- 公開日:2024年07月05日
リキッド消費とは?モノを持たない現代の消費志向について解説
IT技術の発達にともない、新たなサービスが次々に生まれています。そして、サービスの誕生だけでなく、消費の形も少しずつ変化していることをご存知でしょうか。
今回ご紹介する「リキッド消費」は、モノの所有や特定ブランドに対するこだわりが希薄になりつつある現代の消費行動を表現しています。具体的にどういった消費の傾向が強まってきているのか、リキッド消費の概要をはじめ、サービス例やマーケティングのポイントについて見ていきましょう。
リキッド消費とは?
リキッド消費とは、モノを所有しない新しい消費の形です。2017年にイギリスのマーケティング学者によって提唱された「リキッド消費(Liquid Consumption)」は、「短命的」「アクセスベース」「脱物質的」の3つの特徴を持つ消費と定義されています。
特徴 | 概要 |
---|---|
短命的 (ephemeral) |
消費者と商品・ブランドとの関係が長期化せず、一時的なものになっている |
アクセスベース (access based) |
経験に対して一時的に対価を支払うなど、取引に所有権の移転がない |
脱物質的 (dematerialized) |
写真はデータで保存するなど、物質的なモノを所有するケースが減ってきている |
こうした特徴に合致するサービスは、シェアリングサービスやサブスクリプションサービス、リユース・リサイクルサービスなどがあります。各サービスについては後半で解説するので、まずはリキッド消費の大枠をとらえておきましょう。
リキッド消費と対比されるソリッド消費
リキッド消費についての理解を深めるために、対比的な用語である「ソリッド消費」についても把握しておきましょう。
以前からの消費傾向であるソリッド消費は、長期にわたる所有や使用を前提としており、個体のように安定した状態から「ソリッド(Solid)」と表現されています。リキッド消費とは対照的な特徴を持ち、「永続的(enduring)」「所有的(ownership based)」「物質的(material)」が主な要素です。
ソリッド消費 | リキッド消費 |
---|---|
永続的(enduring) | 短命的(ephemeral) |
所有的(ownership based) | アクセスベース(access based) |
物質的(material) | 脱物質的(dematerialized) |
そして近年の消費傾向は、モノや情報などから得られる経験(コト)が重視されつつあります。今までの安定的な消費「ソリッド消費」から、液体のように流動的な消費である「リキッド消費」へと変化しており、今後も拡大することが予想されます。
リキッド消費が浸透した背景
消費傾向が流動的なものに移行しつつある背景には、消費者がコトを重視するようになっただけでなく、デジタル技術の発達や環境に対する意識も影響しています。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
「コト」への消費傾向が強まっている
近年の消費傾向は、商品やサービスの利用で得られる経験「コト」の消費が重視されつつあります。
今までの消費はモノを購入して所有・使用することがメインでしたが、昨今はモノを持たなくても同様のサービスを利用できるようになりました。例えば、カーシェアリングサービスなどを活用すれば、車を購入しなくてもドライブや遠出が可能です。
このように必要なときに必要なだけ利用できるサービスも増えたため、流動的で柔軟な消費行動であるリキッド消費の傾向が強まっています。
デジタル化による消費の手軽さ
リキッド消費への変化を後押しした要因として、デジタル技術の発達も大きなポイントです。通信の安定性や速度は年々向上しており、スマートフォンやパソコンなどを使うことで情報を手軽に得られるようになりました。
そして、昨今は書籍やCDなどの実物を持たなくても、データをダウンロードするだけで楽しめるサービスも登場しています。デジタル化された消費によって実店舗へ行く手間を省けるほか、所有することで発生する保管場所の確保や処分なども不要です。手軽に消費でき、時間的・金銭的なコストの負担を抑えられる点が消費者に支持されています。
環境に対する意識の変化
1990年ごろから2010年代序盤に生まれたZ世代など、環境問題に対する若い人たちの意識もリキッド消費と関連している可能性があります。「SDGs」に代表されるように、特に近年は社会・環境に関する教育や情報発信の機会も増え、サステナブルを意識して購買する人も増えているようです。
2023年に博報堂が公開したレポート「生活者のサステナブル購買行動調査2023」によると、10〜20代の若者を中心にすべての世代で購買時に環境・社会を意識している割合が増加しているという結果が出ました。また下図を見ると、特に若い世代では新品よりも中古品を購入したり、シェアしたりといった行動に対する意識の高さが分かります。
引用:博報堂「生活者のサステナブル購買行動調査2023」
気に入ったものをできるだけ長く愛用したり、不要になったものや欲しいものはシェアしたりといった価値観を持つ人が増えたことから、リキッド消費の傾向が強まっていると考察できます。
リキッド消費のサービス例
リキッド消費として利用されるサービスとしては、「シェアリングサービス」「サブスクリプションサービス」「リサイクル・リユースサービス」の3つが代表的です。
各サービスがどういった特徴を持っているのか、詳しく見ていきましょう。
シェアリングサービス
シェアリングサービスは、個人あるいは企業が所有しているモノや場所などを、必要とする人と共有するサービスです。例えば、車を共同で使用するカーシェアリングや物件を貸し出すレンタルスペースのように、場所・乗り物・能力・お金・アイテムなどあらゆるものが共有されます。
ユーザーはモノを所有することなく、自身が必要なタイミングで一時的に利用できるため、シェアリングサービスはリキッド消費に合致したサービスといえるでしょう。
サブスクリプションサービス
月額あるいは年額で課金することで、製品やサービスなどを一定期間で利用できるのがサブスクリプションサービスです。映画やドラマなどを視聴できる動画配信サービス(VOD)や、音楽配信サービスなどが該当します。
また家具・家電をはじめ、ブランド物や玩具、楽器といった有形のものを利用できるサブスクリプションサービスも存在します。高額なものほど購入のハードルが高くなりますが、サブスクリプションサービスであればコストを抑えやすいため、普段から利用している人も少なくありません。
リサイクル・リユースサービス
リサイクル・リユースサービスは、利用者同士で物品の販売・購入をおこなえるのが特徴です。以前はフリーマーケットなどで同様のことがおこなわれていましたが、近年はスマートフォンアプリを使って手軽にやり取りができるようになりました。
リキッド消費はブランドに対するこだわりが希薄になっている側面もあり、消費者のなかには将来的に売ることを視野に入れて購入する人もいるようです。購入したものが気に入らなければ売ることも可能なので、リキッド消費と同様に短命的あるいは脱物質的な消費行動といえるでしょう。
リキッド消費に対するマーケティングのポイント
人々の消費行動が流動的かつ柔軟なリキッド消費に変化しつつあるため、企業は従来の手法では十分な利益を上げられなくなる可能性があります。
そこで、リキッド消費の潮流に合わせたマーケティング戦略として、以下3つのポイントを押さえておきましょう。
消費者心理の理解
まずは本記事で紹介したように、リキッド消費に関する理解を深めることが重要です。同時に消費者のニーズや実際の市場動向などを調査し、どういったサービスが求められているのかを把握しましょう。
リキッド消費におけるターゲットは、ブランド戦略の中心となるコア層ではなくライト層となる場合がほとんどです。ライト層はタイムパフォーマンスやコストパフォーマンスを重視する傾向にありますが、消費者心理を理解することでより効果的なアプローチをしやすくなるでしょう。
オムニチャネル戦略の強化
リキッド消費では、ブランドよりも競合サービスで優位なものが重視される傾向にあるため、オムニチャネル戦略の実施がおすすめです。例えば、「ライブコマース」を販売チャネルにしてみるのも一つの手です。動画共有サービスなどを使って商品紹介や購買促進をおこなうため、リキッド消費に適した戦略といえます。
このようにSNSやECサイトといったオンラインのチャネルを幅広く用意し、実店舗などのオフラインでも顧客との接点を設ければ、シームレスな購買を促せるでしょう。
継続されるサービスを提供する
リキッド消費の時代に合ったマーケティングをおこなうには、長期にわたって継続されるサービスの提供が重要です。たしかにリキッド消費ではブランドへのこだわりが弱い傾向にありますが、安定的な利益を得るためには消費者の継続性が欠かせません。
サブスクリプションサービスなどは安定的な利益につながるものの、ユーザーに満足してもらえなければ、すぐに解約される可能性もあります。そこで、サービスやコンテンツを充実させつつ、顧客満足度を定期的に把握することが大切です。場合によっては特典や割引を用意したり、アフターサービスを徹底したりといった施策もよいでしょう。
まとめ
本記事では、リキッド消費の基本的な情報をはじめ、主なサービス例やマーケティングのポイントまで紹介しました。リキッド消費は海外で生まれた概念ですが、モノを持たず体験を重視する消費傾向は日本国内も例外ではありません。
世界的にIT技術の発達は目覚ましいものがあり、それにともなって消費の形も変化しつつあります。そのため、これからのビジネスを考えるうえでは、リキッド消費の視点を事業戦略に取り入れることも重要になるでしょう。
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