子どもの描いた絵が160万円!?驚きの「NFTアート」の世界

子どもの描いた絵が160万円!?驚きの「NFTアート」の世界
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歴史は繰り返す?最先端技術が広げる芸術の範囲

今から100年ほど前のことです。写真や映画、レコードといった当時の最先端の技術によって作り出された作品は、果たして「芸術作品」なのかという論議が、研究者たちによって行われました(ヴァルター・ベンヤミン『複製技術の時代における芸術作品』など)。

たとえばパブロ・ピカソの『ゲルニカ』などを思い浮かべていただくとよくわかりますが、『ゲルニカ』の価値を支えている要因のひとつに、「世界にたったひとつしか存在していない」という点があります。スペイン・マドリードの「ソフィア王妃芸術センター」に唯一、存在していることが、絶対的な価値のひとつだといえるのです。もちろん、自宅に複製画を飾ることは可能です。しかし複製画は全く同じ絵柄だとしても、そもそも本物と比べられるものでもありませんし、複製画以上の価値も持ちえません。

ではレコードや映画のように、複製することを目的として作られた作品は、「唯一の存在性」という点で芸術なのか、そうでないのか・・・。これらができてから、100年後を生きている私たちは、映画やレコード音楽(現在はCDや配信)は、芸術として十分な価値観を持っていることを知っています。

100年前の話を持ち出したのには、理由があります。100年前「複製技術」によって作られた作品が、時代を経て芸術と認められたのと同様に、現在の「デジタル技術」「IT技術」によって作られた作品が、ついに芸術として認められようとしているからです。まさに「時代は繰り返す」といえるでしょう。

今回はデジタル技術による芸術作品、「NFTアート」について考察してみたいと思います。

デジタルデータは複製・改ざんの危険性を持つ一方、大きな利点も

デジタル化された作品の特徴をひとことで表すと、オリジナルの品質を全く劣化させることなく、無制限に複製(コピー)できる点にあります。またデータを改ざんすることも可能で、そうなれば作家の権利が脅かされるだけでなく、その創作性も脅かされます。

従って映像作品や音楽作品などの著作物は、極めて高度な著作権保護技術を駆使し、複製や改ざんを許さないようにしてきました。しかし残念ながら、それでも技術や法の目をかいくぐり、無断複製する者は後を絶ちません。動画サイトを見れば、人気の映画やテレビ番組などが違法にアップされているのがわかります。サイト運営者は違法作品を削除するものの、「イタチごっこ」の状態になっています。

しかし一方で、デジタル技術は多くの人に作品制作の門戸を広げたともいえます。

楽器が弾けず、音符が読めなくても作曲・演奏でき、ボーカロイドを使って歌わせることができる。絵筆を握ったこともない人が、美しい絵を描く・・・パソコンとソフトウエアがあれば、誰でもある程度の品質の作品が制作できる時代になったのです。これらの中から、趣味の域を離れ、アーティストとして活躍する人も現れています。

それだけではありません。多くの人がSNSで使用されるスタンプ、シンプルなデジタルイラストやアイコンを自作し、さらには販売するなど作品を発表・販売できる場も機会も大きく広がったのです。このような時代の流れの中で、デジタルアートをさらに後押しする技術が生まれました。それが「NFT」です。

データの改ざんを不可能とした「NFTアート」とは

約4年前、このコラムで、「ブロックチェーン」についてご紹介しました。

>> 「これからのキーテクノロジー『ブロックチェーン』って、何?」(2018年8月)

ブロックチェーンは、取り引きされた履歴がチェーンのようにつながることで、改ざんを不可能とし、暗号資産(コラム執筆時は「仮想通貨」と呼ばれていました)がインターネットで「資産」としての価値を持つための基礎的な技術となっています。このブロックチェーンをデジタル作品に応用したものが、「NFTアート」です。

「NFT」とは「Non-Fungible Token」の略語で、「代替不可能なトークン」と訳されています。「トークン」は「しるし・証拠」という意味を持ち、そもそもはプログラミングの世界の用語で、プログラミングコードを構成する最小単位の文字の並びのことをいいます。そこから派生し、ブロックチェーンを使った暗号資産などのデータを「トークン」と呼ぶようになりました。

〈ブロックチェーンとは〉

上のイラストでもわかる通り、中央集権型の「サーバ」「クライアント」のような関係性とは異なり、ブロックチェーンは参加者全員が対等であり、みんなでデータを共有している構造となります。それゆえ改ざんがあれば、誰にでもわかる仕組みになっています。

この技術によって、複製・改ざん可能だったデジタルデータは、複製も改ざんも不可能な唯一無二のものとなり、ついに「芸術」としての価値を持つに至ったのです。

投機の対象として熱い注目。自分の作品がヒットするチャンスも

少し前にネットなどで話題となったニュースがあります。小学校3年生の男児が、夏休みの自由研究で「NFTアート」を制作し、母親がNFTの取引所で売り出したところ、アメリカのインフルエンサーが購入。自身のツイッターのアイコンとして利用したことから火が付きました。最初に取引所で販売した当初は1点2,000円程度だったものが、現在、彼の作品は転売によって一挙に値があがり、現在では1点160万円ほどで落札されることもあるといいます。

投機目的で「NFTアート」を持つ場合、将来値上がりしそうな作品をたとえば2,000円程度で購入し、オークションにかけて転売します。作品に人気が出れば莫大な利益が出せます。投機の対象となる作品は、作者の手を離れ作者が関与できないところで値段が上がっていく印象がありますが、「NFTアート」の場合、転売されるたびに価格の数パーセントが手数料として作者に入るため、作者にも大きなメリットがあるのが特徴です。

ただ「NFTアート」を購入・販売するには、いくつかの条件やハードルがあります。まず、決済は暗号資産「イーサリアム」のみ対応しているため、イーサリアムを購入する必要があります。また「NFTアート」のほとんどは、現在オークションによって落札されているため、自分の欲しい作品が予算内で落札できない可能性もあります。

もちろん投機目的で売買するだけでなく、自分の作品を出品し販売することも可能です。小学生の作品のように、インフルエンサーや人気タレントの目にとまると、一挙に値段が高騰することもあり得ます。「我こそは」と思う方は、チャレンジしてみてはいかがでしょうか。

批判もある「NFTアート」。しかし未来は、まだまだ大きく広がっている

このように、ますます注目度が高まると予想される「NFTアート」ですが、問題点も指摘されています。

ブロックチェーン技術により、デジタルデータとしての複製・改ざんはできなくなったものの、他人の作品を真似た「盗作」やアイデアを拝借した「剽窃」が非常に多いといわれています。慣れさえすれば比較的容易に作品を販売できるのが「NFTアート」の利点のひとつですが、そのためネット上で適当に集めた画像や写真を自分の作品として販売しているケースもあります。

さらに最近のニュースで、Microsoftの創業者であるビル・ゲイツが「NFTは100%大バカ理論に基づいている資産だ」と発言して話題となりました。ゲイツは過大評価された資産で利益を上げることの危険性を指摘しており、かつての日本の「バブル景気」に通じるものを感じさせます。

Twitterの創業者で同社CEOであったジャック・ドーシーが2006年に行った「just setting up my twttr」というツイートが、現存する世界最古のツイートとして約290万ドル(2021年3月 落札当時のレートで約3億1,700万円)で落札されたニュースなどを見ると、いささか投機色が強調され過ぎているところがあり、それが人々に警戒感を与えているのかもしれません。

また急激に「NFTアート」市場が発達したため、法整備が追いついていないという指摘もあります。たとえばNFTは「有体物」ではないため、現行法ではNTFには所有権は認められないかもしれない。あるいはNFTアートの購入者は著作権まで持たないが、どこまで利用できるかが不明確といった点です。

いずれにせよ「NFTアート」は、まだまだ黎明期であり成長過程と考えられます。意外にも数年先には、ごく普通に私たちの暮らしの中に入り込んでいる可能性もあります。今しばらくは「NFTアート」から目を離さないようにしたいものですね。

◎製品名、会社名等は、各社の商標または登録商標です。

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著者 OPTAGE for Business コラム編集部

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