ただの社員育成術にあらず!「リスキリング」の本当の狙い

ただの社員育成術にあらず!「リスキリング」の本当の狙い
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政府が強力に後押しする、「リスキリング」とは

最近、非常によく耳にするようになった言葉に、「リスキリング」があります。その意味は「学び直し」です。そういわれると、よく出てくる自己のキャリアアップや社員教育の新しいトレンドワードのようにも思えますが、決してそれだけではありません。実は「リスキリング」は、政府が主導する重要施策のひとつとなっているのです。今回は「リスキリング」の意味や目的について、少し考えてみたいと思います。

自ら「リスキリング」を図れない社員は解雇もありえる!?

「リスキリング」を簡単に説明すれば、「自分が今までの業務で得たスキルに加え、新しい分野でのスキルを学習し獲得すること」となります。以前から専門用語として存在していましたが、昨年10月に招集された第210臨時国会の所信表明演説で、岸田首相が「個人のリスキリング支援に、5年で1兆円を投じる」と表明してから、一挙に注目度が高まりました。

日本における「リスキリング」については、2021年2月、経済産業省が「デジタル時代の人材育成に関する検討会」を開催し、政策検討に入っています。第1回検討会で議題となったのは・・・

●これからの日本企業の成長には、「DX戦略」が必要であること
●しかし現状、DXを活用した経営戦略を描ける人材が不足していること
●企業文化を変革し、DXを実現するための人材育成が不可欠であること

これら議題内容からわかる通り、日本の企業のDXと「リスキリング」は表裏一体の関係にあり、人材の「リスキリング」なくしては、DXも不可能に近いと考えられています。

さらに上記の第1回検討会では、個人に新たな学び直しを迫るためには、「リスキルが必要な人材が自発的に勉強するためにも、ある程度の危機感は必要」とまで述べられており、自ら「リスキリング」を図れない者には、雇用する側、雇用される側の合意において「解雇」・・・ということまで議論されていました。このことからも、政府・有識者が、相当な危機感を持っていることは間違いありません。

(※)経済産業省、2021年2月4日発表「第1回デジタル時代の人材育成に関する検討会 議事要旨」より

国際的に立ち遅れる、日本のDX推進と「リスキリング」

政府がこのような危機感を持つ要因として、日本におけるデジタル人材育成の立ち遅れが明確になったことがあります。

経済産業省・経済産業政策局が昨年2月に発表した資料、『経済産業省の取組』によると、GDPに占める人材投資(OJT以外)額の比率では、日本は先進諸国の中で最低レベルとなっています(下グラフ参照)。このグラフによると、アメリカは2010年以降、さらにGDP比率を高めているのに対し、日本は1995年以降、低下の一途となっています。

●人材投資(OJT以外)の国際比較(GDP比)

『経済産業省の取組』掲載のグラフを元に加工、作成。

また同資料には「対外学習・自己啓発を行っていない人の割合」が46.3%と、半数近くにのぼるデータも記載されています。人材育成に対する投資額の低さ、個人の自己啓発に対する意欲の低さを考えると、日本の産業は将来、国際的な競争力を失うことが懸念されています。このような背景から、昨年10月の岸田首相の所信表明となったわけです。

◎経済産業省の資料については、下記をご参照ください。
https://www.mhlw.go.jp/content/11801000/000894640.pdf

国の具体的支援策は、今年6月までに策定するとされており、近々、明確になると思いますが、おおよその骨子についてはすでに公表されています。その柱となっているのが、下記の3点です。

(1)転職・副業を受け入れる企業や非正規雇用を正規に転換する企業への支援
(2)在職者のリスキリングから転職までの一括支援
(3)従業員を訓練する企業への補助拡充

岸田首相が「個人のリスキリング支援」と表明したものの、個人向けの支援としては(2)だけで、(1)も(3)も企業向けの支援となっています。そこから政府の狙いがわかります。それは、企業における雇用拡大と人材活用の流動性を高めること。つまり企業に対して雇用や社員教育の変革を迫っているともいえるのです。

「リスキリング」は単に社会人が「学び直す」ものではなく、企業が主体となって自社従業員向けの教育に投資するという意味も持っています。それが個人独自の学び直しを指す「リカレント教育」との違いでもあります。

「リスキリング」は、これからの時代の企業生き残り戦略

1990年代のバブル崩壊以後、日本では「失われた30年」と呼ばれる時代が続いています。非正規雇用が増え平均収入はほぼ減少の一途となっています。そんな停滞した時代の中で、企業と雇用される側、両方に"効く"カンフル剤として政府が選んだ施策が、「リスキリング」に他なりません。

●平均給与(実質)の推移(1年を通じて勤務した給与所得者)

1992年の約472.5万円をピークに、全体的には「右肩下がり」の状態が続いています。
◎厚生労働省「令和2年版 厚生労働白書」に掲載のグラフ、バックデータを元に加工作成

企業にとっては、自社の従業員の「リスキリング」を推進することで、ITやデジタル人材、さらには新しい分野へ挑む人材を育成し、次代に立ち向かえるような変革が期待できます。もし人材育成に時間がかかるようであれば、すでに「リスキリング」によってスキルを得た人材を雇用し業務改善にあたらせることも可能です。DXによる業務や営業活動の効率化により、利益の拡大も図れるでしょう。

個々人にとっては、新たな知識・技術の習得でより重要な業務を担当することが可能となり、賃金の上昇が期待できます。所属する会社の了解があれば、新しく獲得したスキルを売り物に「副業」を行い、収入アップも狙えます。モチベーションという、気持ちの面でも、大きく改善されるはずです。

このように企業側と雇用される側、両者にとって、ウイン・ウインの関係になれるのが、「リスキリング」なのです。政府がこれからの重要な施策と位置付けるのもご理解いただけるでしょう。

「リスキリング」の実施には、5W1Hを基本に考える

ではどのように「リスキリング」を推進して行けばよいのでしょうか。情報伝達におけるポイントを示したものに「5W1H」という言葉がありますが、「リスキリング」の推進にも、この用語の考え方が応用できます。つまり・・・

When(いつから):リスキリング教育のスタートとカリキュラムの策定
What(何を):何を目指し、何を教えるのか、着地点を明確化
Who(誰が):どんな従業員に行うのか。個々の現在の業務内容、スキルの把握
Why(なぜ):従業員に対してどうしてリスキリングが必要なのかの説明と説得
How(どのように):どんなツールを使い、どう教えるか。講師は内部か外部か、対面かリモートか、といった実際の運営内容の検討と設定

実施するにおいて、さらに考慮しておきたいのが従業員の心理の問題です。

「リスキリングって何?」という人も、存在します。「自分にはリスキリングなんて、もう必要ない」という人も、想定できます。そんな人には、「リスキリング」が従業員にとっても大きなメリットがあることを伝え、納得させなければなりません。

社会人になってからの「学び直し」には、本人の強い自覚とモチベーションが欠かせないからです。そうでないと、せっかくの教育も身には付きません。

従業員にとっての「リスキリング」は、これからの労働市場で生き残るためにも欠かせないものです。「リスキリング」によって知識・技術を深めることで、会社にとって手放せない、より重要な人材となります。また最大のメリットが、会社から「学び直し」の機会が与えられることです。自分のキャリアアップのために、社内で堂々と学習できるのです。このような魅力を伝えることで、モチベーションを高めるようにします。

「リスキリング」を実際に実施するには、専門の社員教育サービス会社に相談するなどして、自社に合った方法、カリキュラムを共同で詰めていく必要があります。悠長にしてはいられませんが、急がずじっくりと検討していく必要があります。

ここまでお読みいただいた方には、もはや「リスキリングとは社員教育におけるトレンドワード」などと考える方はいないはず。「リスキリング」とは、現在の人材を活性化させ、企業の未来を拓く手段でもあることを、理解していただけたと思います。もはや「リスキリング」なくして、企業の成長は望めないといえます。

最初にも書いた通り、「リスキリング」は政府肝いりの施策。これからも「リスキリング」については、多くの情報が発信されると思います。その情報に注意しつつ、あなたの会社でも「リスキリング」に取り組んでいかれてはいかがでしょうか。

◎製品名、会社名等は、各社の商標または登録商標です。

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著者 OPTAGE for Business コラム編集部

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