国家プロジェクト「スーパーシティ」で暮らしはどう変わる?!

国家プロジェクト「スーパーシティ」で暮らしはどう変わる?!
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具体的に見え始めた、「スーパーシティ」の姿

「スーパーシティ」---マンガにでも出てきそうなこのワードですが、今年2022年9月、政府から新たに発表された「スーパーシティ、デジタル田園健康特区について」で、徐々にその具体的な姿が現れてきました。すでにご存じの方も多いと思いますが、2020年9月、政府は国家戦略特区として「スーパーシティ構想」を打ち出し、以来、法整備や提案の公募などを進めてきました。

ところで「スーパーシティ構想」とは、そもそもどのようなものなのでしょうか。それを知るために、まず政府が科学技術基本計画で提唱した「Society 5.0」について説明したいと思います。

原始時代の狩猟社会をSociety 1.0、農耕社会をSociety 2.0、現代にも連なる工業社会がSociety 3.0、そして現在の情報社会をSociety 4.0と位置づけ、これからの未来社会の姿として描かれたのがSociety 5.0です。

Society 5.0で目指すのは、現実空間と仮想空間が高度なレベルで融合し、経済発展と社会的課題の解決を両立させる人間中心の社会。現実空間のビッグデータをAIが解析し、高付加価値を現実空間にフィードバックさせることを目的としたもので、誰もが夢と生きがいを持ち、幸福に生きることができる社会を創り上げていこうとするものです。

そんなSociety 5.0社会を体現するための具体的な事業が、「スーパーシティ構想」なのです

さまざまなデータを連携させ、先進的なサービスの実現を目指す

内閣府の資料では「スーパーシティ構想」の目的を、「住民が参画し、住民目線で、2030年ごろに実現される未来社会を先行実現することを目指す」としています。そのためのポイントとして挙げられているのが、以下の3点です。

1:生活全般にまたがる複数分野の先端的サービスの提供

AIやビッグデータの活用で、行政手続き、移動、医療、教育など幅広い分野での利便性向上を図る。

2:複数分野間でのデータ連携
複数分野での先端的サービスを実現するために、「データ連携基盤」を通じ、さまざまなデータの連携、共有を図る。

3:大胆な規制改革
先端的なサービスを実現するための規制改革を同時・一体的・包括的に推進する。

◎内閣府地方創生推進事務局「スーパーシティ、デジタル田園健康特区について」掲載の図版をもとに作成。
※API:「Application Programming Interface」の略で、異なるソフト同士でデータや指令をやり取りする時の接続仕様。

「スーパーシティ型国家戦略特区」には30を超える自治体が名乗りを上げましたが、最終的に大阪(府・市共同)と、茨城県のつくば市が選定されました。両自治体の現状や地域性に合わせ、それぞれ異なる事業が構想されています。

10の分野で、最先端技術を使った革新的サービスを実施

内閣府によると「スーパーシティ」では「移動」「物流」「支払い」「行政」「医療・介護」「教育」「エネルギー・水」「環境・ゴミ」「防災」「防犯・安全」の10分野で高度なサービスの提供を求めており、具体的には以下のようなサービスが検討されています。

<① 移動>

自動走行、空飛ぶクルマ、データ活用による交通量・駐車場管理、マルチモード輸送(MaaS)など

<② 物流>

自動配送、ドローンや空飛ぶクルマによる配送など

<③ 支払い>

キャッシュレス決済など

<④ 行政>

パーソナルデータストア、オープンデータプラットフォームワンストップ窓口、

API ガバメント、ワンスオンリーなど

<⑤ 医療・介護>

AIホスピタル、データ活用、オンライン(遠隔)診療・医薬品配達など

<⑥ 教育>

AI活用、遠隔教育など

<⑦ エネルギー・水>

再生可能発電+蓄電池による小規模分散エネルギーなど

<⑧ 環境・ゴミ>

センサー付きゴミ収集箱によるスマートゴミ収集など

<⑨ 防犯>

緊急時の自立エネルギー供給、防災システム、個別自動誘導など

<⑩ 防災・安全>

ロボット監視など

ご紹介した10分野におけるサービスは、ひとつひとつ個別に見ていけば、すでに取り組みが始まり、ある程度の成果を出しているものもあります。

たとえば教育の場においては「EdTech(エドテック)」で、すでに「誰ひとり取り残さない教育」が進められています(2021年9月の本コラムでもご紹介)

モビリティの分野では自動運転の研究が以前から進められており、レベル4(特定の地域内での完全自動走行)の実用化に向けては、22年度中にも、公道での使用が可能になる見込みです。

必要な時に、誰ひとり取り残すことなく享受できる社会

「スーパーシティ」では、あらゆる人がごく普通に暮らしていくためのシステムが整備されていきます。ひとつの未来予想図を、描いてみましょう。

足腰が弱り外出しづらくなった、一人暮らしの高齢者を想像してください。

外出はできなくても、必要なものはネットで購入。自宅まではドローンやロボットが配送。人手不足でも迅速に商品をお届け。支払いはもちろん、キャッシュレスで自動処理。
ネットに常時接続されたパーソナルモニターが、離れた病院に身体の状態を通知。メディカルアドバイスや遠隔治療を施すことで、病気や感染症も予防。
集中豪雨や地震など災害の危険性がある時には、無人運転のクルマが迎えに来て、安全な場所まで早期の退避。
選挙の際は自宅でネット投票、投票所にいけなくても参政権はしっかりと保障。時々バーチャル市政会議に参加し、市民の声を自治体に届ける...。

このようなサービスを、年齢や住んでいる場所などによって異なるのではなく、何歳になろうが、どこに住もうが、誰ひとり取り残されることなく、みんなが公平に享受できる社会にすることが、Society 5.0の本質です。そして、その社会的な実証実験場となるのが、「スーパーシティ」に他ならないのです。

「移動」「医療」「防災」といった一つ一つの分野が個々に進化し、独自のサービスを展開するのではなく、融合することによってより上質なサービスの提供が可能となります。
そして「スーパーシティ」に認定された都市だけが潤うのではなく、そこでの成果を全国民が享受してこそ、はじめて意味を持つものだと考えます。

将来の社会のためにも、「スーパーシティ」の理解を進める必要が

今の日本には欠かせない視点からの未来モデル構築は、わたしたちの将来に直結する取り組みです。しかし良いことばかりでなく、懸念や批判の声もあります。

たとえば「スーパーシティ」には個人情報をはじめとしたさまざまなデータの連携、共有が欠かせません。そのための「スーパーシティ法案(国家戦略特区法改正案)」の成立時(2020年5月)には、野党を中心に「監視社会」になってしまうのではないかという懸念や批判が起こり、それらはまだ根強く存在しています。このような懸念や批判に加え、特区が大阪府・市とつくば市の2地域のため、「自分には関係ない」と無関心な方が非常に多いとも考えられます。

しかし多くの課題を抱える日本においては、何らかのアクションを起こさねば国家の存亡にまで関わってくるはず。「スーパーシティ」の基本は、誰も取り残すことなく、快適で幸せな暮らしをおくれる社会を構築すること。そのための社会実装実験だけに、結果が将来の暮らしに大きな影響を与えることは間違いありません。

今後も新たなニュースが報じられるであろう「スーパーシティ」を、注意深く見守りながらも、理解を進めていく必要がありそうです。

◎製品名、会社名等は、各社の商標または登録商標です。

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著者 OPTAGE for Business コラム編集部

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