ヒトがネットとつながる時代に!「IoB」が生み出す新ビジネス

ヒトがネットとつながる時代に!「IoB」が生み出す新ビジネス
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今や社会を動かすビッグデータ。その構成要素は実は私たちの行動

日本で感染が拡大してからすでに約1年半、新型コロナは、まだまだ終息の気配を見せていません。そんな中、毎日の感染者数が発表されるのと同様に、よく耳にする数値があります。

ニュースなどで紹介される「この週末の大阪梅田の人出は、先週よりも約何パーセント上昇しています」といった数値です。この数値が読み上げられる際、「携帯電話会社の調査によりますと」といったひと言が添えられる時もあるため、この数値が携帯電話、スマートフォンの位置情報から算出されていることが推測されます。

上記の事例から、一人ひとりが持つ携帯電話機が情報を提供する端末となり、私たちの行動・・・いつ、どこへ移動したのかという情報が、通信会社に把握されていることがわかります。

「自分の行動が、何者かに筒抜けになっているなんて、怖い!」

そう思われる方もいるでしょう。しかし、それによって私たちはいつでもどこでも(携帯電話の電波が届く範囲内で)通話したりメールしたり、インターネットに接続して情報を得ることが可能となっているのです。つまり恩恵を受ける代償として、自分の情報をある程度、提供しているともいえます。

私たちは自分でも知らないうちに、ビッグデータを形作るひとつの要素となっています。このような状況の中で、特に注目したいキーワードのひとつが「IoB」です。

人の行動や感覚をデータ化し、可視化する「IoB」

「IoB」ならぬ「IoT」は、すでにお馴染みの言葉となりました。ご存じだと思いますが「IoT」とは「Internet of Things」の略で、「モノのインターネット」と訳されます。さまざまな「モノ」がインターネットに接続され情報を交換することで、相互を制御しあう仕組みのことをいいます。

さて、新しいキーワードとなる「IoB」ですが、「Io」までは「IoT」と同様「Internet of」を略したものです。では「B」とは何でしょうか。実は、2つあります。

ひとつは「Behavior」。「Behavior」とは一般的に「ふるまい」や「行動」「態度」という意味ですので、一般的に「ふるまいのインターネット」と訳されます。もうひとつは「Bodies」。これは「身体」のことですので、「身体のインターネット」と訳されます。

つまり「IoB」とは、スマートフォンやスマートウォッチ、あるいは場合によればペースメーカーのような身体の中に埋め込まれた機器とインターネットがつながり、私たち一人ひとりの行動や振る舞い、身体の状態が情報として集積され分析されることを意味します。

冒頭で紹介した位置情報を活用した行動の履歴はもちろん、スマートフォンでECサイトにアクセスし、そこで購入した履歴なども全てデータとして処理されていきます。ECサイトでの購入履歴から見込み度を推測するといったことは、「IoT」の時代からすでに行われていましたが、「IoB」の時代はさらに、一人ひとりの人間の行動とふるまいを詳細なデータとして蓄積することで、新しいビジネスモデルを生み出すものと期待されているのです。では実際に「IoB」を使って、どのようなビジネスが考えられるのでしょうか。具体的に見ていきましょう。

「身体のインターネット」がけん引するヘルスケア、ウエルネス市場

「IoB」では、特に初期においては「人間の身体がインターネットと接続される」という脈絡で理解されることが多く、スマートウォッチなどウエアラブルなツール、さらには身体に埋め込んだチップなどを通して、まずヘルスケアの分野での応用が提唱されています。

2021年5月の本コラム『ヒトの身体もスマート化!?デジタル・デバイスがもたらす未来とは』でもご説明しましたが、身に着けたスマートウォッチが計測した体熱や脈拍数、血圧、呼吸数などのバイタルデータ(生体情報)と運動量をモニターし、健康維持に役立てるというサービスです。これらはスマートフォンのアプリなどで一部が実現しており、すでに多くの人が活用しています。

さらに一歩進んだものとしては、京都の繊維会社ミツフジと日本IBMが行っている「hamon」の研究があります。これは高い導電性を持つ銀メッキ繊維で作られたシャツを使い、それを着用した人のバイタルデータを測定・送信し、リアルタイムで身体状況や環境情報をモニターするシステムです。

このような個人の行動履歴とバイタルデータの集積・分析により、感染症の拡大状況や生活習慣と疾病のより詳しい相関関係、あるいはさまざまな労働環境における負荷などを明らかにすることで、病気の予防や医薬品の開発、労働環境の改善・効率化などに活用されることが期待されます。

マーケティング分野でも広がる「IoB」

「IoB」を使ったビジネスとしては、ヘルスケア分野だけでなく、下記のようなものもあります。

たとえば自動車の運転中のモニタリングで、運転者のドライビングという「ふるまい」とバイタルデータの分析により、居眠り運転しそうになるドライバーに体感的な刺激を与えることで目を覚まさせ、事故の防止に役立てるといった技術開発が進められています(パイオニア社のドライバーモニタリングの研究など)。

上記のドライバーモニタリングの例は自動車運転、ひいては交通行政における安全性の問題に関わるわけですが、これもマーケティング的に活用することができるのです。

アメリカの保険会社オールステートの「ドライブワイズ」では、収集したドライビングデータを元に加入者の保険料を決定するようにしました。当然ながら、安全運転を心がけている加入者の保険料は引き下げられるということで、加入者が増えたそうです。その上、加入者の安全運転が促進されたことで事故数自体が減少したため、オールステート社からの保険金の支払い総額も抑えられる結果となり、大きな成果となりました。

これらは「IoB」をマーケティング的な成果に結びつけた、絶好の事例だといえるでしょう。しかしそれだけではありません。「IoB」がマーケティング的に、もっと期待されていることがあるのです。

「サードパーティークッキー」の代替として「IoB」に高まる期待

2020年11月、アメリカのIT関連の調査・コンサルティング会社ガートナーは『戦略的テクノロジのトップ・トレンド』を発表しました。9つのトレンドの中で、その筆頭に挙げたのが「IoB」だったのです。ガートナーの主張では、「B」は「Bodies」ではなく「Behavior」であるとし、ふるまいにまつわるデジタル・ダスト(粒度の小さいデータ)を捕捉していくことで、社会そのものに対する強烈なツールになりうるとしています。

現在、Web閲覧履歴の収集と分析によって、非常に高度なネット広告が実施されています。それを支えているのがクッキー(Cookie)というデータの断片です。閲覧者がWebを閲覧すると、パソコン、スマートフォン等のブラウザーとサーバ間でクッキーがやり取りされます。それにより、Web閲覧がスムーズに行えるようにしています。ところで皆さんは異なるWebサイトを見ている時に、同じ商品の広告がたびたび掲載されるといった経験はないでしょうか。これもクッキーのひとつの機能によるものです。

ところが近年のプライバシー保護の観点から、グーグルやアップルといった企業がクッキーの取り扱いに非常に慎重になっています。グーグルの「2023年までにGoogle Chromeでのサードパーティークッキーのサポートを廃止する」という発表は、特に大きな影響を与えました。その代替として、「IoB」が考えられているというのです。

「サードパーティークッキー」とは、ウェブに掲載された広告主(あるいはネット広告エージェンシー)が入手できるクッキー情報のことを言います。複数のWeb閲覧時に全く同じ商品の広告が掲載できるのも、サードパーティークッキーによって同一人物の閲覧履歴をしっかりと捕捉できるからなのです。まさにネット広告の根幹を支える機能であると言えるでしょう。

そのサポートを廃止するというのですから、ネット広告業界を中心に、非常に注目を集めるニュースになったことは、言うまでもありません。そして、クッキーによる情報収集に変わるものとして、ガートナーなどが注目するのが、「IoB」なのです。

課題を抱えつつも、「IoB」はこれからの注目ワードであり続ける

クッキーに代わる情報収集の手段として注目される「IoB」ですが、その理由は何なのでしょうか。

今まではWeb閲覧履歴から各自の嗜好などを「推測」していましたが、「IoB」の場合、その人本人の行動そのものが補足され、データとして集積されていきます。「週に何回コンビニに行くのか、どれぐらいの時間、滞在しているのか」「週末は主に、どこへ行くのか」「その場所で何円使ったのか」といった情報が、従来よりもリアルタイムでダイレクトに分かるようになるという点が画期的だといえるのです。

ただマーケティング分野については、まだ十分な検証が行われていないところもあります。プライバシー保護の観点から見ると、クッキー利用がダメで「IoB」ならよいとも言えず、むしろ「IoB」によるアクティブトラッキング(活動の履歴)の補足の方が、クッキーよりもプライバシー的な問題が大きいという考え方もあります。

もっと根本的な問題としては、「身体とインターネットがつながる」という刺激的なワードが独り歩きし、「人間がAIに乗っ取られるのでは?」と言ったマイナスイメージから、導入に抵抗感を感じる人が多いのではないかと思われることです。それが大きな課題となっています。

とはいえ「IoB」がもたらす便益は大きく、ガートナーが提唱するように「IoB」は2021年、あるいはそれ以降の社会全体の変化に大きな影響を及ぼすことは違いありません。「IoB」というキーワードと、それが生み出す新しいビジネスに、これからもぜひご注目ください。

◎製品名、会社名等は、各社の商標または登録商標です。

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著者 OPTAGE for Business コラム編集部

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