- 公開日:2018年12月19日
注目集まるRPA、導入前に知っておくべき課題
拡大する国内のRPA市場
2045年には生産労働人口が2,200万人不足すると言われており、少子高齢化に伴う労働力不足対策と働き方改革への関心の高まりを背景に、RPAに注目する企業が増えている。
RPA(Robotic Process Automation)とは、人間の代わりにパソコン上で行う操作や作業を記憶して実行するソフトウェアロボットのことである。技術としては単なるマクロであり、近年新しく開発された技術ではない。産業用ロボットがライン生産を代行したのと同じように、人がひたすら対応する単純作業を代行するため、「デジタルレイバー(仮想知的労働者)」とも呼ばれている。
アイ・ティ・アール(ITR)の調査によると、国内のRPA市場は2017年度に売上金額35億円、前年度比約4.4倍の伸びを示したという。また、導入単価の下落が進みつつあるものの、市場参入ベンダーが拡大しており、今後も継続的な導入拡大が見込まれることから、2022年度には400億円市場となり、2017~2022年度の年平均成長率(CAGR)は62.8%を予測している(図1)。
RPA導入により期待される効果
RPAは大量のデータを決められたルールに従って処理する定型作業やルーチンワークが得意で、人間よりも正確に、ミスなく、長時間に渡り作業を続けることができる。通常のシステム化とは違い、人の作業を代行するため、例えばメールでの問い合わせへの対応、さまざまな伝票の処理など、作業が画一的でないためシステム化するのが難しく、人に頼らざるを得ない業務を短期間に自動化できる。
そのため、RPAの導入により業務プロセスを自動化することで、これまで従業員にとって大きな負担となっていた単純作業の業務量を大幅に削減することができるほか、複数の担当者が分担しても数日間かかっていたような作業が半日程度で完了するようになるなど、RPAの導入が長時間労働の解消、非正規と正社員の格差是正、労働人口不足の解消といった効果をもたらすと期待されている。
また、単純作業をRPAに任せることで、従業員は研究開発や企画立案といった、より創造的な業務に集中できるようになる。企業としても、付加価値の高い業務により多くのマンパワーを配分できるようになることで、組織全体の競争力を向上させることも可能となる。
RPA導入で直面する最大の課題
このようなメリットから、多くの企業でRPAの導入効果を検証するための実証研究(PoC:Proof of Concept)が実施されている。しかしながら、本格的な適用検討段階に入ると、PoCでは明らかにならなかった課題が顕在化することがある。
まず、RPAの展開で直面する最大の課題が「適用対象業務の選定」である。RPAを本格導入するにあたり、「どの業務のどの部分を改善したいのか」「なぜRPAを使うのか」など、事前に導入の目的を明確にした上で適用対象業務を選定する必要がある。
しかし、その際にしばしば議論のテーマとなるのが、「担当者が多く利用頻度が高い業務」のみを対象とするべきか、それとも「担当者が少なく利用頻度も低いが非効率性の高い業務」も対象に入れるべきか、という点である。
RPAツールの機能面や管理負担という観点から言えば、前者の業務のみを対象とする事が望ましい。だが、働き方改革や業務効率化という観点でいえば、後者のような業務も対象としなければ十分な成果は期待できないという声もあるようだ。
基本的には、RPAに適している業務は、経理精算や日報作成など、業務判断が単純かつ大量に発生するような業務であり、反対に、ひとつひとつの判断基準が異なる業務やあいまいな判断が必要な業務、ワークフローが変わりやすい業務などはRPAには適していない。
また、想定を超えて大規模にRPAを導入すれば、RPAの管理水準の低下を招き、さらには管理の重複や無駄が発生し、コストの増加につながる可能性もある。
そのため、RPA導入の初期段階では、まずは極めて定型的な作業や単純な業務のみにRPAを適用し、安全性の観点から機密情報や個人情報などを取り扱う作業は避けた方が無難だろう。
RPAは決して万能ではない。初めは一部の業務に絞って試験導入し、RPAで得られる成果をある程度把握した後に、徐々に適用範囲を広げていくといった「スモールスタート」を導入することで、ビジネスへのリスクを最小限に抑えるべきである。ロボット実行に必要な環境をデータセンターから提供することで、サービス開始後すぐに活用でき、必要な分だけ利用する従量課金型のクラウドサービスもあるため、導入方針に沿ったサービス選択が重要となる。
想定しておくべきRPAにおけるリスク管理
さらに、どのようにRPAを管理するべきかという「リスク管理」の課題も、事前にしっかりと想定しておかなければならない。
RPAのメリットを実感すると、その開発の容易さ故に、担当者が統制なく次々にロボットを作成してしまうことがある。
すると、前述のように、RPAの適用範囲は次第に広がっていく。さらに、ロボットを作成した管理者が退職し、後任の担当者への引き継ぎがしっかりとなされなければ、RPAはブラックボックス化され、やがて誰も管理できない「野良ロボット」が蔓延してしまう危険性がある。
こうして生まれた管理が行き届かない自動化ロボットは、知らないところで勝手にメールを送信し続けたり、ファイル操作を繰り返し、大量の処理を行ってサーバに負荷がかかった状態が延々と続くといった弊害をもたらす恐れがある。
仮に、サーバに多大な負荷がかかり続けることでシステム障害が発生し、RPAによる処理が行えなくなれば、企業の業務自体が停止してしまうことも考えられるだろう。
そのような事態に備え、RPAの作成権限や管理権限をルール化するとともに、最悪の事態を想定してシステムの冗長化を検討し、RPAが停止した際のガイドラインや業務オペレーションマニュアルを整備しておく必要がある。
また一般的に、クライアント型のRPAサービスはパソコン1台から導入できて、まずはRPAを手軽に試したいというニーズには適しているが、RPAの適用範囲を拡大するにはサーバ型のRPAサービスの導入を検討する必要がある。サーバ型のRPAサービスは、ロボットを集中管理する機能の他に、PCが占有されることがなくロボットを実行できたり、ロボットの実行をスケジュール機能により一元管理できるといった利点もある。
ただ、RPAはITツールだということも忘れてはならない。セキュリティ対策が十分でないと、外部からの不正アクセスや意図的な誤処理によって、機密情報や個人情報が漏えいする可能性がある。
機密性や重要性が高い情報を扱う業務にRPAを導入する場合、情報の処理や保管の方法の変化に応じた対策がないと問題が発生する可能性が出てくるため注意が必要だ(図2)。
RPAの導入に適した組織体制
こうしたRPAの導入・運用における課題の対応策として、企業は包括的かつ中長期的目線でRPAの管理・統制に適した組織作りを検討するべきである。
従来、企業が新たなITシステムを導入する場合、それを主導し、運用していくのは情報システム部門となる。だが、RPAで自動化する業務を詳しく把握しているのは、日頃から業務に携わっている現場部門の人間である。そのため、RPAのツールや導入対象業務を選定する場面では、現場部門が主体となって推進することが重要である。
また、ITガバナンスの観点から、全社的なシステムとの接続やセキュリティ確保の面では、情報システム部門のサポートが必要になってくる。システム的な観点からのアプリケーションの動作状況、システムをまたいだ自動化を実行する際の動作検証などは、バックオフィス部門で行える作業ではないため、現場部門と情報システム部門が密な連携を取り、一体となってRPAを導入していく必要がある。
加えて、RPAの導入による業務改革を担う経営企画部門や、外部パートナーの協力を仰ぐなど、組織や会社の枠を超え、連携しながら運用を行える体制を作っていくことが望ましい。
場合によっては、RPAの運用を一元管理できる部門横断型の専門組織であるCoE (Center of Excellence)を設けるなど、全社的な取り組みとしてアプローチしていく必要があるだろう。
どんなに導入効果が高いとされるRPAでも、事前に導入や運用時における課題を把握して対策を取らなければ、かえって現場の混乱を招いたり、RPAの利用自体が潜在的なリスクとなってしまう可能性がある。
価格や機能性など、単純なRPAツールの比較に終始せず、本番運用を視野に入れ、中長期的な観点で運用体制を構築することが、RPAの効果を最大化するカギとなる。
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