- 公開日:2025年05月14日
ブレインマシンインターフェイス(BMI)とは?脳と機械をつなぐ新技術の未来

コンピュータや機械を脳とつなぎ、人間の思考や意図にもとづいてコミュニケーションや機器の操作を可能にする「BMI(ブレインマシンインターフェイス)」。国内外で研究・開発が進められており、医療分野をはじめさまざまな業界にも大きな変革をもたらす技術として期待されています。
本記事では、注目を集める新技術「BMI」の仕組みや活用事例、実用化に向けた課題点などを詳しく見ていきましょう。
ブレインマシンインターフェイス(BMI)とは?

ブレインマシンインターフェイス(BMI:Brain Machine Interface)は、脳と機械を接続する技術のことです。脳科学とITを融合した技術「ブレインテック」という分野のひとつであり、海外ではブレインコンピュータインターフェイス(BCI:Brain Computer Interface)と呼ばれることもあります。
元々は、視覚や聴覚などに障がいを持つ方への支援を目的に研究が進められてきましたが、近年では健常者の能力拡張や高度な情報処理への応用も研究されています。
BMIの仕組み
BMIの基本的な仕組みは、脳から発せられる電気信号をセンサーで読み取り、解析・伝達することです。これにより、人間の思考や意図を機械に伝えたり、逆に機械から脳へ刺激を送ったりすることが可能になります。
BMI技術を活用した研究開発の一例として挙げられるのは、脳波を読み取って本人が伝えたいことをテキスト化するコミュニケーションデバイスです。神経疾患やALS(筋萎縮性側索硬化症)など、コミュニケーションが困難な人にとって大きな助けとなることが予想されます。
また、機械から脳へ電気信号を送ることで、視覚や聴覚を補助する技術なども開発されており、医療やリハビリのみならず幅広い分野での活用が期待されています。
BMIの導入方式は2種類ある

BMIの導入方式は「侵襲型」と「非侵襲型」に大別されます。導入方式によって、人体への負担や読み取れる情報の正確性などが異なりますが、一概に優劣をつけられるものではありません。
ここでは侵襲型と非侵襲型それぞれにどのような特徴があるのか、詳しく見ていきましょう。
侵襲型:脳内に電極を埋め込む方式
侵襲型は、BMIの導入にあたり脳内に電極を埋め込む方式です。脳に直接埋め込まれている分、脳からの電気信号を直接読み取れるため、脳と機械のインターフェイスとしての精度が非常に高くなります。
近年は脳波データを読み取ってコミュニケーション支援をする研究開発などが進められていますが、侵襲型のBMIは身体への負担が大きいため、実用化には至っていないのが実情です。特に脳に電極を埋め込む手術が必要であり、脳組織の損傷や感染症リスクが伴うため、安全性の確保が課題となっています。
非侵襲型:頭皮上から脳波を計測する方式
体内に電極を埋め込む侵襲型に対して、非侵襲型は手術を行う必要がありません。頭の外側にセンサーを装着して脳波を計測する方式であり、身体への負担を抑えられるのが特徴です。
非侵襲型のBMI技術は、うつ病やADHDの治療に使われる「経頭蓋磁気刺激法(TMS)」や、脳の活動を画像化する「磁気共鳴機能画像法(fMRI)」などに活用されています。
侵襲型と比べて取得できる情報の質は高くないものの、BMIをはじめとするブレインテック技術が向上することで、精度が高まる可能性も考えられるでしょう。
国内外におけるBMIの動向・事例

BMIは国内外で研究開発が進められており、なかには臨床試験を経て実用段階に入っているものもあります。ここでは、海外企業の取り組みや国内におけるBMI研究について確認していきましょう。
海外企業の取り組み
海外ではすでに臨床試験を行っている事例も出てきています。
例えば、脳神経インターフェイス技術を手がけるアメリカのスタートアップ企業では、麻痺患者の治療を目的に脳と外部デバイスをつなぐインターフェイスの開発に取り組んでいます。2024年には初の被験者にデバイスを埋め込むことに成功し、脊髄を損傷した人やALS患者がコンピュータやスマートフォンを操作できるようになりました。
また、低侵襲型のBMIを開発している医療テクノロジー企業では、胸などから脳の血管に挿入する装置を開発しています。12カ月に及ぶ臨床試験を行い、重篤な問題がないことや安全性・安定性が確認されました。さらに、被験者はテキストの入力やメールの作成、オンラインショッピングなどができるようになったため、麻痺患者をはじめ多くの人にとって大きな希望となり得るでしょう。
国内におけるBMI研究
日本でもBMI技術の開発研究が進められています。例えば、物理学や工学、医科学などの幅広い分野を研究している自然科学の総合研究所では、10年以上前からBMIの研究や実験を行っています。2010年には長期間使用できるBMI技術を確立し、運動情報や行動意志の情報を予測する「デコーディング性能」が世界最高水準に到達するなど、確かな成果を上げています。
このほか、国内の研究機関や大学などでBMI技術の応用研究が推し進められており、麻痺した手足や義肢にBMI技術を活用するなど、新技術の誕生に注目が集まっています。
BMI技術はビジネスに活かせる?

BMI技術は主に医療分野で研究開発が進められてきましたが、近年ではビジネスへの活用にも期待が高まっています。ここでは、BMI技術をビジネスに活かすとどのような未来が訪れるのか、今後の可能性について考えてみましょう。
マーケティング分野での活用
BMI技術を活用すれば、これまで以上に効果の高いマーケティング戦略を立てられる可能性が高まります。その理由は、マーケティングで成果をあげるためには消費者の心理を理解しておく必要があり、BMI技術の活用によって消費者分析をより正確に行えることが考えられるためです。
例えば、BMIで人間の脳を読み取って無意識の反応を測定できれば、どういった商品や広告が消費者の購買意欲を高めるのかを理解できるようになるかもしれません。さらに、AIをはじめとする技術の発展・組み合わせ次第では、読み取った嗜好データをもとに、UIやコンテンツを自動で変更できる未来も考えられるでしょう。
このように脳科学における知見を用いたマーケティング手法は「ニューロマーケティング」と呼ばれており、BMI技術の発展によりさらに精度が高まることが予想されます。
教育・研修分野での活用
BMI技術を活用することで、教育のあり方が大きく変わるかもしれません。特に学習効率の向上や個別最適化が実現する可能性を秘めています。
例えば、BMIによって受講者の脳波をリアルタイムで測定・分析し、集中力が高まっているタイミングを検出できれば、最も効果的な学習スケジュールを組むことができます。また、「解き方がわかっていない」「理解できていない」などを脳波から検知した際には、適切なタイミングで解法のヒントを提示してくれる機能の実装もあり得るでしょう。
さらに、企業研修や資格取得試験、ストレス管理などにもBMI技術が活用されれば、より効率的なスキル習得や生産性の向上につながる未来も考えられます。
エンタメ分野での活用
BMI技術がエンタメ分野に取り入れられることで、体験型コンテンツの可能性が広がります。特にゲーム業界やVR技術との親和性は高く、BMI技術の活用が期待されています。
従来のゲームはコントローラーやVRゴーグルなどを使って操作する必要がありました。例えば、BMI技術の発展により、思考するだけでゲームのキャラクターを操作できる未来も考えられます。また触覚や嗅覚、味覚といった五感を再現できるようになれば、よりリアルな体験を仮想現実で楽しむことができるでしょう。
このほか、BMI技術を映画や舞台などに活用すれば、観客は作品の世界に入り込んだかのような体験を味わえるようになるかもしれません。観客の感情や反応に合わせた演出などが可能となることも考えられ、エンタメ分野ではよりインタラクティブな体験へと発展することが期待されます。
BMI実用化のために検討すべき課題

BMIが実用化されれば、医療をはじめとするさまざまな分野の発展が期待されます。その一方で、現時点では倫理的、法的、社会的な課題も多く残されています。
ここでは、BMI実用化に向けて押さえておきたい課題について解説します。
脳データをどのように取り扱うのか
BMIの装置が脳の情報を読み取る場合、個人情報保護の観点からそのデータをどのように取り扱うのか、十分な配慮が必要です。場合によっては、記憶や思考といったプライベートなことがデータとして記録される恐れがあり、プライバシーの侵害となる危険性があります。
また、もしもBMIの装置が外部からハッキングされたら、第三者が脳あるいは脳データに不正アクセスしたり、個人情報をはじめとするデータが盗まれたりする可能性も否定できません。
そのため、BMIは技術的な対策を講じる必要があるほか、BMIを利用する人に対して事前に説明したり、消費者保護に関する法整備をしたりといった取り組みが必要となるでしょう。
能力拡張をどこまで認めるのか
BMIによって義肢の操作が可能となったり、麻痺障がいがある患者の運動能力を補ったりすることが期待されています。しかし、健常者にBMIを適用する場合には、人間の能力拡張をどこまで認めるのかを考えなければなりません。
例えば、BMIの使用によって実力以上の力が発揮されれば、「脳(ニューロ)ドーピング」として不正行為と見なされる可能性があります。仮に不正行為とならなくとも、BMI機器の利用者と非利用者の間で格差が広がってしまう可能性があるでしょう。
BMI技術は人々の生活を豊かにする可能性を秘めている一方で、社会に新たな格差を生じさせる懸念もあることから、能力拡張の許容範囲について慎重な議論が求められます。
今後BMI技術はどのような進化を遂げるのか

今後、BMI技術はさらなる進化を遂げることが予想されます。特に、脳からの信号を解析する技術とAIが融合すれば、脳の活動をより正確に把握でき、医療をはじめ幅広い分野で活用できるようになるでしょう。
しかし、BMIの実用化には安全性の向上はもちろん、プライバシー保護や倫理的問題への対応も必要です。また、研究・開発が進むことで新たな課題点が見つかることも考えられますが、BMIは人間社会に革新をもたらす可能性を秘めた技術です。ぜひ今後の動向にも意識を向けてみてはいかがでしょう。
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