- 公開日:2025年12月23日
SD-WANとは?仕組みやメリット、導入に必要なポイントを解説
デジタルトランスフォーメーション(DX)の加速やクラウドサービスの利用拡大により、企業のネットワーク環境は大きな変革期を迎えています。特に複数拠点を持つ企業では、この変化に伴う運用負荷も増えています。
従来の専用線中心のWAN構成では、コストや柔軟性の面で限界が見え始めており、その解決策としてSD-WAN(エスディーワン)が注目されています。
本記事では、SD-WANの基本的な仕組みから従来のWANとの違い、導入による具体的なメリットや、実施に向けて考慮すべきポイントまで詳しく解説します。
SD-WAN(ソフトウェア定義型WAN)とは
SD-WANとは「Software Defined Wide Area Network」の略称で、日本語では「ソフトウェア定義型広域ネットワーク」と呼ばれます。
物理的なネットワーク機器で構築したWAN上に、ソフトウェアを用いて仮想的なWANを構築・管理する技術です。
技術的には、SDN(Software Defined Networking:ソフトウェアでネットワークを制御する技術)をWANに適用したもので、ハードウェアとソフトウェアを論理的に分離することで、WANを仮想的に一元管理できます。
SD-WANの具体的な仕組み
SD-WANは、従来の物理的なネットワーク機器に依存した構成とは異なり、ソフトウェアによる制御層を設けることで、柔軟なネットワーク管理を可能にします。
ここでは、ネットワークシステムを構成する主要な機能分離の概念である「データプレーン(実際のデータパケットを転送する役割)」と「コントロールプレーン(データ転送を制御するための情報を管理する役割)」をふまえて解説します。
SD-WANを構成する主なコンポーネント
SD-WANは、主に次の2つのコンポーネントで構成されます。
- SD-WANコントローラー
- SD-WANルータ(SD-WANエッジ)
SD-WANコントローラー
各拠点のSD-WANルータを集中管理する管理ソフトウェアです。コントロールプレーンとして、ルータの制御・監視・設定管理を行います。通信状況や品質を可視化する機能を備えることが多く、クラウドサービスとして提供される形態と、オンプレミス環境に設置する形態があります。
SD-WANルータ(SD-WANエッジ)
各拠点に設置される、物理的または仮想的なネットワーク機器です。データプレーンとしてトラフィック転送を担い、IPsecなどを用いて拠点間通信を暗号化します。「SD-WANエッジ」「SD-WANエッジルータ」「SD-WANデバイス」などと呼ばれます。
アンダーレイ/オーバーレイの2層構造によるネットワーク制御
SD-WANの大きな特徴は、アンダーレイ(物理)とオーバーレイ(論理)の2層構造にあります。
アンダーレイネットワーク(物理層)
物理的なネットワーク回線(MPLS、インターネット、4G/5Gなど)を指します。複数の回線を併用でき、回線種別やキャリアの制約を受けにくい構成が可能です。
オーバーレイネットワーク(論理層)
物理回線の上に構築される仮想的なWANです。SD-WANルータ間で暗号化トンネル(例:IPsec)を構成し、セキュアな通信を実現します。
この2層構造により、物理層(アンダーレイ)の制約を受けにくくしながら、論理層(オーバーレイ)側でネットワークを柔軟に設計・制御できる点が、SD-WANの大きな特長です。
従来のWANとの違い
SD-WANと従来のWANには、技術面・運用面・ビジネス面で大きな違いがあります。主要な観点から比較すると、次のとおりです。
このように、従来のWANは物理的な制約が多く、コストと運用負担が大きい構成でした。一方、SD-WANでは、ソフトウェアによる柔軟な制御により、これらの課題を解決し、現代のビジネス環境に適応したネットワーク基盤の構築が可能です。
SD-WAN・VPN・SASEの違いと役割
SD-WANを検討する際、VPNやSASE(Secure Access Service Edge)といった関連技術との違いを理解することが重要です。SD-WANとの関係性を次の表にまとめました。
SD-WANの環境では、VPNをインターネット回線上の暗号化トンネルとして活用することで、複数のVPN接続の統合管理を可能とします。
一方、SASEはSD-WAN機能にセキュリティ機能を統合した包括的なソリューションであり、SD-WAN導入後、さらなるセキュリティ強化が必要になった場合、SASEへの移行検討が一般的です。
また、VPNやSASEといった関連技術について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
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SD-WAN導入による5つのメリット
近年、国内でもSD-WANの導入が急速に進んでおり、市場は年々拡大傾向にあります。この成長の背景には、SD-WANがもたらす「コスト削減」と「運用の簡素化」という、企業にとって明確なメリットが存在します。
ここでは、SD-WANを導入することで企業が得られる主なメリットを5つの観点から解説します。
- ネットワークパフォーマンスの向上が期待できる
- ITコスト削減につながる
- 運用管理の負担が軽減できる
- セキュリティ管理が強化できる
- 現代のビジネス環境に柔軟に適応できる
ネットワークパフォーマンスの向上が期待できる
SD-WANは複数回線を同時に活用し、トラフィック状況に応じて、最適な経路を自動的に選択するため、常に安定した通信品質を維持できます。
また、ローカルブレイクアウト機能により、クラウドサービスへのアクセスを拠点から直接インターネット経由で行うことで、センター拠点を経由する従来型と比べ、大幅なネットワークパフォーマンスの向上につながります。
他にも、アプリケーションごとに最適な回線選択が可能です。ビデオ会議には低遅延の高品質回線を割り当て、Web閲覧などの一般業務には標準回線を使用する、といった柔軟な運用が実現します。
これにより、重要な業務の通信品質を確保しながら、ネットワーク全体の効率を高められます。
大幅なITコスト削減につながる
SD-WANの導入は、次の3つの観点でITコストの削減に寄与します。
「回線コストの削減」
従来の高額なMPLS専用線から、安価なインターネット回線への切り替えが可能です。これにより、インターネット回線と組み合わせたハイブリッド構成で、コストを抑えながら必要な通信品質が維持できます。
「運用コストの削減」
ゼロタッチプロビジョニング(ZTP)機能により、新規拠点の開設や設定変更の際、現地作業を最小限に抑えられ、人件費の削減が期待できます。
「増強コストの最適化」
帯域に余裕のある回線の有効活用で、新たな回線増強の必要性を減らし、設備投資を抑制できます。
運用管理の負担を軽減できる
SD-WANは運用管理業務を大幅に効率化します。ゼロタッチプロビジョニング機能により、新拠点では機器を設置して電源を入れるだけで、設定が自動的に適用され、拠点展開のスピードが飛躍的に向上します。
また、ネットワーク全体の可視化により、トラフィックの流れや、各回線の利用状況がリアルタイムに把握でき、問題の早期発見や迅速な対応が可能になります。
統合管理画面から、全拠点のネットワークを一元的管理できるため、個別の機器への設定確認や変更が不要です。これにより、統一されたセキュリティ対策を全拠点へ迅速に展開することも可能です。
従来のWANと比較してセキュリティを強化できる
SD-WANの導入で、ネットワークセキュリティを強化できます。中央集約型の管理により、拠点ごとに異なるセキュリティ設定が存在するリスクを回避し、全社的なセキュリティレベルの均一化が可能です。
通信面では、暗号化されたトンネルを経由するため、インターネット回線を利用する場合でも安全性が確保されます。
他にも、クラウドベースのセキュリティサービス(SWG、CASBなど)との統合が容易で、SASE(Secure Access Service Edge)アーキテクチャへのスムーズな移行が可能です。
仮に、セキュリティインシデントが発生した場合でも、中央の管理画面から即座に状況を把握し、全拠点への対策を一斉に展開できるため、被害の拡大を防止できます。
現代のビジネス環境に柔軟に適応できる
最後に、ネットワークをどれほど変化に強い形で保てるかという観点です。SD-WANの導入で、Microsoft 365、Salesforce、Google WorkspaceなどのSaaSサービスへの接続を最適化し、クラウドサービスのパフォーマンスを最大限に引き出せます。
テレワーク環境においても、より柔軟で高パフォーマンスなリモートアクセス環境を構築できるだけではなく、M&Aや事業再編による拠点統合の際も、迅速なネットワーク統合が可能です。従来型のWANでは数か月を要した統合作業が、SD-WANでは大幅に短縮されます。
工場や倉庫のIoTデバイス、制御システムなどへも、セキュア、かつ効率的なアクセスを実現できます。
SD-WANを自社導入するために押さえるべき3つのポイント
SD-WANの導入を成功させるには、技術面やセキュリティ面、運用面での綿密な計画が必要ですが、その際に押さえるべきポイントは次のとおりです。
- ネットワーク設計とトラフィックの最適化
- セキュリティ設計とガバナンスの確立
- 運用管理体制と人材確保
ネットワーク設計とトラフィックの最適化
SD-WANの運用効率化と柔軟な回線活用のメリットを最大限に引き出すには、自社の業務特性に応じた適切なネットワーク設計が必要不可欠です。具体的には、次の観点を押さえておくとよいでしょう。
「ハイブリッドWAN構成の最適化」
既存のMPLS回線とインターネットVPNを効果的に使い分けることで、コスト削減とパフォーマンスを向上できます。基幹業務には信頼性の高いMPLS回線を使用し、一般業務にはインターネット回線を活用する、といった設計により、必要な品質を確保しながら、コストの最適化が図れます。
「アプリケーション単位でのQoS(Quality of Service:通信品質の制御)設定」
QoS設定とは、ネットワーク上で「帯域幅の確保」と「通信の優先順位付け」を行いながら、通信品質を管理する技術です。Microsoft 365などのSaaSサービス、ビデオ会議、ファイル転送など、アプリケーションの特性に応じた帯域制御とルーティングを設定します。重要度の高いアプリケーションに優先的に帯域を割り当てることで、業務への影響を最小限に抑えます。
「ローカルブレイクアウト戦略の策定」
SD-WANでは、各拠点から直接インターネットへ接続する「ローカルブレイクアウト」の設計が重要です。従来のWANでは、すべての通信がセンターとなる拠点を経由していたため、センター拠点への負荷集中やクラウドサービスへのアクセス遅延が課題となっていました。
SD-WANでは、Microsoft 365やSalesforceなどのSaaSサービスは各拠点から直接アクセスし、基幹システムへの接続はセンター拠点経由とするなど、サービスの特性に応じた柔軟な設計が可能です。ただし、すべてのトラフィックをローカルブレイクアウトするのではなく、セキュリティリスクとパフォーマンスのバランスを考慮した戦略策定が求められます。
セキュリティ設計とガバナンスの確立
従来の閉域ネットワーク中心のWANとは異なり、SD-WANはインターネット回線を活用するため、新たなセキュリティリスクへの対策が必要です。
「ゼロタッチプロビジョニング環境でのセキュリティ統合」
各拠点への機器設置時に、セキュリティポリシーが自動適用される仕組みを構築します。ファイアウォールルールや侵入検知設定、アクセス制御などを中央で定義し、新規拠点でも即座に適用される設計にすることで、セキュリティの空白期間をなくします。
「インターネットブレイクアウト時のセキュリティ対策」
拠点から直接インターネットへ接続する際の脅威対策として、SWG(Secure Web Gateway)やCASB(Cloud Access Security Broker)の導入を検討します。これにより、マルウェア感染やデータ漏えいのリスクを低減できます。
「アプリケーション単位でのセキュリティレベル設定」
業務の重要度に応じてトラフィックを分離し、適切なセキュリティポリシーを適用します。機密性の高い業務通信には、暗号化強度の高い経路を使用し、一般的な通信には標準的な保護を適用するといった、きめ細かな制御が可能です。
運用管理体制と人材確保
SD-WANは一元管理が可能な一方で、適切な運用管理体制と専門知識を持つ人材が不可欠です。中央集約型の管理では、設定ミスや運用ミスが全社のネットワークに影響を与える可能性があります。一つの設定変更が、意図しない影響を及ぼすリスクを理解したうえで、変更管理プロセスを確立することが重要です。
実際にSD-WANを導入した企業の多くは、「運用が意外と煩雑」という課題に直面しています。統合管理画面での監視、トラフィック分析、セキュリティポリシーの継続的な見直しなど、日常的な運用業務には専門知識が求められます。
対策として、社内人材の育成とトレーニングの実施、ベンダーやサービスプロバイダーによるマネージドサービスの活用や段階的導入による知見の蓄積、運用マニュアルの整備や定期的な見直し、といったアプローチが考えられます。
適切な運用体制を構築することで、SD-WANのメリットを最大限に活用できるでしょう。
まとめ
SD-WANは、ソフトウェアによってWANを仮想的に一元管理する技術であり、従来のWANと比較して、コスト削減、運用効率化、セキュリティ強化、柔軟性向上といった、多くのメリットをもたらします。
特に、複数拠点を持つ企業や、クラウドサービスを活用する企業にとっては、ネットワークパフォーマンスの向上と、管理負担の軽減を同時に実現できる有効なソリューションと言えるでしょう。
ただし、導入を成功させるには、適切なネットワーク設計、セキュリティ対策、運用管理体制の構築が必要不可欠です。自社の業務特性や、既存のネットワーク環境を考慮した計画的な導入が求められます。
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