- 公開日:2025年09月24日
LGWAN(総合行政ネットワーク)とは?仕組みや導入メリットを解説

自治体や公共団体では、住民の個人情報や社会保障・税務データなど、機密性の高い情報を日々やり取りしています。そのため、外部から切り離された安全な通信基盤が不可欠です。 LGWAN(エルジーワン)は、こうしたニーズに応えるため行政機関専用に設計されたネットワークです。全国の自治体と政府機関の情報共有や業務連携を支えています。
本記事では、LGWANの基本的な仕組みやネットワークを支える構成設備、LGWAN-ASPサービスの導入事例について解説します。
LGWAN(総合行政ネットワーク)とは

総合行政ネットワーク(LGWAN:Local Government Wide Area Network)は、地方自治体同士や自治体と国の機関を結ぶ行政専用の通信ネットワークです。
インターネットから切り離された安全な環境で庁内LAN同士を接続し、共通のネットワーク基盤上でさまざまな行政サービスを運用できます。高いセキュリティ水準と運用コストの削減を両立し、全国の自治体が安心して利用できる仕組みとなっています。
LGWANの構成設備
LGWANは、インターネット網に直接接続されない閉域ネットワークであり、主に以下の4つの設備から構成されています。
構成設備 | 概要 |
---|---|
LGWAN接続ルータ | 各自治体の庁内LANとLGWANを結ぶ通信機器。高速かつ安定した接続が可能。 |
都道府県ノード | 都道府県ごとに設置され、市町村の回線を集約・中継する設備。通信帯域は100Mbps~1Gbpsまでに対応。 |
LGWAN網 | 全国の通信事業者の設備を基盤として構築された、外部と隔離された広域イーサネット網。 |
東日本・西日本セキュリティゲートウェイ | 地方公共団体情報システム機構が運営する施設。東日本・西日本それぞれに設けられている。標準プロトコルの提供やセキュリティ監視、災害時の冗長化も担う。 |
2024年10月、第五次LGWANの運用が開始されました。第五次LGWANは、2019年から運用されていた第四次LGWANを刷新したネットワーク基盤です。
第四次LGWANから第五次LGWANへの移行は、2024年10月から2025年12月にかけて順次実施されます。第四次LGWANは2026年3月末まで運用が継続され、その後は第五次LGWANに完全統一される予定です。
三層の対策
自治体では情報セキュリティ対策として三層の対策を採用しています。三層の対策とは、2015年の日本年金機構情報漏えい事件を受けて総務省が推進した対策です。ネットワークを従来の基幹系・情報系の二層構成から、「個人番号利用事務系」「LGWAN接続系」「インターネット接続系」の3つに分離し、情報漏えいリスクを大幅に低減する仕組みです。
このうちLGWANは「LGWAN接続系」に該当し、財務会計、人事給与、庶務事務など自治体の様々な業務で活用されます。
LGWANの導入メリット

LGWANの導入は、自治体の業務基盤を強化し、行政サービスの質を高める有効な手段です。以下では、具体的なメリットについて解説します。
情報漏えいリスクを大幅に軽減する
LGWANはインターネットから完全に分離された行政専用の閉域ネットワークであり、外部からの不正アクセスや情報漏えいリスクを大幅に軽減します。ファイアウォールによる防御や、通信経路の暗号化、侵入検知機能など、複数のセキュリティ対策が講じられています。
LGWANの強固なセキュリティ基盤により、情報の不正取得や改ざん、なりすましといった脅威から住民情報や行政機密情報を守ります。
行政業務を効率化できる
LGWANを導入することで、自治体や政府機関間の情報共有や連携がスムーズになります。また、LGWANの閉域ネットワークの特性を活かすことで、高いセキュリティを保ちながら職員が庁外からでも安全に庁内システムにアクセスできます。
例えば、電子決裁システムを導入した自治体では、LGWANを活用したテレワーク環境により、幹部職員が自宅からでも庁内の財務会計システムに安全に接続し、電子決裁を行える体制を構築しました。場所を問わない効率的な意思決定プロセスが実現され、緊急時や災害時においても業務の継続が可能です。
インフラ投資を最適化できる
LGWANを活用すれば、自治体ごとに独自のネットワークやシステムを構築する必要がありません。共通の通信基盤を利用できるため、設備投資の最適化が図れます。
新たな個別の回線契約が不要となり、その分、IT予算を効率的に活用できます。長期的には運用コストの削減にもつながります。
行政サービスの利便性が向上する
住民サービスのデジタル化が進むなかで、安全なネットワーク基盤としてLGWANが活用されています。マイナンバーカードを使った各種証明書のコンビニ交付や、地方税の電子申告など、住民が役所に出向かずに手続きを完結できる仕組みが拡大しました。
高いセキュリティ環境のもとで、行政サービスの利便性や迅速性、住民の安心感が高まります。
LGWAN導入のデメリット
一方で、LGWANの導入には注意すべき点も存在します。高いセキュリティ性を維持するためには、厳格な運用ルールや高度な管理体制が求められます。また、ネットワークの特性上、外部との情報連携に制約が生じることもあります。以下では、主なデメリットについて解説します。
業務運用や情報連携に制約がある
LGWANは高いセキュリティを実現する反面、その閉域ネットワークという特性から、業務運用や情報連携に制約が生じます。
例えば、LGWAN端末ではインターネットが利用できないため、Web検索や外部メールの確認には都度、別の端末へ切り替える必要があります。また、外部機関や事業者と資料を共有する際は、USBメモリーによるデータ移送といった複雑な手続きが必要となり、作業負担が増加します。このような環境下では、迅速な情報連携が難しく、業務効率の低下を招く可能性があるでしょう。
セキュリティ対策や運用ルールの整備が必要
LGWANの導入には、情報資産を機密性・完全性・可用性の観点から詳細に分類し、それぞれに応じたアクセス制御ルールの策定が義務付けられています。また、ネットワーク通信の24時間365日監視体制とログ保存・分析の実施、さらにサイバー攻撃やシステム障害発生時のインシデント対応手順を整備しなければなりません。
これらの運用規程の整備には高度な専門知識が求められ、特に小規模自治体では人的リソースの確保と継続的な維持管理が大きな負担となる可能性があります。
LGWANを活用した業務支援サービス「LGWAN-ASP」とは?

LGWANは安全で効率的な行政ネットワーク基盤ですが、これをさらに活用するためのサービスとして「LGWAN-ASP」が提供されています。LGWAN-ASPとは、LGWANという専用ネットワークを活用し、地方自治体間や自治体と国との間で安全かつ効率的に業務を進めるために設計されたサービスです。電子申請やグループウェアなど、さまざまな業務用アプリケーションをクラウドのように共同利用できます。
各自治体が個別にシステムを開発する必要がなく、導入や運用のコストを抑えつつ、高いセキュリティ環境のもとで住民情報や行政データを安全に管理できます。さらに、標準化されたサービスを複数の自治体で利用することで、IT格差の解消や業務の効率化も期待されています。
ここからは、LGWAN-ASPの種類や活用事例についてご紹介します。
LGWAN-ASPの種類
LGWAN-ASPには以下の5つのサービスがあります。
サービス | 概要 |
---|---|
アプリケーションおよびコンテンツサービス | 地方公共団体が直接利用する各種業務アプリケーションや、情報コンテンツを提供する。サービスには、電子申請や、行政情報共有、電子調達などがある。 |
ホスティングサービス | アプリケーションや情報コンテンツをLGWAN経由で稼働させるためのサーバ機器の提供や、その運用管理を行う。 |
ネットワーク層および基盤アプリケーションサービス | LGWAN内でのIPアドレス管理やドメイン名管理、基本プロトコル群、アプリケーション基盤の提供を行う。 |
通信サービス | ホスティングサービスを構成する機器とLGWANネットワークを接続する専用回線の提供を行う。 |
ファシリティサービス | ホスティングサービスを構成する機器の設置スペース、電源、空調などの設備を提供する。 |
LGWAN-ASPの活用事例

自治体業務のデジタル化が進むなか、LGWAN-ASPを活用した効率化や業務改善の取り組みが各地で広がっています。ここではLGWAN-ASPを活用し、自治体業務の現場で実際に成果を上げている具体的な活用事例を紹介します。
Lメール同期環境で職員の業務効率を改善
LGWAN基本サービスであるメール機能とクラウド技術を組み合わせて、LGWANメールとインターネットメールの同期環境を構築した自治体では、職員の業務効率が大幅に向上しています。
従来は職員が2つのメールシステムを意識的に使い分ける必要がありましたが、同期環境の導入により、1台の端末で両方のメールを自動的に処理できるようになりました。これにより、メールアカウントの追加や削除作業も迅速に行えるようになり、人事異動時のアカウント管理業務も効率化しています。こうした取り組みによって職員の利便性向上と業務効率化を同時に達成しています。
紙書類の入力作業をAIとOCRで効率化
AIとOCRを組み合わせたLGWAN-ASPを導入した自治体では、紙書類の入力作業を自動化し、大幅な業務時間の削減を実現しています。これまで住民からの申請書や帳票の多くが紙で提出されていたため、職員が手作業でデータ入力を行う必要があり、業務負担が大きな課題となっていました。
AI-OCRを活用したLGWAN-ASPでは、紙書類の内容を自動的にデジタルデータへ変換します。OCR(光学文字認識)は、紙に印刷された文字や手書き文字を読み取りテキストデータ化する技術です。AIを組み合わせることで、従来は難しかった手書き文字や複雑な帳票も高精度で読み取ることが可能になりました。
この新しい仕組みの導入によって、複数の部署で紙書類のデータ化作業が大幅に効率化され、削減された時間は住民サービスの充実などに活用されています。他の部署や業務にも利用が広がり、庁内全体で業務効率化が進んでいます。
AIチャットボット導入で人事関連の問い合わせ対応を効率化
橿原市役所の人事課では、AIチャットボットを活用したLGWAN-ASPサービスを導入し、給与や福利厚生、休暇申請といった職員からの日常的な問い合わせに効率的かつ正確に対応できる体制を整備しました。これにより、職員は必要な回答を迅速に得られるようになり、問い合わせ対応に要していた時間の削減に成功。人事課も限られたリソースで対応できるようになり、業務の停滞や残業増加といった課題解消につながっています。
導入前の実証テストや継続的なQ&Aのブラッシュアップを経て、業務効率化とサービス品質の向上を両立。人事業務における負担軽減と安定した運営に貢献しています。
詳細な事例については、オプテージの導入事例ページをご覧ください。
業務効率化とサービス向上を両立自治体を支援する『Enour AI ChatSupport』
まとめ

本記事では、LGWANの基本的な仕組みや構成設備、導入メリット・デメリット、さらにLGWAN-ASPの活用事例について解説しました。LGWANは高いセキュリティと信頼性を備え、自治体業務のデジタル化や効率化を支えるネットワークです。LGWAN-ASPの活用により、コストの最適化や住民サービスの向上、さらには庁内業務の自動化・効率化も実現可能です。
オプテージでは、LGWAN環境で利用できる問い合わせ対応サービス「Enour(エナー)」を提供しています。Enour(エナー)は、コンタクトセンターや問い合わせ窓口など、複雑化するさまざまな問い合わせ対応の課題を解決します。AIチャットボットによる24時間対応に加え、導入から運用まで一貫したサポートを行うことで、自治体業務の効率化や住民満足度の向上に貢献します。
LGWANや業務効率化ソリューションの導入についてお悩みの点がございましたら、お気軽にオプテージまでご相談ください。
◎製品名、会社名等は、各社の商標または登録商標です。