- 公開日:2022年03月09日
5Gが普及すればWi-Fiは必要ない。それって本当?
家庭向け5Gルータの登場で、5Gユーザーが増加している
2021年夏にドコモの家庭向け5G対応ルータが登場して以来、電波圏内にある都市圏では5Gユーザーが急増している。企業向けルータではすでに、5Gを2回線使って高速・大容量の通信を提供するサービスもあり、5G電波圏が全国に広まれば、Wi-Fiはもう不要になるのでは?――という声も聞かれるようになってきた。
しかし、無線LAN接続のスタンダードとなっているWi-Fiは現在、第6世代の「Wi-Fi 6」が急速に普及している。コロナ禍で日常化した在宅勤務に必須のインターネット環境を、Wi-Fi 6対応のルータで自宅に整備するテレワーカーが増えたからだ。
(Wi-Fi 6の参考記事:「Wi-Fi 6」でビジネスシーンはどう変化する?次世代Wi-Fiの使いこなし術)
このように、5GとWi-Fi 6はいずれも「無線通信」という点で共通しているのだが、まず両者の基本的な特長と違いをまとめてみる。
<5GとWi-Fi 6の特長比較>
対比すると、いかにも無線通信のライバル同士のように錯覚してしまうのだが、そもそも両者は同じ土俵で比較すべきものではない。その理由は、5GとWi-Fiの主たる活動領域と役割がまったく異なるものであるからだ。
そこで今回は、5GとWi-Fiの特長と違い、適材適所な使い分け方法を特集する。
5Gはブロードバンド回線、Wi-Fiは屋内無線通信と認識すべき
5GとWi-Fiの根本的な違いとは何か――。それは、5Gが無線ブロードバンド回線であるのに対し、Wi-Fiは屋内無線配線のひとつであって、それ自体は回線を有していない点である。水道管に例えれば、5Gは屋外に敷設された太い本管であるのに対し、Wi-Fiは屋内各所に本管の水を送り届ける配管という位置づけになる。
無線回線である5Gは、移動体通信事業者と個別端末ごとの契約なので、直接モバイル通信ができるのは認証情報が記録されたSIMカード1枚につき1端末。一方のWi-Fiは、ブロードバンド回線に接続したルータと電波圏内の多数の端末をつなぐことを目的としている。
こうして整理すると、両者の競合相手として対比すべきなのは、下記のようになるはずだ。
現在、屋内のIoT環境を構築するスタンダードは、ブロードバンド回線とWi-Fiルータである。ということは、無線ブロードバンド回線の最上位である5Gと、Wi-Fi接続の最新規格であるWi-Fi 6は、ライバルなどではなくベストパートナーの関係にあることがわかる。
その顕著な例が、2021年夏頃から爆発的に売れている家庭用の5Gルータである。5G回線とWi-Fi 6を組み合わせ、回線工事が不要、電源を入れるだけで簡単に素早く高速インターネット環境が整うことを謳い文句にした製品だ。もともとのターゲット層は、光回線エリア外居住者や回線工事不可住宅居住者、転宅が多い単身者などであったのだが、折からのコロナ禍でテレワークが常態化した企業がこれに目をつけた。
在宅勤務用のブロードバンド回線を全額負担する企業が増加中
これまでは、企業が従業員にノートPCや携帯端末を貸与するのが一般的だったが、テレワークの普及により、インターネット環境を支給することも含まれるようになってきた。社員各々にインターネット環境を与えるには、固定回線のような物理的制約を伴わず、貸与や返還が簡単で、即日使い始めることができる5Gルータは最適解だ。なおかつ、最新の5GルータにはWi-Fi 6が搭載されており、屋内にあるIoT端末がもれなく接続できる。5GとWi-Fi 6お互いの特長を生かした連携と共存は、すでにこういった製品で実証されている。
在宅勤務用のブロードバンド回線として5Gの満足度が高いことは、最近の調査でも明らかになっている。2022年2月に、IDC Japanが発表した「2022年 企業ネットワークサービス利用動向調査」によると、5G回線を無線LANや有線LANと組み合わせて利用している回答者のうち、約7割が「満足」または「概ね満足」と回答している。旧世代の4Gのみならず、固定ブロードバンド回線と比べても高い満足度となっており、在宅勤務における5G利用は今後急速に拡大するのではないかと予測される。
また同調査では、一部の業種において、在宅勤務用の通信回線費用を会社が負担する動きが広がっていることも明らかになっている。在宅勤務実施企業で、「ブロードバンド回線費用を全額負担する」と回答した割合は37.8%で、金融業ではこの割合は約5割に達している。このままテレワークが定着すれば、5GルータとWi-Fi 6によるインターネット環境の構築が、在宅勤務者のスタンダードとなりそうな勢いである。
参考資料:IDC Japan, 2022年2月「2022年 企業ネットワークサービス利用動向調査」における"Branch of One"に関する調査結果より(JPJ48835522)
リスク管理体制の面からもWi-Fiは必須要素
5Gが本格的な普及期に入り、回線や5G端末が劇的にコストダウンしても、Wi-Fiが不要にならない理由はまだ他にもある。まずひとつには、リスク管理体制の問題がある。移動体通信事業者が、大規模な通信障害を起こすのは珍しいことではない。半日以上、復旧しないこともある。無線ブロードバンド回線のひとつにネットワークを集約してしまうと、こういう時命取りになりかねない。
とりわけBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)が必須の企業であれば、万一に備えて固定回線も確保しておくのが原則であろう。いずれかがトラブルに見舞われても、もう一方で通信手段を維持することができる。こうしたリスク分散の面でも、固定回線とWi-Fiは残り続けると考えられる。
また、クラウドファーストの時代になっても、企業内にはオンプレミスの基幹システムが一定レベル残り続ける。移動することがないオフィスやデータセンターのIT機器を運用するには、電波障害を受けず、安定してインターネット接続ができる固定回線が最も適している。5Gは高い周波数帯を使っている分、直進性に優れ高速大容量のデータ伝送能力があるのだが、逆に遮蔽物に弱く、ビル壁や床・天井面などに当たると、電波が跳ね返され減衰していく。結果、施設内に死角が生まれるという弱点を抱えている。
その点、低い周波数帯域のWi-Fiは、遮蔽物を回り込み電波を送り届けることができる。優れた特性を持つエリートの5Gだが、障害物には弱い。その弱点をフォローするのが、タフで粘り強いWi-Fiという役回りだ。だから、オフィスや工場構内などの屋内で快適な通信環境を構築するには、やはりWi-Fiによるネットワークは欠かすことができない。
ローカル5G全盛時代になってもWi-Fiの役割は残る
一方で大手企業は、ローカル5Gの進展に期待を寄せている。免許を取得して基地局を設置できれば、制約なしに独自運用できる5Gネットワーク圏が構築できるからだ。製造業のスマート工場などでは現状、低遅延・高速大容量といったシビアな能力が要求される機器や設備だけを5G対応にしてローカル5Gを運用しているが、5G端末がWi-Fi並みに安価になれば、オール5GのIoT環境の構築も夢ではなくなってくる。
無論、ローカル5G内の5G端末にもSIMカードは必須だが、ローカル5G専用のSIMカードを提供するサービスも広がり始めている。ローカル5Gと認証SIMカードがセットになった「自営5G」が普及するのも、そう遠い未来ではないはずだ。
そうなるといよいよWi-Fiは、旧世代の無線通信技術として消えていくのだろうか――。
おそらく、そういう時代になっても、Wi-Fiの存在意義はゆるがないはずだ。なぜなら、IoT機器の総量は、年々増え続けているからだ。膨大なIoT機器の中には、通信のクオリティが求められないものが多数存在する。
とりわけ、一般家庭で普及しているIoT家電などは、通信速度や低遅延といった品質は不要で、できるだけコストを安く抑えたいはずだ。そういった製品群には、原価を上昇させる5Gよりも安価なWi-Fiが適している。ローカル5Gであっても、無線通信で制御する機器は取捨選択があってしかるべきである。
5GとWi-Fiを共存共栄させることは、電波通信資源的にも意味がある。移動体通信の電波資源は有限であり、無線基地局を補完するスモールセル技術が発達したといっても、多数のアクセスが集中するとやはり電波干渉や渋滞、遅延が起こる。オフィスや家庭、公共施設、集客施設などの屋内のIoT環境までを5Gが担うようになると、電波資源は枯渇していくしかない。それら屋内IoT環境をWi-Fiが肩代わりすれば、5G電波資源を無駄に消費せずに済む。やはり、5GとWi-Fiは、相互補完的な関係にあり、互いの長所を生かし合っていくことが、マクロな視点からも有益であるといえる。
移動体通信もWi-Fiも、国際的な開発団体で高度化の研究開発が進んでいる。この先も両者は緊密な連携をとりながら、共存共栄していくはずだ。
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