる分野といえるでしょう。

人間拡張の将来性は?

人間拡張の将来性は?

アメリカのMarketsandMarkets社が発表したレポートによると、人間拡張の市場規模は2026年までに3,412億ドル(約44兆円)に到達すると見込まれています。世界中で注目されている人間拡張ですが、研究・開発が進められている一方で、日本国内で扱っている事業者は多くありません。
現状、参入障壁は高くないものの、実際にどのように関わることができるのでしょうか。人間拡張と相性のよい業界や、ビジネスモデルの事例を見てみましょう。

人間拡張と相性のよい業界

人間拡張の研究が進められている昨今、どういった業界で活用されているのでしょうか。現在、実用化が進められている業界をはじめ、将来的にテクノロジーの活用が期待されている業界をご紹介します。

医療・介護

人間の命に関わる医療・介護の業界では、すでに人間拡張の技術が取り入れられています。たとえば、身体能力の拡張で紹介したパワーアシストスーツは、介護者が装着することで介護の際に腰にかかる負担を軽減してくれます。また、要介護者が装着すれば、身体にかかる負担を軽減しながらリハビリをおこなうことが可能です。
医療の分野では、ARなどを使った手術のシミュレーションのほか、遠隔地からの手術、熟練医師の視界の共有により医師の習熟なども可能になるでしょう。
将来的には、テクノロジーを搭載したコンタクトレンズで視力の補助や目の状態確認をおこなったり、人工神経をつないで損傷箇所の機能制御や補助をしたりと、さまざまな機能を持った医療機器が生み出されるかもしれません。

製造・農業

介護現場と同様に、製造や農業などの身体的な負担がかかる業界でも、アシストスーツが活用できます。一人では持ち運びが難しいものでも、アシストスーツを装着することで運べるようになれば、人件費の削減にもつながるでしょう。特に近年は人口減少が進んでいるため、生産性の向上が期待できるのは大きなメリットといえます。
また、製造の分野ではグローブ型の装置を着けることで、モノづくりを遠隔地からおこなうことが可能です。さらに建設業などでもARやVRを活用でき、細かなシミュレーションをおこなうことで、安全かつ確実に工事を進められるでしょう。

エンタメ

近年はメタバースのように仮想空間を楽しめるようになりました。これも存在の拡張に分類できる技術で、ゲームをはじめ映画やドラマの世界に入り込む感覚が楽しめるでしょう。
このほかにも、舞台やライブを見ている人の視界を共有すれば、その場にいるかのような臨場感を得ることも不可能ではありません。

教育

教育の分野でも人間拡張の技術活用が期待されています。たとえば、ARを使って生物の3D映像を出し、身体の仕組みや生態についてわかりやすく解説することが可能になります。ほかにも、危険がともなう実験を仮想空間でおこなえるようになれば、失敗を恐れず実験に取り組めます。
また、校外学習や社会科見学などにVRが活用できるほか、防災や避難などもリアルな体験に近い訓練をおこなえるようになるでしょう。

宇宙

大気がほとんどなく、高エネルギーの放射線を受けやすい宇宙空間のような命の危険がともなう場所においても、人間拡張の技術を役立てられます。ロボットを遠隔から操作し、人間の代わりに作業をしてもらうことで安全に作業を進めることが可能です。
宇宙のほかにも、鉱山や高所、被災地、事故現場などにも活用できるため、従来よりもリスクを減らせるのは大きな魅力でしょう。

人間拡張のビジネスモデル事例

さまざまな業界で技術の導入が期待できる人間拡張ですが、実際にビジネスに取り入れる場合は何ができるのでしょうか。
すでに展開されているビジネスモデルを以下にまとめました。

●    ウェアラブルデバイスの直販や、収集した情報の販売
●    言語生成ツールの無料・有料サービスの提供
●    視覚補助デバイスのライセンス供与
●    脳に電気的な刺激を与えて学習能力などを向上させるデバイスをサブスクモデルで提供
●    人間が装着する外骨格ロボットなどの提供 など

このように、人間拡張は幅広い業界に活かせる技術であるため、技術の開発・販売による収益が見込めます。また、業務の効率化や人材の育成などにも役立てられるため、社内で人間拡張の技術を活用することで生産性の向上も期待できるでしょう。

人間拡張が抱える課題

人間拡張が抱える課題

人間の可能性を広げられる技術として人間拡張の研究が進められていますが、いくつかの課題点もあります。
特に、「人間とテクノロジーの融合がどこまで許容されるのか」という倫理的な問題は、法による規制が必要となるでしょう。たとえば、記憶チップを脳に埋め込むことは、記憶障がいのある方に適した技術です。しかし、障がいのない方でも記憶チップを埋め込めるようになってしまうと、どうなってしまうでしょうか?テクノロジーとの融合によって常人以上の能力を得た一部の人だけが有利になり、格差が広がってしまうかもしれません。
倫理面だけでなく、安全性や格差といった面での課題点もあるため、人間拡張を扱う際には十分な検討・配慮が必要です。

まとめ

人間拡張は人の存在や能力を向上・拡張させられる技術として注目が集まっています。活用できる業界も幅広く、人の命を守ることにも役立てられるため、大きく期待されている技術といえるでしょう。しかし、技術の発達が著しいために、法整備が追いついていないのが現状です。
今後どのような技術が生み出され、どういった対応や配慮が必要となるのか、人間拡張のこれからについては、適宜チェックしておきましょう。

◎製品名、会社名等は、各社の商標または登録商標です。

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著者 OPTAGE for Business コラム編集部

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