【OPTAGE】ビジネスフォーラム2022特別企画「スペシャルインタビュー」石井 和男氏:政策アナリスト / 社会保障経済研究所 代表

いまや地球規模の課題となっているカーボンニュートラル。その実現に向けて日本はどうあるべきか。また企業は、そして私たち一人ひとりは何ができるのか、何をしなければならないのか。通商産業省(現:経済産業省)の資源エネルギー庁に勤務し、長年にわたり資源やエネルギー事業に従事されてきた石川和男氏に話を伺った。

まず石川さんがエネルギー政策に関わるようになった経緯についてお聞かせください

石川:大学を卒業して通商産業省の資源エネルギー庁に入庁したのがスタートですね。大学では工学部に在籍していて資源工学を専攻していましたので、卒業後に資源エネルギー庁に入庁したのはある意味必然だったのかもしれません。
ご存知の通り日本には資源がほとんどありませんし、当時は石油が30年で枯渇するなどという説もあったりした中で、「資源って大切なんだな」って漠然と思ったのがきっかけといえばきっかけでしょうか。結果的にそれがそのまま仕事になったということですね。

石川 和男氏

エネルギーといえば、ご自身でも自宅に太陽光発電を設置されてるとか?

石川:そうなんです。シンプルに「自分でやってみたかった」というのが理由ですね。そんなにみんなが良いっていうなら確かめてみようと。導入したのは2020年。いわゆる「屋根貸し」で、イニシャルコストはかかってないんです。
自宅は東京なんですが、意外にも日照が良いのでちゃんと収入になるんですよ。

ドローンの操縦がご趣味だとお聞きしました。これもエネルギーと関係が?

石川:なかなか上達しないんですけどね(笑)趣味といえば趣味なんですが、実は、これもエネルギーに関わってくるんですよね。つまり蓄電池。日本って自然災害の多い国ですから、例えば災害で道路が寸断されたりすると、物資の運搬や補給もままならなくなるわけです。そこで活躍するのが空輸。ドローンの出番なんです。ドローンは電池で駆動します。災害時には電気の供給もストップしているかもしれません。でもそんな時、例えば先ほどの太陽光パネルを使って、充電したドローンを被災地の支援に活用できるわけです。ヘリコプターという手段もありますが、細やかな対応は難しいですから。実用化に向けてはドローンに使う電池の小型化・軽量化、さらには高効率化が今後の課題になってくると思います。

ところで、最近「カーボンニュートラル」って言葉をよく耳にしますね

石川:そうですよね。カーボンニュートラルというのは「炭素を出さない」ことだと思っている方もいるようですが、それだけではないんです。そもそも炭素を一切出さないで社会活動をすることなんて無理ですし。炭素の排出をゼロにはできないけど、排出したものを「何か」で相殺して結果としてゼロにできないか、それがカーボンニュートラルの考え方なんです。例えば植林。木を植えて緑を増やすことです。植物は光合成をするときに二酸化炭素を吸収して酸素を排出します。緑が豊かであればそれだけCO2を削減することができるんですね。植物が育つには時間がかかりますし、一朝一夕に効果が現れるものではないですが、将来を見据えてとても大切な取り組みだと思います。
あとはCO2を地下に埋めるという方法もあります。油田とかガス田とか炭田の採取後の空間にCO2を埋めるってことなんですが、これが難しいんです。大気中のCO2濃度は0.04%なのですが、それを集めるのにもエネルギーが必要なんです。そのことにエネルギーを使ってCO2を排出したら、それこそ本末転倒ですしね。ただ、技術的なブレイクスルーがあれば解決する可能性はあるので、今後に期待ですね。

では、企業が取り組むべきカーボンニュートラルについてどうお考えですか?

石川:まず「ちゃんと知ってもらう」ってことでしょうね。環境に対する意識は企業側にも一般の人にも随分と浸透してきていると思うので、一般向けの商品やサービスでいうと、消費エネルギーやCO2の数字をしっかりと伝えていくことが大事なんじゃないでしょうか。例えば、去年の商品よりも今年の商品は製造過程でCO2が何%削減できています、とか、地産地消することで輸送時のCO2を何割削減しています、とか。もしくは消費電力が他社や他製品に比べて何分の一です、とか。そういう情報を知っていただいた上で商品やサービスを選んでいただいたり、使ってもらったりすることで消費行動が変化し、省エネにつながっていくんだと思うんですね。
今やカーボンニュートラルやSDGs、またESGなんかは企業として避けては通れないわけです。というよりも、それらに対する取り組みがその企業に対する大きな価値判断になっています。そのような意識が商品やサービス開発の軸になってくれば、やがて革新的な技術や製品が開発されていくんだと思いますね。例えば、薄さや重さは変わらないのに断熱性能が10倍のガラスが開発されたり、太陽光発電がガラス面に予め備わっていたりするとしますよね。そうすれば、企業や家庭で冷暖房に使うエネルギーは極端に低くできるわけです。つまり、革新的な技術やブレイクスルーが世界を変える可能性を持っているということなんですね。

石川 和男氏

では、個人が取り組むべきカーボンニュートラルについてどうお考えですか?

石川:個人での取り組みについては「省エネ」と言い換えた方が分かりやすいかもしれませんね。先ほども触れましたが、まず、商品やサービスに対して、省エネや環境の意識を持つこと。すごく分かりやすく言うと、化石燃料の消費を減らすにはどういうメニューがあるかを調べて、それをどういうふうに取り入れるか。要するに、どうやったら油の量を減らすか、ガスの量を減らすか、石炭の量を減らすか、つまり、電気やガスをどうやって少しでも効率的に使うかという意識を持つことだと思います。
そういう意味では、みんなでシェアするという考えもありますよね。例えば冷房や暖房を、家庭で各々が各々の部屋で使うのではなくて、リビングに集まって一カ所で使うなど、電気やガスを使う場所にみんなで集まるとか。
あと、今カーシェアリングってサービスがありますよね。みんなが車を持つんじゃなく、必要な時に必要な人が使う。これもある意味、省エネだと思うんです。小さいことかも知れませんが、そういうことを積み上げていくことが大切なんじゃないでしょうか。

グリーントランスフォーメーションについてどのように考えていますか?

石川:要は脱炭素社会をつくる、ということだと思いますが、日本は圧倒的に化石燃料のニーズが高いんですよ、資源がないから。一方で、省エネ技術もそうですが、火力の効率化技術が日本は世界的にもトップレベルなんです。これをどうやって国内・国外に売っていくかが重要なんじゃないですかね。費用対効果さえ良ければ、使う燃料の量が減る。すなわちそれはSDGsなんです。化石燃料は厳密に言うと、いつかなくなるじゃなくて、いつか採れなくなる。だから、どうやって化石燃料の持続可能性を高めていくか。日本はそこに貢献できると思いますね。もちろん太陽とか風は無限なので、再生エネルギーもうまく利用していくことは言うまでもないことですが。

エネルギーのベストミックスについては如何でしょうか。

石川:エネルギーのベストミックスは政策上最も大事な概念です。だって、エネルギーを確保する手段を複数用意しておかないと。1個がダメで全部ダメっていうのは危ないですよね。例えば今、日本は化石燃料、特に天然ガスにあまりにもシフトしすぎているので、天然ガスでアメリカと並ぶ世界1、2位の産出国であるロシアが戦争を始めてしまったから、「他から採ろう」となるけれど、急に採れるわけでもない。そうすると需給バランスで値段が上がり、確保も難しくなるわけです。原発事故が起きたから原発はダメとか、最近は太陽光で環境破壊だからダメとか、これは日本だけじゃないと思うけど、0か100かではダメだと思うんです。それぞれメリット・デメリットがあるんだから、何か一つの要因だけでその方法を全否定してしまうのは違うんじゃないかと思いますね。

石川 和男氏

最後に、このカーボンニュートラルの流れを止めないためには何が大切でしょう?

石川:「自分ごと化」「自社ごと化」していくってことですかね。先ほどカーボンニュートラルを一般向けに「省エネ」と言い換えましたが、カーボンニュートラルとか地球温暖化とか言われてもなんかピンとこないですよね、一般の方は。一体何をすればいいんだ?みたいな。なのでそれを「自分ごと化」「自社ごと化」してもらうことが大切なんです。例えばですが、CO2の出ない電源とCO2が出る電源があるとして、CO2が出ない電源を使った人にはマイナスのクレジットを付与し、化石燃料を使う人にはプラスのクレジットを付与して、それで相殺するとか。もちろん家庭の話だけではなく、企業においても同じことです。
それで賦課金を集めて、例えば原子力とか再生エネルギーの研究投資財源に国がプールするとか、法律や仕組みで何かしら規制しないと、持続は難しいんじゃないでしょうか。
規制というと印象が良くないかも知れませんが、カーボンニュートラルの問題を「自分ごと化」「自社ごと化」していただくことで、アクションを起こしやすい環境を整えていくということが、一過性のブームで終わらせない一番のポイントだと思いますね。

石川 和男氏

石川 和男(いしかわ かずお)
政策アナリスト
社会保障経済研究所 代表

通商産業省(現経済産業省)入省後、資源エネルギー庁、中小企業庁、大臣官房等を歴任。退任後も、規制改革会議専門委員など内閣府の
さまざまな諮問機関の委員として活躍。
社会保障経済研究所代表、霞が関政策総研主宰、算数脳育研究会代表理事として社会保障関連産業政策論、エネルギー政策論、公的金融論、
安全網論、行政改革論などに関する政策研究・提言を行っている。