- 公開日:2026年01月21日
ワット・ビット連携とは|生成AI時代に求められるインフラ構想を解説
生成AIの普及に伴い、データセンター(DC)の電力・冷却負荷が増大し、都市部では送配電設備の余力不足や立地拡張の制約が課題となっています。
一方で、地域によって電力系統の余力やインフラ条件にばらつきがあり、処理需要の集中とインフラの分散とのギャップが顕在化しつつあります。
こうした課題に対し、電力・通信・DCを一体で最適化しようとする考え方が「ワット・ビット連携」です。本記事では、ワット・ビット連携に注目が集まる背景やメリット、官民による取り組みを解説します。
ワット・ビット連携とは
ワット・ビット連携とは、「電力(ワット)」と「情報通信・データ処理(ビット)」を別々に考えず、セットで最適化しようとする考え方です。例えば、「どの地域にDCをつくるか」「どんな電源と結びつけるか」「どのネットワークで処理をつなぐか」など、インフラ全体の設計を一つのテーマとして扱います。
近年のDCは生成AIの普及に伴い、電力・冷却・通信の全てにおいて、従来とは異なる規模・密度の要件が求められるようになりました。こうした変化を背景に、DCは単なるIT設備ではなく、産業競争力やエネルギー政策とも密接に関わる「社会インフラ」として捉えられています。国の政策議論においても、電力・通信・DCを一体で設計するデジタルインフラ戦略の中核要素として位置付けられているのです。
ワット・ビット連携とスマートグリッドの違い
「ワット・ビット連携」と「スマートグリッド」は、どちらも電力網にデジタル技術を組み合わせ、効率良く電力を使えるようにする点では共通しているため混同されやすい概念です。
しかし、両者は目的と扱う範囲が明確に異なります。スマートグリッドは、グリッド(送配電網)にICTを活用し、需要と供給をうまく調整して電力を効率良く使うことを目指す仕組みです。主役はあくまでも「電力網」であり、家庭・工場の電力使用状況を見える化や、電力の流れを制御することが中心です。
一方、ワット・ビット連携は扱う範囲がより広く、電力・通信・DCをまとめて最適化することを目指しています。また、生成AIやIoT、自動運転といった新しいサービスを支えるためのインフラの作り方そのものに踏み込んでいる点も特徴です。
つまり、スマートグリッドが電力インフラの高度化であることに対し、ワット・ビット連携はエネルギーとデジタルインフラ全体の設計構想という位置付けです。
なお、電力インフラの効率化や再生可能エネルギーの安定的な活用は、国が進めるGX(グリーン・トランスフォーメーション)とも方向性を共有しています。GXに関して詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてみてください。
関連記事:GX(グリーントランスフォーメーション)とは? 取り組み事例や企業のメリットを解説
ワット・ビット連携に注目が集まる背景と課題
生成AIの普及によってAI処理の計算負荷は増大し、電力使用量・発熱・設置スペースなどの面で、従来のDCと比較すると、非常に大きな負荷が生まれるようになりました。具体的には、電力供給システムや設備能力に対し、これまでのIT処理とは次元の異なる「インフラへの負荷」が生じています。
これまで、データセンターはユーザーに近い都市部に設置することが、通信遅延(レイテンシ)やアクセスの観点で合理的とされ、現在もその重要性は変わりません。しかし、生成AIの学習処理のような「膨大な電力」と「広大な冷却スペース」を必要とするニーズが急増したことで、都市部のインフラだけでは受け入れが難しくなるケースも顕在化しています。
一方で、北海道・東北・九州などの地方エリアでは、都市部に比べて電力系統に比較的余力が残っている地域も存在します。さらに、電力・通信・データセンターが特定のエリアに集中すると、広域災害時のリスクが高まるため、災害時の被害を抑え、早期復旧を可能にする「レジリエンス(強靭性)」を高める目的で、拠点を分散させる動きが加速しています。
こうした背景から、都市型DCと地方分散型DCを適切に使い分けるインフラ設計が必要とされています。ここでは、その要因となっている「AIによる負荷増大」と「電力供給の制約」という2つの側面について詳しく見ていきましょう。
生成AIや大規模モデル普及による電力・設備負荷の増大
生成AIの学習・推論には大規模な計算処理が必要であり、これに伴ってデータセンターでは電力消費・発熱・冷却負荷が急速に高まっています。
特に、LLM(大規模言語モデル)や画像生成モデルのような大規模処理は、電力を大量に使う時間帯が集中しやすく、従来の冷却設備や受電設備では不十分となるケースも少なくありません。
こうした負荷の増大を踏まえると、「電力をどこで確保するか」「どの場所で処理を行うか」を切り離して考えることが難しくなりつつあります。電力・通信・DCを一体的に設計しなければ、AI時代の需要に応えられないという認識が広まりつつあるのです。
電力網の地域偏在と再生可能エネルギー変動が生む供給面の制約
電力インフラの空き容量は地域差が大きく、需要が集中する都市部では送配電設備の増強が追いつかない一方、地方には比較的受け入れ余地のあるエリアが存在します。こうした分離構造は、データセンター立地、電力系統容量、送配電設備、通信ネットワーク設計を含む「デジタル・エネルギーインフラ全体」の設計におけるボトルネックのひとつとなっています。
また、電力供給を中長期的に安定させるうえでは、太陽光・風力などの再生可能エネルギーのように、地域によって導入量が異なり発電量が変動する電源をどう扱うかも重要です。再生可能エネルギーの多い地域で処理拠点を確保できれば、電力の有効活用や安定供給の確保につながる可能性がありますが、季節・天候による変動性も考慮する必要があります。さらに、通信・電力・DCが一極集中すると、広域災害時には復旧に時間を要するリスクを孕んでいます。
ワット・ビット連携は、これまでに挙げた「地理的な電力系統の差」「再生可能エネルギー活用の可能性」「災害時のレジリエンス」といった観点を総合し、AIの学習や推論、大規模なデータ処理などの「計算負荷の高い作業」を、電力条件や通信要件に応じて最適な場所へ配置する取り組みです。
ワット・ビット連携がもたらすメリット
ワット・ビット連携は、単に電力を効率良く使うだけではありません。電力事業者をはじめ、データセンター事業者や通信事業者、自治体など、複数の立場にメリットが生まれる点が特徴です。
ここでは、それぞれの立場ごとにどういったメリットがあるのか、整理して紹介します。
【ワット】電力事業者側のメリット
電力事業者にとっての大きなメリットは、余剰再生可能エネルギーを有効活用しやすくなる点です。再生可能エネルギーは気象条件によって発電量が増えすぎる場合があり、その際には出力制御で一部の電力を捨てざるを得ないケースもあります。そこでワット・ビット連携の仕組みを使えば、発電量が多い地域にAI学習用DCを誘致し、地域内で電力を使い切ることができるため、出力制御の抑制や送電ロスを低減させることが可能です。
また、電力需要が都市部に集中しなければ、送配電網の増設コストを抑えられ、設備投資を平準化しやすくなります。結果として、電力料金の安定や電力システム全体の効率向上に寄与するでしょう。
このほか、再生可能エネルギーの地産地消が進めば、送配電網の制約に左右されずに脱炭素電源を活用でき、再生可能エネルギー比率の拡大にもつながる点がメリットです。
【ビット】DC・通信事業者側のメリット
DC・通信事業者にとっては、電力を安定して確保しながら計算資源を拡張できる点が大きなメリットです。都市部では電力が足りずDCを増設できない場合でも、再生可能エネルギーが豊富な地域に処理拠点を置けば、受電容量の制約を受けにくく、拡張性が高まります。
また、処理を複数地域に分散させることで、災害時のリスク分散にもつながります。近年は低遅延ネットワーク技術の進展により、地理的な距離がAI処理性能に与える影響が小さくなりつつあります。これにより、エッジコンピューティングや分散推論といった新たなサービス展開を支える基盤として、ワット・ビット連携の考え方が現実的になっています。
つまり、ワット・ビット連携はDCの場所に縛られない運用を実現することで、通信事業者にとっても新たな価値を創出する土台となりえるのです。
【その他】地域・社会へのメリット
地域社会にとってのメリットは、単なる「施設誘致」にとどまらず、地域の社会インフラそのものを底上げできる点です。
第一に、インフラ整備の波及効果です。 AI学習用のデータセンターには、大容量の通信回線と強靭な受電設備が不可欠です。これらが整備されることで、地域全体の通信環境や電力網が強化されます。
ここうした高度なデジタル基盤の整備は、IT企業のサテライトオフィス設置や研究拠点の立地検討を後押しする要因となり得るでしょう。直接的な雇用創出は限定的とされる一方で、関連産業の集積や地域経済への波及効果を通じて、間接的な雇用や税収への貢献が期待されています。
第二に、住民サービスの高度化と地域課題の解決です。物流や交通分野での人手不足は深刻な課題です。データ処理拠点が地域の近くにあることで通信遅延が短縮されれば、自動運転バスによる移動支援やドローン配送、高精細映像を使った遠隔医療といった次世代サービスの実装が現実的になります。
ワット・ビット連携の実現に向けた官民の取り組み
ワット・ビット連携の実装に向けて、国・自治体・民間企業がそれぞれ制度整備や実証実験を進めています。特に官民連携による環境整備はDCの分散配置や再生可能エネルギー活用を前提としたインフラ整備を推し進めるうえで重要な役割を果たしているといえるでしょう。
ここでは、ワット・ビット連携を推進するための官民それぞれの取り組みを紹介します。
行政機関による取り組み
経産省・総務省では、電力系統の余力がある地域を明示する「ウェルカムゾーンマップ」を公開し、DC事業者が立地を検討しやすい環境を整えています。また、2025年には電力・通信インフラ事業者や学術機関、関係省庁が集まり「ワット・ビット連携 官民懇談会」が数回にわたって開かれました。ここでは、DC分散配置や通信インフラの高度化、脱炭素電源の活用を視野に入れた制度設計が議論されています。
このほか、広域災害に備えたレジリエンス強化の観点からも、DCの地域分散を国として推進する方向が示されています。
民間企業による取り組み
民間企業では、電力・通信事業者を中心にAPN(All-Photonics Network:全てを光で通信する超高速ネットワーク技術)を活用した地域分散DCの一体運用などの実証が進んでいます。国内の電力事業者では、再生エネルギー比率の高い地域でのAI処理拠点構築を見据え、電力需要に応じて処理を分散させる取り組みを発表しています。
これにより、電力が余っている地域に学習処理を寄せたり、都市近郊の低遅延エリアに処理推論を置いたりと、用途に応じた柔軟な処理の振り分けが可能となります。
また、複数の地域に分散したDCを高速通信でつなげられれば、大規模災害時でもサービスを維持しやすくなり、設備の稼働率向上やコストの最適化にもつながるでしょう。これらの取り組みはワット・ビット連携を現実のインフラとして根付かせるうえでの重要なステップといえます。
ワット・ビット連携を通じて未来のインフラにも目を向けてみよう
生成AIの普及に伴い、DCに求められる電力・冷却・通信要件は高まっています。こうした負荷の増大に対して、電力のある場所と処理を行う場所を切り離さず、一体で最適化しようとするのがワット・ビット連携の考え方です。
電力・通信事業者だけでなく、自治体にもメリットがあり、国の政策議論でも重要なテーマとして取り上げられています。今後は、電力・通信・DCが最適化されることで、地域発のAI活用や新しい産業の創出も期待されるでしょう。
オプテージでも生成AI向けのDC構想を進めており、企業活動を支える基盤作りに取り組んでいます。ビジネスにAIを取り入れる企業が増える昨今、その裏側で動くインフラにも視線を向けてみてはいかがでしょうか。
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