「ひとり情シス化」とは?今できる対策を背景や課題とともに解説

「ひとり情シス化」とは?今できる対策を背景や課題とともに解説
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「ひとり情シス」とは?IT人材不足が深刻化する現状

中小企業で「ひとり情シス」の深刻さが増している。ひとり情シスとは、情報システム担当者が1人しかいない状態のことを指す。本来ならば情報システム担当者は複数人アサインするのがセオリーだが、近年は、1人または少数の担当者で企業の情報インフラやシステムの面倒を見ざるを得ない状況にある中小企業が増えている。

デルが2018年12月~2019年1月に従業員100名以上1,000名未満の中堅企業868社を対象に実施した「IT投資動向調査」によると、中堅企業の約38%は情報システム担当者1人以下の状態にあり、なかでも18.8%の企業が情報システムの専任担当者が存在しない「ゼロ情シス」と呼ばれる状態にあるという。

また、中堅企業では専任の情報システム担当者が減少する一方で、他の業務と兼任している担当者が56.6%にのぼり、従業員が100人から200人未満の企業に至っては69.4%が兼任の状況にあるとの調査結果も出ている。

「ひとり情シス」とは?IT人材不足が深刻化する現状

(図1:大幅に進む中堅企業のゼロ・ひとり情シス化(出典:デル株式会社))

中堅企業でさえ約4割の企業が1人以下の担当者によって社内システム全体を支えている状態にある。従業員数が数人から数十人程度の中小零細企業や、起業したばかりのスタートアップ企業ともなれば、ひとり情シスやゼロ情シスの状態が決して珍しくはないことは容易に想像がつく。

中小企業でひとり情シス化が進行してしまう理由

しかし、ひとり情シスやゼロ情シスの状態に陥っていると分かっていながら、対応が後回しになっている企業も少なくない。

なぜ中小企業でひとり情シスがなかなか解消されないのか。それには、いくつかの要因が考えられる。

IT担当者の退職による人手不足

中小企業でひとり情シス化が進行してしまう理由

デルのIT投資動向調査によれば、情シス担当者の離職率は21%と非常に高い状況にある。情報システムやシステム運用に関する専門スキルを持たないひとり情シスは、業務を兼任している以上、十分なスキルを磨く余裕が生まれにくく、キャリアの向上も見込めない。そのため、条件の良い他社からのオファーに関心を寄せやすく、退職へとつながりやすい。

その結果、企業側は人を集めることができず、慢性的なIT人材不足に陥ってしまう傾向にある。

情報システムの外注が増えている

IT人材が集まらなければ、必然的に業務を外部委託することになる。ミック経済研究所が発表した「ITアウトソーシング市場展望2017年度版」では、2023年度までのITアウトソーシングの年平均成長率は10.4%で、2023年度には8兆9,615億円の市場規模に拡大すると予測されている。今後、ますます情報システム部門の少人数化・兼務化は進行していく可能性がある。

システムのオープン化・クラウド化の流れ

かつて、企業のシステムは自社内でのスクラッチ開発が主流であったが、現在はシステムのオープン化やクラウド化によって、システム導入の敷居が下がってきている。

パッケージソフトなどを活用すれば比較的容易にシステムを導入することが可能となり、システム環境もクラウドを利用することで、細かい仕様設計などの必要はなくなり、サーバの管理やメンテナンスの負担も軽減されている。

企業の上層部が情報システム担当者をコストと捉える

システムの導入や運用が容易になった結果、大きなトラブルも発生することなくシステムが日々稼働するため、まるで「担当者ひとりでも回せている」かのように見えてしまう。その結果、企業の上層部は情報システム業務にそれほどの人員や予算は必要ないと判断してしまう。

ひとり情シス化が招く問題点

このように、IT技術の進歩や経営者の認識不足などにより生じるひとり情シスの問題だが、その状態を放置しておくと、場合によっては企業にとって取り返しのつかない結果を招くことになる。

業務量が多く1人でこなしきれなくなる

ひとり情シスの状態では、インシデントへの対応や緊急対策、原因究明などに対して、処理速度や対応できる量、正確性の点でどうしても限界がある。社内に相談できる相手がおらず、協力してもらえる体制もないため、担当者1人にこなしきれないほどの業務が集中してしまうことになる。

トラブルの際の適切な対応が困難になる

担当者が不在だったり手が離せないときにトラブルが発生した場合、即座に対処できず、初動対応が遅れることになる。システムダウンなど一刻を争うような事態でも、対応できる人員が他にいなければ被害は拡大し、信用失墜や経済的損失へとつながる可能性がある。

ワークライフバランスが崩れる

業務が1人に集中することで、必然的に担当者の負担は大きくなる。そのため、担当者は十分な休暇も取得できず、ワークライフバランスが崩れ、モチベーションの低下や離職へとつながりやすくなってしまう。

ワークライフバランスが崩れる

セキュリティ上の問題が発生しやすくなる

担当者の離職などにより人手が不足している状況では、ハードウエアやソフトウエア、マイナンバーといった個人情報の管理なども不十分になりやすい。その結果、セキュリティの脆弱性からサイバー攻撃の標的となりやすく、情報漏洩やシステムダウンなどの深刻な事態を引き起こす要因となる。

ひとり情シス問題の対策とは

では、こうしたひとり情シス問題を中小企業が解決していく方法はあるのだろうか。

基本的な取り組み姿勢として、三現主義の原理原則に基づいて問題解決にあたる必要がある。トラブルは常に現場で起きている。したがって、答えも必ず現場にある。特にひとり情シスの問題は、データや情報を見るだけでは正しい判断は下せない。

実際に現場で現物を観察し、現実を直視することで、机上だけでは分からない答えを模索していく姿勢が大切になってくる。

そして、情報システム担当者の手間を少しずつ減らしていく必要がある。取り組み方はさまざまだが、ここでは5つのポイントをご紹介する。

1.自動化を駆使して業務を効率化する

ある情報通信企業では、ExcelのデータをWeb上のシステムにコピーし、Slackで連絡するといった面倒な作業がいくつも存在し、1人では対応しきれなくなっていた。そこで、Pythonによって外部システムへのオペレーションを自動化した結果、定型的なコピペ作業を短縮し、Slackでの連絡も自動化できたという。昨今は自動化に便利なソフトウエアが多数存在し、なかには無料のものまである。Slackなど他のアプリケーションと連携できるソフトウエアを有効活用することで、業務効率は格段に向上するだろう。

また、クラウドサービスを駆使することで、容易に大規模なシステム構築が可能となる。システムの構築や運用に十分な人材が足りていない中小企業は、こうしたクラウドサービスを利用しない手はないだろう。

2.企業の上層部を味方につける

社内の上層部との合意形成には想定以上の時間がかかることもある。経営者によっては、いまだに情報システム業務に対して十分な理解を示さず、付帯的で余分な業務だと考えている。

しかしながら、企業の上層部を味方につけることで、サーバの移転といった大きなイベントもトップダウンによってスムーズに進めることが可能となる。そのため、上層部とは密にコミュニケーションをとりながら、一方で社内における情シスの役割を明確にし、成果を上げることで、社内の情シスの地位向上を図っていく必要があるだろう。

3.サポートに必要なコストを示す

ひとり情シスは、Excelの使い方やメールの設定など、ネットで調べれば簡単に解決するような事でもむやみやたらに依頼されるケースが多い。こうした便利屋扱いされることを防ぐため、対応にかかるコストは明確にしておいた方が良い。また、作業記録を作って上司に報告していくことで、上司にも仕事量をコントロールしてもらいやすくなるだろう。

4.複数人の担当者を配置する

1人で担当していると思うように休暇が取れなくなり、不測のトラブルにも対応しにくくなる。そのような事態を回避するためにも、兼任でもよいので、担当者を複数人配置して業務負荷を分散する体制を整えておくべきだろう。

5.情報システムの運用外注も視野に入れる

ある独立行政法人では、サーバ数十台の基幹システムを運用していたが、サーバの台数が多く頻繁にトラブルが発生することもあり、ひとり情シスの担当者は夜間出勤が続くなど頭を悩ませていた。

そこで、基幹システムをITベンダーへアウトソーシングし、システムトラブル対応などのコア業務以外の対応はITベンダーが担当するようにしたことで、ひとり情シスでも全体のシステムを管理できるようになったという。

どうしても社内で人手を補えない場合は、外部のITベンダーと連携することで、少ない人手でも大規模なシステムを運用できるようになる。人員増員が困難な場合は、アウトソーシングが解決の糸口になる可能性が高い。

情報システムの運用外注も視野に入れる

(図2:IT人材不足に対して中小企業が取るべき対策)

解決できるひとり情シス問題

以上、中小企業がひとり情シスを解消するポイントについて説明してきた。

ひとり情シス化は、情報システム部として辛い状況であることは間違いない。しかし、取り組み方や工夫次第で、ひとり情シス問題は十分に解決できる可能性がある。

社内の環境によってベストプラクティスは変わってくるだろう。現在人手不足に悩んでいる中小企業も、決して諦めずに、ひとり情シスでも対応していける方法を模索していただきたい。

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著者 OPTAGE for Business コラム編集部

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