今話題のキーワード「FinOps」ってなに?クラウドユーザー企業に必須というけれど・・・

今話題のキーワード「FinOps」ってなに?クラウドユーザー企業に必須というけれど・・・

最近、クラウド関連のニュースでよく目にするキーワード「FinOps」。クラウドの財務管理に関する用語であることは知っていても、全容を正確に把握している人は少ないようです。そこで今回は、クラウド時代の企業活動に必須と言われるFinOpsを、サクッと10分で理解できる特集をお届けします。

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2019年に登場した新しい概念「FinOps」の語源とその意味

「FinOps」は、Finance(財務)の「Fin」とDevOps(Development「開発」とOperations「運用」を合成したIT用語)の「Ops」を組み合わせた造語です。2019年に米国のITベンダーとクラウドユーザー企業が主体となって設立した団体「FinOps Foundation(通称F2)」が主導する新しい概念で、F2はその後、Linux Foundationの傘下に入り活動を続けています。日本ではあまり知られていない団体ですが、米国ではGoogle Cloud Platformをはじめ大手IT企業がこぞって参加するコミュニティとして広く知られており、2023年2月にはマイクロソフトも加盟を発表しました。

F2ではFinOpsを、次のように定義しています。

FinOpsは、進化を続けているクラウド財務管理にかかわる「規律(discipline)」と「文化的慣行(cultural practice)」です。FinOpsは、研究開発・財務・IT・事業の各部門が協力して、データの分析結果に基づいてクラウド支出を決定することによって、組織が最大のビジネス価値を得ることを可能にします。

端的に言うとFinOpsとは、「企業がクラウド利用を通じて最大のビジネス価値を得るための、クラウド財務管理にかかわる概念」と要約することができます。
ここで、クラウドのコスト管理に明るい人であれば、「クラウドの運用状況やコストを管理する『クラウドコスト最適化システム』と同じではないの?それならすでに導入している」と反論されるかもしれません。こうした認識をF2は否定し、FinOpsはクラウドコストの節約が目的ではなく、企業利益を最大化するための考え方である、と説明しています。

企業における具体的な実践方法は――FinOpsのコンセプトに基づいて、各部署から選抜した人材を集めたFinOps専門チームを編成し、クラウド利用による効果をさまざまな視点で検討し、合議制でクラウドへの支出(投資)を決定していくことで、その運用効果を最大化する――といった枠組みです。
つまりFinOpsとは、単発のコスト削減やコスト最適化の取り組みではなく、用語の由来となっている「DevOps」(開発と運用部署が連携・協力し、柔軟かつ迅速にシステム開発を進める手法)と同様、ビジネスの価値を継続的に向上させることを第一のミッションとして、クラウドへの投資に関わる組織内のさまざまなステークホルダーが協力するための考え方と言えます。
企業内には、クラウドへの投資を増やして営業力を強化したいIT担当者もいれば、逆に支出を減らして収益性を高めたい財務担当者もいます。こうした異なる視点を持つ利害関係者が集い議論を交わすことで、自社にとって最適な財務管理視点に立ったクラウド運用を実現しようという取り組みです。

FinOpsが求められるようになった時代背景

では、なぜここにきて多くの企業の間で盛んに、FinOpsの必要性が叫ばれるようになったのでしょうか――。
それは、「支出パニック(Spend Panic)」と呼ばれるほど巨額なクラウドのコスト負担が、昨今の企業活動を揺るがす大問題となって浮上してきたからです。その背景には、この10年の間で急速に、クラウドが企業に欠かせないICTツールとして普及・定着してきたという実状があります。
総務省の「通信利用動向調査」(2021年調査結果)によると、クラウドコンピューティングサービスを導入している国内企業の割合はついに7割を突破しました。ここまでクラウドが普及した経緯については、過去のコラム(「企業の7割がクラウドを利用する時代に!「必要ない」という選択肢はもうない」)でも特集しています。

<クラウドサービスの利用状況の推移>

出典:「通信利用動向調査(平成23年~令和3年)」(総務省)を加工して作成

このようにクラウド関連支出はすでに、7割を超える国内企業の間で、事業の継続に欠かせない必要経費となっています。しかし、長年オンプレミスでIT関連の支出を予算組みしてきた企業にとって、使った分だけ料金が加算される従量課金制のクラウド支出は予測しづらく、悩みのタネとなっています。そのためクラウドを導入したのはいいが、想定外の高額請求が届いてパニックとなる企業が相次ぎ、クラウドコストの最適化は昨今の企業の大きな課題となってきたのです。
実際、ベリタステクノロジーズ合同会社が発表した「マルチクラウド環境における企業のセキュリティ調査」(2022年11月)によると、大多数の企業がクラウド支出を予算の枠内に収められていない状況が明らかになっています。国内回答者の96%が、パブリッククラウドサービスの利用で、当初想定していたよりも高いコストが発生し、平均42%の予算超過支出が発生していると回答しています。
予期せぬクラウドコストの最も一般的な原因は、データのバックアップとリカバリーです。オンプレミス環境のサーバやデータセンターであれば、コストを気にせずデータのやり取りができたのですが、従量課金制のクラウドサービスではデータ量に応じた料金が加算されます。オンプレ環境からクラウド環境へシフトした企業が、情報システムや重要データを一気に移転させて膨大な課金が生じ、支出パニックになるのはこうしたケースが多いのです。

ただでさえ増加傾向にあるクラウド支出に追い打ちをかけたのが、2022年3月から始まった急激な円安でした。国内企業の多くが利用している3大パブリッククラウド(AWS・Azure・GCP)は、いずれも支払い通貨が米ドル(Azureは日本円の固定金額選択も可能ですが、大幅な為替変動があれば価格が改定されます)で、為替変動の影響をもろに受ける格好となったからです。まさに泣きっ面に蜂とも言える、想定外の「支出パニック」が国内ユーザーの間で起こっているわけです。

このように、クラウドコストの急増に苦しむ多くの企業では、クラウド関連支出をどうにかして圧縮したいと考えています。企業DXを前に進めるためには、「アジャイル(俊敏な)開発」や迅速にシステム開発を行う「DevOps」を可能にするクラウドネイティブを止めるわけにはいきません。けれども、このままクラウド支出が増え続ければ、事業収支そのものが破綻します。あちらを立てればこちらが立たず――まさにクラウドユーザー企業は、大きな岐路に立たされることになりました。
IT先進国の米国では、クラウド利用に関するこうした問題点を日本よりも早く察知して、課題解決に向けた取り組みを開始しました。それが、2019年に誕生した「F2」です。同じ悩みを抱えるユーザー企業が集まり議論を重ね、理想的な解決策を模索した結果得られたひとつの答えが「FinOps」だったのです。

一般にひとつのプロジェクトを進めると、メリットだけでなく相反するデメリットも生じるトレードオフの関係が生まれるものです。これを解決するには、さまざまな利害関係者が一堂に会し、異なる視点で議論を積み重ねて、最も適切と思われる着地点を見つけることが効果的です。FinOpsの役割もこれと同じようなもので、クラウド投資と企業利益のパフォーマンスが最適になる着地点を、組織の主要メンバーによる合議制で見つけることだといえます。

FinOpsの実践方法とその効果

ではここからは、FinOpsの具体的な内容や実践方法を見ていくことにします。
F2ではFinOpsの概説に、以下の6項目から成る「FinOpsフレームワーク」を用いています。

◎行動規範(Principles)
◎ペルソナ(Personas)
◎実践サイクル(Phases)
◎成熟度モデル(Maturity)
◎活動領域(Domains)
◎組織的能力(Capabilities)

ひとつずつ確認しながら、FinOpsの全体像を把握していくことにします。

◆行動規範(Principles)

FinOpsを実践するために、参加者が守るべき原則をまとめたものです。この原則は、F2のメンバーによって考案され、議論を重ねることで磨かれてきたもので、6項目に序列はなく、全体でひとつのものとして理解されるべきだと説明されています。6つの行動規範は以下のとおりです

◎チームはコラボレーションをする必要がある
◎クラウド運用に対して、全員がオーナーシップを持つこと
◎一元的専属チームがFinOpsを推進すること
◎レポートはタイムリーにアクセス可能であること
◎意思決定はクラウドのビジネス価値によってなされること
◎クラウドの変動コストモデルの利点を活用すること

これらの行動規範を守ることで、組織内に自己管理型のコスト意識の高い企業文化を確立することができるとF2は説明しています。
では、組織内のどのような人材を集めて、FinOpsを推進する一元的専属チームを結成すればよいのか。この問題を、次項で解説しています。

◆ペルソナ(Personas)

「ペルソナ」は、この活動を推進するFinOpsチームに参画すべきメンバーの職能を示しています。メンバーは、次の6部門から専任されます。

◎チームの頭脳として最善策を実行する「FinOpsプラクティショナー」
◎最高経営責任者あるいは最高財務責任者となる「上級管理職」
◎クラウド最適化ディレクターやクラウドアナリストなどから選抜される「ビジネス/プロダクトオーナー」
◎ファイナンシャルプランナーやファイナンシャルアナリストなどから選抜される「財務」
◎エンジニアおよび運用チームとして参加する「エンジニアリングと運用」
◎FinOpsチームの意思決定に基づきクラウドサービスの調達と購入を担当する「調達」

上記の職能者で構成されたFinOpsチームは、クラウドの運用と投資に関して中央集権的な権限を持ち活動を推進します。結果として、最適なクラウド投資で最高の事業成果をあげることができるわけです。その実践サイクルを、次項で解説しています。

◆実践サイクル(Phases)

FinOpsの実践行程は、「情報提供」「最適化」「オペレーション」の3つのフェーズが反復します。
最初のフェーズ「情報提供」では、クラウドコストのリアルタイムの可視化、部署やアカウント別によるクラウド支出の正確な割り当て、投資対効果を判定するベンチマークの算出、予算編成と支出の予測などの情報をFinOpsチームに通知します。
次の「最適化」のフェーズで、オンデマンドの通信量を制御し、クラウドプロバイダーが提供しているさまざまなコスト削減メニューから最適なものを選び、無駄なリソースをオフにするなどの最適化策を実行します。
最後の「オペレーション」では、ビジネス目標に対するクラウドの運用状況の追跡と評価を継続的に行います。スピード、品質、コストのパフォーマンスがビジネス成果と整合しているかをチェックし、FinOpsの行動規範に則して企業が最大のビジネス価値を得られるようにコントロールします。
ここまでが、FinOpsの基本的な取り組み方法ですが、実際に企業がFinOpsを導入して活動に習熟し、その効果が現れるのにはいくつかの段階があります。その成長段階をモデル化して解説しているのが次項です。

◆成熟度モデル(Maturity)

企業がFinOpsを推進するにあたり、どの成熟段階にあるかを「ハイハイ」「歩行」「走行」の3段階別に、KPI(重要業績評価指標)の手法を用いてガイドラインとして示しています。
成熟段階別に組織的な特徴を示し、自社が今どのレベルにあるのかを把握した上で、FinOpsコミュニティのデータから、妥当なコスト割当比、予測と実際の支出の分析精度の誤差などをサンプル値で例示しています。例えば、ハイハイレベルの企業では、予測支出と実際支出の精度差は20%ですが、走行レベルの企業では精度差12%というように、目安となる目標値を示しています。
このように、自社の成長度合いを確かめつつ、さらに精度の高い効果的なFinOpsを追求していくわけですが、企業活動においてFinOpsを実践する領域はどこか、活動を遂行するために必要な組織的能力は何かを、最後の2項目で解説しています。

◆活動領域と組織的能力(Domains&Capabilities)

FinOpsを実践する領域と、その活動をサポートするために求められる組織的な能力や機能を示しています。
活動領域は、①クラウドの使用状況とコスト管理 ②パフォーマンスの追跡とベンチマーク化 ③リアルタイムの意思決定 ④クラウド単価の最適化 ⑤クラウド使用法の最適化 ⑥組織の連携――の6領域で、それぞれの領域に組織として求められる能力や機能が付随して解説されています。

FinOpsの骨子を駆け足で見てきましたが、もっと詳しく知りたいという方は、F2のホームページをご参照ください。活動を推進するためのKPI(重要業績評価指標)手法をはじめ、高度で有益な情報が公開されています。

最後にまとめてみると、FinOpsを企業に導入するのは、一見簡単そうに見えて、実際は非常に難しいことがわかります。なぜなら、FinOpsはパッケージ化された製品やソフトウエアではなく、活動を実践するための概念にすぎないからです。企業に導入するのに、ハードやソフトなどのイニシャルコストは不要ですが、金銭では買えない高度なノウハウと実践能力が必要とされます。手っ取り早くシステムやパッケージを購入して、DXを推進してきた企業にとっては、とっつきにくい異質のビジネスツールと言えるでしょう。
ただ、FinOpsを企業内に確立できれば、クラウドネイティブ時代の今、その効果は計り知れないはずです。まずは、FinOps専門スタッフを育成する段階から始めて、中長期的スタンスで活動を導入・定着させていく価値は十分にあるのではないでしょうか。

FinOpsの今後の展望――日本でも急速に普及するのか?

ここまで見てきたように、FinOpsに関する情報や実践方法は、F2が詳細に情報公開しているのですが、これを独学で企業に導入するのは、かなりハードルが高いと言えます。そこでF2では、オンラインで学べる英語の学習プログラムを各種提供しています。基礎が学べる「FinOps認定プラクティショナー」をはじめ、実務者向けのコース別プログラムなどが豊富にラインナップされていますので、実務経験や目的に応じてリスキリングが可能です。

F2による活動は活発で、3,500社余りの企業から約8,700人の参加者が集いコミュニティを形成しています。本家の米国ではFinOps活動は、多くの企業の間で認知されていますが、日本ではまだ一部のITコンサル企業や大手ベンダーが布教活動をしている段階です。

しかし、クラウドのコスト問題が課題視されている昨今の状況から鑑みて、日本でも近い将来、FinOpsの必要性が叫ばれるようになると考えられます。国内企業の7割がクラウドサービスを利用している現在、コスト問題を恐れる余りクラウド利用を抑制して、企業DXを遅らせてしまうのは、それこそ本末転倒だからです。
最適なクラウド投資でビジネス価値を最大化するFinOpsの考え方が、今ほど求められている時はないと言えるのではないでしょうか。

◎製品名、会社名等は、各社の商標または登録商標です。

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著者 OPTAGE for Business コラム編集部

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