- 公開日:2021年06月09日
オンプレミスからクラウド型ERPへ乗り換える企業が増えている理由
増え続けるクラウド型ERPの需要
ERPとは、Enterprise Resources Planning の略で、企業の資源(ヒト・モノ・カネ・情報)を有効活用する計画を意味するが、昨今は企業の基幹系情報システムを指すことが多い。
ERPは企業活動を継続していくために無くてはならないものだが、最近では従来のオンプレミス型ERPではなく、クラウド型ERPの需要が高まっている。その理由は大きく分けて3つある。
◎ 日本で注目される「2025年の崖」の存在
経済産業省は、2018年に公表した「DXレポート」において、DX対応が企業の明暗を分ける境界を「2025年の崖」と表現した。2020年12月に公表したDXレポート更改版では、コロナ禍の影響でDXの緊急性がより高まったとしている。さらに本レポートの中では、データ活用が進まない場合、「2025年以降、最大12兆円/年(現在の約3倍)の経済損失が生じる」とも指摘されている。世界では実際にデータを活用して大きな利益をあげている企業も出てきており、日本にもERPをはじめとするデジタル活用で2025年の崖を乗り切ろうという動きが広がっている。
データ活用には多くのコンピュータリソースが必要となる場合もあるが、クラウド型ERPであれば必要に応じてシステムを柔軟にスケーリングできる。またシステム運用管理を事業者側で実施するクラウド型ERPもあるため、セキュリティ面のノウハウがないなどシステム運用管理に課題を抱える企業でも手軽にデータ活用を始めやすい。主にこれらの理由から、オンプレミス型ERPではなくクラウド型ERPに注目が集まっている。
◎「クラウドファースト」の流れで拡大するクラウド活用
矢野経済研究所「ERP市場動向に関する調査」によると、近年の「クラウドファースト」の流れから、2019年のクラウド型ERP利用率(IaaS/PaaS利用とSaaS利用の合計)は38.3%まで拡大した。コロナ禍でクラウド型ERPの需要はさらに高まっており、2021年にはオンプレミス型を上回る63.5%に達する見通しだ。
クラウド型ERPの利用率が躍進している背景には、全体的なクラウドサービスのセキュリティ品質向上がある。これまでのクラウドサービスではセキュリティが懸念事項としてよく挙がっていたが、「クラウドファースト」の言葉が登場する以前から、さまざまな企業がクラウドサービスの品質向上に取り組んでおり、その成果が表れていると言えよう。
特に金融業界においては、ITシステムの安全性を判断する基準として広く利用されている「FISC安全対策基準」がクラウドの利用を前提としたものに改定された。またクラウドに特化したセキュリティ認証であるISO/IEC 27017が整備されたことも大きい。
◎ 既存ERPの老朽化によるシステム更改
日本では2000年代頃からERPが普及したため、多くの企業がシステム更改の時期を迎えていることもクラウド型ERPの普及を後押ししている。ERPの中でも大きなシェアを占めていたSAP ERPの2025年メインストリームサポート終了も大きな要因だ。2020年2月にSAP Business Suite7については2年のサポート延長が発表され「SAP 2027年問題」となったものの、対応しなければならない状況に変わりはない。
クラウド型ERPのタイプは主に2つ
クラウドERPには、大きくパブリッククラウド型とプライベートクラウド型の2種類がある。
《パブリッククラウド型》
クラウドベンダーが構築したERP環境をシェアして利用し、システム運用もクラウドベンダーが担当するSaaS。
《プライベートクラウド型》
ITインフラ部分はクラウドベンダーのサービスで準備し、ERPのアプリケーションとミドルウエアは各企業で専用のものを用意する。クラウド上に自社専用のソフトウエアを所有するイメージ。
自社の業務フローをサービスに合わせられる場合はパブリッククラウド型を、自由にERPを構築したい場合はプライベートクラウド型を使うことが多い。
クラウド型ERPを使用するメリット
オンプレミス型ERPと比較して、クラウド型ERPには複数のメリットがある。それぞれ内容をみていこう。
ITインフラ導入や運用管理のコスト削減
オンプレミスではサーバの設置、ソフトウエアのインストールといったインフラの構築に各種設定までを含めると、稼働までに1年以上かかることがよくある。その点クラウド型ERPであれば、サーバやネットワーク機器などを購入する必要がないため、短期間で準備できる。ハードウエアや基盤部分の運用管理はクラウド提供事業者側の担当範囲で、特にパブリッククラウド型のERPシステムでは、ソフトウエアのバグ対応なども事業者側の担当だ。オンプレミス型に比べて障害対応やアップデートなどのコストは確実に削減できる。
巨大なリソースを活用した柔軟なハードウエアスケーリング
サーバのCPU、メモリ、ディスク容量などのリソースは柔軟にスケーリング可能だ。システムを停止することなくリソースの増減を実施できるため、必要な時期だけ増強し、不要になったらリソースを解放するといった運用ができる。その時に必要なリソースのみにコストを抑えられるのが魅力だ。
BCP対策を意識したシステム構築
自動バックアップ取得や、異なる地域のデータセンターでのシステム稼働など、BCP対策を意識しながらシステムを構築できるため、一般的なオンプレミスのシステムよりもクラウドのシステムは可用性が高い。バックアップオフィスやテレワーク、海外からの使用にも対応できる。コロナ禍のようなパンデミック時にも威力を発揮するのは言うまでもない。スマートフォンやタブレットなどからのアクセスもスムーズだ。
クラウド型ERPを使用するデメリット
クラウド型ERPにはメリットばかりではなく、デメリットもある。こちらも、それぞれ内容をみていこう。
回線障害の影響を受けやすい
クラウド型ERPをはじめ、クラウドサービスはインターネット環境がないと利用できない。そのため、インターネットの回線障害に影響を受けやすい特性があるが、バックアップ回線の準備など、インターネット接続を極力途切れさせない方法で対応できる。
セキュリティポリシーはクラウドベンダーに依存
クラウドシステムのセキュリティポリシーは、クラウドベンダーのセキュリティポリシーに依存してしまう。自社のセキュリティポリシーとクラウドベンダーのセキュリティポリシーをそれぞれチェックし、内容が合致したクラウドベンダーを選択することが重要だ。このチェックを怠ると思わぬセキュリティ事故が発生しかねない。
ランニングコストが多くなることもある
クラウドサービスは、サブスクリプションの形で月額・年額の費用を要するものが多い。また、セキュリティ対策やバックアップなどの高可用性をオプションで付加すると、ランニングコストが跳ね上がる場合もある。運用中のERPの費用とクラウドサービスの費用を比較し、目的の費用対効果が出るかどうか確認しておかないと、投資が無駄になる可能性がある。
オンプレミス型ERPからクラウド型ERPへ乗り換える際の留意点
世の中には複数のクラウド型ERPがリリースされているが、自社の要件に完全にマッチしたクラウド型ERPは見つけにくいのも事実だ。カスタマイズ性を強みにしているクラウド型ERPも増えているが、大企業ほど自社要件にシステムを合わせたいはず。特にセキュリティ面では自社のセキュリティ要件に合致しているかがポイントになる。自社に必要な機能を見極め、ランニングコストを検証することも必要だ。検討の結果、従来通りのオンプレミスの方にメリットを感じる場合もあるだろう。その場合は無理をせずオンプレミスで構築すると結果的に良い場合が多い。
ここで、現在リリースされているクラウドネイティブなERPをいくつか紹介する。
まず『SAP S/4HANA Cloud』は、SAP ERPの最新版クラウド型ERPだ。あらかじめ用意された機能群から、必要な機能と不要な機能をそれぞれオンオフにでき、短期間/低コストで導入できる。またSAP S/4HANA Cloudは、四半期ごとのアップデートにより最新環境がリリースされていく点も魅力だ。中間テーブルの削減やデータサイズの縮小により、従来のSAP ERPと比較して性能アップも実現した。
次に、内部統制機能や、リアルタイムの勤怠管理などの機能が特長の『クラウドERP freee』は、チャットサポートをはじめ電話、メール、ヘルプページとサポートが手厚い。別途有償で専任コンサルタントによる導入・活用支援サービスが提供されているのも安心できる要素だ。またクラウドERP freeeは、国際的な認証であるTRUSTeによる認証を取得していて、セキュリティ対策も一定の水準を保っている。稼働率はサービス提供開始以来99%以上を継続していて、システムの信頼性も非常に高い。
また、業界特有の業務に対応するコア機能を豊富に備えた業界特化型ERPも数多く存在する。その1つである『InforM3』は、ヨーロッパ、アメリカ、アジアを中心に世界50カ国以上、30万以上のユーザーに使用されていて、40カ国以上のローカライズ対応と各国の言語をサポートしており、特にファッション業界においては、「InforM3 Fashion ERP」が全世界250社以上の導入実績を持っている。InforM3 Fashion ERPは、完全にファッション業界に特化したERPであり、新製品の展示会や配分出荷、複数の販売形態(直営店・百貨店・EC・卸など)にも柔軟に対応できる。
クラウド型ERPは多くの企業で有効な打開策
クラウド型ERPはデメリットがありつつも、これからの事業活動に対して有効な対応策だ。特に中小企業に関しては、従来のオンプレミスよりも導入や運用が簡単になるため心強い味方だろう。またITインフラの運用負荷を軽減したい場合も、クラウド型ERPへの移行が有効な解決策の一つだ。自社の業務をシステムに合わせられるならパブリッククラウド型のERPが最適で、ERP導入前に業務を標準化することでコストダウンも狙えるだろう。
自社の要件を見極め、効果的にクラウド型のERPを活用していきたい。
◎製品名、会社名等は、各社の商標または登録商標です。