ABWとは?フリーアドレスとの違いや導入のメリット・手順を解説

ABWとは?フリーアドレスとの違いや導入のメリット・手順を解説

2019年4月1日から「働き方改革関連法」が順次施行されていることに伴い、企業規模に関わらず多くの会社で働き方が見直されつつあります。テレワークやフレックスタイム制などの働き方が有名ですが、より自由度の高い「ABW」という働き方があることをご存じでしょうか。
今回はABWの概要をはじめ、テレワークやフリーアドレスとの違いを解説するほか、ABWのメリットや導入の方法・事例についても紹介します。

Contents

ABWとは

ABWとは

「Activity Based Working(ABW)」は、オランダのコンサルティング企業であるVeldhoen + Companyが1990年代初頭に提唱し、ヨーロッパやオーストラリアを中心に広まった働き方です。

ABWの特徴は、従業員が業務内容や気分に応じて働く時間や場所を選択できる点にあります。従来はオフィス内の自席で仕事をするのが一般的でしたが、近年ではABWを導入し、柔軟な働き方を推進する企業が増加しています。

仕事の時間と場所を自由に決められる働き方の例として、以下のものが挙げられます。

  • 打ち合わせがある日だけオフィスで仕事をする
  • 一人で資料作成に集中したい日は在宅勤務
  • 始業と終業の時間を早め、プライベートの時間を確保

なかにはフレックスタイム制や時短勤務などと共通する部分もありますが、ABWは労働時間だけでなく勤務場所も選べるため、特に自由度の高い働き方といえるでしょう。

ABWが注目を集める背景

ABWが提唱されたのは1990年代のことですが、日本で注目を集めるようになった一因として、新型コロナウイルスによる影響が考えられます。日常生活や仕事で非対面・非接触が推奨され、業務をテレワークに切り替えた企業は少なくないでしょう。

以前から在宅勤務などの制度を取り入れていた企業もありますが、コロナ禍の影響で在宅勤務を経験する人が増え、今ではオフィス以外の場所で働くことも一般的なものとなりました。

そして、パーソル研究所が2022年に実施した調査によると、20〜30代の社員で「好きな時間に働く」「好きな場所で働く」などの自由な働き方を希望する人の割合が多いことが分かります。

働く10,000人の就業・成長定点調査

出典:株式会社パーソル総合研究所「働く10,000人の就業・成長定点調査

このような背景から自由な働き方に関する注目が集まっており、自分で働く時間や場所を選べるABWへの関心も高まっています。

テレワークとの違い

ABWと似た用語に「テレワーク」があります。これは「Tele(離れて)」と「Wok(仕事)」を組み合わせた造語で、オフィスから離れた場所でICTを活用して仕事を行う働き方のことです。例えば、以下に挙げた働き方でICTを活用していればテレワークに該当します。

  • 在宅勤務
  • モバイルワーク
  • サテライトオフィスでの勤務
  • コワーキングスペースでの勤務
  • ワーケーション中の勤務

テレワークは働く場所を自由に選べますが、勤務時間については言及されていません。その点、ABWは場所だけでなく時間も選べるため、従業員一人ひとりに合った働き方が可能です。

なお、テレワークやオフィスワークといった複数のワークスタイルを組み合わせる「ハイブリッドワーク」という働き方もあります。こちらも働く場所の観点ではABWに沿った働き方といえるでしょう。

フリーアドレスとの違い

「フリーアドレス」も自分の好きな場所で働ける点ではABWやテレワークと似ていますが、働く場所がオフィス内に限られています。フリーアドレスを採用している企業では従業員に固定の席を設けておらず、従業員はタイミングや日によって自分が座る席を変えられるのが特徴です。

社内でのコミュニケーションを促すだけでなく、全員分の席を設けないことでコスト削減もできます。特に営業などで日中は社内にいない従業員が多い企業の場合、オフィスを効率よく使えるでしょう。

フリーアドレスはオフィスコストの削減を目的にすることが少なくありませんが、ABWの場合は従業員の機動力や生産性向上に重きを置いています。そのため、ABWはオフィスかどうかに関係なく、さまざまなワークスペースのなかから働く場所を選ぶことが可能です。社内にラウンジや個室ブースなどを用意し、そのなかから従業員が気分や業務内容に合わせて選べる場合もABWに該当します。

ABW導入によるメリット

ABW導入によるメリット

ABWは従業員にとってメリットの大きい働き方に思えるかもしれませんが、企業にもメリットがあります。具体的にどういったメリットがあるのか、詳しく見ていきましょう。

コスト削減

ABWの導入は、企業が負担するさまざまなコストを削減することにつながります。例えば、 ABWの一環としてオフィスのフリーアドレス化を図り、従業員は出社するかどうかを自分で選択できるようになれば、オフィス面積の最適化によって規模を縮小できる場合もあり、賃料を削減することも可能です。

また、テレワークによって業務のペーパレス化が進めば、印刷にかかるコストや資料を保管するスペース・手間を削減、さらには文書検索の効率化にもつながるでしょう。

従業員の満足度・生産性の向上

従業員は自分が働く場所を主体的に選べるため、集中しやすい環境で業務に臨めます。勤務時間やワークスペースといった働き方の選択肢が増えることで、従業員は業務に対する満足度が向上する可能性もあるでしょう。

また、業務内容に合わせて適切な場所を選ぶことで業務効率を高められるため、生産性の向上も期待できます。例えば、『月刊総務』が総務担当者を対象に行った調査によると、「オフィスの方が生産性高く働ける」の回答が74.6%、「テレワークの方が生産性高く働ける」が25.4%という結果となっています。

オフィスの方がテレワークより生産性高く働ける」が上昇。2割の企業が「オフィス予算を増やす

引用:月間総務オンライン「オフィスの方がテレワークより生産性高く働ける」が上昇。2割の企業が「オフィス予算を増やす

オフィスで働くほうが生産性が高いと感じる理由は、従業員が同じ空間にいることの利点が大きなポイントです。例えば、意見集約から意思決定まで素早く行えるほか、チームワークで高い生産性を発揮しやすく、偶発的なアイデアが生まれやすいといった理由が挙げられます。このほか、設備が充実している点もオフィスで働くほうが生産性が高いと感じる理由です。

一方で、テレワークのほうが生産性が高いと感じる理由として、次の2点が挙げられます。ひとつは自分のペースで働けるために、業務に集中しやすくリラックスして取り組める点。もうひとつは、通勤や移動といった時間のロスが少ないので、業務に費やせる時間を多く確保でき、時間を有効活用できる点です。

このように働く場所に関する意見はさまざまにありますが、オフィスやテレワークを適宜選べるABWであれば、従業員の満足度や生産性の向上が見込めるでしょう。

ワークライフバランスの実現

ABWが導入されていれば、従業員は在宅勤務などを選ぶことができ、通勤時間を家事や余暇に充てることも可能です。また、育児中の方であれば、家庭の状況に合わせて勤務時間や勤務場所を変更できるため、家庭と仕事を両立させるライフスタイルも実現できます。

例えば、従業員に子どもがいて授業参観と営業日が重なっている場合も、1日のなかで「在宅勤務→授業参観に参加→在宅勤務」といった時間の使い方ができるでしょう。

人材の獲得・離職率の低下

従業員にとって働きやすい環境・体制を整えることは、生産性が向上するだけでなく、企業イメージの向上にもつながります。働きやすさに魅力を感じて入社を希望する人が増えれば、優秀な人材の獲得につながる可能性もあるでしょう。

リクルートマネジメントソリューションズが行った調査「2023年 新人・若手の早期離職に関する実態調査 第1回」では、過去3年以内に自己都合退職したことが「ある」と回答した人の退職理由で特に多かったのが「労働環境・条件がよくない(25%)」でした。また、「希望する働き方ができない(場所、時間、副業など)(14.5)」も上位となっています。

2023年 新人・若手の早期離職に関する実態調査 第1回

引用:リクルートマネジメントソリューションズ「2023年 新人・若手の早期離職に関する実態調査 第1回

このことから、ABWによって柔軟な労働が可能となれば、離職率の低下につながるでしょう。

ABW導入前に整備すべき3つのポイント

ABW導入前に整備すべき3つのポイント

働く場所や時間を従業員が選択できるABWにはさまざまなメリットがありますが、企業で導入する前に整備すべきこともあります。場合によっては、ABWを導入したことで労働環境が悪化する可能性もあるため、ここで紹介する3つのポイントを整備しましょう。

勤怠管理・評価体制

上司はオフィス、部下は在宅勤務のように、それぞれが別の場所で仕事を進めることになると、勤怠管理が難しくなります。また、従業員の業務内容や働きを正しく評価するために、新たな評価制度を整える必要があるでしょう。

例えば、勤怠管理であればメールやチャットツールで上司に始業・終業時刻を報告したり、Excelなどで作成した出勤簿に記入したりする方法もあります。しかし、勤怠管理台帳への転機に手間がかかるほか、改ざんや操作ミスによる上書きといったリスクもあるため、勤怠管理ツールなどの導入も検討してみてください。

コミュニケーションルール

ABWを導入する前に、社内のコミュニケーションルールを整備しておく必要があります。というのも、ABW導入後は従業員ごとに勤務時間・働く場所が異なる場合があり、従業員同士でコミュニケーションを取る機会が減ってしまう可能性があるためです。

もちろん、人によっては「コミュニケーションは必要最低限の内容だけでいい」と考えている人もいるでしょう。しかし、コミュニケーション不足によって認識の齟齬が生じ、業務に支障を来たす恐れも考えられます。

そのため、社内のコミュニケーションルールを策定するほか、社内イベントや懇親会の開催など、従業員同士が関われる機会を増やすことも重要なポイントです。

セキュリティ対策

ABWは従業員がオフィス以外の場所で働くケースもあるため、セキュリティ対策も講じる必要があります。例えば、社外で仕事をするために会社の情報を外に持ち出す場合、従業員が使用した無線LANなどから不正アクセスされれば、機密情報が漏えいする危険性もあるでしょう。

ABWを導入する前に、情報・データの持ち出しに関するルールを定めたり、従業員への教育やセキュリティ対策ツールの導入を行ったりと、セキュリティ体制を整えることが大切です。

なお、以下の記事ではテレワークのセキュリティリスクに対する防衛策を解説しています。ABW導入を検討している場合は、ぜひ参考にしてみてください。

関連記事:テレワークのセキュリティリスクを解消| 効果的な防御策とは?

ABWの導入ステップ

ABWの導入ステップ

ここからは、ABW導入に欠かせない3つのステップについて紹介します。これらのステップを順に実行することで、ABWの効果を最大限に引き出し、従業員と企業双方にとってメリットのある働き方が実現できます。

1.課題やニーズの把握

まずはオフィスの現状を客観的に把握し、従業員がどのような働き方を求めているのかを調べましょう。同時に、社内でABWを導入する目的を考える必要があります。例えば、意思決定のスピード感を重視するベンチャー企業などであれば「従業員の主体性を高め、自律的な働き方を促すため」のように、自社に合った目的を定めましょう。

自社の課題やニーズを把握するために、従業員との面談を行ったりアンケートを実施したりするのもおすすめです。また、ABW導入後も「満足度が向上したか」などを従業員にヒアリングするほか、実際に生産性が向上したのかを調査・分析し、ブラッシュアップしていきましょう。

2.ABWの必要性を検討する

企業が抱える課題や従業員のニーズによっては、ABW以外の働き方で十分な場合もあります。ABWは働く時間や場所を従業員が自分で決められる働き方ですが、「時間の自由度が高い働き方」「場所の自由度が高い働き方」のいずれかで解決するケースもあるでしょう。

【時間の自由度が高い働き方】

  • フレックスタイム制
  • 時差出勤
  • 時短勤務
  • 時間単位の有給
  • 週休3日制 など

【場所の自由度が高い働き方】

  • フリーアドレス
  • 在宅勤務
  • サテライトオフィスでの勤務
  • コワーキングスペースでの勤務 など

こうした働き方のなかで、ABWが自社にとって必要なものだと判断できたら、具体的にどういった環境や体制が必要なのかを洗い出しましょう。企業規模によっては特定の部署で試験的に実施し、効果検証するのもおすすめです。

3.オフィス・IT環境の整備

ABWを導入すると、社外で業務を進める人もいれば、オフィスで仕事をする人もいます。オフィス内のレイアウトを見直して、ABWに必要なワークスペースを整えましょう。例えば、以下に挙げた部屋や空間を作ってオフィス環境を整えるのも一つの手です。

  • 個人ワークブース
  • コミュニケーションエリア
  • オンライン会議室
  • 打ち合わせスペース

新たにデスクを購入したり、ワークエリアを設けたりするとコストがかさむ場合もあります。しかし、オフィスの規模を縮小すれば、賃料や光熱費といったファシリティコストを削減することもできるでしょう。

また、テレワークを選択する従業員のために、チャットやオンライン会議のツールをはじめ、業務に活用するデバイスやソフトなどのIT環境を整備しておくことも重要なポイントです。

ABWの導入事例

ABWの導入事例

ABWは近年注目を集める働き方のひとつですが、実際に導入している企業ではどのように取り入れているのでしょうか。ここでは、企業の導入事例を3つ紹介します。

電気設備メーカー

ある電気設備メーカーでは、決まった業務を淡々とこなすのではなく、従業員同士で議論を交わしながら革新的な仕事をすることにニーズがありました。そこで、主にオフィス改革に重きを置き、プロジェクトスペースやカフェスペースに従業員同士が気軽に話せる空間を創出しました。

また会議室も見直し、同社の製品をオフィス家具として活用するなど、オリジナリティある空間に仕上げました。従業員が気軽にコミュニケーションを取ることができ、オリジナリティあふれる空間ができたことで、柔軟な発想が生まれやすくなっているようです。

ソフトウェア開発ベンダー

あるソフトウェア開発ベンダーでは、部署がフロアごとに分かれており、従業員は固定席で仕事に臨んでいたため、横断的なコミュニケーションの不足が課題でした。そこで、組織を超えた交流と社内でのコミュニケーションを活性化させることを目的に、ABWに着手。

固定席をなくして完全フリーアドレスに移行したことで、フロアごとに分かれていて交流のなかった人同士が隣り合って仕事をするようになりました。また個室やソファー席を備えたほか、フロアごとに"キャンプ"や"自宅のリビング"などのコンセプトを設けたことで、その日の気分や業務内容に合った場所を選べるようになったのも特徴的です。

インターネット関連事業会社

ナレッジコミュニティサービスやブログホスティングサービスなどを手がけるインターネット関連事業会社では、在宅勤務とオフィス勤務を選べる「フレキシブルワークスタイル制度」を採用しています。

また、出社する従業員が自分の仕事に集中したり、チームビルディングしたりできるようフリーアドレス制を採用。仕切りのないワークスペースや完全個室のブース、靴を脱いでリラックスできる畳ブースなどを設け、それぞれの価値観や目的に合わせてオフィスを利用できます。

まとめ

まとめ

近年はさまざまな働き方に注目が集まっていますが、ABWは時間的・空間的に自由度の高い働き方です。従業員が自分で選択できるために、生産性の向上や業務への満足度の向上が期待できます。また、企業によってはコスト削減や人材獲得などにもつながる可能性があるため、導入する価値のある働き方といえるでしょう。

ただ、勤怠管理や評価体制、コミュニケーションルールなどをABW導入前に整備する必要があります。不正アクセスや情報漏えいの危険性もあるため、セキュリティ対策についても十分な注意が必要です。

幅広い情報セキュリティサービスを提供しているオプテージでは、高度なウイルス検知や遠隔操作で被害の拡大を防ぐ機能などを備えたEDR(Endpoint Detection and Response)を提供しています。パソコンなど端末内部の動きを記録・可視化して、脅威の原因や影響範囲を特定する機能なども備えているため、テレワークをはじめとするABWを導入する際にも役立ちます。

EDRに関する詳しい説明は、こちらからご確認ください。

>>EDR(Endpoint Detection and Response)

◎製品名、会社名等は、各社の商標または登録商標です。

関連サービスのご紹介

  • EDR(Endpoint Detection and Response)

    EDR(Endpoint Detection and Response)

    端末の動きを常に監視・分析し、ウイルス感染などの不審な動きを検知。端末隔離や対処を遠隔で実行できるエンドポイントセキュリティサービスです。

    詳しくはこちら
  • SWG(Secure Web Gateway)

    SWG(Secure Web Gateway)

    テレワークにおけるWebサイトのアクセス制限やウイルスのダウンロード抑止など、新しい働き方に対応した安全なWebアクセスを提供するクラウド型のサービスです。

    詳しくはこちら
著者画像

著者 OPTAGE for Business コラム編集部

ビジネスを成功に導くICTのお役立ち情報や、話題のビジネストレンドをご紹介しています。

SNSシェア